志免さくらこども園のお昼の時間。給食の配膳が始まると、子どもたちは「今日は何かな?」と目を輝かせます。湯気の立つスープに浮かぶのは、ライフサポートSAKUで育てられた大根や玉ねぎ。カレーには、畑から収穫したばかりのジャガイモがごろごろと入っています。子どもたちは「いただきます!」と元気に声を合わせ、笑顔いっぱいにほおばります。そのひと口にこめられているのは、利用者さんの汗と努力、そして「誰かのために働ける喜び」です。
ライフサポートSAKUでの農業の取り組みは、私がずっと心に思い描いていた夢のひとつでした。
子どもたちには、食材がどのように育ち、どれほど大切に育まれているかを体験を通じて感じてほしい。食べ物が「お店に並んでいるもの」ではなく「土から命を得て、自分たちの口に届くもの」だと気づくことは、命に感謝する心を育みます。
一方で、ライフサポートSAKUを利用される障害をお持ちの方々にとって、農作業は単なる労働ではありません。畑を耕し、苗を植え、水をやり、雑草を抜き、収穫する。その一連の作業の先に「子どもたちの笑顔」があることを知ると、「自分の働きが誰かを支えている」という実感につながります。働くことへの誇りを取り戻し、生きる力を強めていくのです。
畑での作業は季節ごとに表情を変えます。
大根の小さな芽が顔を出したとき、利用者さんは「ちゃんと育つかな」と心配しながらも愛おしそうに眺めます。やがて葉が大きく広がり、土を割って白い根が姿を現したときの感動は、言葉にならないほどです。
玉ねぎは苗を植えてから収穫までに長い時間がかかります。寒さに負けないようにと世話を続け、春先に丸みを帯びた玉が畑に並ぶ姿を見たとき、利用者さんの目には達成感の光が宿ります。
ジャガイモの収穫は、まるで宝探し。土を掘り起こすと次々に顔を出すイモに歓声があがり、「子どもたちが喜んで食べてくれるかな」と誇らしげに手のひらに載せる利用者さんの姿に、私自身も胸を打たれます。
自然の中で体を動かし、土に触れることは、心の安らぎや気分転換にもつながります。作業を終えた後には「体は疲れたけど、心はすっきりした」という声も多く聞かれます。農業は、収穫という成果だけでなく、働く人自身の心を耕す力を持っているのです。
子どもたちの側でも、確かな変化が生まれています。
「この玉ねぎは、SAKUのお兄さんたちが育てたんだよ」と伝えると、「ありがとう!」と声をあげる子もいれば、「僕も畑に行ってみたい!」と目を輝かせる子もいます。自分の食べているものに背景があることを知る経験は、食べることへの感謝や人とのつながりを感じる心を育みます。
食材を「ただ食べる」のではなく、「誰かが大切に育てたものをいただく」と実感できることは、子どもたちにとって大きな学びです。その学びは、やがて人への思いやりや社会への関心へと広がっていくことでしょう。
この取り組みは、まだ始まったばかりです。いまは大根、玉ねぎ、ジャガイモが中心ですが、将来的には稲作にも挑戦したいと考えています。自分たちで育てたお米を子どもたちが給食で食べる日が来れば、その感動は計り知れません。
さらに、地域に広がる休耕田の活用も視野に入れています。高齢化や人口減少で使われなくなった田畑を再び耕し、そこに子どもたちや利用者さん、地域の方々が一緒に関わることができれば、農業を通じて新しいつながりが生まれます。休耕田が「人と人を結ぶ学びと働きの場」としてよみがえる未来を、私は本気で思い描いています。
ライフサポートSAKUの農業は、単なる自給自足ではありません。
子どもたちには「食の背景を知り、命に感謝する学び」を。利用者さんには「誰かの役に立てるという働き甲斐」を。そして地域には「人と人がつながる場」を届ける。そこには、食を通じた豊かな循環があります。
今日も畑には、笑い声と真剣なまなざしがあふれています。大根、玉ねぎ、ジャガイモから始まったこの挑戦は、やがてお米へ、そして休耕田の再生へと広がっていくでしょう。
子どもたちの「いただきます!」と利用者さんの「やりがいがある」という声が重なり合う未来を信じて、私たちはこれからも土を耕し続けます。