利用者インタビュー:製造業編
RIX INDIA MANUFACTURING PVT.LTD.
現地法人社長 村尾友勝様
いつもご覧いただきありがとうございます。
「文化や習慣の違いを乗り越え、どうすれば日本式のものづくりを実現できるだろうか?」
「インド人材に興味はあるけれど、本当にわが社で活躍してくれるか…?」
そんな不安や期待をお持ちの企業様も多いのではないでしょうか。
現在、日本国内での外国人材の活用、そしてインドへの事業展開の両面で、“人づくり”の重要性がますます高まっています。
iTipsがインドで運営するoyakata skill training centreでは日本政府に認定された「日本式ものづくり学校」として、これまで、日本のものづくり現場での“定着”と“活躍”を見据えた教育モデルの構築・運用に取り組んでまいりました。インド国内で積み重ねてきたノウハウを活かし、日本語・安全衛生・ものづくりの心得、技術や技能を丁寧に伝えることで、早期に戦力として活躍できる“人づくり”を支援し、企業とともに長く歩んでいける仲間を育てています。
そして、あまり知られていないかもしれませんが・・・
実は、私たちは、日本の建設業界を目指す人材の育成を主軸としながらも、並行して「インド国内に進出している日系製造業」向けの現地スタッフ育成支援にも力を注いできました。
さて、今回ご紹介するのは、その現地教育支援の取り組みの一例です。
現地法人でのスタッフ育成の取り組みの一部分をiTipsにご依頼くださったRIX INDIA MANUFACTURING PVT.LTD.(リックス株式会社インド現地法人)の村尾友勝社長にお話を伺いました。
リックス株式会社は、製造業の生産現場に対して、機械・部品の提供にとどまらず、技術・製造・サービスまで担う“課題解決型”メーカー商社として、国内外に展開する福岡県発の企業です。
それでは参りましょう!インド・バンガルール現地取材を担当した、わたくし小西がレポートをお届けします!インドは 15年ぶり、三度目の渡航です。バンガロールの地に降り立った瞬間、アドレナリン全開でした!!
RIX INDIA MANUFACTURING PVT.LTD. 村尾友勝社長
iTips訓練校では、RIX様の新規採用インド人社員3名を受け入れ、1人あたり約3か月間の「日系企業向け人材育成プログラム」を実施しました。プログラムでは、「日本語」と「日本式ものづくり(製造業の現場力)」の両面から、日系企業での定着と活躍を見据えた実践的なプログラムを提供しました。
それではここからは村尾友勝様とのインタビュー形式で、導入の背景や成果についてお届けします。
目次
iTipsの人材育成プログラム採用の経緯
iTipsに求めた「インドと日本のギャップを埋めること」
声の大きさではなく、自信の大きさ —— プログラムの成果としての「挨拶」
提供プログラム内容のご紹介
標準プログラムは有効か?
受講生3名の今後の役割は?
インタビューを終えて
iTipsの人材育成プログラム採用の経緯
小西:まずは、新規採用インド人社員3名の研修として、iTipsの人材育成プログラムをご採用いただいた経緯をお聞かせください。
村尾様:弊社は2018年にムンバイに販売現地法人を設立し、その活動を通じてインドにおける弊社事業のニーズを把握していました。そのため、2025年に製造拠点をここバンガロールに設立することは早くから決まっていました。
ただ、これまでの経験から、インド人と共に働くには、日本とインドの仕事に対する考え方のギャップを埋める必要があると感じていました。
小西:確かに、私は今回数日インドに滞在しておりますが、文化・価値観・ライフスタイルなど、あらゆる面においてインドと日本とのギャップを目の当たりにします。
今では誰もが携帯電話を持ち、小さな商店でもオンライン決済を導入している様子を見ると、インドの目覚ましい進化には驚かされますが、その一方で、15年前に訪れたときと変わらず残っている街並みや生活の雰囲気には、インドならではの魅力を感じると同時に、日本との違いも改めて実感しました。
写真では伝わりづらいかもしれませんが、小さな商店でもQRコード決済が利用されています。
混沌とする街の雰囲気は昔のまま、私の大好きなインドです。
小西:今回ご受講された3名の社員の方は、日本語の知識はお持ちでしたか?
村尾様:はい、日本語はゼロスタートでしたので、その習得も期待しておりました。とはいえ、日本語だけを教える学校はインドにも数多くあります。私たちが求めていたのは、語学力だけでなく、「日本で働くこと」への理解と姿勢を育てる教育でした。
小西:インドの特異性から人材育成の必要性を検討されたということですね。ちなみに、御社はこれまでに、中国やタイにも現地工場を設立されていますが、その際も同様に新規採用現地社員に対して、社外の人材育成プログラムを実施されたのですか?
村尾様:いいえ、中国とタイにおいては社内研修を実施していましたが、社外研修はインドが初めてだと思います。
中国やタイでは、日本文化に触れる機会が多く、また文化や価値観も日本と近いため、大きなギャップは感じませんでした。一方インドの場合は、文化も価値観も大きく異なるため、そのギャップを埋めるための社外研修が必要になると感じました。
iTipsに求めた「インドと日本のギャップを埋めること」
小西:それでは、村尾様のこれまでのご経験から、インドと日本の”仕事への取り組みかた”のギャップについてもう少し具体的にお聞かせいただけますか?
村尾様:そうですね、いくつか例にあげますと、
「メモを取らない」「掃除をやらない」「5分前行動の感覚がない」--。
こういった点が代表例です。日本人にとっての当たり前が、彼らの文化にはないのでやむを得ないのですが、日本の企業で働くには、当然守ってもらう必要があります。
例えば、掃除をやらないとどういう事態がおこるとおもいますか??
工場が片付いていなければ、部品が一つ余っていることに気づかない。つまり異常に気付くことができないでしょう。
小西:おのずと製品に影響してくるわけですね?
村尾様:そうです。顧客が我々に求めているのは ジャパンクオリティーです。そのジャパンクオリティーの土台になるのは、掃除を含む5S「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」になります。
だから確実にこの5Sを守ることは日本企業で働くことに必要な考えなのです。
小西:確かに、御社のオフィスに入った途端、バンガロールの雑然さ、道端に点々と落ちるゴミの光景から一転、ここが日本企業のオフィスであることを認識しました。空間が整っていて、とても清潔感があります。
iTipsの訓練校でも、毎日授業終了後に、生徒全員での清掃時間を設けています。
インドでは、掃除は“清掃員の仕事”という感覚がまだ根強く、多くの若者にとって「自分で掃除をする」という習慣がありません。しかし、iTipsでは日本式ものづくり訓練校として、「掃除とは、ものづくりの第一歩」という考えのもと、全員が当事者意識を持って清掃に取り組むよう、徹底的に指導しています。
声の大きさではなく、自信の大きさ —— プログラムの成果としての「挨拶」
村尾様:そのほか、iTipsさんの人材育成プログラムの賜物として驚いたのは「挨拶」です。
小西:確かに、私も今回の訪問で朝礼を見学したのですが、訓練生の挨拶や「職人心得十箇条(がっこうのルール)」を唱和する声の大きさに、背筋が伸びる思いでした。
「職人心得十箇条」
「職人心得十箇条」を唱和する生徒たち → 動画はこちら
村尾様:実は、福岡の工場メンバー100名の前で、彼らに自己紹介をしてもらったんです。その堂々とした姿には、本当に驚かされました。もちろん、日本語で、です!
小西:毎朝の朝礼では、当番制で一人前に立ち、日本語で号令や「職人心得十箇条」を唱和しています。これは単なる儀式ではなく、声の大きさ以上に「自信の大きさ」を育てるためのリーダーシップ教育の一環です。
インド人はよく「おしゃべりな国民性」と言われることがありますが、実際には必ずしも声が大きいわけではありません。
特に、私たちの訓練校には、生い立ちや教育環境などの背景から自己肯定感が低く、自信を持てない生徒が多く集まってきます。実はとても繊細で、“ガラスのハート”を持っている——そんな生徒たちなのです。そんな彼らが、毎朝大きな声で挨拶や「職人心得十箇条」を繰り返すことで、堂々と人前に立ち、胸を張って自分の言葉で語れるように成長していきます。それはまさに、現場で信頼される人材像に近づく第一歩であると、私たちは考えています。
ちなみに、私たちの社名「アイティップス」の「アイ」は、「青は藍(あい)より出でて藍(あい)より青し」という言葉に由来しています。
出自や環境に関係なく、自らを磨く努力によって、自分を超え、未来を切り拓いてほしい。彼ら(青)には、私たち(藍)を活かして、自信と幸せに生きる力を身につけてほしい。そんな想いを、私たちは日々の教育実践の中で体現しています。
提供プログラム内容のご紹介
つづいて、インタビューから少し離れて、この記事をご覧いただいている皆さまに、iTipsが実施する「日系企業向け人材育成プログラム」の具体的なイメージをもっていただけるよう、カリキュラムの一部を抜粋してご紹介します。
こちらはカリキュラムの一部抜粋です。
今回RIX様には、iTipsが独自に開発した「日系企業向け人材育成プログラム(標準版)」をベースに、RIX様の現場や業務に即した内容へとカスタマイズしたプログラムを提供しました。
以下は、RIX様から事前に共有いただいた情報をもとに作成したオリジナル教材の一例です。
作業名・工具名称・使用用途・想定される使用シーンなどを、日英の両言語と視覚的要素を交えて解説し、現場に直結する実践的な教材に仕上げています。
製造業においては、製造工程・工具などの呼び方一つとっても、会社ごとに異なるケースが多くみられます。その点で、RIX様用にカスタマイズしたプログラムは、受講者の理解と習得という点において、より実務に沿った形でお届けできたのではないかと考えています。
さて、インタビューに戻ります。
標準プログラムは有効か?
小西:RIX様にはiTipsが開発した「日系企業向け人材育成プログラム(標準版)」をベースに、RIX様専用にカスタマイズした独自プログラムを実施させていただきました。
ここで弊社の今後の参考として、ぜひ村尾様からご意見をいただきたいのですが、企業ごとにカスタマイズしていない、いわゆる標準プログラムのみの人材育成は、インドに進出する日系企業にとって有効だと思いますか??
村尾様:はい、もちろん有効だと思います。
日本の製造業には、「品質は、仕組みでつくれ」という考え方があります。これは、個人の能力に依存するのではなく、仕組みによって品質を安定させ、不良品を抑制するというものです。
つまり、工程全体を管理・改善する“仕組みづくり”こそが重要なのです。
とはいえ、この仕組みを理解し、現場で実際に運用するのは「人」です。製造工程そのものは機械化できても、管理や改善を担うのは人間であり、そのためには、「5Sの徹底」が不可欠です。
たとえプログラムが特定の企業向けにカスタマイズされていなくても、「5S」の考え方を徹底して指導できる点において、iTipsの標準プログラムは非常に価値ある内容だと私は思います。
受講生3名の今後の役割は?
ここまでは、iTips訓練校のカリキュラムやその成果について伺ってきました。
ここからは、今後RIX様のバンガロール工場で活躍する3名のインド人社員について、彼らの役割や、期待するところなどを伺います。
村尾様:現在、彼らはAOTS(一般財団法人海外産業人材育成協会)での研修を経て弊社の福岡工場でトレーニングを受けているところです。
10月からバンガロール工場が稼働予定のため、それに合わせて3名には「Assistant Manager」として工場に配属され、現地ワーカーの指導や工場上層部との連携を担ってもらう予定です。
小西:現地ワーカーとの橋渡し役として、確かに彼らの存在は重要ですね。
村尾様:はい。まさにその通りです。言語の違いはもちろんですが、我々日本人と現地ワーカーとの間には、我々と今回の3名との間以上に大きなギャップがあると想定しています。その意味でも、彼らの活躍には大いに期待しています。
今、日本では、彼ら自身が、現地のワーカーへの指導の一環として製造マニュアルの作成にも取り組んでくれています。
小西:既存のマニュアルではなく、現地ワーカー向けに新たに作成しているのですね。
村尾様:はい、現地ワーカーのレベルを理解している彼らの目線で、必要な情報を整理、再構成し、より伝わりやすいマニュアルを知恵を絞って作ってくれています。
また、こうしたマニュアル作成という「アウトプット」を、彼ら自身の理解を深める機会につなげることも狙いです。
小西:iTipsで身に付けた基礎が、現場でそのように形になっていることを聞くと、我々もうれしいです。
村尾様:実は、彼らのモチベーションを高める工夫もしています。
配属当初は全員「Assistant Manager」からスタートしますが、将来的に「Deputy Manager」という一段上の役職を1枠限定で設けており、彼らにそのポジションを早い段階から意識してもらっています。互いに切磋琢磨しながら、その1枠を目指して努力してもらう作戦です。もちろん、昇給すれば待遇も変わります!
小西:それは、モチベーションアップにつながりますね!
彼らの活躍像から、現地労働者とのコミュニケーションを見据えた戦略まで、共有いただきありがとうございます。これらの取り組みは、今後インド市場への進出を検討する多くの企業にとって、非常に有益な示唆となると感じました。
インタビューを終えて
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
インドの地で実際にビジネスを展開されている企業様から直接お話を伺い、現地のリアルなビジネスシーンや課題を垣間見ることができたのは、私たちにとっても大変貴重な経験となりました。
iTipsでは、製造業、建設業における日本の高い技術力を世界に広げることを目指し、各企業のニーズに応じた技術指導プログラムを実施しています。今回、当社の「日系企業向け人材育成プログラム」をRIX様向けに一部カスタマイズすることで、事業準備の一端に携わらせていただけたことは、大変光栄であり、今後の励みにもなりました。
インドへの進出を検討されている企業様で、RIX様と同様に「現地で活躍できる人材育成」に課題を感じておられる場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
なお、iTipsではこれまで、日本の建設業界の現場を目指す人材の育成を主軸としつつ、インド進出済/進出準備中の日系製造業向けにも、現地スタッフの育成支援を行ってまいりました。特に製造分野では、制度上の制約から「日本を目指す人材育成」は長らく困難でしたが、ようやく環境が整い、2025年8月より、本格的にスタートしています。
今後は、日本の建設業、製造業の両現場への“定着”と“活躍”を見据えた、より実践的な教育モデルの構築に取り組んでまいります。インド国内で培ってきた教育ノウハウを活かしながら、日本語・安全衛生・ものづくりの心得、技術や技能を丁寧に伝え、早期に戦力として活躍できる“人づくり”を支援し、企業とともに長く歩んでいける仲間を育てていきます。
ご興味をお持ちいただけましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。