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「多くの工程はAIに置き換えられるようになりました。でも──最終的な“デザインの良し悪し”を判断するのは、結局のところ人の目なんです」
そう語るのは、IVRyでデザイナーを務める保坂 浩紀(ほさか ひろき)。生成AIの台頭によって、デザインの現場でも“つくるプロセス”は大きく様変わりしました。一方で、そのアウトプットが「本当にユーザーにとって良いものかどうか」を見極める力は、今もなおデザイナー自身に委ねられています。
では、AIと共存するこれからの時代に、デザイナーはどんな価値を発揮すべきなのか?そのヒントは、自分なりの「デザイン哲学」を持つことにあるのかもしれません。
今回のインタビューでは、組織全体の体験設計まで担う保坂のこれまでのキャリアを辿りながら、彼が大切にしているデザイン観を紐解いていきます。
登場人物
株式会社IVRy Designer 保坂 浩紀
千葉大学工学部デザイン工学科意匠系卒業後、ニコンにて一眼レフカメラや周辺機器のUIデザインを主に担当。その後、スポーツテック・スタートアップLEOMOにてUX&UIデザイナーとして新規プロダクト立ち上げを経験。デザインエージェンシーTigerspikeでは、航空、保険など多様な業界のUXデザインプロジェクトを手掛ける。前職AI inside では1人目のデザイナーとして入社後、執行役員CXOとしてデザイン組織の立ち上げや全社のエクスペリエンスデザインを主導。現在はIVRyにてブランディング、プロダクトデザイン、チームづくりに従事。
目次
登場人物
1本のペンが、夢中のきっかけに
モノから組織へ。状況に応じて、デザインの形を変えていく
IVRyで実践する、新しいデザインのカタチ
クラフトマンシップを忘れずに、再現性を突き詰める
編集後記
お知らせ
1本のペンが、夢中のきっかけに
ーーまず最初に、保坂さんはいつごろからデザインに興味を持ったのでしょうか。原体験について教えてください。
保坂:振り返ると、小学生の頃ですかね。自分でカードゲームをつくって、友達と遊んでいたんです。キャラクターを描いて、ルールを決めて。「どうすればもっと楽しくなるか?」というのを、自然と考えていました。今思えば、あれが人生最初の「体験設計」だったかもしれません。
デザイナーという職業を意識したのは、高校生になってから。文理選択を控えていたタイミングで、「自分は何に興味があるのだろうか?」と黙々と考え込んでた時期があって。
そのときに、「身の回りにあるすべてのモノって、誰かが意図を持ってつくったものなんだ!」とふと思ったんです。きっかけは、授業中に使っていたシャーペン。グリップ部分がやわらかくなっていて、気になって調べてみると、人間工学に基づき、肩や腕の負担を減らすためにデザインされていることを知りました。
携帯電話やテレビもそう。何気なく使っていたけど、すべて誰かの思考と工夫でできている。その事実に気づいてから、デザインって単なる「見栄えの良さ」ではなく、「課題解決の手段」だと考えるようになって。将来は、「工業製品の意匠設計に関わるインダストリアルデザイナーになりたい」と、進路を決めました。
ーーそれから千葉大学の工学部デザイン工学科へ進学。どのような基準で志望する大学を選んだのでしょうか。
保坂:もちろん、美術大学も選択肢として考えました。ですが、絵が上手な人はたくさんいるし、無理にそこで戦わなくてもいいかなと。自分は感覚ではなく、ロジックで考えることが得意なタイプだったので、物理学や統計学をはじめ、幅広い分野を学べる総合大学が合っていると考えました。そこで工学部でありながら、デザインを専門的に学べる学科を選びました。
実は、日本で初めてインダストリアルデザインに特化した学部をつくったのが、千葉大学なんです。OBが大手メーカーの第一線で活躍していて、教授陣とのコネクションも強く、私が所属した研究室には産学共同研究の案件が多く寄せられました。
たとえば大手メーカーとのプロジェクトでは、「テレビのUIをより使いやすくする」がテーマでした。ユーザーの行動を観察し、ユーザビリティテストを行い、そこから解決策を提案する。今で言うUXリサーチですね。学生時代から実践的なプロセスを学べたのは、とても貴重な経験になりました。企業や教授の期待に応えようと、寝食を忘れて研究に没頭する毎日。人生を振り返っても、大学4年生の時がいちばん働いていたかもしれません(笑)
モノから組織へ。状況に応じて、デザインの形を変えていく
ーー学生時代から、かなり実践的な経験を積まれたんですね。卒業後は、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
保坂:新卒では、光学機器メーカーへ入社しました。インダストリアルデザイナーを志望していたものの、別会社の選考では縁がないという結果に。そこで視野を広げて、UIデザイナーとして応募し、なんとか入社の機会をつかみました。実際に働いてみると、「こっちの方が自分に向いてるかも」と思えたんです。というのもUIデザインは、ユーザーが迷わず直感的に操作できるように、情報の見せ方や動線を設計する仕事。ロジカルに組み立てるプロセスが自分にフィットしていたこともあり、自然と馴染めた感覚がありました。
入社4年目には、研修生としてロンドンに渡る機会をいただきました。与えられたテーマは、「新しい視覚体験をデザインする」という抽象的なもの。正解があるわけでもなく、すぐに製品化されるものでもない。その中で、どうやってアウトプットにつなげるか。手探りの連続でしたが、自分の中でデザインプロセスや思考方法などがアップデートされ、大きな転機になりました。
帰国後、働いていくなかで、「すべての工程を一貫したデザインを手がけたい」という想いが徐々に強くなっていきました。やっぱり自分は、最初から最後まで一気通貫で考えることが好きなんだなって。企画部分も、その手前の企画に至るリサーチも。「そもそもなんでその企画やるの?」という裏付け部分もデザイナーとして関わりたいなと。
それで、スタートアップの企業へ転職しました。その会社は事業の立ち上げフェーズだったので、すべての工程に携わることができました。その後も何度か会社を移り、クライアントワークを経験したり、デザイン組織を立ち上げたりとデザインの幅を広げていきました。
ーー前職の事業会社では、CXO(Chief Experience Officer)を務めていたと聞きました。
保坂:はい。もともと副業として関わっていたのですが、その後、一人目のデザイナーとして入社しました。まずはデザイン組織の立ち上げから取り組み、1年半後にCXOに就任しまして。それから社内外の体験設計にも責任を持つようになりました。
具体的にいうと、プロダクトの体験ビジョンの策定や、従業員体験向上に向けた体制構築、経営計画のファシリテーションなど。取り組みを通じて感じたのは、組織自体もひとつの「デザイン対象」だということ。プロダクトやUIだけじゃなく、チームの動き方や意思決定の仕組みまで設計の範囲に含まれます。
「デザインシンキング」という言葉がありますが、まさにデザイナーの思考は応用が効くものだと実感しましたね。ターゲットが抱える課題に対して、デザインの力でどのように解決していくか。その思考プロセスは、対象が変わっても本質的には同じですから。
ーーこれまで幅広いデザイン領域を経験してきましたが、保坂さんの大切にしている姿勢、デザイン哲学を教えてください。
保坂:大きく二つあります。一つ目は「レバレッジを効かせる」こと。極論をいうと、デザインってなくてもいいと思っていて。たとえば、とても分かりづらいシステムがあったとしても、別に使えはするじゃないですか。
でも優れたデザインがあることで、すごく使いやすくなる。結果として体験が良くなるから、もっと使ってみたいと思うようになる。デザインがテコのように作用することで、効果が大きくなっていく。そういうデザインを提供したいと、考えています。
そのために意識しているのは、どこにレバレッジを効かせれば最も効果が出るかを見極めること。表面的ではなく本質的な課題を捉え解決していく姿勢が欠かせません。もちろん、こうした課題解決はロジカルシンキングでもできるので、いかにクリエイティブジャンプを起こし、飛躍的な解決を導けるかどうか。まさにそこにこそ、デザイナーとしての存在価値があると考えています。
二つ目は、「アメーバのように変化する」こと。組織やフェーズによって求められる役割は変わるので、柔軟にフィットすることで価値をつくる。固定された役割ではなく、その場に応じて「最適なデザイナー像」を更新し続けることが、私のデザイン哲学ですね。
最近ではAIの進化もあり、デザイナーの役割も変化してきました。プロトタイプの生成やテストなどは、ある程度AIで代替できてしまう。ただ一方で、「ユーザーが本当に困っていることは何か?」といった一次情報に触れるリサーチや、最終的に「ユーザーがどう感じるか?」といった体験品質を担保する工程。ここは今後も人間、つまりデザイナーの役割が大きいと思っています。
事業や組織フェーズ、そして時代の変化。それに合わせて私自身もカタチを変えて、レバレッジを効かせるデザイナーで在りたいと考えています。
IVRyで実践する、新しいデザインのカタチ
ーーIVRyでは、これまでの経験がどのように活かされているのでしょうか。
保坂:正直にお話をすると、IVRyのデザインはまだ土台づくりのフェーズでして。CEOからのオーダーでもあったのですが、組織の拡大やプロダクトの進化を受けて、共通言語としての「IVRyらしさや大事にする価値観」のアップデートが喫緊の重要課題だったんです。そこで、まずはロゴのリニューアルやビジョン・ミッションのアップデートから着手していくことになりました。
https://note.com/h0sa/n/n3cffa48627ce
現在はひと段落したので、今後はプロダクトデザインへも深くコミットしてデザイン全体を広く見渡し、IVRyのデザインをどう進化させるかを一段高い視点で模索していきたいと考えています。
ーーこれからがスタートという感じですね。現時点で構いませんが、デザインチームのビジョンとしてはどのようなものを描いているのでしょうか。
保坂:組織面でいうと、みんなで出し合った「やりたいこと」をベースにしながら、組織やプロダクトロードマップと紐づける作業を行っています。単にUIの見た目を整えるだけでなく、UXリサーチや事業戦略、カルチャー醸成にまで踏み込んで、より広い視点でレバレッジをかけていく。そんなチームをみんなで目指していきたいと思っています。
事業面でいうと、アイブリーを新しい顧客層にも導入いただくにあたり、どうプロダクトを進化させていくか。まずは顧客理解を深めるているところです。デザインチームとして、どんな価値を提供していくのか。そうしたミッションやステートメントも言語化できればいいなと思っています。
ーーいま、IVRyにデザイナーとして加わることの魅力を教えてください。
保坂:プロダクトデザイナーは、私を含めて4名。組織としては2024年9月に立ち上がったばかりなので、ゼロからつくれるものが多いです。専任のコミュニケーションデザイナーはまだおらず、これから入社していただく方が一人目となります。
再定義したIVRyらしさを、どうビジュアルに落とし込んで発信していくか。例えば、フォントやイラストシステムはどうするか。今いるメンバーで少しずつ進めていますが、専任の方に入社いただけたら推進をお任せしたいと思っています。
各タッチポイントで、自分で考えた新しいビジュアルデザインが反映されていく。それが、いま入社する醍醐味ではないでしょうか。本当に一手に担っていただけるタイミングですので。
クラフトマンシップを忘れずに、再現性を突き詰める
ーー最後に、保坂さん個人のビジョンについて。どのような未来を見据えているのか気になります。
保坂:手を動かしながら、ものをつくることは続けていきたいですね。デザイナーを志したきっかけが、「つくることが好き」だったので。年齢を重ねると、現場からの距離が遠くなりがちですが、デザインの楽しさを忘れないためにも、クラフトマンシップは持ち続けたいですね。
それともう一つの軸としては、これまでスタートアップで培ってきた「再現性のあるデザイン組織づくり」を仕組みとしてまとめていくことです。もちろん、デザイン組織を取り巻く環境は変数が多いため、一律の正解はありません。けれど経験から分かってきた、つまづきポイントやその予防策などを整理することで、より多くの企業やチームに還元していけると考えています。IVRyでもその実験は続いていますし、今後もそこは強くこだわっていきます。
IVRyには、カルチャーや事業フェーズも含めて、私の考えるデザイン哲学を実践できる余白があります。プロダクトだけでなく、組織全体にレバレッジを効かせていくような設計ができる。この先も多様なメンバーたちと協力しながら、ビジョンである、Making “Work is Fun” a reality.(“働くことは、楽しい” を常識に変えていく)を体現していけたらと思います。
編集後記
目の前の課題に向き合い、本質的に良い体験とは何かを突き詰めていく。
保坂さんのインタビューで感じたのは、「自分の哲学をもつこと」の重要性でした。時代やツールが変わっても、そこが確立されている限り、デザイナーとしての価値は変わらないはずです。そしてその哲学は、「手を動かし続けること」と「問い続けること」によって、さらに磨かれていくのでしょう。
IVRyという、まだ余白の多い組織で、保坂さんは今まさにそれを実践しています。プロダクトの設計にとどまらず、組織、チーム、カルチャーにまでデザインの視点を広げながら。
お知らせ
IVRyでは、コミュニケーションデザイナーを積極採用中です!もしこの記事を読んで、「共感できる」「こういう人と働いてみたい」と感じていただけたら嬉しいです。スタートアップだからこそ味わえる挑戦と、余白の多さがあります。少しでも気になった方は、まずはオンラインのカジュアル面談で話を聞いてみませんか?お待ちしております!