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オンラインで接続されたVR空間上でコミュニケーションできる「ソーシャルVR」を使ったビジネスは黎明期にありますが、近年はPRや広告に取り入れる企業や組織も少しずつ増えてきました。
クリエイティブ・テックエージェンシーのTAMでも、台湾政府公認の優れた製品に贈られる賞「台湾エクセレンス」のPRなどで、すでにソーシャルVRを使ったイベント運営や動画の制作などに取り組んでいます。
新しい技術で繰り広げられる黎明期のビジネスの面白さや、そこで活躍するリーダー像について、TAMデザインテクノロジーチームの角谷仁さんにお話を聞きました。
「バーチャル時代のPRエージェンシー」を目指して
――ソーシャルVRを企業や組織が取り入れる案件とはどのようなものですか?
TAM取締役 / TAMTO代表取締役 角谷仁
モダンなWebフロントエンド開発を強みとしたWebサイト、Webアプリケーション開発チームのマネジメントをする傍ら、自らPMとしてメタバース案件に携わるなどTAMのVR分野をリード
台湾政府公認の優れた製品に贈られる賞「台湾エクセレンス」のPR案件がまさにそれですね。この賞を運営している台湾貿易センターがお客さまで、日本でいうと、経済産業省みたいなところです。
「台湾エクセレンスを受賞したすばらしい台湾製品の魅力を日本に伝える」ということで、TAMは2018年から日本向けのPRを担当させていただいて、その一環として年1回、大規模なイベントを開催しています。
2023年はちょうど「コロナ禍」が明けて、イベントもデジタルからリアルに回帰していく時期だったので、バーチャルとリアルと両方で遊べる体験を作ることになりました。
これまでもソーシャルVR案件は少しずつやっていたんですが、ワールド(バーチャル空間)の制作からイベントの開催、SNSの運用支援、VTuber(2DCGや3DCGで描画されたアバターで動画投稿・生放送を行う活動者)との連携など、多角的に企画制作したのははじめてでした。僕の中で、「とにかく全力で立ち向かった」みたいな案件です。
――VR案件であるだけでなく、海外案件でもあるんですね。
はい。お客さまとの打ち合わせも、通訳を介して全部中国語で、すごく楽しいです。ワールドは中国語と英語対応にしました。台湾貿易センターの台湾本部のオフィスも未来の宇宙船みたいなデザインで、ソーシャルVRの提案も「面白そう!」と乗ってくださって。
結果も良好で、そのときに作ったVRテーマパークに来てくれたのが1カ月で1万5,000人ぐらい。ツイッターの写真投稿なども150万リーチに達しました。
「展示されていた商品を買いました」とか「台湾に行きたくなった」とか、いろいろ投稿してくれて、盛り上がったと言えるんじゃないかな、と思います。
――これからもソーシャルVR案件の可能性が広がりそうですね。
「バーチャル時代のPRエージェンシー」を目指しています。仮想空間の制作もするし、イベントの企画や開催支援、メディア向けの対応、多言語対応、VTuberとの連携など、トータルで企業や地方自治体をサポートできたら、と思っています。
最近では、VR上でコミュニケーションできるアプリの「VRChat」ともパートナー契約を交わして、このプラットフォームの商用利用契約を代行できるようにもなりました。
――VRChatとは?
VRChatは、VR空間にアバターでログインして、多人数でコミュニケーションできるものです。リアルだと友達と一緒にいても家に帰らなくちゃならなかったりしますけど、VRChatだと家からヘッドセットを通じていつでも友達に会いに行けるので「終わらない放課後」とも言われていて、みんな遅い時間まで遊んでいますよ。
オンラインゲームの「Fortnite」とか「Roblox」とかに比べると、VRChatのユーザー数はそんなに多くないんですけど、VRを主体としたSNSとしては世界最大級です。今、日本でもユーザー数が増えていますが、受託制作をしている会社でパートナー契約をしているところは日本ではまだ数社しかありません。
「インターネット黎明期」を彷彿とさせるVRの現場
――VRやメタバースの領域で先進的に取り組んでいるんですね。そもそも角谷さんがVRに傾倒していったきっかけは?
2021年ごろに携わったJAXAさんの案件が、きっかけの1つだと思います。この案件では、日本の有人宇宙技術とか宇宙探査に関するストーリーを疑似体験できるようなWebを作りました。
読み物やビジュアルを駆使して「没入感」のある体験づくりに全力投球した案件だったのですが、後から「他にできることはなかっただろうか」と考えていて。体験をつくる方法はもっと増えたほうがいいな、というのを感じていました。
そんな中で、TAMがちょうどグループ経営に変わって、自分たちのチームの強みを考えていくフェーズでもあったんですよね。それでVRというのはなんとなく前から興味があったので、ヘッドセットを買って使ってみたら、これが楽しくって。
――実際にVR案件に携わるようになって、Web案件との違いを感じますか?
制作フロー自体は、VRの仕事はWebの制作に似ていると思います。企画があって、空間の設計があって、デザインがあって。プロトタイプをテストしていくフェーズもありますね。
違うところは、VRは体験してもらわないと分からないという点。VRの中の様子を動画で撮って、「こんな風にできてます」と見せることはできるんですけど、実際にお客さんに体験してもらうと全然違います。会いに行って、ヘッドセットをかぶってもらって、「わあ、すごい!」と喜んでもらえるのは、単純に楽しいんですよ。
ソーシャルVRだとさらに、みんなが遊んでくれているところに自分が行くことができるので、バーチャル空間でユーザーがどういう風に遊んで、どういう感想を言っているかというのも分かるんですよ。それがクリエイター的にはすごく面白い部分ですね。喜んでくれている姿を目の前で見られるというのは、Webサイトにはない特徴です。
――なるほど、直接ユーザーの反応が見られるというのはやりがいがありますね。制作現場でも違う点はありますか?
外部のクリエイターさんと関わるんですが、基本みんな実名じゃなくてニックネームで仕事しています。あまりリアルを出さないのは、このコミュニティならではですね。
こういう人たちと接していると、今のソーシャルVR業界は黎明期のインターネット業界みたいなのかな、と思うんです。僕が仕事を始めた2000年ごろは、Web制作会社って私服で自由な働き方をしている最先端の人たちだったんですよ。
それが、Webが当たり前に社会に浸透して、普通の事業会社でスーツを着た人たちもWebでごりごり仕事をするようになると、Webサイト制作の打ち合わせとかもめっちゃ真面目な話になるわけですよね。
VRのほうは「ゲームでどうやって喜んでもらえるか」とか、クリエイティブの本質みたいなものが強く感じられてやっぱり楽しいな、と思います。
「本気であそべば、おもしろい」
――ソーシャルVRのお仕事の楽しさが伝わってきましたが、チームリーダーとして経営者的な視点でVR事業の難しさを感じることはありますか?
僕のチームではVRはまだこちらから提案しているレベルにとどまっていて、お客さまから求められる仕事は圧倒的にWebが多いです。僕のチームの売り上げも99.9%ぐらいWebです。
僕自身、チーム全体をVRにシフトさせようとは考えていませんが、もうちょっと増やしたいな、というのはありますね。
――ご自身のキャリアの中では、今後のお仕事のポートフォリオをどのように発展させたいですか?
「グローバル」を志向していきたいです。もちろんVRを軸にできるといいな、と思うんですけど。
僕はマネジメントを10年ぐらいやってきた中で、「リーダーは一番強いプレーヤーじゃなければいけない」と思っています。「こうなればいいな」という強い思いがあるなら、自分がまずそこに突き進んで実績を作っていかないといけない。それでいくと、グローバルな実績を作っていくというのが、この1~2年の仕事になります。
――具体的には「グローバル」でどんなことをやりたいですか?
JAXAさんの案件で、日本が世界に誇れることを世界に届けることができて、すごくやりがいや楽しさを感じたので、もっと日本のいいコンテンツを世界に届ける仕事ができないかな、と模索中です。
今はVTuberプロダクションのCOVERさんと、コーポレートサイトなどのお仕事をさせていただいていますが、急成長ぶりを見ていても、「日本のコンテンツって強いなあ」と思っていて。COVERさんが「つくろう、世界が愛するカルチャーを」というミッションを掲げて、日本の二次元コンテンツを世界に届けているのに影響されるところも大きいです。
――リーダーのチャレンジにメンバーも影響を受けそうですね。
そうかもしれないですね。僕は形式的なチームミーティングとかはもうやらないで、「好きなことを仕事にしていく姿勢」をメンバーに見せるようにしています。
例えば、僕がVRやバーチャルのほうに道を切り拓いていっているのは、みんななんとなく見ているわけですよ。はじめてコミュニケーションを取るクリエイターへの「ラブレター」の送り方とか、好きなことをやりながら数字につなげていく方法とか。
僕はみんなにVRをやってほしいとは1ミリも思っていなくて、自分たちのやりたいことをやってもらうのが一番だと思っています。ただ、トレンドに乗るのはやっぱり大事なので、好きなことを仕事につなげていく上でもその見極めについてはアドバイスできるかな、と。
チームのコンセプトは、「本気であそべば、おもしろい」なんです。僕のことを見ながら、「あいつ勝手に好きなことやってるけど、それを仕事にするってありなんだ!」と、メンバーに思ってもらえたら嬉しいですね。これからTAMで働いてくれる人たちにも。
[取材] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 蔡昀儒