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「伊藤さんが確変している。」
社内にそんな噂が駆け巡ったのは2018年の暮れも近い頃。当時インサイドセールスチームであまり目立った存在ではなかった伊藤ゆりが、社内のギネスレコードを大幅に塗り替えていたのです。
「コマーシャルセールス」という名の新設チームに移った今も、目標オーバー達成の躍進を続けている彼女は、大学生時代には得意の「歌」で様々なコンテストを勝ち抜いてきた経験の持ち主。そんな彼女の目標達成における高い意識と胆力は一体どこから来ているのでしょうか?
本人への取材を通じて、普段は人一倍控えめな彼女の内面にスポットライトを当ててみました。
「ステージには魔物が潜んでいた。」精神的重圧をはねのけた、たった1つの心構え。
伊藤の学生時代は、歌と共にあったと言っても過言ではありません。アカペラバトルフェスティバル、アカペラチャンピオンシップ、そしてテレビでも放映された「全国ハモネプリーグ2015」に出場し、優勝。個人でも「THEカラオケ★バトル」に9回出場するなど、精力的に活動を行っていました。
歌との出会いは、高校生の時にさかのぼります。当時通っていた高校が、学園祭では絶対にミュージカルをしなければいけないという特殊な校風で。もともと人前に立つタイプではなかったんですが、私が歌うことで皆が喜んでくれて。
文化祭って、熱量のバラツキが顕在化しやすいので、揉めることもあると思うんです。でも、歌やダンスがあることで自然と笑顔で繋がれて、一体感が生まれたことがありました。同じ瞬間を共有できるツールとして歌の魅力に気づいたんです。人それぞれ悩みや環境が違ったとしても、歌っている瞬間はそれを感じさせない、フェアで気持ちの良い空間を作ることができる。その経験がきっかけで、大学ではアカペラサークルに入りました。
大学時代は色々な大会に出場したり、テレビに出たり、色んなステージを経験させてもらったのですが、常に不安な気持ちとの戦いでした。ステージには魔物がいるんですよ。本番前には「私には今この舞台に立つ権利がそもそもあるのかな」とか、「この舞台に立つために私はやるべきことを全てやりきってきたのかな」とか色んな思いが巡ってしまって、そこで一瞬でも自分のコミットメントに自信が持てなくなったら、そういうところにつけこまれてステージでうまく歌えなくなってしまうんです。
そういう精神的な重圧をはねかえすためには、「自分はやりきったか」という質問にYESと答え続けられるだけの覚悟、それを裏付ける練習量や自己省察の積み重ねが、やっぱり必要。でもそのおかげで、仕事でもまずはアクション量を担保しながら、ちゃんと自分のやってきたことを客観視して振り返ろうという意識づけができていると思います。
「お客さん選ぶよね」と言われた悔しさをバネに
新卒で入社した大手メーカーでは、持ち前の明るさと愛嬌を武器に営業として働き出します。そんな中で、プロセスがしっかりと評価されない環境に感じた不満とはなんだったのでしょうか。
新卒で入社した会社は「死ぬまで食いっぱぐれない会社」だったと思います。自分の役割もお客様との信頼構築がメインのルート営業だったので、新規開拓数でノルマを課されるようなヒリヒリとした営業の現場ではありませんでした。でも、ある時上司に「伊藤さんってお客さん選ぶよね」「お前から忖度を取ったら何もない」ということを言われて。それが自分でもびっくりするくらい悔しかったんです。
私はいわゆる愛嬌で営業するタイプで、フィットするお客様にはすごくフィットするけれど、厳格なお客様だと通用しない、ということをその上司は指摘したかったんだと思います。ただ、自分なりに営業としての仕事を出来る限り全うしていると思っていたし、結果、お客様からも信頼いただいていた。もし「それはお客さんとの相性がよかったからだよね」と言われてしまったら、自分が関係構築のために重ねる行動が、プロセスとして評価されることは無いわけで。それがとても寂しかったですね。
その一方で、「自分の仕事のうちどこまでが会社のネームバリューで、どこからが自分の努力の成果なんだ?」と自問自答するうちに、上司の指摘を覆す材料が自分にはないことにも気づいたんです。この悔しいエネルギーをどこにぶつけたら良いのか分からなくて悶々とし続けるよりは、最悪失敗しても良いから1からチャレンジしてみたいと思ったので、営業未経験としてウォンテッドリーに入りました。
自称・落ちこぼれ営業に訪れた転機
ウォンテッドリーに入社した当初を振り返って、伊藤は「くすぶっていた」と言います。そんな彼女が確変したのは、入社して3ヶ月経った2018年12月のこと。
意気込んで入ったものの入社当初は、本当に落ちこぼれていて。ユーザー属性や返信率の高さなどのスペック面での優位性をどれだけ営業トークに盛り込んでも、全くお客様が振り向いてくれない。そもそも、自社のプロダクトの提供する価値について全く理解できていなかったんです。それがあからさまにパフォーマンスに出てしまっていました。
でもある日、「採用に平等なチャンスを作る」というWantedly Visitのすごくシンプルで、それゆえにパワフルな価値を見いだすことができたんです。それに気づいた途端、このプロダクトには惚れ惚れするような可能性があるな、って純粋にワクワクすることができて。
その日から、そもそもモノを売るという発想ではなくなりました。「採用の課題をお金で解決することは、本当に継続してやっていけることでしょうか?」とか、「本当に魅力的なプロダクトを作っている企業が、それを発信しないのはもったいないです!」とか、セールストークという体裁を超えてお客様と会話ができるようになったのかなと思います。
他にも、プロダクトの成り立ちであったり、細かな設計に込められた意図であったり、自分がプロダクトについて楽しく話すことでお客様の興味を引くことができることに気がついたのもこの頃です。自分が楽しそうに話せば話すほど、「楽しそうだね」「やってみたくなりました」というお声を頂けるようになったんです。
そんな風にお客様とのコミュニケーションの軸を180度変えて仕事をしているうちに、気づけば社内のセールスレコードを全部塗り替えていました(笑)。それまで人材の知識も新規営業の経験もなかった私が、周りの優秀な人材業界出身の先輩方より少し突き抜けることができたのは、プロダクトが大好きだったから! それに尽きます。
自分がシゴトに没入することで、力づけられている人がいる。
歌うことと、働くこと。どちらも自分一人では決して完結せず、受け手となる相手がいることで成立している営みです。かつてステージで喝采を浴びた伊藤の眼前に、シゴトにのめり込む中で広がった景色とは。
ステージで歌っていると、ごくたまに、すごく良い音楽をできる空気感が生まれるんです。その状態を「ゾーンに入る」と私は勝手に呼んでいるのですが(笑)。ゾーンに入ると、メンバーもお客さんも全員が同じことに感動していて、意識を共有しているような感覚になる。いろいろな人がそれぞれ違うことを考えるこの時代だからこそ、全員が同じ貴重な瞬間を共有することって、孤独からはひとつ離れて、温かい。この瞬間を皮切りに、何かが変わるような……そんな気持ちになることがあって。
これって、ウォンテッドリー的にもキーワードだと思っています。ウォンテッドリーでは「フロー状態」って言うんですけど。私、先月までPCの充電器やら何やらを詰め込んだ5キロくらいあるリュックを持ち歩いてお客様のところに通い続けていたんです。先月はそんなこと思ってなかったんですけど、今月になってその荷物を持ったらめちゃくちゃ重くて。その時の私って、すごく集中してたんだなあ、って。いまは大手企業様への新規営業を担当していてたくさん外に出ることはないので、一層感じるんですね。
お客様と共有する時間の濃度を高めるために、自分はどういう働きかけをすればいいのか。そのことにひたすら集中していたんだと思います。例えばWantedly Visitのことなんて全く知らないし、興味もない、自社に役立つとは思えないというようなお客様が、私と会話をするうちに「リクルートメント・マーケティングって面白い枠組みですね! Wantedlyすごいなぁ......」と言ってくださることがあって。そういう瞬間は、シゴトをしていてよかったなと素直に感じます。ステージに立っている時と同じで、自分にとっても、相手にとっても、何か新しい幕開けとなるような瞬間に立ち会っているような感覚です。
歌っている時も、シゴトをしている時も、「自分が影響の源になって、誰かをエンパワメントしている」という感覚を求めているんだと思います。自分と同じ瞬間を共有した誰かが、そのことによって勇気付けられる。そんなポジティブな影響源になることが、いつになっても私の中の理想です。自分自身もまた、今まで出会ったいろんな人との関わり合いの中で、影響を受け、背中を押されてきましたから。私もそんな人間でありたい!っていつも思っています。