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※この記事はプレイド公式note『PLAID'S Designer』に掲載した記事を転載しています。
デザイナーとプロダクトマネジメントの境界は溶け始めています。「The Product Management Triangle」で描かれたプロダクトマネジメントのカバー領域と、UXデザインがカバーすべき領域の重なりを考えると、自然な流れなのかもしれません。
一方でプロダクトマネジメントも、UXデザインも、一人が担うには領域が広範に渡ります。境界は溶けているものの、どのようにその道程を歩むかはまだまだ探索が必要なフェーズ。先人の歩みを共有することは、デザイナーの可能性を広げることにつながるはずです。
15年に渡ってデザイナーとして様々なプロダクトのUI・UXデザインを手掛け、現在はプレイドで複数のプロダクトのマネジメントを担当している鳥越に、デザイナーとしてどのような考えがあったのか、今はどのような仕事をしているのかを聞きました。
鳥越良子
大学卒業後、株式会社ZEPPELINのファウンダーとして創業以来UI/UXデザイン事業及びデジタルサービス事業拡大に従事。クリエイティブディレクターとして、デジタル領域のプロダクト・デザインに約15年携わる。UX戦略、UXコンセプトの作成から情報設計、フロントエンド(UI/GUI)のデザインを手がける。プレイドでは、複数プロダクトのマネジメント、UX・UIの設計に携わり、Product Design領域でUXDプロセスを導入、プロダクティビティ向上を推進。
UXだけではいいプロダクトはつくれない
──現在、担当している業務内容について教えてください。
鳥越:
複数のプロダクトのマネジメントや、UI・UXのデザインを担当しています。今、担当しているのは、KARTEのアプリ特化版の「KARTE for App」と、サポートアクションを柔軟に設計できる「KARTE Talk」の2つです。
──デザイナーとして活動してきて、プロダクトマネジメントまで手掛けるようになるにはどういった背景があったんですか?
鳥越:
前職では15年ほどデジタルプロダクトのデザイン・コンサルティングの一員として、様々なデザインを手掛けてきました。デジタルプロダクトに「UX」の概念が取り入れられ、デザイナーがデザインを手がける範囲とデザインの自由度が広がったことを経験したのは大きかったですね。そのきっかけとなったのが、スマートフォンの登場だと考えています。
ガラケーの時代はOSがメーカー依存になっていたので、メーカーから依頼を受けてそれぞれのOSに合わせてアプリケーションを作っていました。スマートフォンが登場し、iPhoneやAndroidが普及してからはサードパーティがアプリケーションを開発しやすくなり、デザインの幅が大きく変わりました。
それ以来、様々なプロダクトのUI・UXのデザインを手掛けてきました。ただ、経験を重ねれば重ねるほど、ある確信を深めていったんです。
──それはどういったものだったんですか?
鳥越:
「良いデザインだけではいいプロダクトはつくれない」ということです。ユーザーはいい体験を求めているので、それに応えられるようデザインします。重要なのは、ビジネスとデザインとエンジニアリングを統合できるかどうか。デザイナーがUI・UXにおいてベストを尽くしたとしても、成果につながらないこともありました。
では、どうしたら事業の成長にまで貢献できるのか。足りないと感じていたピースは、大きく分けて2つありました。1つは、エンジニアリング。素早く仮説を検証するためには内部にエンジニアのいる事業会社で活動する必要がありました。もう1つは、データ。仮説をデータで裏付けながらPDCAを回していかなければならないと感じていました。
これらのピースを揃えて、デザインの実践と事業の成長を両立させたい。それがデザイナーである自分がプロダクトマネジメントまで手掛けようと考えるに至った背景です。
チーム全体で失敗を許容する文化を共有できているか
──プロダクトの成長にコミットするための環境を選ぶ上で何か重視したことはありますか?
鳥越:
実は、前職でも自社プロダクトの開発には挑戦していて、失敗経験が山程あったんです。前職の社長には「プロダクト開発に正解があると思わないでくれ」と繰り返し言われていました。
「プロダクト開発は挑戦して、失敗して、可能性を切り捨てていくことしかできない。良い失敗を重ねていって、正解のような空き地を見つけるような作業なんだ」と。失敗が許容される文化でないと、プロダクトの成長のために挑戦するのは厳しいと考えていたんです。
──デザイナーだけでなく、チーム全体で失敗が大事だと考えることが重要ですよね。
鳥越:
そうなんです。結局、正解は誰にもわかりません。だから、どんなプロダクトを作るかはもちろん、ビジネスメンバーやエンジニアなどデザイナー以外の人たちと、どれだけ同じ失敗を歓迎する価値観を共有してプロダクト開発ができるかは重要です。
会社によっては仮説に対するしっかりとした裏付けが求められることもあります。もちろん、裏付けを軽視するわけではありませんが、直感的に「これだ!」となることもあります。そのときは、素早く実装して検証してみたほうが良いはず。
仮説検証のための社内説得に時間がかかってしまうようでは、それだけTrial & Errorの回数が少なくなり、学習が遅れていきます。そうなると、結局事業が成長するスピードも上がりません。
プレイドは、組織全体で失敗からの学習を奨励する文化がありますし、個人の発想力を信じる姿勢やメンバーの素早い判断と行動が事業を推進させると考える会社なので、非常に挑戦しやすいですね。
デザイナーとしてプロダクトマネジメントを経験した実感
──実際に2つのプロダクトのマネジメントに関わってみてどうですか?
鳥越:
それぞれのプロダクト自体も興味深いので、やりたいことは尽きないですね。プロダクトごとの特徴も違うので、考えられることが山程あります。
KARTE for Appは、SDKを入れた後の工程である分析等はWeb版とほぼ同じです。そのため、現状はKARTEから切り離せません。ただ、機能はほとんど同じなのですが、主な利用者が異なります。KARTE for Appの利用者はプロダクトマネージャーが多く、Web版の利用者はマーケターが多く、それぞれ追っている指標が異なります。
アプリのグロースというゴールのためにどんなプロダクトがいいのかを考えつつ、KARTE全体に馴染ませるにはどうしたらいいか、を考えています。
元々、Webとアプリを横串で見るように想定してKARTE for Appは開発されました。ただ、少しずつWebとアプリが担う役割は違ってきています。役割が違ってきているのであれば、今のようにKARTEに馴染ませる必要はなくなっていくかもしれません。
こうした外部環境の変化も捉えながら、プロダクトとしてどの方向に進むかをシビアに判断しています。一つひとつ難しい判断ではありますが、オーナーシップをとって進めています。
──もう1つのプロダクトではどうですか?
鳥越:
もう1つのプロダクトはもともと、私はアサインされる予定ではなかったんです。すでにチームに入っていたエンジニアのメンバーが声をかけてくれてジョインすることになりました。KARTE for Appとはプロダクトオーナーのタイプが違っていて、それが面白いですね。
KARTE for Appはビジネスサイドのメンバーがプロダクトオーナーを担っており、すでに利用者も多いプロダクトなので、マーケットの反応等も見ながらプロダクト開発を行っています。
新プロダクトはエンジニアがプロダクトオーナーで、技術的な思考で物事を進めていくことが多く、「このプロダクトがユーザーに対して何を提供するか」をプロダクトアウトで考え、とにかくオリジナリティを追求しています。
これだけプロダクトアウトな姿勢でプロダクト開発を進めた経験はこれまでなかったですね。競合やユーザーを気にするマーケットインな姿勢でのプロダクト開発が多かったので。その点も新鮮です。
──足りないと考えていたピースであるエンジニアリングがある状態でプロダクト開発ができていて、新たな刺激がありそうですね。
鳥越:
「ソフトウェアの構造がどれだけユニークか」など、エンジニアリングベース、テクノロジーベースで話が進んだりして面白いですよ。新プロダクトの現状を全社会でプレゼンしたときに、CPOの柴山から「入口の質感について話したい」ってコメントがあったんです。
デザイナーの自分としては「そう、そこを話したかった!」と思っていた部分だったんですが、自分でも言語化しきれていなかったのと、話してもわかってもらえないだろうと考えて、話さなかったところだったんですよね。
それを言語化して大事な部分として指摘してもらったのは非常に良かったですね。「あー、それいいですよね」という共感があって、「いいプロダクト」というレイヤーでエンジニアとデザイナーがつながっている感じがします。
──そのプロダクトアウトな環境でデザイナーでもある自身がどう振る舞うかなど意識していることはありますか?
鳥越:
関わっているプロダクトはアーキテクチャから考え抜かれて、汎用性の高いものになっています。生み出された素晴らしいプロダクトの価値がどうしたらユーザーに適切に届くかを考えて、接点であるインターフェイスをデザインするところまで考えるのが私の役割です。
ユーザーインタビューなどを実施しながら、生みだされたプロダクトをどうリファインするか?を考えて調整するように働きかけるのがデザインもカバーできる自身の強みであり、生み出せる価値だと思っています。
──実際に経験してみてデザイナーの技術が活きる場面や課題など感じているところはありますか?
鳥越:
実際に形が見えると議論もしやすく、検証も素早く進められるので自分でUIが描けるのは強みだと感じますね。一方で、高い生産性が求められる環境でもあるので、自分でUI等を描けないとプロダクト開発を推進するのは難しいかもしれません。
プロダクトアウトで素早く実装して失敗することを良しとする文化だとアウトプット重視になります。そうすると、自然と機能ベースに話が展開されがちです。UXデザイナーやビジネスサイドの人間が持つ、ユーザーに価値が届くようにリファインする力を組織として磨いていけるとより強くできると感じますね。
SaaSのデザインは発想できることの幅が無限にある
──これから挑戦しようとしていることはありますか?
鳥越:
元々、プロダクトを開発するときは「OSをつくるとしたらどうつくるか?」を考えるくらいの視点で取り組め、と前職で言われてきました。市場で勝つプレイヤーになるには、プラットフォームとして耐えられるアーキテクチャが必要になるからです。その重要性が認識できたとしても、実際にそのデザインに携わる仕事はほとんどありません。
プレイドはミドルウェアを意識して、プラットフォーマーに近い視点でのプロダクト開発に取り組めています。現状のニーズだけに囚われすぎず、大規模なプラットフォームのようにフレキシブルに様々なニーズに対応できる設計が手がけられれば、この先も活きる経験につながると思います。
──実際にプラットフォームのようなプロダクトの設計に携わってみてどうですか?
鳥越:
特定のOSによる縛りがないので、個人的にはiOSやAndroidが生まれる前の世界に戻ってきた感じがしますね。アーキテクチャやインタラクションをOSの枠に縛られることなく、自由に考えられることは面白いですね。
特にSaaSというプロダクトだと、ユーザーがこれまで経験したことのない体験を提供するものが多いので、既存のメンタルモデルに引っ張られにくい。目的に対してどんなインタラクションが最適かをゼロベースで考えるというのは海外のSaaSでも多く、発想できることは無限だと感じます。
──挑戦できることはいくらでもありますね。
鳥越:
本当にいくらでもあるなと感じます。プラットフォームとしての設計などとは別で、扱っているデータ分析というテーマも難解です。C向けのプロダクトではないので、高度なことも対応できるのがユーザーにとっては価値になります。
対象となるユーザーはマーケターやデータアナリストで、自分と同じ職種ではありません。実際にプロダクト開発に取り組む中で、どうやって理解の溝を埋めていくかは課題ですし、プロダクトの解説ページには自分が見てもよくわからないものもあります。
プレイドにはエンジニアが多いこともあり、KARTEのディープにカスタムできる良さを大切にしているんです。デザイナーである自分はつい汎用化したくなってしまうのですが、そうではなく、細かいところまでチューニングできることが価値なんですね。
とはいえ、細かくチューニングできるようにすることと、汎用性を高めることは両立できるはずなので、「知らんがな」の精神を持って、ダイナミックに整理したり、刺激を与えたりすることも自分の役割かなと思っています。
会社としてはグローバル展開を目指す上では、人のサポートがなくとも利用しやすいプロダクトにしていく必要があります。
そうすると、スティーブ・ジョブスが語った「Hot, Simple and Deep.」のように、つい触ってみたくなる魅力があり、シンプルで初心者でもガイドなしで使える使いやすさを持ちつつ、専門家が扱えば高度なことも扱える、そんな設計が大切になってくるはずです。
デザイナーである自分がプロダクトマネジメントにおいて発揮できる価値はまだまだあるなと思います。