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GovTech東京は、東京都庁と都内62区市町村のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために2023年に設立されました。東京都は行政サービスの質の向上を通じて住民の暮らしの質を向上することを目指しており、都政のクオリティ向上を目標に、都庁各局をはじめ都と連携する政策連携団体への技術支援を行っているのが都政DXグループです。
GovTech東京のサービス一覧
今回は、インターネットの黎明期からヤフーやGoogle、AdobeなどのIT企業にて業界を牽引し、東京都庁のデジタルサービス局を経てGovTech東京へ転籍した、DX協働本部本部長 兼 都政DXグループ長の近藤 弘忠にインタビューしました。
品質の担保を仕組み化し、ユーザー目線で良いデジタルサービスをつくる
── GovTech東京での、近藤さんの役割を教えてください。
東京都庁や、都と連携する33の政策連携団体が進めるDX事業を推進するための技術的な支援をしています。
2019年度以降、東京都では行政手続きや都庁内部事務のデジタル化に取り組んできました。まずは行政のあらゆる手続きや事務をデジタル化することからスタートし、必須サービス水準をクリアした「当たり前品質」をクリアしたうえで、都民がよりデジタル化の価値を実感できる「魅力的品質」まで品質を引き上げられるよう、サポートしています。
行政の世界では、これまで”品質の担保”があまり意識されてきませんでした。これは、品質そのものに着目されて来なかったというよりも、品質を担保することが仕組み化されていなかったことが背景にあります。都庁内の各局が提供するサービスが「ユーザー目線で良いデジタルサービスになっているか?」という観点で「品質」を意識し、よりはやく・よりシンプルで・より使いやすいサービスを提供するためにも、GovTech東京のデジタル人材が、事業検討段階など上流工程から参画するなどし、デジタル化を強力に推進していく必要があると考えています。
民間企業の当たり前が、行政で新たな価値を発揮する
—— 近藤さんの経歴について、教えてください。
新卒でリクルートに入社し、2000年以降はヤフー、Google、Adobeなどで本部長や執行役員としてインターネット広告運用や広告セールスに携わってきました。
リクルートでは通信事業と情報誌事業を経験し、特に情報誌事業ではインターネットビジネスの立ち上げに携わりました。その後のヤフーでは当時はまだマーケット規模が小さかったインターネット広告が、ラジオの市場規模を抜き、雑誌を抜き、新聞を抜き…と成長していくのを目の当たりにしました。2000年以降は特に、IT業界のど真ん中でインターネット産業の移り変わりを見てきた実感があります。
これまで20年以上インターネットの業界で様々な経験をしてきましたが、キャリアを積み重ねていくにつれて培ってきたデジタルマーケティングの知見をより公益性重視で活かし、アップデートをしたいという思いから、2019年12月に都庁に入庁をしました。入庁当時は、デジタルサービス局のデジタルシフト推進担当課長として、ユーザーテストやサービスデザインのガイドラインの策定などに取り組んでいました。
—— 都庁時代に技術支援で携わったサービスで、印象に残っているものはありますか?
2022年に立ち上げた「東京都こどもホームページ」は、都庁内各局が「ユーザー視点が大事である」という概念を認識するきっかけになった事例だと思います。
このホームページの想定ユーザーは小学校のお子さんです。子どもたちがどんなコンテンツを求めているのか。その答えは子どもたちの中にあると考え、小学校にユーザーリサーチへの協力を依頼し、数多くのフィードバックをいただくことができました。
その結果生まれたコンテンツのひとつである「東京こどもタイピングレース」です。これは東京都にまつわる言葉の入力の速さを競うゲームで、都内の小学校で1人1台配布されているデジタル端末と連携が進み、ユーザー数が急増しています。
東京都こどもホームページ「東京こどもタイピングレース」
成功要因は、利用者のもとにサービスを届けることまでをきちんと設計できたこと。民間企業では至極当然のことだと思いますが、ひと昔前の行政では、「情報は公開さえしておけば、必要な人がその情報を取得して、必要な行動を起こしてくれるだろう」という考え方が一般的だったのです。
これは一例ですが、都庁に入ってからは民間企業の当たり前を積極的に行政に導入することを意識してやってきました。
—— そこからGovTech東京への転籍はどのような経緯だったのですか。
行政のDX事業を進めるうえでは、GQ(行政業務を執行する力)とDQ(デジタルを活用し、事業を推進する力)の両立が欠かせません。ですが、その双方のスキルを併せ持つ行政職員の数は十分ではないのが現状です。その現状を打破するためにも、昨年GovTech東京が設立され、私にも転籍の声が掛かりました。
東京都のデジタルサービス局では、企画から現場オペレーションまでを行っている事業担当者に対して、これまでのテクニカル領域での知見を活かし、支援を行ってきました。そこから、GovTech東京では「自ら組織をつくる」「組織をデザインする人材をそろえる」という組織づくりやマネジメントを任せてもらえるようになったことが大きな変化であり、行政というフィールドでそれらを取り組むことは自分にとっても挑戦です。
良いデジタルサービスをつくることは、料理に似ている
── 都政DXグループ長として大切にしていることを教えてください。
GovTech東京の理事長であり、東京都副知事の宮坂さんはよく「良いデジタルサービスをつくることは料理に似ている」と話しています。
レストランで美味しい料理を提供するには、まずお客さんがどんな料理を食べたいのか、お客さんの声をよく聴いて理解する必要があります。そして良い料理人として、デジタルに長けた人材がデジタルサービスの提供に携わり、委託事業者とも良い連携をしながら事業を生み出すことが重要だと思います。現在の行政組織には足りないDQ(デジタルを活用し、事業を推進する力)の部分を牽引していきたいです。
これを行政に置き換えると、都民の声をよく聴き、そのニーズを理解し、ユーザーテストと改善を重ねていくことで初めて高品質なデジタルサービスが完成します。そしてこのプロセスの中においても、デジタルに長けた人材がデジタルサービスの提供に携わり、委託事業者の良い連携を通じて事業を生み出すことが重要だと思います。現在の行政組織には足りないDQ(デジタルを活用し、事業を推進する力)の部分をGovTech東京の支援を通じて牽引していきたいです。
── 具体的にどのような支援をしているのか、教えてください。
実務としては企画などの上流工程の支援や要件定義、プロジェクトの進捗管理を通じて、事業の成功に向けて強力にサポートをしています。
単に「品質を上げましょう」といっても、品質は上がるものではありません。都が提供しているデジタルサービスは多岐にわたり、それを都庁内各局がバラバラに開発・運用しているため、目指すべきサービス水準や品質管理が一定を維持するのは至難の業です。
東京都では、ユーザー視点でサービスを企画・設計するために仕組化されたサービスデザインガイドラインが整備されています。私たちはそのガイドラインに基づき、サービスを企画・デザインする上流段階から関わることで品質向上に貢献しています。
またPMO(Project Management Office)として、事業の推進を担当する行政職員と事業を一緒に進める事業委託先企業との間に入り、プロジェクトを順調に進行させるために技術的視点を中心にアドバイザー的な立ち位置で助言、指導を行います。一定の品質を維持しながら誰しもが”使いやすく、満足度の高い”デジタルサービスの実現を目指しています。
DX支援プロセス図
型化を進めた先で、型破りな取組で革命を起こしたい
—— 今後都政DXグループとして注力していきたいことを教えてください。
行政のDX事業支援と並行して、“型化“を推進したいと思っています。ここでいう“型化“とは、一定の提供サービス水準を維持するための事業活動のテンプレートを構築することです。効率性や品質、一貫性を向上させるための標準的なプロセスをつくらなければ“型なし”になり、品質がバラバラなデジタルサービスが生み出されてしまいます。
各局で個別に事業を推進している中で、デジタルサービスの開発プロセスにおいて、サービスの企画や仕様書といったドキュメントの作成など、共通する部分も多くあります。それぞれの工程で実施すべきことを明確にすると共に、 実施するためのガイドを策定することで事業の全体的な進め方や重要とされるポイントが整理され、良いデジタルサービスとして提供すべき水準を満たせるようになる。これは「当たり前品質」や、その先の「魅力的品質」を達成しやすくするためにも必要です。
もちろん、何もかもを型にはめたいわけではなく、むしろ“型破り”なことがしたい。さらにアグレッシブに言うと、“革命”を起こしたい。 そのためにも最初のステップとして、“型化“にこだわることが、先々の大きな成果につながると信じています。
—— 他にも、近藤さんがGovTech東京で成し遂げたいことがあれば教えてください。
何かひとつでも、レガシーとして語り継がれるような価値のある実績を残したいと考えています。そのひとつが、行政が継続的に品質の高いサービスを提供できる組織や構造をつくり上げて残すことです。そのためにはデジタルに長けた経験のある人材の積極採用が必要です。
総務省の調査によると、2040年の公務員の人口は、ワーストシナリオで現在の7割減、ベストシナリオでも4割減と発表されています。つまり、それまでに最低でも現在の4割に相当する人材を採用しなければ、現在の行政サービスを維持できなくなるということです。
気が付けば人手が足りなくなり、都政DXグループがミッションとする“行政のQOS(サービスの品質)の最大化”どころではなかった。そうした事態を招かないためにも、足もとの課題に向き合いつつも将来を見据えて俯瞰して動ける人材は重要です。
サービスデザインガイドライン等の施策を通じて、徐々に当たり前品質から魅力的品質まで品質を高めることができるような兆しが見えてきている中で、デジタルを活用という域から抜け、業務分析をし、「この業務のこの部分を組み替えると、これだけ効率が上がります」といったBPRコンサルができる人材を積極的に増やしていきたいですね。
—— 都政DXグループのメンバーも募集中ですが、働く場所として興味を持ってくれている方へのメッセージをお願いします。
設立当初は体制やさまざまな仕組みが整っていませんでしたが、今ようやく組織としての力を発揮し始められている実感があります。だからこそ業務のレベルもより高まっていて、それもまたチャレンジだと捉えると面白いのではないでしょうか。
GovTech東京に採用された職員は、最長5年の任期付き雇用だからこそ「今までにないものをつくり上げる」、「チャレンジしたからには絶対に、未来に何かを残す」という想いや気概のある人が多い印象があります。私もぜひ、そんな方たちと一緒に働きたいです。
そして今のフェーズであれば、組織を“つくる側”としてジョインすることができます。新たな一歩を踏み出すには勇気が必要です。もしもその一歩を踏み出してくれたのなら、何かをつくりたい、何かを残したいという想いを共に実現するために、最大限のサポートをすることをお約束します。
※ 記載内容は2024年7月時点のものです