エイジレスの新規事業「インクルー」は、SIerやITコンサル業界に特化した転職プラットフォームで、転職支援にとどまらず、IT人材市場そのものを変革しようとしています。開発現場では、エンジニアが技術力だけでなくビジネス視点を持つことを重視し「自分が生み出す機能が社会や市場にどんなインパクトを与えるのか」を考えながら開発に取り組んでいます。今回は、インクルー事業部 Bizグループ マネジャー・土屋さんに、プロダクトに込めた想いや、エンジニアとともに挑む日々のリアルを伺いました。
【プロフィール】
土屋 偲(インクルー事業部 Bizグループ マネジャー)
中央大学大学院で情報工学を専攻し、論文が国際学会に採択される。また大学在学中からカウモなどのスタートアップでマーケティング業務に従事。その後複数社の起業と事業立ち上げに関わったのち、株式会社プレイドにてカスタマーサクセス、セールス、事業開発などを担当。2024年3月よりインクルー事業の立ち上げメンバーとしてエイジレスにジョイン。
座右の銘:Nothing ventured, nothing gained
趣味:料理
1. 起業と事業開発の経験を武器に、エイジレスへジョイン
───土屋さんはこれまで学生起業や新規事業の立ち上げなど、さまざまなキャリアを歩んでこられました。まずはご自身の背景についてお聞かせください。
私が最初に起業したのは20歳のときです。学生起業でスタートしましたが、さらに経験を積んで実力をつけようと思ったため、スタートアップのカウモ社で働きながら、今在籍しているエイジレスのボードメンバーと一緒に経験を重ねました。
その後は再び自分の会社を立ち上げたり、一般消費者向けのサービスを手掛けたりしました。ただそれらの事業をどれも求める規模にスケールさせることができず「大きなインパクトを生む事業を作るには、何が足りないのか」を深く考えるようになりました。
───その後、プレイドでのキャリアに進まれたのですね。その経験は現在にどう影響していますか?
プレイドでは、エンタープライズ企業のマーケティングを支援するプロジェクトや新規事業の立ち上げに携わりました。その後は、副業としてHR系のSaaSの立ち上げをしておりました。
プロジェクトに取り組む中で痛感したのが「ただパフォーマンスデータを可視化するだけでは社会を変えることはできない」ということです。例えば、ある企業で「ハイパフォーマー」がデータ上で明らかになっても、それは社内の誰もが認識していることなんですよね。一方で「ローパフォーマー」を可視化したとしても、それを改善する道筋が見えないと意味がない。リスキリングだけでは解決できない課題や環境とのアンマッチという課題の解決にも、可視化だけで大きなインパクトを出すことは難しいと感じました。そうした中、「会社を飛び越えて人材を適材適所に配置する仕組みが必要だ」と気づきました。
───そこで土屋さんのキャリアにおいて、新たな方向転換が?
そうです。もともと「パラダイムシフトを起こせるような社会的インパクトの大きい企業を作る」という目標掲げていたので「多くの機会が期待できる巨大市場」「多くの課題が眠っている挑戦的な市場」」そんなチャレンジがしたいという背景から、次のキャリアを模索するようになりました。
───そのタイミングで、エイジレスにジョインする決断をされたのは、なぜでしょうか?
新規事業「インクルー」は、IT人材市場という巨大なマーケットへの挑戦なので、この市場で成功すれば、自分の掲げる人生の目標に近づけるのではないかと感じたのです。また、エイジレスのメンバーは皆、起業や新規事業の立ち上げ経験が豊富で、事業の立ち上げや推進などのリーダシップを発揮できる力を持っています。このメンバーならより大きな社会課題にに挑戦できると思いました。
───ジョインして、改めて感じるエイジレスの魅力は?
ダイナミックに動ける環境だということです。エイジレスは、すでに人材エージェントとしての事業基盤があり、そのキャッシュフローを活かして新規事業に挑める体制があります。これは通常のスタートアップにはない強みです。
また、エイジレスのボードメンバーは、起業や新規事業の立ち上げ経験が豊富で、エンタープライズ企業とも対等に話せる力を持っています。このような背景もあり、構造的課題が深く根付いたSI産業であっても、果敢に挑戦できるのです。
2. SI産業の根深い課題を溶かしていく「インクルー」
───SIerやITコンサル業界に特化した「インクルー」を立ち上げた背景には、どのような市場の課題があったのでしょうか?
IT人材市場全体が抱える問題の一つに、スキルや経験が正当に評価されにくいという現状があります。特にSIerやITコンサル業界では、プロジェクトごとに異なる役割や技術が必要とされるため、個々のスキルを的確に伝えるのが非常に難しいのです。その結果、年齢や学歴といった表面的な情報に基づいて評価されるケースが多く見られます。
業界特有の多重下請け構造も問題の一つです。ピラミッドの下流に位置する人材は、実力を発揮する機会を奪われがちで、優秀な人材が十分に活かされていない状況があります。この構造が人材の流動性を低下させ、結果として企業の生産性や競争力にも影響を及ぼしているのです。
───スキルや経験が正当に評価されないことで、どのような影響が生まれているのでしょうか?
転職希望者が持つ真のポテンシャルが企業に伝わらないために、期待するキャリアパスに進めないケースが挙げられます。スキルや経験が正しく可視化されていないと、企業側も「この人材が自社にどれだけの価値をもたらすか」をイメージしづらいのです。結果的に求人と求職者の間でミスマッチが起き、労働生産性が下がる、これは多大な社会的損失だと考えています。
さらに、IT人材の供給不足が深刻化するなか、個々の能力を最大限に引き出せる仕組みを作らなければ、市場全体、ひいては日本の成長が鈍化してしまいます。だからこそ、スキルや経験を正当に評価し、それを活かせる環境を提供することが重要だと考えています。
───この課題に対して、インクルーではどのようにアプローチしていますか?
「インクルー」は、IT人材のスキルや経験を正確に可視化し、それをもとに企業と求職者が深く理解し合えるプラットフォームです。単なる転職支援ではなく、スキルや経験の見える化を通じて、企業と求職者双方が「なぜこの人なのか」「なぜこの企業なのか」を納得した上でマッチングを進められる仕組みです。
従来の転職支援が短期的な目線でのマッチングにとどまるのに対し、インクルーでは求職者が30歳の時点で転職した場合でも、その後のキャリアを長期にわたりサポートすることを目指しています。たとえば、5年ごとにキャリア相談や目標設定を行いながら、最終的に一生涯現役で働けるように並走していきます。人生100年時代において、60歳や65歳から数年先の働き方を考えるだけではなく、より早い段階から長期的なキャリアプランを設計する重要性を深く理解し、それを支援する仕組みを提供しているのです。産業で働く人にとっての人生相談所のような役割を担うことで、求職者と長期的に寄り添いながら、最適なキャリアパスを共に築いていける存在になりたいです。
また、SIerやITコンサル業界に特有のプロジェクトベースでの経験を整理し、どのプロジェクトにどのような役割で参加していたのか、そこでどんなスキルを培ったのかを簡潔かつ的確に伝えられるフォーマットを開発しています。この仕組みによって、求職者は自分の市場価値や強みをより正確に理解し、企業側も求めるスキルや経験を持つ人材と出会うことができます。
───求職者だけでなく、企業にも大きな価値を提供していくモデルなのですね。
はい。企業にとっても、候補者のスキルや経験を深く理解できることは非常に重要です。従来の職務経歴書では読み取れなかったような詳細なスキルやプロジェクトでの具体的な役割が見えることで「このプロジェクトにはこの人が適任だ」といった採用の精度を高められます。こうした仕組みを通じて、IT人材市場全体の流動性を高め、多重下請け構造が溶けていく世界を目指しています。
───今後「インクルー」で、どのような未来を目指していますか?
SIerやITコンサル業界全体の変革です。業界特有の構造は、人材の流動性を妨げています。最終的にはこの構造そのものを溶かしていくことが「インクルー」が果たすべき使命だと考えています。「インクルーに登録すれば、プライム案件に直接アクセスできる」「実力を過小評価されずに自分のスキルを最大限活かせる環境に行ける」という状態を作りたいです。3~5年には、転職後のキャリアの伸びや社内での生産性も可視化し、業界全体の人材アロケーションを最適化するプラットフォームを目指しています。
左:開発責任者の網頭 右:土屋
3. プロダクト開発はチームの知恵の結晶、スキルを可視化し価値を最大化するプラットフォームヘ
───新規事業の立ち上げ時、プロダクトの方向性をどのように決めていくのでしょうか?
まず「どの市場を狙うのか」「どのプロダクト機能が最もユーザーに価値を提供できるのか」という軸を決めることを優先しました。SIerやITコンサルという巨大市場をターゲットにしたのは、エイジレスとしての強みが最も生きる領域だと判断したからです。エイジレスは、既存の人材事業で蓄積したノウハウを活かし、企業との取引や人材エージェントとしての実績を持っています。求職者に対してはキャリア相談や面談を提供できるエージェントの存在が強みであり、これをダイレクトサービスに組み込むことで、他社との差別化が図れると考えました。さらに、この仕組みを一つのサービス価値として展開することで、より大きな提供価値を持つプラットフォームを構築できると考えたのです。
現在は「ダイレクトスカウト」を中心に据えつつ、次段階としてユーザーの実力が今よりさらに可視化されるような機能の企画にも着手しています。PMやITコンサルにはさまざまなタイプが存在し、リーダーシップを発揮するタイプもいれば、サポート役に徹してチームをエンパワーメントするタイプもいます。たとえば、性格診断機能を通じて、ユーザーが自身の特性を楽しみながら理解し、友人とシェアしたり、企業が候補者の特性をより深く把握するための手段として活用できるよう要件定義を進めています。
───具体的には、どのような機能や仕組みが「インクルー」のコアとなるのでしょうか?
「インクルー」の核となるのは、プロジェクトベースでのスキル可視化です。SIerやITコンサルの人材は、プロジェクトごとに違う役割や技術を求められるため、職務経歴書の内容が非常に長くなる傾向があります。入力は複雑で、企業側もどこを見れば良いか分からない。これが転職市場でのミスマッチを生む要因のひとつです。
そこで「インクルー」では、これまで関わったプロジェクトを分類し、候補者が「推しプロジェクト」を指定できる仕組みを作ろうと考えています。この仕組みにより、候補者は自分が特に力を入れたプロジェクトや思い入れのあるプロジェクトについて、アピールできるようになります。企業側も「このプロジェクトについて詳しく聞いてみたい」といった選考ポイントを把握できるため、面接がスムーズに進むことが期待できます。
さらに「炎上プロジェクト」の指定機能も検討しています。SIerやITコンサル業界では、誰もが一度は炎上プロジェクトを経験するものです。そうした経験を振り返り、どのように対処し学びを得たのかを示すことができれば、候補者の人柄や問題解決能力を企業側に深く伝えられるはずです。プロジェクトごとの特性やエピソードを色分けして可視化することで、選考の質を高め、候補者と企業の間でより適切なマッチングを実現します。
───「推しプロジェクト」「炎上プロジェクト」のアイデアはとても面白いですね。開発においてエンジニアチームとのやりとりはどのように進めているのでしょうか?
エンジニアとは密にコミュニケーションを取っています。上流工程におけるプロダクトの骨子などはCTOやビジネスサイドで決め、UI/UXやモックアップの段階でエンジニアが参加し、技術的な観点で意見を出してもらう流れです。
「推しプロジェクト」機能は、エンジニアチームからの提案がきっかけで生まれたものです。
4. ビジネス視点を持ったエンジニアの市場価値
───「インクルー」のエンジニアとして働くメリットは?
土屋:0→1でプロダクトを立ち上げる段階なので、エンジニアに求められる役割も幅広いです。単にコードを書くというだけではなく、プロダクト全体の方向性や構造を考える必要があります。「自分の作る機能が、どう社会や市場にインパクトを与えるのか」を意識しながら開発に携われるのは、大きな成長の機会だと思います。
たとえば、ビジネスサイドから「こういう機能が欲しい」と要望を出した時も、エンジニアは「それを技術的にどう実現するか」を考えるだけでなく、「この仕組みで本当にユーザーに価値を届けられるのか」「市場にどんな影響を与えるのか」「どのようにユーザーに使われるのか」といったビジネス視点で議論します。新規事業や起業経験豊富なメンバーと直接やり取りすることで、エンジニアとしてだけでなく、ビジネスパーソンとしても大きな学びになります。私自身、情報系出身でエンジニアをしていた経験があるので、これまで培った専門的知識やスタートアップでの経験から、プロジェクト推進のノウハウをチームに共有しています。メンバーがより実践的なスキルを身につけ、チーム全体での成長につながれば嬉しいです。
───エンジニアが「ビジネス観点」を持つことが、これからの時代においては市場価値が高いということですね。その視点を得られる環境が「インクルー」にあると。
土屋:その通りです。ビジネスサイドと横並びで議論し、技術的観点で提案ができるエンジニアは、これからの時代において非常に重要な存在であり、市場価値は高まっていくことでしょう。こうした能力を磨けるのは、このチームだからこその経験だと考えています。
───最後に、どのような方と一緒に「インクルー」の開発を進めていきたいですか?
ビジネスサイドとの連携を楽しみながら、SI産業で働く人々がより良い転職機会を得られるような仕組みづくりに貢献したいというエンジニアです。
さらに「CPOを目指したい」「プロダクト全体の設計に関わりたい」という野心を持った方やチームを牽引し、優先順位を見極めて動けるような方にはぜひジョインしてもらいたいです。
インタビューを終えて
「エンジニアの価値は、コードを書く力だけで決まらない。」そんな想いを、土屋さんの言葉と姿勢から強く感じました。インクルーが目指すのは、スキルの可視化だけにとどまらず、エンジニア一人ひとりの価値や可能性を最大限に引き出すこと。その挑戦の裏には、SI業界への深い洞察と、社会を変えようとする確かな意志がありました。今後のプロダクトの進化が、IT人材市場にどんな風を吹かせていくのか、ますます楽しみです。