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“自分のエッジ” を探し、見つけ、磨くため挑戦し続けるメンバーの今、そしてこれからをお伝えしていく『TAM made by people』。今回のテーマは代表爲廣による、これからの時代に活躍できる「個人」の条件、またそんな個人を輝かせる「組織」のあり方についてです。
日本の受託は時代遅れなのかもしれない
TAMは昨年、ヨーロッパでデジタルエージェンシー事業を拡大すべく、オランダ・アムステルダムに現地法人を設立しました。しかし、現地に伝手は一切なく、顧客やパートナーをイチから開拓しなければなりませんでした。
そこで昨年11月、オランダに移住したTAMアムステルダムを設立する日本人スタッフとともに現地の大手デジタルエージェンシーを訪れて、僕の下手くそな英語で会社と事業内容を説明したのですが、その初対面の相手に “お説教” をされたんです。
僕は、TAMは1992年創業で、まもなく設立27年を迎えること。主にナショナルクライアントと言われる大手企業を支援していること。彼らに戦略や施策、見積もりを提案し、受注したら仕事が始まること・・・について話しました。
すると、「待ってくれ。日本のデジタルエージェンシーはいまだにそんなやり方で仕事をしているのか」と。
日本のやり方のなにが問題なのか――。「例えば、『見積もり』というプロセスにしてもそう。そもそもクライアントがエージェンシーに『発注する』、エージェンシーがクライアントから『受託する』という概念自体、もはや時代遅れだ」とのこと。
「やるかどうかも分からないものを見積もるなんて時間の無駄。作ってみないと分からないものを無理に見積もろうとするから金額だって高くなる。それに途中で方針や戦略が変わったらやり直しになるんだろう? なんて不合理なやり方なんだ」とも。
それでは、彼らはどのように仕事をしているのか――。尋ねてみると、「共創型」というのがその答えでした。
施策や費用ではなくメンバーありきの「共創型」
彼らの話を聞くうちに、「従来の受託」と「共創型」との違いが見えてきました。
例えば、クライアントが航空会社で、何かしらの予約システムを改良する場合。従来の受託は、ウォーターフォール型で、エージェンシーが要件を定義し、システムの仕様やデザインを考え、見積もりとあわせて提案。それを見て、クライアントである航空会社が発注するか否かを判断していました。
しかし、こうしたプロジェクトの場合、今はアジャイル型で進めるのがあるべき姿。状況が日々刻々と変化する中で、ユーザーの属性・行動データにもとづいて日々改善を重ねていかなければ、ユーザーにとって最善のモノづくりはできないからです。
だとすると、プロジェクトにとって施策やその費用よりも重要なのは、そうした日々の改善に向き合い、それに必要なスキルを持った優秀なメンバーをアサインすること。
アサインされたメンバーにはその時点でフィーが発生し、どんなシステムをつくるか、仕様や施策はそうやって編成されたプロジェクトチームで、オープンに、フラットに話し合って決められます。ですから、やるかどうかも分からないプロジェクトのために見積もるなんてこともなくなるのです。
「今では、クライアントの担当者がエージェンシーのオフィスにデスクを構えて仕事をするなんてこともめずらしくない。それくらい、プロジェクト、つまりクライアントとエージェンシーの関係性は『共創型』になってきている。いつまでも、『受託』を続けている場合じゃないよ」とも。
個としてエッジを立たせなければ、仕事を失う
滅多にない英語プレゼンの機会で返り討ちに遭い、はじめは少し落ち込みましたが、日本に帰り、彼らに言われたことを思い返す中で、僕は「2つのこと」を悟りました。
それは、今後、共創型が仕事のやり方としてスタンダードになるのであれば、TAMのメンバーはさらに「個」としてエッジを立たせていかなくてはならないこと。そして、TAMという会社はそんなエッジの立った個の「集合体」として輝く組織にならなくてはならないことです。
共創型のプロジェクトで仕事をまかされるようになるには、施策案や費用よりもまず、「今回の課題を解決するには、この人が必要だろう」と、自分の資質やスキルがクライアントに認識され、評価され、プロジェクトに呼んでもらえる状態になる必要があります。つまり、誰もが何かしらの分野で卓越した専門家にならなければならないのです。
このことは裏返せば、「これまで会社の看板で仕事をしてきた人はこれから淘汰される」ことと同義です。なぜなら、共創型になれば、所属よりも個人の能力が重視されるため、これまでのように「◯◯会社の◯◯部の人だから今期も◯◯社の案件に自動的にアサインされる」ということは少なくなるからです。
組織人として名乗らない、社名や肩書きも聞かれなくなる
個としてエッジを立たせることの重要性は、海外を訪れると強く感じます。
例えば、誰かに会いたいと思ったら、「私は◯◯をやっていて、あなたに◯◯を提供できる。一緒に◯◯をやりたいから、一度会ってほしい」と伝える。実際に会っても、名刺交換をしないこともしばしば。所属する社名やそこでの肩書きなど、組織人として名乗ることはあまりないのです。
ですから、「◯◯(社名)で◯◯(肩書き)をやっている◯◯(名前)と申します」から会話やミーティングが始まる仕事の仕方は、どうしても「日本流」だなあと感じてしまうんです。
しかし僕は、近い将来、日本でも「共創型」が仕事のスタンダードになり、「受託」はますます減っていくと考えています。
彼らが言うように従来の受発注のスタイルはあまりに非効率。それに1995年に「Windows95」が、2007年に「iPhone」が登場して以来、インターネットの存在が「個」の力を高め、組織と個人のパワーバランスに変化をもたらしているのは、間違いないからです。
個の活躍を阻害する資本市場、株式会社という陳腐化した存在
しかし、エッジの立った個人が増え、組織と個人のパワーバランスに変化が生じると、「会社」というものは不利になっていくでしょう。
なぜなら、エッジの立つ個人は労働市場において引っ張りだこになるでしょうし、そのような個人(社員)を会社は囲い込むことはできない。極論、エッジの立った個人にとって会社というものは要らなくなるとさえ思うんです。
さらに、現状の資本市場のルールは、個がエッジを立たせることと相反しています。もし株式会社が規模を大きくしていくならば、資本市場のルールに則った、型にはめられた組織づくりをする必要があります。つまり、資本市場、株式会社というものが制度疲労を起こし、その存在自体が陳腐化し始めているように思えるのです。
すると、僕のような会社経営者は、「これから会社は何のために存在するのか?」という問いに向き合わざるを得なくなります。そうして、僕が現時点でたどり着いた結論が、先ほどの、TAMはエッジの立った個の「集合体」として輝く組織にならなくてはならない、です。
エッジの立った個人とのつながりは、会社にとって新たな競争力の源泉
「組織の役割は個が成長できる場であるべき」、これは僕の信念です。個が成長できない組織などというものはあってはならない、存在すらしてはいけないと思っています。そうではなく、組織が成長すれば個人も成長する、個人が成長すれば組織も成長する、そんな「場」でないと。
TAMは東京と大阪でクローズドのコワーキングスペースを運営していますが、それらが成長を促す「場」づくりに役立っています。そこには、TAMのメンバー、クライアント、パートナーが、勉強会やイベントを通じて集うことができる。会社の看板や肩書きは一旦抜きにして、さまざまな個人が学び合い、つながりを築いています。
このことがTAMという会社にもいい影響を与えています。なぜなら、これから仕事は組織ではなくエッジの立った個人にますます集まります。すると、その個人が情報発信源となり、また他のエッジの立った個人が集まる場ができる。すると、その場にも、いい仕事を引き寄せる磁場が生まれるからです。エッジの立った個人とのつながりが、会社にとって新たな競争力の源泉となるのです。
TAMはエッジを立たせたい個人が自分を鍛える場
そうした場で刺激を受け、エッジを立たせることができたメンバーは、ときに会社を辞めてしまうこともあるでしょう。それでも、やれ、頑張れ、と思います。優秀な個人を、業務命令や好待遇だけで囲い込むのはTAMの理念に反するからです。
僕は会社をつくってから27年間、メンバーに「勝手に幸せになりなはれ」と言い続けてきました。だって、今はいつ、どんな会社がつぶれたっておかしくない。ならば、会社がつぶれようと、あなたが一人で食っていけたり、自分でやっていけたりする、その「自信」を手に入れてほしい。そんな自分を鍛える場、自分の価値を高める場として、TAMを使ってほしいと思うからです。
先日、TAMに入社してくれた男性社員は、個人のアフィリエイト運用で利益を出しながら、「ペン回し検定」というユニークな検定ビジネスを運営している25歳の若者でした。
自前のビジネスの経験から、文章構成、ライティング、SEOのスキルを培った。そしてなにより、自分でテーマを選び、ゼロからビジネスを生み出す力を備えている。話していて、自頭の良さも感じられる。
そして、僕は彼に、「生活するのに十分な収入があるなら、それでいいじゃないですか?」と尋ねました。すると彼は、「でも、僕にはデジタルマーケティングの経験がありません。ですから、TAMで週4日、仕事を通じて勉強させてもらいたいんです」と。
採用を即決しました。その場で握手しました。僕はこれから、彼のような人の時代が来る気がしてならないんです。彼のような、自分の好きなことで、新しいことにチャレンジして、道なきところに道を作っていく。そのために必要なことを、素直に他者に貢献しながら学び続けられる。そんな人が謳歌できるような時代が、来てほしいし、かならず来る。
彼のようなエッジの立った個人が来てくれることによって、TAMという組織でも、「誰かに決められた道を歩むんじゃない。自分の道は自分で作っていく」というカルチャーがさらに強くなる。そういう場に仕事は集まる。だから、彼のような個人も会社も一緒に成長していける、と期待しています。
「勝手に幸せになりなはれ」――。これからもTAMには、いつ会社がつぶれてもなんとかやっていける人になりたいと願う人に来てもらいたい、そういう人が集い、自分を鍛える場、自分の価値を高める場としての組織を作りたいと思います。
この『TAM made by people』では、TAMに集まるエッジの立った個人の今を発信していきます。ぜひ、あなたもTAMであなたのエッジを立たせてください。
[取材・文] 岡徳之、池田礼 [撮影] 藤山誠