【後編】「食のインフラを再構築する」シコメルの挑戦──非連続な成長を生む"3フェーズ戦略"と、社会を動かす組織の力 | Company
前編では、シコメルの核となるビジネスモデル、すなわち食品業界の「情報の非対称性」を解消し、サプライチェーン全体を最適化する「食のAmazon型インフラ」の優位性を解説いただきました。後編では、シ...
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新型コロナウイルスを経て、人々の生活様式、食への意識は大きく変化しました。一方、食品業界は長年の構造的な課題を抱え、デフレ価格や手作り神話に縛られ、働く人々の報酬は低いままです。
2025年6月のシリーズB調達を終え、シコメルフードテックは、この巨大なレガシー産業の変革に挑むテックカンパニーとして、次の大きなフェーズへと踏み出しました。彼らが目指すのは、単なる受託サービス提供者ではなく、「食のインフラ」そのものを再構築することです。
今回は、代表取締役CEOの川本傑氏に、食品業界の抱える本質的な課題と、それを解決するために構築された「シコメル」独自のビジネスモデルの優位性について、深く、論理的に伺いました。
川本 傑 / 代表取締役社長
⼤学卒業後、株式会社リクルートへ⼊社。不動産情報サイトの立ち上げおよび独立起業支援事業のグロースに従事。独⽴起業⽀援事業の法⼈化に伴い、2019年に株式会社アントレの取締役へ就任。2019年に⻄原直良とともにシコメルフードテックを創業し、2021年より現職。M&Aアドバイザー。iU(情報経営イノベーション専⾨⼤学)客員准教授。
食品業界、特に中規模以下の飲食店が抱える最大の本質は、「ずっと変わっていない」ことです。デジタルツールの導入による業務効率化は進んだものの、平均賃金は上がっていません。最低時給が上がるたびに、経営者は恐怖に怯える状況が続いています。
その背景には、高いコスト競争力によって商品を安価なデフレ価格で提供し続ける大手の外食チェーンが、市場の価格を決定づけているという現実があります。中規模以下の店舗は、その価格帯からなかなか値上げできず、非常に厳しい経営を強いられています。
この根本的な構造が変わらないため、年収が上がらず、結果として求人倍率が高いままの状態が続いています。
おっしゃる通り、業務効率化は進んでいますが、それは「売り上げの起爆剤」にはなりません。
例えば、調理ロボットのような最新技術は、一台導入するのに1500万円かかることもあります。これは3人分の3年間の人件費に匹敵する投資で、中小企業が気軽に回収できるスパンではありません。大手はキャッシュリッチだから入れられますが、中小は導入を躊躇してしまいます。
私たちが注目したのは、大きな投資を必要とせず導入できる「仕込み」の外部化です。調理を仕込み済みのものに置き換えることで、中小規模飲食店の生産性と利益構造を根本から変えられると考えています。
ありますね。日本では「手作り信仰」が根強く、飲食店の経営者や料理人が持つ「手作りでなければお客様に失礼にあたる」という強い想いが、最新技術の導入を阻む心理的な障壁となっています。これは文化的な良さでもありますが、変革を縛っている側面もあります。
しかし、今の冷凍技術はものすごく進化しています。この技術と「仕込み済み」の仕組みを活用すれば、人手不足や人件費高騰の時代においても、飲食店経営の持続可能性を大きく高められる。その認識を社会に広げることが、私たちの使命の一つです。
日本の「食」の価値は世界で評価され、観光(インバウンド)の訪日理由の一位に位置するほど国益に直結しています。それにもかかわらず、その現場で働く方々の報酬が安く、海外の事業者が大きな利益を享受しているという構造的な歪みが生じています。日本の食文化を守り、その価値を正しく評価し、その利益が現場に正しく還元されるように、この「構造を変える」ことが、私たちの事業の社会的意義だと捉えています。
コロナ禍で人々の生活様式は大きく変わりました。NetflixやYouTubeといった「おうち時間の楽しみ方」が磨かれ、リモートワークも普及しました。その結果、「なんとなくうだうだ飲む」という消費行動が失われたのです。
今、マクロデータで見ると、居酒屋やパブといった業態は厳しい。一方で、「ファストフード」と「専門店」が強いという二極化が進んでいます。市場はみんなが同じ曲を聴いていた時代からHIPHOP、Kpop、レゲエへと細分化したように、食の市場もまた、特定の高付加価値に特化した専門店やファストフードが強くなっています。
平均年収が下がる中、消費者は「節約して月に一度食事に行くなら、これが食べたいという明確なもの、この空間に行きたいという明確なものがないと行かない」というマインドになっています。ファストフードがインフラ的な「安くてお腹を満たせばいい」というニーズを満たす一方で、我々がターゲットとする中規模の店舗は、その試合に参加することはできません。
中小の飲食店は、大手のように安くて大きな店で勝負することはできません。集客し、リピートをつけるには、エッジを効かせた「専門店化」が必須です。
しかし、専門店化しようとすれば、食材原価や人件費の高騰で、「全てを完璧に仕込む」のは不可能に近くなります。そこで必要になるのが、「名物は自分たちで気合いを入れて作るが、それ以外は仕込みを外部化し、エッジの部分に命をかける」という戦略です。これは、コロナを経て業界に必然的に求められるようになった変化です。
核となるのは、「食のサプライチェーン全体を包括するインフラ」というビジネスモデルです。
飲食店は工場の技術を理解できず、工場も飲食店の多忙さやITスキル不足を理解できていない。その間をつなぐ「翻訳・チューニング機能」がないため、取引が途中で途切れてしまうこともあるんです。
まさにそうです。私たちのやっていることは、特定の機能を売るのではなく、Amazonが物流から決済、プラットフォームまでを統合し、巨大なサプライチェーンを築いたように、「食のサプライチェーン全体を包括するインフラ」を目指しています。このアプローチは社会的なインパクトも大きく、変革の意義も深いという確信に基づいています。
私たちは、今まで飲食店が工場ごとに問い合わせをし、個別で会話していた手間を不要にしました。工場ごとにバラバラだった発注方法(FAX、LINE、独自のシステムなど)やリードタイム(5営業日前、3営業日前など)、納品サイクル(毎週水曜のみなど)、請求などを、すべてシコメルが統一し、整備しています。
発注・物流・請求を一元化した仕組みにより、飲食店は「シコメル」というクラウド上の巨大工場と取引している感覚でいられる。物流もアプリで可視化され、ストレスなく運用できる。この仕組みこそが他社にはない差別化要素であり、変革のロジックそのものです。
そこが私たちの肝です。従来は、工場とのレシピ調整に3〜4ヶ月かかるのが普通でしたが、シコメルでは共通言語と伴走体制により、レシピをお預かりしてから約20日で試作品の試食会を実現。倉庫納品まで約70日というスピードを可能にしています。
共通フォーマット化によるこの「速さ」こそ、構造変革を支える要です。
工場側にとっても「三方よし」の構造です。従来の食品工場は、地域内のドミナント戦略でやっていたため、地域のご要望に応えるうちに商品数が増え、小ロットで非効率になるという「小ロット大貧乏」のような状態になりがちでした。
しかし、シコメルを通じて特定カテゴリー(例えばハンバーグ)の案件を整理することで、工場はワンラインの生産効率が向上し、得意分野に集中できるようになります。自分たちの営業負担も減り、安定して生産を続けられる。私たちは、サプライチェーン全体の非効率を解消する、新しい産業構造を生み出しているのです。
このようにシコメルは、テクノロジーとロジックによって「食のインフラ」を再構築し、業界の構造的課題に挑んでいます。
後編では、この仕組みをどのようにスケールさせ、社会を動かす組織へと成長させていくのか──その戦略と人づくりの裏側を伺います。