2030年までに、高齢者向けの市場が世界最大の市場になると言われています。一方、2045年にはシンギュラリティを迎えると言われるように、AI技術も日々進化を続けています。
市場を見極め、技術を応用してきたマーケターたちは、次世代において、何を指標とし、どんな姿勢で臨むべきなのか。
エクサウィザーズ社長の石山とDXプロダクト事業部のリーダーで執行役員の前川が、AIと社会課題とマーケティングの関係性について語り合いました。
日本は次世代マーケターにとっての一丁目一番地 石山:人工知能の父であるマービン・ミンスキーが、生前、マーケティングの権威であるコトラーについて語っていたというエピソードを聞いたことあります。
ミンスキーは亡くなるまでエクサウィザーズの前身である静岡大学発ベンチャーの研究顧問を務めてくれていたのですが、この逸話を教えてくれたのは同社の創業者であり、ミンスキーの著書を翻訳している静岡大学の竹林先生で、直接、ミンスキーから聞いたとのことでした。何でも「コトラーの良い点は、バージョンアップするところだ」と語っていたらしいんです。
前川:確かにコトラーはバージョンアップしますよね。2010年にマーケティング3.0、2017年には4.0、そして、21年には5.0と。最近はマーケティングの4Pも、ビジネスの主流が物売りからサービス売りに拡がる中で、Personnel、Process、Physical Evidenceが加わって7Pになっていると聞きますし。
石山:実は、私自身もコトラーがワールドマーケティングサミットで来日した際にイベントに登壇させてもらったので、少しお会いしたことがあるんです。たしか、その時は、マーケティングは4.0で4Pだったので、講演では、これからマーケティングは5Pになるという話をしたんです。Price、Place、Product、Promotionに加えて、Programmingだと。
前川:言い得て妙ですね。コトラー先生の反応はどうだったんですか?
石山:壇上からドヤ顔でコトラー先生の反応を見てたんです。そしたら、この話をした瞬間、コトラー先生がトイレに行っちゃって笑。
前川:それは良い思い出ですね笑。他にはどんな話をされたんですか?
石山:単独での講演とは別に、コトラー先生のお弟子さんたちとのパネルディスカッションがあったんです。私の講演のテーマが「AI x Marketing for Super Aging Society」だったので、他の方々はどう考えているのか聞いてみたのですが、すると反応が「そんなspecificなテーマを考えているのか?」という反応だったんです。心の中では、「いやいや、日本の後にみんな超高齢社会を迎えるよ」と思っていたのですが。
前川:数年前に比べると世界の捉え方も変わってきたのではないでしょうか? 最近、エクサウィザーズの大規模イベントの「ExaForum 2021」に登壇してくれた米ウォートンスクールのマウロ・ギレン教授によると、 高齢者向けの市場が2030年までに世界最大の市場になり、各世代で一番のシェアを占めるのが60代になるそうで、この市場に焦点を当てた企業が今後大成功することになる ということでした。
ギレン教授の近著「2030 How today’s biggest trends will collide and reshape the future of everything(日本語版は『2030 世界の大変化を「水平思考」で展望する』というタイトルで早川書房から6月に発売予定)」は、米国でもベストセラーになっていますね。とてもspecificとは切り捨てられない、かなり重要なテーマになっていると感じます。
石山:はい、2019年にノーベル財団が運営している「ノーベルプライズ・ダイアローグ東京」というイベントにも登壇させて頂いたのですが、ノーベル賞受賞者の方々も同じことを言っていて安心しました。さらに、日本が最初に超高齢社会を迎えるので、世界中の研究者が日本に集まって実験しないとね、と。
超高齢社会のマーケティング指標は「User数 x ARPU x 社会的価値」 前川:そう考えると、このタイミングの日本で、超高齢社会に備えたマーケティングの先端事例やフレームワークを開発できるのは、マーケターとしては腕まくりのし甲斐がありそうですね。次世代のファイブフォースやブルーオーシャン戦略のようなものが生まれるのでしょうか?
石山:イノベーションの語源は新結合ですが、先ほどの5番目のPのProgrammingと様々なドメイン科学が新結合して超高齢社会の社会課題を解決するような兆しがあります。
世界ではGoogleの創業者のセルゲイ・ブリンと、それこそ前述のイベントにも参加していたノーベル賞受賞者が一緒にプロジェクトを開始して、パーキンソン病の対策を始めています。ビル・ゲイツもアルツハイマー病の対策プロジェクトを始めてますし、少し前のシリコンバレーの雰囲気とは変わってきました。SDGsやパーパス経営、さらには、ESG投資やゼブラのような概念も後押ししていると思います。
前川:なるほど、確かに新結合というイノベーションの観点ではそうですが、さらにマーケティング要素が強くなるとどんなことが言えるのでしょうか?
石山: マーケティングの5番目のPのProgramming、これは古くはSEOやアドテクノロジーのようなデジタルマーケティングに関連するものから始まりますが、現在では、グロースハッカーを経由して『The Model』のようなSaaSメトリクスを管理するという意味合いに進化してきていると言って良いと思います 。
さらに、ディープラーニングによってデジタルツインが加速して、リアルな世界のデータもSaaSメトリクスと繋がっていく。そして、SDGsのような社会的な価値のメトリクスとも繋がっていくわけです。
(「User数 x ARPU x 社会的価値」というマーケティングの新しい指標)
前川:おもしろいですね。Programmingを前提としたテクノロジーの成熟と、超高齢社会のような社会課題解決の要請が、マーケティングの領域において交差するわけですね。
そうすると、 これまでUser数x ARPUを上位概念として分解されていたSaaSメトリクスに、もう一つ軸が加わって、User数 x 社会的価値で計算できるようになる。 台湾のオードリー・タンさんも「ピンクのマスクはカッコ良い」というリファラル・マーケティングで、コロナ禍に対応していましたが、そのような手法が一般的になってくるということでしょうか?
石山:はい、その通りです。オードリー・タンは「Radical Transparency」と呼んでますが、これはThe Modelを開発したセールスフォースのSSOT(Single Source Of Truth)とも非常によく似た概念です。まさにプログラミングを通じて、データで社会の透明性を増していく。
実は、上述のオードリー・タンの記事は、私がタンのtwitterをフォローしていて見つけたんです。で、翻訳して良いですかとメンションしたら、2時間後にはDMをくれてハラリ事務局のメールアドレスまで教えてくれた。こういうコミュニティマーケティングによる社会課題解決も進むと思いますよ。
前川:Transparencyの観点でいうと、コンピューター科学の世界では、オープンソース・コミュニティが有名ですが、最近は「Community of Practice(実践共同体理論)」として、経営学やマーケティングの世界でも注目が集まっていますよね。 タンも記事の中でProblemを教えてくれる物語の織り手と、Solutionを教えてくれるコードの織り手としてのプログラマーが何人参加しているか、そのindexを計測することがコミュニティ・マーケティングで大切と言っていますね。
石山:はい、どういう人が何人、社会課題を解決するようなコミュニティに参加しているかというミクロなindexと、コミュニティの活動によってジニ係数やコロナの感染者数、或いは、SDGsのようなマクロなindexがどう改善するか。これは、HR Techによる社会課題を解決するコミュニティ・マーケティングと、社会課題を解決するプロダクトのグロースが結合したとも言えるでしょうね。
求められるのは「社会にとって良いプロダクトを普及させる」という使命感と倫理観 前川:HR TechとSaaSメトリクスの融合という観点は、現在、私も取り組んでいます。日本の大企業の中にデジタルイノベーターと言えるような人材が何人いるのか、それを測定するためのアセスメントを開発しました。この中で分かってきたのは、日本に特に足りていないのは、プロダクトマネージャー。
よくエンジニアが足りないと言いますが、プロダクトマネージャーはもっと足りていないんです。そこで、『ソフトウェアファースト』や『プロダクトマネジメントのすべて』の著者である及川さん率いるTably社や、日本最大といわれる17万人のデジタル人材のコミュティを運営するTECHPLAYとプロダクトマネージャーの能力を評価するためのアセスメントツール「 DIA for PM 」を開発しました。
石山:DIA for PMは、労働人口が減少する中で、日本のDXを支える重要なプロダクトですね。ちなみに、超高齢社会の社会課題はいくつかの課題に分類できます。増加する高齢者を支えるCare TechやMed Tech、減少する労働人口を支えるHR TechやRobot。さらには、2030年には認知症によって凍結される200兆円の預金残高や、増加し続ける社会保障費を持続可能にするようなFin Techにも期待が高まっています。
前川:こうした問題には、 これまで介護保険のような制度設計で対応してきましたが、私たちはまず、個社の課題にプロダクトのプロトタイプで向き合い、それがどれだけ社会課題解決に貢献できたのかを、AIやデータを活用し、計測します。そこで、効果が認められたら、より汎用的なプロダクトへとグロースさせていく。
創薬などの世界では市場に出る前にエビデンスを取得することが当たり前でしたが、すべてのプロダクトがそうなっていくと 。そして、プロダクトと制度設計が共進化していく。DXがもたらすとても重要な価値ですね。
石山:はい、逆に言うと、マーケターはユーザーグロースをするだけで、社会課題を解決できるようになったと言える訳です。今後は、プロダクトの普及を通じてSDGs等の社会課題を解決していくようなマーケターが増えていくでしょう。
英語のWikipediaでDXの定義を確認すると、Digital Transformation (of societies)と括弧書きで” societies”と書かれているんです。DXの主語は社会。そして、マーケターは社会にとって良いプロダクト普及させるという使命と倫理観を持つのが当たり前の時代になるのではないでしょうか 。
前川:そうですね。そして、最後に宣伝ですが、エクサウィザーズでは、そういった考え方に共感頂けるマーケターを募集しています。
エクサウィザーズで取り組むHRTechやCareTech、FinTech等、複数領域にまたがるプロダクトのマーケティングを通じて社会課題解決に貢献できるのはもちろん、各プロダクトはまさに今からマーケティングに力を込めていくフェーズなので、裁量もとても大きく、皆さんの手腕を存分に奮ってもらえるかと思います。
また、球団を買うというマーケティングを仕掛けた元DeNA会長の春田さんや、リクルートのデジタルマーケティング部門で戦略スタッフとして数々のイノベーションを生み出し、MVPも受賞した経験がある石山さんを唸らせるものを求められる点。そして、AIを用いて新しいマーケティングのベストプラクティスを創出すると言う点でも、チャレンジ性抜群だと思います。
社会課題×AI×マーケティングで、新たな領域を開拓していきたいと思う方、ぜひ一度私たちとお話しましょう。熱い仲間と共にお待ちしています。
エクサウィザーズ では一緒に働く人を募集しています。興味のある方は是非ご応募ください! (撮影の時のみマスクを外しています)