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「まだ任せられない」から「どうすれば任せられるか?」へ。チームを育てる権限委譲の3ステップ
Photo by Jake Hills on Unsplash
こんにちは、ウォンテッドリーでエンジニアリングマネージャーをしている鴛海です。
マネージャーという役割は、常に時間との戦いではないでしょうか。次々とタスクが舞い込み、会議は終わらず、メンバーからの相談も絶えません。自身のキャパシティが限界に近づく中で「この仕事を誰かに任せられたら…」と思うのは、自然なことでしょう。この悩みは、単に自分の負担を軽くしたいというだけではありません。メンバーの成長を促すには、挑戦の機会を与え、仕事を任せることが重要だと理解しているからこそ生じるものでもあります。
しかし、多くのマネージャーは「任せられる人はいない」という結論に達してしまいがちです。私自身、このジレンマは多くのエンジニアリングマネージャーが抱える共通の悩みだと感じています。なぜ、私たちは「任せられない」と感じてしまうのでしょうか。チームのメンバーにタスクを遂行する能力が本当にないのでしょうか。それとも、私たち自身の「任せられない」という思い込みに原因があるのでしょうか。私は、後者の可能性も十分にあると考えています。
本記事では、多くのマネージャーが抱える「任せられない」という悩みに対し、その壁を乗り越えるための一つの考え方と、その具体的な進め方を紹介します。権限委譲を単なるタスクの委任ではなく、メンバーの成長を促す機会へと変えるための考え方やステップを共有できればと思います。この記事が、日々の業務に追われるマネージャーの皆さんが、チームと共に成長していくための一助となれば幸いです。
「任せられない」という壁を越える考え方
権限委譲を阻む壁の一つに、短期的なリスクを過度に恐れてしまうマネージャーの心理があります。多くの場合、「この仕事は任せられるか、任せられないか」という二者択一の思考に陥りがちです。しかし、メンバーの成長機会を生み出すためには、この思考停止を乗り越えなければなりません。
重要なことは、「このメンバーにはまだ任せられない」という結論で終わるのではなく、「どうすれば任せられるようになるか?」と考え方を変え、具体的なサポート策を考えることです。たとえ現状では難易度が高いタスクであっても、このようなマネージャーの関わり方の変化が、メンバーにとって成長につながる挑戦の機会を生み出すことにつながります。
もちろん、常にメンバーの育成を優先すべき、というわけではありません。プロジェクトのスケジュールが逼迫している状況では、目先のタスクを最も早く終わらせる方法を選ぶことが、マネージャーとして正しい判断であることも多いでしょう。しかし、短期的な効率ばかりを追い求めていては、メンバーの能力は向上せず、いつまで経ってもより高度なタスクを委譲することはできません。
だからこそ、目先のコストを未来への投資と捉え、意図的に育成の機会を設ける判断が重要になります。権限委譲を単なる業務の再配分で終わらせず、チームを成長させる機会として活用していくのです。
権限委譲を設計する3つのステップ
ここまで考えてきたように、権限委譲はメンバーの成長を促す重要な機会です。その機会を最大限に活かすには、マネージャーが適切に関与し、権限委譲をメンバーにとってストレッチな挑戦にしていく必要があります。では、具体的にどのように権限委譲を進めれば、メンバーの成長と事業の成果を両立できるのでしょうか。そのためのアプローチを3つのステップで紹介します。
ステップ1: メンバーとタスクの解像度を上げる
権限委譲を進める上での第一歩は、任せる「メンバー」の現在地と「タスク」の要求レベルをそれぞれ見極め、その間に存在するギャップを明らかにすることです。このギャップの大きさを把握することが、後続のステップで適切なサポートを決定するための土台となります。
まず、メンバーの理解においては、日々のコミュニケーションを通じてメンバーの思考の傾向、得意な業務、そして挑戦すべき課題を把握します。単に保有スキルをリストアップするだけでなく、どのような状況でモチベーションが高まり、どのようなサポートを必要とするかといった特性まで見極めることが、効果的なサポートの土台となります。
もう一方のタスクについても、その要求レベルを具体的に見極める必要があります。例えば、業務プロセスの不確実性、求められる専門スキルのレベル、事業全体への影響度といった多角的な観点からタスクの理解を深めます。このように両面を理解することで、メンバーの能力とタスクが要求するレベルとの間のギャップや、内在するリスクについての解像度を高めることにつながります。
ステップ2: ギャップに応じてサポートレベルを決定する
ステップ1でメンバーとタスクのギャップを把握できたら、次はそのギャップの大きさに応じてサポートのレベルを決定します。特にギャップが大きい場合には、手厚いサポートが求められます。例えば、マネージャーが定期的に相談に乗る「壁打ち相手」の役割を担ったり、業務の初期段階で参考となるプロセスやテンプレートなどを提供したりします。このようなサポートは、メンバーが「何から手をつければよいか」と迷うことなくスムーズに業務を開始する助けとなります。また、タスクそのものをより小さなステップに分割し、段階的に任せていくことも、着実な成長を促す上で有効な手段です。
一方で、ギャップが比較的小さい場合は、タスクの大部分をメンバーに任せることで挑戦の機会とします。ただし、その場合でもタスクの目的とゴールだけは明確に共有することが重要です。これにより、メンバーは進むべき方向性を見失うことなく、自らの裁量で工夫し、課題を乗り越える経験を積むことができます。
ステップ3: 観測と軌道修正を行う
ステップ1と2で立てた権限委譲の計画は、あくまで実行前の仮説です。この仮説が正しかったかを確認し、必要に応じて柔軟に計画を修正していくことが、権限委譲を成功に導く上で重要となります。
具体的な行動としては、定期的な進捗確認の場を設けることが挙げられます。ここでの目的は、マイクロマネジメントではなく、想定外の問題を早期に発見するためのセーフティネットを設けることです。もし想定とのズレが見つかれば、ステップ2で決めたサポートのレベルを見直します。例えば、サポートを強化することもあれば、逆に順調であれば信頼してさらに任せる範囲を広げるなど、状況に応じた軌道修正を行います。
おわりに
本記事では、多くのマネージャーが直面する権限委譲の壁を乗り越えるために、私が実践している考え方や進め方を紹介してきました。その出発点は、「この仕事はまだ任せられない」と考えるのではなく、「どうすれば任せられるようになるか」と考えることにあります。
この考え方を具体的な行動に移すのが、紹介した「ギャップの把握」「サポートレベルの決定」「軌道修正」という3つのステップです。権限委譲は一度きりの行為ではなく、このようにメンバーの成長を意図して改善を続けるプロセスであると、私は考えています。
もし、この記事を読んで何か一つでも始めるとしたら、まずはご自身が抱えているタスクを一つ棚卸しすることをお勧めします。そのタスクを「どうすればチームの誰かに任せられるか」という視点で、本記事で紹介したステップに沿って具体的に考えてみてください。その小さな一歩が、やがてはチーム全体の大きな成長につながっていくのではないでしょうか。