数年前のことです。
総務部の法務担当者と同じ会議に同席する機会があり、会議後の雑談の中でそれまで話したことの無い彼の話を聞く事になりました。
最初は、学生時代の専攻が法学だったこと。
でも、最初の会社では一般的な庶務や総務事務の担当で、思い描いていた「法律の仕事」とはかけ離れていたこと。転職を考える中で出会ったJ’sFactoryで、ようやく自分のやりたいことに近づけたと思ったこと。
そんなふうに淡々と話していた彼が、ふと表情を変えて語ってくれた出来事が、今でも強く記憶に残っています。
それは、ある行政機関に同行したときのこと。
手続きで訪問した窓口で、年配の方が迷っている様子を見かけたそうです。
「どうしたらいいんだろう」と見守るだけだった彼に、同行していた上司が自然な動作で声をかけ、その方を案内していきました。
その一連の流れに少し驚いた彼が理由を尋ねたところ、返ってきたのはひと言─・
「仕事と一緒だから」。
そのときは、意味がよくわからなかったそうです。
でも後で、その上司がこんなふうに話してくれたそうです。
「法務の仕事って、変更された法令を確認して、通知を出して、マニュアルを直して、で終わりじゃない。
困ってる人がいるときに、“あらかじめ”手を打っておくのが仕事だと思う。
知らないことで誰かが迷ったり、損をしたりするなら、それを防ぐ仕組みを整えておくことが、私たちの責任だよ。」
その言葉が、自分の中にすごく深く入ってきた、と彼は言いました。
彼の話を聞いて、正直、私は背筋が伸びるような思いがしました。
私たち人事も、つい「制度を整える」とか「手続きを進める」という業務に目を奪われがちです。
もちろんそれは大事な仕事。でも、その先にいる「誰か」の存在をどこかに置き忘れていたのではないか。
そんな疑問が、私自身の中に湧いてきました。
制度の導入も、採用活動も、評価の仕組みも、全ては“人のための仕組み”であるはず。
でもそれが、いつの間にか「運用すること」が目的になっていなかっただろうか?
彼女の話を聞きながら、心のどこかがチクッと痛むような、そんな気持ちになったのを覚えています。
「知らないことで、困っている人がいるかもしれない」
この視点は、今の自分の仕事にも強く影響を与えています。
たとえば、求人原稿を見て応募を迷っている人。
会社に入ってから評価制度の意味がわからずに立ち止まってしまう人。
転勤やキャリアパスについて不安を抱えている人。
彼らは声を上げないかもしれません。
でも、“知らない”ことで選択肢を狭めている人がいたら、きちんと届く言葉で説明しなければならない──
その意識が、いま自分の求人や制度づくりの根っこになっています。
彼が教えてくれたのは、「法務の話」ではなく、「仕事の向き合い方」だったのだと思います。
一見地味に見える法令確認や通知作成という業務も、実は“誰かが前に進むための道づくり”なのだと。
そして、それは人事の仕事も同じです。
私たちは“人の成長の道筋”をつくる仕事。
だからこそ、仕組みや制度の奥にある「人の顔」や「想い」を、常に意識していかなければならない。
今だからこそ、そう強く思います。