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クリエイティブディレクターであるNIGO®氏とのNOT A HOTEL TOKYO “THE NIGO HOUSE”やビャルケ・インゲルス率いるBIGとのNOT A HOTEL SETOUCHIなど、世界的な建築家・クリエイターとの協業のみならず、NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA “IRORI”やNOT A HOTEL MIURA など自社設計も手掛けているNOT A HOTEL ARCHITECTS(建築チーム)。
先月、さらなる事業拡大に伴い採用を強化するため、NOT A HOTEL ARCHITECTSによる採用説明会を開催しました。
今回のnoteでは「事業開発」「建築PM(プロジェクトマネージャー)」「構造/設備設計」「施設管理」「建築デザイナー(意匠設計)」「CGパースクリエイター」と、ARCHITECTSに関わる職種へ向けたプレゼンの模様をレポート。
土地探しからデザイン、CGパース、施設管理までワンストップで手がける、NOT A HOTEL ARCHITECTSの全貌を約1.7万字の長編記事として公開します。
現在のNOT A HOTEL ARCHITECTSは、35名ものメンバーで構成されている
NOT A HOTEL ARCHITECTSとは
まず、NOT A HOTEL ARCHITECTS(以下、アーキテクツ)とはどんな組織なのか。
NOT A HOTEL全体の社員数が270名超(2025年4月時点)の規模になってきたなか、アーキテクツには現在35名のメンバーが所属。2025年度内には倍近くまで規模の拡大を見込んでいます。
NOT A HOTEL ARCHITECTSのチーム構成
アーキテクツの組織体制は7つのチーム(事業開発、PM、デザイナー、ブランドディレクター、CGパースクリエイター、エンジニアリングマネージャー、ライフサイクルマネージャー)に分かれています。
事業計画から運用改善までワンストップで手がけている
各チームが密に連携を取りながら、事業計画、企画・設計・調整、施工・開業準備、運用改善までを一気通貫して行っています。
事業開発
事業開発は現在、3名のメンバーによって構成されています。事業開発は、新たな土地を探し、事業の設計を行うチーム。リーダーを務める中山慶祐は「絶景を探すのが事業開発の最大の仕事であり、醍醐味である」と語ります。
事業開発の仕事の全体像として、まずは絶景となるロケーションを探す。そのうえで、デューデリジェンスや行政協議をしながら、実際の企画を詰めていきます。どういった建築をつくるのか、そのコンセプトや意匠をデザイナーと協議しながら決定。同時に、プロジェクトの事業性を設計し、基本設計をプロジェクトマネージャーに渡すのが一連の流れとなります。
場合によっては、他企業や地主と共同事業を行うパターンもあり、その都度スキームを組み上げていく。その意味で、新規事業のような性質を持っていることも事業開発の特性であると中山は明かします。
そう聞くと各仕事が単発プロジェクトに思われるかもしれませんが、事業開発はコーポレートやセールスなど、各チームと連携しながら、NOT A HOTELの中期経営計画をともに手がけることも大事な仕事となります。
プロジェクトマネージャー
プロジェクトマネージャー(以下、PM)は現在5名のメンバーがおり、ゼネコンや組織設計事務所、あるいはPM会社出身のメンバーによって構成されています。設計やデザインだけでなく、コスト管理、時間管理、事業モデル、運営など、プロジェクトにまつわるあらゆることに「責任者」として遂行するのがPMの役割です。
PMが担う業務は、「スケジュール管理」「コスト管理」「クオリティの向上」「土地のオーナーや地域住民とのリレーション構築」という大きく4つの軸に分類されます。
NOT A HOTELのPMはプロジェクトを推進する「事業者」であり、自ら意思決定を行いながらプロジェクトを進めます。これは、外部から業務を受託するPM会社とは異なる点です。経営層との距離が近く、スピーディな意思決定が求められる環境下で、どのように最短距離で開業まで導くかを常に考えながら、スケジュールを細かく詰めていきます。
一般的な設計業務では、あらかじめ予算が決められていることで、理想とするデザインから遠ざかってしまうことが多くあります。しかしNOT A HOTELでは、ブランド価値を守る観点から、理想とするデザインに極力手を加えない方針を取ります。代わりに、構造設計や設備設計といったデザイン以外の領域で効率化を図り、コストの最適化を実現するのです。
また、取り扱う土地はいずれも、圧倒的な眺望を誇る絶景が特徴。しかしその一方、開発や施工の難易度が高い「扱いづらい土地」であることも少なくありません。そうした環境において、行政や地域との信頼関係を丁寧に築きながら、土地のポテンシャルを最大限に引き出していくのが、NOT A HOTELのPMのあり方です。
デザイナー(意匠設計者)
アーキテクツ全体の約3分の1にあたる12名がインハウスデザイナーとして所属。チームメンバー構成は多様で、アトリエ系の設計事務所や大手組織設計事務所、ゼネコン設計部門の出身者のほか、海外の設計事務所から加わったメンバーやインテリアデザイナーも在籍しています。さらに、近年では新卒採用も行っており、2024年に入社したメンバーに続き、2025年、そして2026年にも新たなメンバーが加わる予定です。
NOT A HOTELのプロジェクトは、大きく3つのタイプに分かれています。ひとつは、建築家に設計を依頼するプロジェクト。例えば、BIGやSUPPOSE DESIGN OFFICEといった著名な設計事務所とのコラボレーションが該当します。次に、建築領域以外のクリエイターとのプロジェクト。ファッションデザイナーの相澤陽介氏や、アーティストのNIGO氏などと協働するプロジェクトです。そして3つ目が、インハウスチームが単独で手がけるプロジェクトです。
インハウスデザイナーが関わるのは、主に後者2つ。クリエイターとの協働と、社内で完結する自社デザインの領域です。例えば、2023年7月にリリースされた6つの新拠点のうち、5件はインハウスデザイナーが関与しています。2023年には全体の約20%だったインハウス比率が、2024年には約60%に増加し、2025年には80%に達する見込みです。
自社設計のプロジェクトが年々増え、2025年には80%に達する見込み
NOT A HOTELがインハウスでデザインを担うことには大きな意義があります。ひとつは開発スピードの向上。そしてもうひとつは、外部クリエイターとの協働のなかでも、NOT A HOTELの思想や世界観を確実に空間に落とし込んでいくという目的です。ブランドの一貫性を保ちながら、多様なコラボレーションを可能にする体制になっています。
ブランドディレクター
ブランドディレクターは高い専門性と豊富な経験が求められるポジションのため、厳選された少数精鋭のチームです。現在、2名体制で構成されています。
ブランドディレクターの1人である遊佐は、日建設計で約13年にわたり意匠設計者としてキャリアを積んできました。もう1人の須磨は、隈研吾建築都市設計事務所で室長を務めた経歴を持っています。
ブランドディレクターは「建築のデザイン、機能、品質の定義・ディテールをこだわり抜き、NOT A HOTELの日常をつくること」が役割です。
実際の業務領域は多岐にわたります。空間におけるルールメイキングや設計ディレクション、既存施設のバリューアップ、家具や家電の選定・開発に至るまで、空間の体験価値を構成するあらゆる要素に関与しています。
CGパースクリエイター
NOT A HOTELには、現在3名のCGパースクリエイターが在籍しています。
CGパースクリエイターが担っている主な業務は、大きく3つに分けられます。1つ目はCGパースのディレクション。完成度の高いCGパースや動画コンテンツ(ムービー)を外部パートナーと連携して制作する際、クオリティや表現の方向性を指揮・調整します。
2つ目は、販売用パースの社内制作。そして3つ目は、新規案件のプレゼンテーションなどで用いるパースの制作です。企画・構想段階で提示されるハイクオリティなパースは、社内の意思決定においても重要な資料となります。
2023年にはまだ外部パートナーによる制作が中心でしたが、現在では制作の半数を社内で担うようになっており、今後は90%まで引き上げるのが目標です。これにより、制作スピードの向上だけでなく、ブランドとしての一貫性や細かな表現調整が可能になります。
エンジニアリングマネージャー
建築エンジニアリングマネージャーは現在、設備領域を専門とする2名で構成されています。構造のポジションはまだメンバーがおらず、第一人者になってくださる方を募集中です。
ゼネコンや設計事務所の設備設計は、すでに建てるものが決まった段階からプロジェクトに参画するというケースがほとんどです。一方、NOT A HOTELではプロジェクトの初期段階、すなわち「何を建てるか」を決めるところから関与することができます。
例えば事業開発のチームが見つけてきた土地に対し、インフラの整備状況、つまり電気・ガス・水道といったライフラインがどの程度引かれているのか、建てたい建築にとってそれが十分かどうか、そして不足している場合に追加の整備が可能かどうか。こうした条件を技術的な視点から検証し、プロジェクトとして成立するかを判断するところから携わります。
その後、建物の方向性が定まると、設計者とともに設計プロセスを並走し、建設フェーズへと移行しても施工者、設計者と開業まで並走しながらNOT A HOTELのものづくりをディレクションします。さらに開業後も、ライフサイクルマネージャーに対して維持管理に関わる技術的なサポートを行うほか、ホテルスタッフと連携し、現場から上がってくる改善・要望などを、設計・施工側へフィードバックしていきます。
このように、企画から運営・改善まで、プロジェクトの全工程に一貫して関わるのが、建築エンジニアリングマネージャーというポジションの特徴です。
ライフサイクルマネージャー(LCM)
ライフサイクルマネージャー(以下、LCM)は、建築・施設の維持管理を担う部門。LCMが目指すのは単なる施設管理にとどまらず、建築が持つ価値を最大限に引き出し、利用者にとっての体験を継続的に高めていくことにあります。
現在、LCMチームは4名体制。主にゼネコン出身のメンバーで構成されており、専門性の高い知識と経験を活かして日々の運営に取り組んでいます。竣工・開業した建物を50年、100年と長きにわたって守り、育み続けることがテーマです。
上の図をみても明らかなように、一般的な建物管理業務に比べて、NOT A HOTELのLCMの業務範囲は広いです。
NOT A HOTEL ARCHITECTSの思想と役割
ここからは各職種に焦点を当てながら、日々どんな思いで仕事にあたっているのか。実際のエピソードも交えながら、それぞれのメンバーに語ってもらいました。
“超プロダクトアウト”の事業開発(事業開発 中山)
中山 慶祐:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社にて、蔦屋書店の新店企画・運営、新規事業企画、地域子会社の代表取締役、海外事業等に従事。2023年10月NOT A HOTELに参画。事業開発を担う。
私たちが挑戦しているのが、「超プロダクトアウトの事業開発」です。背景には、 代表の濵渦が創業当時から持っていた「世界の友人12人が欲しいと思ってくれるなら、それで事業になるんじゃないか」という、ある種の逆算的な発想です。
私たちの物件は年間360日を30日単位で12人のオーナーに分けて販売するモデル。つまり、12口が売れれば成立するわけです。しかもマーケットは世界。そうであれば、その世界の12人に徹底的に向き合ったプロダクトをつくろう、というのが僕らの事業やものづくりの根幹にあります。
象徴的なのが、NOT A HOTEL TOKYO “THE NIGO HOUSE”のプロジェクト。崖の上に建つ、延床1000平米超の一棟貸し。内装にはヴィンテージ家具をはじめ、細部に至るまで妥協せず仕上げました。このようなスケールのものを、東京の中心でも有名リゾート地でもない場所で展開できるのは、「世界の12人が欲しいプロダクトであれば成立する」という思考があるからです。
NOT A HOTEL ISHIGAKI “EARTH”も象徴的なプロジェクトです。
藤本壮介氏が手掛けるNOT A HOTEL ISHIGAKI “EARTH”
敷地は約1万平米、延床1100平米超という規模の建物を、一棟で10名までしか泊まれない仕様にして、1口あたり3.5億円で12口販売しました。普通に考えれば、「誰が買うんだ?」と思われても不思議ではない販売価格ですが、第1期販売分は初日に完売。最終的には6ヶ月で全口が売れました。これは他のNOT A HOTELの物件でも共通しており、開業前の完売率はおおよそ91%となります。
NOT A HOTELのプロダクトアウト思考は、単に「良いものをつくる」というだけではなく、それをどうビジネスとして成立させるか。つまり、事業開発として成立させることに重きを置いています。なので改めて、事業開発の役割を説明すると、それは“12人が欲しいと思うプロダクトを、きちんと事業として設計する”ということに尽きます。
そのために、僕たちの仕事は多岐にわたります。土地探しから始まり、プランニング、コスト設計、マーケティング、販売スキームの構築まで、すべてはその「12人」の心に深く刺さるプロダクトをつくるためのプロセスです。
なかでも特に重要なのが、「土地探し」。僕たちが探しているのは、いわゆる“誰もが知っている一等地だけ”ではありません。むしろ、まだまだ知られていない、でも本当に美しい“日本の宝”のような土地。そうした土地を見つけ、そこに、他の誰もつくっていないような空間をつくる。そのプロセスそのものが、私たちにとっての“超プロダクトアウト”であり、事業開発の真骨頂です。
1から100をつくる(プロジェクトマネージャー 齊藤)
齊藤 有一:明治大学大学院修了。竹中工務店にてホテル、劇場、映画館、商業施設、空港、大規模再開発、オフィスビル、研究所などの建築設計やインテリアデザインに従事。2023年1月NOT A HOTEL参画。主にMINAKAMI "TOJI"やSETOUCHI等のプロジェクトマネジメントを担当。 一級建築士。
「1を100にする」というテーマで、自分が今取り組んでいるプロジェクトの話をさせてもらえればと思います。
いま僕が担当しているのがNOT A HOTEL SETOUCHI。建築はビャルケ・インゲルス率いるBIGです。彼らが設計を担当し、プロジェクトマネジメントは僕が担当しています。
BIGのチームは本当にすごくて、毎週のように100ページ、200ページのプレゼン資料を私たちに送ってくださいます。それに僕らも本気で応える。提案を返して、またさらに返ってきて……まさに「界王拳状態」で毎週打ち合っているようなイメージです(笑)。
BIGのメイン担当者である小池さんによると、「Bad boy(素晴らしいやつ)はいつ完成するの?」と世界中の同僚に聞かれるらしく、ビャルケ本人もこの瀬戸内のプロジェクトをすごく気にかけてくれているそうです。そんな風にチーム全体が前のめりで取り組めているのが、本当に嬉しいし、やりがいを感じています。
建築家やクリエイターが描いてくれる“0→1”のフェーズ。僕らPMの仕事はそれを“100”まで引っ張り上げることに尽きます。
BIGが最初に描いてきた提案のなかに「ラムドアース(版築壁)」がありました。土を使い層状に締め固めてつくる、土壁に近い古来からの工法なのですが、「この島の土を使って、この島でしか実現できない建築をつくりたい」と彼らが提案してくれました。
NOT A HOTEL SETOUCHIを象徴するラムドアース(版築壁)
「めちゃくちゃ格好いいので、やりましょう!」と意気込んでいたのですが、調べれば調べるほど日本にはラムドアースの前例がないことがわかりました。理由は明確で、日本は地震大国。構造強度が求められるなかで、ラムドアースを構造に採用することに関して、当初専門家や施工者さんは「事例がないので、やめたほうがいい」と口を揃えて言いました。
でも、僕らにはブレない軸があるんです。「日本で一番、建築家やクリエイターをリスペクトできる会社でありたい」。これは濵渦が常々言っていることです。
リスペクトは、ただ提案を受け入れることじゃない。彼らの構想を超える建築を、ちゃんと形にする。それが僕らの覚悟なんです。
だから、誰もやったことがないラムドアースを“本物で”やる。内装仕上げでそれっぽく見せるような“フェイク”ではなく、素材から工法までリアルで突き詰める。そう決めてから、僕らの挑戦が始まりました。
視察時点で4度製作されていたラムドアースのモックアップ
施工者さんや技術研究所、全国から専門家が集まり、これまで6回以上モックアップを重ねてきました。土の配合や水分量、打設間隔、型枠の種類、気温……すべてが変数になる。まるで“生き物”のような素材に、正解を探し続ける日々が続いています。
BIGの小池良平氏とプロジェクトマネージャーの齊藤
何よりも意識しているのは、「CGパースを超える建築」をつくること。僕らはこのCGパースでプロダクトを販売しています。つまり、オーナーさんたちはこの“絵”がリアルに実現されると信じて購入してくださっている。
だったら、パース以下のものをつくるわけにはいかない。むしろパースを超える建築をつくらなければなりません。それはプレッシャーでもあり、使命でもあります。
2025年1月から、ついに現地でのラムドアース施工が始まりました。全国から12名の職人が集まってくださり、瀬戸内の土を1g単位で計測しながら水の量を調整し、その場で調合する。目の前のミキサーで一層ずつ土を押し固めていくんです。1日に打てるのは1〜2層。本当に気が遠くなるような作業です。
最近、ついに最初の型枠を外して、壁の表情が見えたんです。緊張と期待が入り混じっていましたが、仕上がりは想像以上。チーム全員で拍手したくなるような出来栄えでした。
もちろん完成までは気が抜けないですが、「建築家が描いた1を、どう100にするか」。その真ん中に僕たちPMが立ち、デザインの情熱と現場のリアリティをつないでいく。それが、この仕事の一番面白くて、やりがいのあるところだと思っています。
進化する建築(ライフサイクルマネージャー 竹口)
竹口 勘太郎:熊本大学工学部卒。株式会社大林組にて、大規模更新工事やダム築造工事、シールドトンネル工事の施工管理を行う。2024年1月NOT A HOTELに参画。Lifecycle Managerを担う。
NOT A HOTELの拠点は開業して終わりではありません。むしろ開業してから、オーナーさんや現地のホテルスタッフの方々から、たくさんの改善の声が届きます。「ここの換気扇がちょっと弱くて…」「照明がもう少し明るければ…」「このタイル、滑りやすいです」。そんなリアルな声に、僕らは真正面から向き合い、妥協せずに改善を繰り返し続けています。
LCMの立ち位置は、いわばハブ。オーナーさんと、現地運営スタッフ、建築部のPM、設備設計、ブランドチーム、そのすべてをつなぐ存在です。現場の「もっとこうだったらいいのに」を、それぞれの専門チームと連携して、具体的なアップデートにつなげていく。それが僕たちの役割です。
例えば、NOT A HOTEL NASU “MASTERPIECE“での事例。キッチンカウンターに水ジミや油ジミがこびりついていて、拭いても落ちない状態でした。NOT A HOTELは稼働率が高く、90%を超える施設も多い。それに別荘利用のような長期滞在も多いため、十分なメンテナンスのタイミングが取れないこともあります。
それをどう改善するか。ブランドチームと検討を重ね、僕から「これは交換しましょう」と提案したところに、代表の濵渦から即レスが来ました。「取り替えましょう」と。しかも、提案から5分後です。
実際のSlack(コミュニケーションツール)での会話
これはすごくNOT A HOTELらしいエピソードですね。大企業であれば稟議に時間がかかるし、コストもかかるので判断が先送りされることも多い。でも、NOT A HOTELはやるときは即決。僕たち現場の人間としては、こうしたスピード感が本当にありがたいんです。
実際に仕上がったNOT A HOTEL NASU “MASTERPIECE”キッチンカウンター
僕たちが目指しているのは「改修」ではなく「グレードアップ」です。次にオーナーさんが同じ場所に来たとき、「前より良くなってる!」と感じてもらえることを目指しています。だからこそ素材選びも一切妥協できません。
こうした試行錯誤は、単にその場所の改善にとどまりません。改善内容はすべて「ナレッジ」として整理され、次に設計するNOT A HOTELのプロジェクトへと反映されていきます。ひとつの施設で得た学びが、次のNOT A HOTELを進化させていく。そんな循環を、チーム全体でつくっていきます。
最近では既製品では満足できず、家具やインテリアも自分たちでつくるようになってきました。砂時計、テーブル、椅子など、欲しいものがなかったらつくる。機能性、意匠性、運営性。すべてにおいてオンリーワンを目指しています。
目に見えないNOT A HOTEL(エンジニアリングマネージャー 村井)
村井 絢香:大阪大学大学院修了。竹中工務店にて病院、伝統建築、オフィス、大規模再開発等の設備設計に従事。2024年1月NOT A HOTEL参画。建築設備領域の設計、ディレクション、PMなどを包括的に担当。
NOT A HOTELの建築は、高い意匠性や絶景による非日常性に注目されがちです。一方、私たちが掲げているコンセプトには「世界中にあなたの家を」という言葉があります。つまり、非日常の建築のなかに“日常”をどうつくるか。これが私たち建築エンジニアリングマネーシャーのミッションです。
家は使いやすいとか、直感的に動作ができるとか、そういう自然さが大事になります。その実現のために、私たちはスマートホームのシステムを自社開発しています。ユーザーがリモコンやスイッチを探して迷わなくても、直感的に操作できる。どの拠点でも同じアプリで統一されていて、スムーズに使えるようになっています。
ただ、NOT A HOTELは意匠性へのこだわりも強いので、基本的に設備が見えないように設計されているんです。エアコンの吹き出し口がどこにあるかもわからないような空間で、どう直感的に操作させるか。そこが腕の見せどころでもあります。
また、iPadで操作するのが基本ですが、例えばお風呂は、裸で脱衣所のiPadを操作するのは不便なので、あえて“物理的なボタン”に回帰する設計も最近は増やしています。
「NOT A HOTEL MINAKAMI TOJI」の事例もそうです。リビングとテラスが一体となった空間があるのですが、実はテラスに床暖房を敷いているんです。冬はマイナス5度にまで下がるので、テラスの床も暖かいほうが気持ちいいよね、そんな発想から、思い切って床暖を入れました。
テラスの床暖の操作はiPadではなくオートメーション制御とし、チェックインやチェックアウトに連動して、自動でオンオフされるようにしています。オーナーの手でなんでも操作できるのが良いというわけではなく、どのような体験がスムーズで、かつ感動を生むのかについて、オーナー目線で考えることを最優先にしています。
こういったシステムをつくるにあたっては、私たちエンジニアリングマネージャーが中心となり、周囲の部署と膨大な量のやり取りをしています。スマートホームの開発チームはもちろん、建築の維持管理を担うライフサイクルマネジメント、拠点運営スタッフ、コスト・商品性を見ている事業開発とも密に連携します。さらには、KNX(ホーム・ビルオートメーションのオープンプロトコル)ベンダー、照明デザイナー、建築設計者などの社外パートナーとも並走して、ようやくひとつの体験ができあがっていくんです。
一方、私たちは「攻める設備」もやっています。
例えば、これから三浦半島で施工が始まる「NOT A HOTEL MIURA」。この拠点では、本物の砂を敷いたプールをつくろうとしているのですが、実は本物の砂を敷いたプールの事例は、日本に一箇所しかありません。
最初は正直「無理かも」と思いました。メンテナンスの方法も確立されてないし、プール業者さんからも「やめておいたほうが…」と言われてしまう。
諦めかけた心を奮い立たせようと、日本に一箇所しかないプールに視察に向かいました。すると、多くの子どもたちが本物の砂のうえで無邪気に、笑顔で遊んでいる光景が飛び込んできたんです。子どもたちのその表情を見たときに「これは絶対に実現したい」と気持ちが180度変わったんです。そこからメンテナンス性や法的要件などの観点から試行錯誤を重ね、ようやく実現できる見通しがついてきました。
このように誰も実現できていない体験をつくるために、見えない部分に全力を注ぐ。それが、私たちの仕事の面白さであり、NOT A HOTELらしさでもあると思っています。
0から1をつくる、デザインプロセス(デザイナー 杉山)
杉山 竜:県立大宮工業高校卒。池下設計にて現場管理従事後、CTSにてホテル、オフィスビル、大規模再開発案件の意匠設計に従事。主に自社プロジェクトの設計を担当。2023年1月NOT A HOTEL参画。一級建築士。パーマカルチャーデザイナー。
NOT A HOTELでは、突然Slackに「こんな土地がありました」と写真が飛び込んでくるところから、すべてが始まります。その土地の情報から、「ここで、どんな体験をつくれるか?」を考え始める。それが、僕たちデザイナーの0→1の第一歩です。
一般的に建築の設計は敷地条件や事業条件、用途がまずあり、それに沿ってプランを立てていくという流れですよね。でもNOT A HOTELには、最初の「与件」がほとんどありません。ただひとつ、「NOT A HOTELをつくること」、それだけがミッション。そして、そのNOT A HOTELには、誰もがワクワクする体験があり、WOWと感じられる要素が詰まっていなきゃいけない。
今回は、NOT A HOTEL MIURAについてお話しします。
NOT A HOTEL MIURAは、海を見下ろす高台に位置する素晴らしい土地でした。海側から見上げると、20〜30メートルぐらいの高さがある、圧倒的なロケーション。でも市街地の上にあり、ある意味「街と自然の境界」にある場所でもあります。
プランを検討する際、まずは最初に社内コンペを行いました。僕を含めた数人のデザイナーで、それぞれのアイデアを出し合いました。その結果、いくつかの案が生まれたんです。例えば、1部屋の中にNOT A HOTELの世界観をギュッと詰め込んだ“宝石箱”のような空間にしようとか、東京から近い立地を活かして超コンパクトなエントリーモデルにしようとか。あるいは、ひと部屋ひと部屋が“体験特化型”で、サウナの部屋、リトリートの部屋のように完全にコンセプト分けされたホテルにしようとか。
ただ、どれもしっくりこなかったんです。面白いけれど、“本当に心から欲しいと思えるか?”と自分に問うと、少しズレている感じがして。やっぱり、0→1をやるときに大事なのは「自分が本当にワクワクできているか」なんですよね。それがなければ、おそらくNOT A HOTELらしいものにはならない。
そうしたなかで出てきたのが、「プライベートビーチ」というアイデアでした。海を望む土地に、家族だけで安心して使えるシークレットビーチを持っていたら、最高じゃない?と。その発想から、三浦のプロジェクトが一気に動き始めました。
NOT A HOTEL MIURAのイメージシーン
イメージしたのは、市街地から切り離された“秘密の入江”。誰にも知られていない、NOT A HOTELのオーナーだけが知っている特別な場所。そこで海へ向かって開かれる体験をつくりたいと考えました。
デザインコンセプトのヒントにしたのは、建築家フランク・ロイド・ライトの「圧縮と解放」という設計思想。狭いアプローチを抜けた瞬間に、目の前に海がパッと開ける。そんなドラマチックな展開をつくれたら面白いなと。
初期のスタディでは、断層が多い三浦の地形を活かしながら、大きな建築ではなく、段差を活かした小さなボリュームが点在するようなプランを考えていきました。そこにビーチ、プール、ビーチバー、レストラン、そしてスパやサウナも併設して、雨の日や冬でも使える“プールクラブ”としての機能をもたせています。
初期提案のパースでは、まだラフなビジュアルでしたが、そこにクリエイティブチームが入り、どんどん解像度を上げていく。ビジュアルの強度が増すにつれて、空間のイメージがどんどん具体化されていく。これがNOT A HOTELのデザインプロセスの特徴でもあると思っています。
ありたい体験からパースに(CGパースクリエイター 牧野)
牧野 ひかり:パロマーカレッジ インテリアデザイン学科卒。様々な業界・職種を経験した後、専門学校で建築ビジュアリゼーションを学び、2023年2月よりNOT A HOTEL参画。主にCGパース・ムービーの制作・ディレクションを担当。
一般的にパースは建築空間の説明であったり、周囲との関係性を示します。でもNOT A HOTELでは、そもそもパースでお客さまに販売するという仕組みです。まだ建築が建っていなくても、パースを見たお客さまが「ここに行ってみたい」「この場所で誰かと時間を過ごしたい」と思えること。それが私たちの目指しているパースです。
例えばこちらは、NOT A HOTEL MIURAのプロジェクトの一枚。2階の客室からプライベートビーチへ降りていく階段のシーンです。
このシーンを作るときに思い出したのが、昔住んでいた場所のことでした。両側に家が建っていて、その間の階段を降りていくと、急に視界が開けてビーチが見えるんです。その瞬間のワクワク感がずっと記憶に残っていて、何度行っても飽きないし、今でも思い出すと行きたくなる。そんな感覚を、このパースにも込めたいと思いました。
空がきれいに見える時間帯を選び、階段の両サイドが自然と逆光になるように光を設定。視線が自然と奥へ向かうように、構図やカメラアングルにもこだわりました。全部は見せないことで、「この先に何があるんだろう」と想像させる。そういう“余白”を大事にしています。
もう一枚、NOT A HOTEL MIURAの共用部の夜景パース。
ここは外部には非公開のプライベートな空間なので、静かで落ち着いた雰囲気を出したいと思いました。。ドアバーを真ん中に、その手前に影と植栽、奥にはプールとさらにその奥に続く通路。三層構造にして、奥行きが自然に伝わるようにしました。ナイトシーンにしたことで、映画のワンシーンのような雰囲気も出せたのではないかと思います。
他にも、建築や空間のみならず体験を想像できるパースもつくっています。例えば、NOT A HOTEL SETOUCHIに向かうヘリコプターの中から離島が見えてきた瞬間のパースや、プライベートビーチでのディナーシーン。
NOT A HOTEL SETOUCHIへ向かう、ヘリコポターでの移動シーン
NOT A HOTEL SETOUCHI、プライベートビーチでのディナーシーン
建物の説明ではなく、「その場で何ができるか」「どんな時間が流れるか」を伝えるためのパースです。NOT A HOTELは“泊まる”だけじゃなく、そこに行くまでのワクワクや、そこでの過ごし方まで含めた“体験”を提供しているので、そうした視点がすごく大事だなと思っています。
私たちがここまでパースにこだわる理由。それは、パースがNOT A HOTELの“顔”であり、“売上”にも直接影響を与えるからです。
建築業界では、完成した建物が成果物。でもNOT A HOTELでは、パース自体が“作品”であり、商品そのものなんです。私たちが手がけたパースがパンフレットになり、販売サイトのトップを飾る。それを見たお客さまが購入を決める。しかも、「このパースが最高だから、照明もこの雰囲気でお願いします」と施工にまで影響を与える。
圧倒的に良いパースがあるからこそ、「この世界観をそのまま建てよう」と、設計も施工もついてくる。それだけの力を持った一枚をつくるというのが、私たちのミッションです。
90点のパースを10枚つくるより、200点のパースを1枚つくる。その1枚が、誰かの心を動かして、「ここで過ごしたい」と思わせられたら。そういう気持ちで、いつもパースと向き合っています。
“NOT A HOTELらしさ”を突き詰める(ブランドディレクター 遊佐)
遊佐 淳平:県立大宮工業高校卒。日建設計にてホテル、オフィスビル、再開発複合ビルの意匠設計に従事。2021年10月NOT A HOTELに参画。全案件のブランド ディレクションを務める。
NOT A HOTELのブランドディレクションの大きな特徴としてあるのが、国内外のトップデザイナーと“共創”できる環境があること。例えばSUPPOSE DESIGN OFFICEやBIGなど、国内外を問わず著名な建築事務所とプロジェクトをご一緒させていただいています。
実際のやりとりは、いわゆる“番頭さん”と呼ばれる方々と行うことが多いのですが、協業を通じて、彼らの設計姿勢や思想、技術に直接触れながら、一緒にものづくりができます。
特に学びが大きいのは、「できない理由」を探すのではなく、「どうやったらできるか?」という思考を突き詰めること。トップの設計者ほど柔軟で前向きなので、そうした姿勢には本当に刺激を受けますし、こちらも応えたくなります。
こうした共創に加えて、僕らブランドディレクションのもうひとつの役割は「ないものを開発する」こと。ちなみに私が入社して、最初に手掛けたのは建築デザインではなく冷蔵庫のデザインでした。
当時、入社から数日しか経っていなかったのですが、代表の濵渦から「かっこいい冷蔵庫がほしい」と頼まれたので、NOT A HOTELらしいオリジナルの冷蔵庫を開発したり、ときにはソファをつくったりもしました。
もっとスケールの大きい話もあります。とあるプロジェクトでは「15メートルのテーブルをつくろう。大きな車輪の上に乗っけたらワクワクしない?」と代表の濵渦からリクエストがあり(笑)。せっかくなら“一枚板でやろう”と、樹齢100年級のまっすぐな木を日本中探し回って、車輪まで調達してきて、巨大テーブルを実現させる。そんな「無茶」に見えるアイデアも、1個ずつちゃんと形にしていくのもブランドディレクターの醍醐味です。
細部の品質にも、異常なほどこだわるのも特徴です。
例えば、「NOT A HOTEL FUKUOKA」の拠点では、テーブル上の照明の充電コードが見えないようにするために、特注で充電ボックスをつくりました。コードが絡まったりすると、見栄えも使い勝手も悪くなります。照明をこのボックスの上に置くだけで充電できる仕様にして、完成。これは社内からも「ここまでやるのか」と評価をいただいた取り組みでした。
こうやって、目に見えないところまで妥協せず仕上げていくことが、最終的にはNOT A HOTELというブランドを支えるのだと思っています。「それ、やりすぎじゃない?」と言われるかもしれない。でも、その“やりすぎ”をやり切るのが、僕たちブランドディレクションの仕事です。
Q&A
イベントのなかで、参加者から寄せられた質疑をいくつかピックアップしてご紹介します。
事業開発におけるコストと販売価格の考え方
Q:立地条件の難しい土地や建築を見ると、相当なコストがかかっているのでは?と感じました。販売価格を決める際、こうしたコストのコントロールはどう考えられているのですか?
おっしゃる通り、NOT A HOTELのプロジェクトでは地方の絶景地につくるため、建物の建設費だけでなく、道路や水道などのインフラ整備などにもコストがかかっています。とはいえ、私たちはただ単に「安くつくること」よりも、「価値のあるものにしっかり投資する」ことを重視しています。つまり、単純なコストダウンではなく、投資対効果の高い部分にお金をかけるという発想です。
一方で、当然ながら無駄なコストは極力抑える工夫もしています。例えば、インフラ整備に関しては、「水道をどこから引くのか」「排水処理はどうするか」などを土地購入前の段階から試算していて、自社で蓄積したデータをもとにシミュレーションを行い、事業として成立するかどうかを判断しています。
また、NOT A HOTELが選ぶ土地は「知られざる絶景地」が多く、いわゆる“ど一等地”ではありません。そのため、土地代の原価率が低いのも特徴です。通常のマンションやホテル開発では土地代が大きな比率を占めますが、NOT A HOTELHではその分、建築や体験価値にコストをかけることができるわけです。
NOT A HOTELのワークスタイルについて
Q:どんな働き方をしているのかも気になりました。
NOT A HOTELはフルリモート・フルフレックスが基本なので、「何時から何時まで働く」といった制約はありません。だからこそ、新規案件などで「ここは頑張りどき」という場面では、チームで声をかけ合って合宿のように集中することもあります。でも、それが常態化しているわけではなく、“頑張るときに頑張る”という緩急を自分たちでつけられるのが大きな特徴です。
加えて、これはNOT A HOTEL全体に共通するカルチャーでもありますが、いわゆる「ピープルマネジメント」のような概念はあまりなく、マネージャーという役職も存在しません。代わりに大切にしているのが、「超自律」というバリューです。セルフマネジメントを前提に、アクセルを踏むタイミングも、ブレーキをかけるタイミングも、自分自身で判断することが期待されています。
だからこそ、自分の裁量で働く時間やペースを調整できるし、それが一人ひとりの働きやすさや、クリエイティブの質にもつながっていると考えています。“もう一歩先のワクワク”を生み出すために意識していること
Q:NOT A HOTELが“さらにもう一歩ワクワクさせる”ために意識しているポイントのようなものはあるのでしょうか?
社内では毎週、デザインチームと代表の濵渦を交えてデザイン会議を行っているのですが、そこで必ず出てくるのが「この建築は本当に“超ワクワク”するか?」という問いです。ただの“ワクワク”じゃダメなんです。
「こんなの見たことない」「なんでそこまでやるの?」と思われるくらいの突き抜けた体験をつくれるか。そこまでいくと、同じ土俵に並ぶライバルがいなくなって、“唯一無二の体験”になるんです。
そしてこれは建築に限らず、ソフトウェア、セールス、カスタマーサポートなど、NOT A HOTELのすべてのチームが「超ワクワク」を共通言語にして、自問自答しながら取り組んでいます。
もうひとつの大きなポイントは、「パースで販売する」というNOT A HOTELならではの販売スタイルにあります。まだ存在しない空間を、CGパースで体験として可視化する。そのためには、その土地ならではの風景やコンテンツを、ある意味デフォルメしてでも強く印象づける必要があるんです。
つまり、土地の個性をどう大胆に表現するか、そしてそれをどうパースというビジュアルに落とし込んで、ワクワクを届けるか。そこにNOT A HOTELの大きな強みとこだわりがあると思っています。