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執筆者:株式会社UPSIDER Head of Data Yuji Sugiyama
「UPSIDERは『メガバンクの子会社』になり、守りに入るのか?」
みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)との提携が発表され、そう思った方もいるかもしれません。
しかし、UPSIDERの答えは真逆です。
この提携──それは、私たちが長年構想してきた、データとAIで創る新しい「信用のOS」を、日本、そして世界へ実装するための、最高の切符を手に入れたことを意味します。
このnoteでは、みずほFGという巨大なパートナーを得て、UPSIDERの挑戦がどこへ向かうのか──その挑戦の最前線に立つ私の視点から、「未来図」と「覚悟」をお話しします。
金融業界で長年働いて感じた、「もったいなさ」
初めまして、UPSIDER Head of Dataのスギヤマと申します。
私はこれまで銀行、フィンテック企業、ベンチャーキャピタルと、日米の金融業界で投融資に携わってきました。
そのキャリアを通じて見てきたのは、素晴らしいアイディアや情熱を持つ挑戦者が、従来の金融の仕組みが持つ「壁」によって機会を失う姿でした。
画一的な財務データや過去の実績だけを評価の軸にする従来の金融の枠組みでは、未来の可能性を正しく評価しきれない──この「もったいなさ」は、社会全体の大きな損失だと感じていました。
これまでの金融システムだけでは変化し続ける現代の挑戦者を支えきれないのなら、挑戦者が未来を創造するための「次世代のOS」が求められている。
そして、従来の金融が培ってきた信頼や基盤と、データとAIの技術を融合させ、金融のあり方そのものを進化させていかなければならない。
だからこそ、データとAIを活用して挑戦者を支えようとするUPSIDERに出会った時、「これこそが私が解きたかった課題だ」と確信したのです。
そして今、私はその確信を胸に、この場所で挑戦の真っ只中にいます。
私は現在、企業の信用力をデータに基づいて評価する「クレジットモデル」と、それを支えるシステムの開発に従事しています。
その活動は、中長期視点で掲げる、この3つの目標に集約されます。
- オルタナティブデータによる次世代クレジットモデルの開発
- 次世代クレジットモデルの海外展開
- レコメンドエンジンによる意思決定支援の高度化
これら3つの挑戦は、それぞれが密接に連携し、UPSIDERの未来を形作ります。
まずはその思想の核となる、最初の目標からお話しします。
1. オルタナティブデータによる次世代クレジットモデルの開発
二つの壁を乗り越えながら辿り着いた、AIクレジットモデル
UPSIDERは、金融における信用の定義そのものをアップデートしていきます。
UPSIDERの与信審査は、その歴史の中で、二つの大きな壁に直面し、それを乗り越えることで進化してきました。
その中核を担うのが、私たちが開発するクレジットモデルです。
第一の壁は、急成長するスタートアップの未来──その可能性を、いかに評価するかでした。
ベンチャーキャピタルなどから資金調達を行い、先行投資で赤字を許容するスタートアップは、従来の金融の手法では評価が困難でした。
私たちは当初、ルールベースの審査でこれに応えていましたが、2023年初頭、過去の類似ケースに基づき与信を行う、AIを活用したクレジットモデルのプロトタイプを開発しました。
しかし、そこに第二の壁が立ちはだかりました。
プロトタイプの限界──それは、資金計画が比較的予測しやすいスタートアップには有効でしたが、日々の売上で事業を営む多くの中小企業が持つ、月々の入出金の大きな変動までは捉えきれなかったのです。
延滞そのものを予測する、より高度なAIでのモデリングが求められていました。
その答えが、2023年8月に刷新した現在のクレジットモデルです。
より複雑なデータから未来を予測するこのモデルによって、私たちは、これまでアプローチが難しかった多くの中小企業への与信を本格化することができました。
その結果、モデル刷新以降、こうした企業による決済額は大幅に増加しています。
「動的な行動データ」を用いて信用の定義をアップデートする
この進化の過程こそが、UPSIDERが金融における信用の定義そのものをいかにアップデートしてきたかの証明です。
これまでの信用とは、主に過去の実績、特に貸借対照表や損益計算書といった財務データに基づいて評価されてきました。
それは、企業の過去を記録する、いわば「静的なデータベース」であり、安定性は評価できても、未来への成長性やポテンシャルを捉えることは困難でした。
UPSIDERが創る信用は、未来の可能性を映し出すものです。
そのために用いるのが、UPSIDERが提供する各プロダクトの利用を通じて生まれる、リアルタイムのアプリケーションデータやオペレーションデータといった「動的な行動データ」──すなわち、オルタナティブデータです。
企業が「今、何に投資し、どのように事業を動かしているか」という、その活動そのものに、未来を予測する最も本質的な情報が眠っていると、私たちは信じています。
UPSIDERが構想する次世代のクレジットモデルは、このような「リアルタイム性の高いデータ」のみを活用した新しいモデルです。
「ストック」から「フロー」へ──。
これは、評価の起点を、過去の積み上げである「資産」から、未来を創る今この瞬間の「活動」へと変える、根本的な思想の転換です。
金融プロダクトを複数展開するUPSIDERでは、様々な企業との接点を通じて、多様なデータが日々、生まれ続けています。
業種や事業規模など、それぞれのカテゴリーごとに異なる種類のデータが存在するからこそ、私たちは多角的な視点からデータを読み解く能力を磨いてきました。
その結果、財務データだけでは見出すことのできなかったお客様の信用力を、より柔軟に評価することが可能となりました。
今後は、UPSIDERが様々なアライアンスを通じて金融プラットフォーム化していく中で、社外データの連携によるモデルのアップデートも計画しています。
また、このクレジットモデルの真価は、審査だけに留まりません。
モニタリングや債権回収といった、与信後のプロセスにおいても、その力を発揮します。
審査を経て与信枠を付与した後も、モデルは、スコアに基づき、お客様の信用力を、毎日自動的に再評価し続けます。
そして、お客様の信用力の変化にリアルタイムで連動し、与信枠の最適な自動調整を行うのです。
債権回収においては、モデルの評価が督促の優先順位を決定づけ、オペレーションの効率を最大化します。
このように、私たちのクレジットモデルはリアルタイムでのリスク管理を高度化させ、ポートフォリオ全体の健全性を維持する礎となっているのです。
さらに、このモデルは一度作って終わりではありません。
さまざまなデータを継続的に取り込み、モデルの再学習を毎日自動的に行うことで、最新のデータに基づきモデル精度を維持・向上させています。
UPSIDERは、「銀行口座にいくらあるか」ではなく、「信用力を示す行動データがあるか」を起点として、新しい信用の形を創っていきます。
みずほFGとの提携でクレジットモデルの開発は新たな次元へ
この挑戦は、みずほFGとの提携で新たな次元に突入します。
厳格なガバナンスと、最先端のプライバシー保護技術のもとで、メガバンクが持つ膨大な顧客基盤や多様な取引データと、UPSIDERのオルタナティブデータを活用したクレジットモデルを掛け合わせる。
メガバンクの「信用」とスタートアップの「技術」の融合は、まさしくこの新しい信用評価モデルを日本の産業全体のスタンダードにするための挑戦です。
これまで誰も作ることができなかった、日本の産業構造に最適化されたクレジットモデルを構築し、「挑戦する意志」そのものが正しく評価される社会を創っていきます。
そして、私たちが解決しようとしているこの課題は、決して日本だけのものではありません。
2. 次世代クレジットモデルの海外展開
「もったいなさ」は、世界でこそ深刻
私がキャリアを通じて見てきた「もったいなさ」は、むしろ、世界でこそ、より深刻です。
私は長年米国カリフォルニア州で暮らしていましたが、日本ではまず考えられないほどの経済格差に何度も直面しました。