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デジタルエージェンシーTAMは、「勝手に幸せになりなはれ」を社員の行動指針として掲げています。仕事を通じて幸せになる、はおそらくほぼすべての人が望むことと言っていいかと思いますが、ではどうやって・・・? TAMのオランダ法人「Tamsterdam」の代表でUXデザイナーの飯島章嘉さんに、最近考えていたという働くうえでの「基本戦略」について、教えてもらいました。
「勝手に・幸せになる」ってどういうこと?
——TAMは「勝手に幸せになりなはれ」を社員の行動指針として掲げていますね。
そうですね。「勝手に」という言葉は、人によっては冷たく突き放されたように感じるかもしれませんが、それは(TAM代表の)爲廣(慎二)さんらしいユーモラスな表現で、本当に言いたいことはそうじゃないはず。
「万が一、会社がなくなったとしても、自分らしく生き、周囲から求められるような人になれるよう、個々人が自分で考えて、つまり戦略的に生きていってね」ということ。それが、会社の成長にもつながるということなんですね。
一方、「幸せになる」と聞くと、なにか目的を成し遂げた「瞬間」を想像しがちですよね。でもその目的を達成したから人生が終わるというわけではないと考えたら、幸せとは「状態」を指すのではないかと。
アドラー心理学の中でも、「山に登る目的は、登頂することですか?」という問いかけがあります。つまり、登っているプロセス自体が山登りの目的だと言っているわけです。
ビジネスにおいては、プロセスがないがしろにされることも多いですが、目的に向かって苦役を乗り越え、そのあとのご褒美として「幸せになる」ものなのか?
なにかに向かって努力や苦労しているプロセスにおいても、それを楽しめたほうがいい。その状態を続けられたら「幸せ」だと思うんです。
TAMの戦略フレームワーク「PGST」を再解釈
——TAMの社員は「PGST」というフレームワークを使って、個人の目標設定を行っているんですよね?
PGSTとは、「Purpose(目的)」「Goal(数値目標)」「Strategy(戦略)」「Tactics(戦術)」の頭文字からなる言葉。社員はプロモーション企画やWebサイト制作など、クライアントワークで日常的に使っていますが、個人の目標設定にも用いられています。
ただ、PGSTは基本的に、目的から戦術をブレイクダウンするのに適していると思っていて。クライアントワークだけでなく、人生やキャリアも「目的遂行型」で突き進む人はいいのかもしれませんが、そうではない(僕みたいな)人の中には、PGSTを個人の働き方の指標にするのを難しく感じる人もいるんじゃないかなと。
先に言ったように、「幸せ」をなにか目的を成し遂げた「結果」ではなく、そのプロセスにある努力も苦労も含めた「状態」と捉えるなら、幸せな状態になる(状態を維持する)ための戦略が必要になります。長期戦略、基本戦略みたいなものとして。
状態を目指す戦略は、目的を達成して終わる「タスク」的なものではなく、「持続性のある仕組み」であるべきで、できれば「発展の可能性があるもの」。「持続」と言っても、同じところをずっと回転するだけでなく、少しづつ円周を大きくしていけるようなイメージだといいですよね。
勝手に幸せな「状態」になるための基本戦略
——PGSTを再解釈した結果、どんな戦略が立てられたのでしょうか?
基本的なPGSTの考え方は変わらなくて、そこに「持続性」や、結果がまた次のインプットになるような「ループ性」、そして、繰り返しつつも成長のきっかけが生まれるような「偶発性」が内包されていればいいんだと考えました。
「一方通行でないPGST」と言ってもいいかもしれません。回転して2周目につながったり、「T(戦術)」から「P(目的)」が決まってもいい。円周を大きくしていく、というのは「はずみ車」の考え方とも似てるかもしれません。そういう観点から、自分の基本戦略ってなんだろう、と見直してみました。
⚫︎目的(P)
⚪️仕事を気持ちよく続けて、食べていけること(持続性)
⚫︎数値目標(G)
⚪️それには、喜んでくれる相手からのリピート発注が重要(ループ性)
⚫︎戦略(S)
⚪️顧客の「期待に応える/超える」ことで、期待値を育てる(ループ性)、常にそれを目指すことで自分の計画や視野を超えた発展も生まれやすい(偶発性)
⚫︎戦術(T)
⚪️本質的な気づき・発見の共有(アハ体験の創出)
⚪️期待の展開・継続性(続きが見たく・聞きたくなる提案)
⚪️期待の速攻性(予想を上回るスピード)
⚪️期待値のレバレッジ(1のインプットで10のアウトプット)
繰り返しになりますが、一番のポイントは、P(目的)を「状態」と捉えること。それによって、自ずと持続性やループ性のあるG(目標)やT(戦略)が必要になります。こう考えることで、T(戦術)も具体的になるし、幅も広がりますね。
「勝手に」=「自然に」幸せになるように
「状態」とか「持続性」、「長期戦略」とかいうと重々しいですが、もっと簡単で下世話な言い方をするなら、「テコが効く(一粒で二度おいしい)」とか「楽ができるか」という発想とも近いと思います。
働くうえでのベースになりうる「基本戦略」なので、新しいプロジェクトや顧客に向き合うたびに毎回イチから「どうしよう」と悩んだりする不安も少なくなりますし。
ループ性や偶発性をつないで「幸せな状態」を成立させる(維持する)ための基本戦略は、「勝手に幸せになる」の「勝手に」を、「勝手にドアが開く」と同じく、「自動的に、自然と」の意味でとらえるのに近い。
この考え方は、ゲームで例えるなら、与えられたルールの中で勝ちを目指すのではなく、戦いから降りるのでもなく、裏技を探している感覚と近いかもしれませんね。そう考えれば、毎日の仕事はより楽しいものに変わっていくのではないでしょうか。
[取材・文] 佐藤紹史 [編集] 岡徳之