「Build & Scrap無償キャンペーン実施記念対談」“自分発でひらく”──行政と地域のこれから
【はじめに】
本記事では、株式会社WiseVine(以下、当社)代表取締役社長の吉本と、当社投資家でありAINUSホールディングスの須永氏が、福岡県糸島市にて対談した模様をお届けします。
具体的には、須永氏が取り組む「自然栽培」や「伝統文化の継承」などの自己紹介から始まり、「投資の背景」、「地域の未来」など、多岐にわたるテーマについて率直な意見交換が行われた内容をまとめたものです。
対談は約30分の本編と、その後15分の延長戦を含め、一つの記事に再構成しています。対談中に単刀直入な表現も見られますが、対談の雰囲気を大切にするため、そのままの形で掲載しています。
ぜひ最後までお読みください。
目次
1. それぞれの現在の活動について
2. 投資のきっかけと背景
3. 投資家の意見をどう生かすか
4. 日本の行政と地域創生の未来
5. 【延長戦】トップダウンでもボトムアップでもなく、“自分発”の時代
6. おわりに
1. それぞれの現在の活動について
――まずは自己紹介をお願いします
須永氏(以下、須永):
今は住所不定、無職です(笑)まあそれは冗談。実際はAINUSホールディングスをやっています。
以前はトラストバンクという会社で、ふるさとチョイスなんかをやっていて、自治体の歳入支援の事業をしていました。その中で、日本中を回って気づいた最大の課題は二つ。
まずは、「文化の喪失」。文化はその地域の衣・食・住の産品に色濃く表れるんだけど、資本主義の外部経済に依存する構造の中でコストが合わず廃れていくんですよね。
次に、「地域内の経済循環と地域の経済的自立」。資本主義において経済循環が大事という前提は一旦ここでは深く触れないけど、RESASで調べたら多くの自治体が資本の流出過剰で循環も出来ていないのが現実です。
この二つを解決するために、地域の衣・食・住全体を資本主義と共存・共生する形を模索する事業をはじめました。衣・食・住を順に説明すると…
衣に関しては、伝統工芸の着物を守るためのプロジェクトに取り組んでいます。織物って、綿密で美しい日本の伝統技術。本来は大きな価値があり、やりたい若手も沢山いる。でもお金にならないから若い人がなかなか入って来られない。これをデザインの力で解決しようとエルメスのデザイナーとスタートしたのが「MIZEN」という会社です。お金が回らないから産業自体が成立しづらくなる。そのあたりも自然の循環や地域経済の自立を目指す取り組みの一環として進めています。
食では、農薬も肥料も使わない“自然栽培”で生まれる本来のエネルギーを大切にした「いにしえ」という会社をやっています。地元の土や微生物を取り入れた食材こそ、人間の腸内環境を最適化し、その土地に合った身体づくりに結びつくと考えています。人間の腸は第二の脳と呼ぶ学者もいますしね。
味噌などの加工品もすべて自然栽培の原料を使い、塩も自然塩を使う。こうした「本当に食べたいもの」を自分で作るために、自然栽培を軸にした食品ブランドを立ち上げました。
住に関しては、観光施設の運営です。結局地域の自立とお金の地域内循環で一番手っ取り早いのは観光です。その中で宿泊がいちばん地域に落ちるお金が大きい。高付加価値の宿泊施設は周辺への経済波及効果も高いんです。さらに地域から出ていくお金の中で最も大きなものはエネルギー関連。これを地域内で循環させる仕組みづくりのために、エネルギー事業含め、地方の循環モデルを作っていきたいと考えています。
2. 投資のきっかけと背景
――須永さんはなぜ吉本さんの会社に投資をしようと思ったのですか?
須永:
もともとトラストバンクにいた頃、ITと地域内データを活用し、地方をより自立・循環させる仕組みを作りたいと思っていたんです。具体的には自治体の予算編成に着目していましたが、それを攻める手立てはなかなか難しい。まずは歳入としてのふるさとチョイス、業務ツールはチャットツールやフォームなど、周辺から入っていこうという戦略を立てていたところで、予算そのものに切り込もうとしている吉本さんの話を聞いて面白いと感じたんですね。いわゆる「中枢」から攻めていく人がいるぞと。
実際に吉本さんの事業コンセプトを聞いて、「これは応援すべきだ」と直感したんです。最初に投資したのはそういう戦略的な部分と、直感的な面白さが大きいです。二回目の投資に関しては、経営合宿などを通じて吉本さんの覚悟を見たからですね。ここまで覚悟を持っているなら「出資して一緒にやってみよう」という判断でした。儲かるか儲からないかではなく、自分の価値観で判断しているだけですね。
3. 投資家の意見をどう生かすか
――投資を受けるうえで、須永さんのどのような意見を成長に取り込みたいですか?
吉本:
須永さんと一緒にいることで、「物事を加速させる」ためのヒントや人脈、マインドセットを手に入れられると思っています。無償導入でもいいから全自治体に少しでも早く案内したらいいじゃん!という後押しはまさに、です。
僕自身のプランはいろいろ考えていましたが、この経営合宿のような場で言語化がさらに進み、ビジョンや未来図をより鮮明に描けるようになりました。
予算編成というプロダクトも着想に7年ぐらいかかっているし、自分ひとりで試行錯誤していたら最後のゴールまで20年はかかるかもしれないところを、須永さんとなら2年でやれるんじゃないかと(笑)そのスピード感を実現するために意見やリソースを吸収したいんです。
須永:
覚悟の深さがあれば、どんな資源もうまく使えるようになる。投資を受けて終わりじゃなくて、そこからどう覚悟を深めてスピードを上げるかが大事だよね。
4. 日本の行政と地域創生の未来
――今後、日本の行政や地域はどうなっていくと思いますか?
須永:
未来は誰にもわからない。でも同時に、自分で決めることができるはずなんです。例えば「地方創生』ってみんな言うけれど、どうなったら自分の地域が創生された状態なのか?って、ちゃんと話せる人、実はあまりいない。
人口が増えたら?過去と同じような経済状況になったら?でもそれは何のため?って突き詰めていくと、そのあとの具体的な答えがない。そこを曖昧なまま課題だけを語っても、実行の糸口は見つからない。
吉本:
確かに総合計画って一応あるけど、自治体職員全体、市民全体が、それに命を込められている自治体ってなかなかないかも…ですね。ともすると、どのような首長の方針になっても読めるように、敢えて曖昧な書きぶりにしている所が多いかもしれません。
須永:
最初に「自分たちはどんな未来をつくりたいのか」を明確に描く。多くの自治体は「こうしたい』というビジョンを描かずに「人口減少が…」などと課題を並べ立ててしまう。まずはビジョンを描く。そして、そのための打ち手を作ればいいんです。
吉本:
この話は、なんかもう色々と当社の今までの思考の軌跡と重なります。
実は、私自身の人生も、会社経営やビジョンの根幹にも「進化」という概念を打ち立てているんです。
ハイエクという経済哲学者も、人類の生の本質は「進化」にあると言っているんですが、まさに、なんでもいいから、とにかくゴールを決めて、そこに向かって全員で無我夢中で邁進している状態、常に前よりアップデートできたと進化を自認できている状態というのが、実は「豊かな状態」であり、「幸せ」の状態なのではないかと。達成し終わった後が「豊か」、「幸せ」なのではなく。
だから、当社のビジョンは【行政の進化と伴走する】なんですね。
団塊の世代は口々に、高度経済成長時は、貧乏だったけれど幸せだったと言います。マイホームを持つとか、わかりやすい人生スゴロクのゴールがあり、そこに邁進しさえすればよかった。でも今は複雑なゴール設定を迫られていて、道を進もうにも行ったり来たり。個人は不安なまま取り残されます。
だからこそ、WiseVine Build & Scrapは、そのゴールに向かって、あまりごちゃごちゃ考えなくてもひた走ることが出来る補助装置の様なものを目指しているんです。
ゴール設定は自治体によって異なりますが、PDCAを回して意思決定を早くしていくプロセスは定型化されていて、前よりも進化を自認できて、幸せを自認できる、というのがWiseVine Build & Scrapの長期的な裏コンセプトなんです。
須永:
そうだよね。ビジョンや目標を先に定めてしまえば、あとはツールや仕組みで加速できる。私がやっている伝統技術や自然栽培での宿泊施設もそうですし、行政サービスを効率化することも同じ構造です。時間は有限だからこそ、意図的に加速していくことが大切だと思いますね。
5. 【延長戦】トップダウンでもボトムアップでもなく、“自分発”の時代
――ここから延長戦として、さらに深く、かつカオスな議論を展開したいと思います笑
「トップダウンでもボトムアップでもなく、自分発だよね」
吉本:
地域のビジョンって誰が決めるんですかね?首長なのか、それとも飛びぬけた職員なのか、市民なのか。
トップダウンで決めるものなのか、ボトムアップで決めるものなのか。そしてその決め方は本来どうあるべきなんでしょうね。
須永:
今、日本は資本主義を採用しているから、どうしてもヒエラルキー型のトップダウン組織になりやすいんだよね。資本主義ってトップダウンで動かす前提のフォーマットがすでにあるから。でも、じゃあどうしたらいいかというと、トップダウンでもボトムアップでもなくて、“自分発”だよねという話になる。
“自分がどうありたいか”を一人ひとりが考える。そこに優秀なリーダーがいたら「あの人がリードしているように見える」かもしれないし、首長や誰かが「育てられた存在』に見えることもあるかもしれない。でも、その人自身の視点には自分の世界しか写っていないわけで、何かが重なったときにそういうリーダーが“現れる”形になる。実際には各市民の“自分発”なんですよね。
吉本:
でも各市民の自分発って収斂していくんでしょうか。
「令和臨調で考える日本の国土構想」
須永:
私が「令和臨調」※ に参加して日本の国土構想について考える機会があって、まったくバックグラウンドの違う人たちと「百年、三百年、千年単位で日本の国土をどうする?」という視点で議論しています。皆、発想が固いなぁって最初はイライラすることもあったけど(笑)、結局、百年後の日本をみんなで考え始めると、“幸せ”や“豊かさ”ってなんだろうっていう共通の土台に立つんですよね。
人のライフスタイルの部分はバラバラでいい。音楽が好きな人、パチンコが楽しい人、みんな多様でいい。でも、百年後みたいな長期の目線で、“こうありたい”の「幸せ」、「豊かになりたい」って、案外みんな同じだったりする。
だからそれぞれの自分発なのに、ちゃんと重なるんです。しかも「自分発」だから当然に全員が納得もできる。ここに合意形成の肝があるよね。
一回そこが重なった後は、一気に意見が収斂していくというか。後は各人の知見を吸収して二倍、四倍、八倍、十六倍…みたいに素晴らしい意見がパーツとなってくっついて大きくなっていく。
だから自分がどうありたいかが大事だし、それがみんなで重なれば“自分発”なのに、全員を巻き込む大きなうねりになっていくんじゃないかなと思う。
※令和臨調:日本生産性本部が立ち上げた「令和国民会議」の通称。国会議員、首長のほか、著名な学識者、経営者等を招き2022年から開催。須永氏は国土構想部会の構成員を担当した。
「自分発を効率的に引き出すツール」
吉本:
そこを効率的にやる方法はあるんですかね?たとえばSNSでの声を集めるとか、総合計画作るときのパブリックコメントとか、公民館に人を集めるとか、今までも近いことはやっていましたよね。
須永:
うん、でも、そこはさらにアップデートできそうな気がしていて。SNSがそうだけど、デジタルによってマイノリティが一気にマジョリティを取る可能性は以前より高まりましたよね。
吉本:
たとえば都知事選候補の安野さんが作ったブロードリスニングだったり、X上でみんなの声を集約するツールやリキタスがやっているリクリッドというツールがあります。“自分はこうしたい”と思うきっかけと時間を作れれば、それをうまく公のビジョンに収斂していくテクニックはいろいろ考えられると思います。
もちろんポジティブな意見だけじゃなく、ネガティブも広がりやすいという弊害はありますが。
須永:
逆に「これいいね」っていうポジティブな共鳴が爆発的に増えたら、そっちのビジョンが加速的に形になっていく。令和臨調だと大きな枠組みとして日本全体を考えているけれど、それを各自治体でどう再現するかという感じですね。
「フレームを作ってあげると日本人は強い」
須永:
日本人って、完全に自由だと何していいかわからなくなる人が多い。でもある程度の“枠”があって、「この中で自由にやっていいよ」となると成果を出す。だから令和臨調では日本全体のでっかいフレームを作ろうとしているわけです。それで、でっかいのは作ったから後は地域版を作ればよい。例えば、ここ糸島市なら糸島市の枠があって、その中でITを使ってAIを使って“自分発”をいかに増やしていくか。
吉本:
ルールづくりも大事ですね。今回の経営合宿でやったように“決めつけない”、“ジャッジしない”みたいなマナーを共有するだけでも、みんなが安心して声を出しやすい空間になる。デジタルを使えば誘導もしやすいけど、逆に自分の利益のために誘導する可能性もある。だから“ツールはツール”としてストッパーをちゃんとかけないといけないですね。
「お金周りのツールがいちばん巻き込めるし、気づきを感じやすい」
吉本:
自治体の総合計画を作るのにビジョンがないとダメだよねって話があるけど、まさにそこにトラストバンクや深谷市がやっている地域通貨の仕組みを載せていくのは面白いですね。人はお金の動きにいちばん敏感だから、そこに“自分発”や“この地域こうしたい”みたいな思いを絡めると、みんなの意識が自然と向く。地域通貨は毎日の暮らしや買い物で使うので、否が応でもアテンションが高まるわけだし。
「AIで未来をビジュアル化する」
須永:
たとえばAIで生成した未来の景色を市民に見せて「これどう思う?美しい?」と聞くのはかなり刺さるんじゃないかな。文章で何十ページも書かれてもワクワクしないけど、ビジュアルで“ここ糸島市がこう変わる”って見せたら、みんな一瞬でイメージが沸く。令和臨調の有識者の先生や官僚の人は文章のほうが得意かもしれないけど、私みたいな8割の平民はビジュアルのほうが直感に響くと思うよ。
吉本:
確かに。子どもたちがわいわい学び合っている絵とか、道路がなくなって移動手段も変わっている未来とか、そういうAIが作った絵をみんなで見て「ここはちょっと違うね」とか言いながら修正していくのも楽しそうですよね。
須永:
そう。それによって“一枚の絵”を自治体で作って、それで終わる。文章は補足。まず絵を作っちゃうほうがやっぱり伝わるよね。令和臨調でも、AIに投げ込んで未来の日本をビジュアル化して、それをみんなで見て議論するのは面白いと思うなあ。それWiseVineの政策体系ツリーの機能の中でやってよ!
吉本:
け、検討します。(笑)
6. おわりに
「自然栽培」、「伝統工芸」、「観光」、「自治体のIT導入」──一見ばらばらに見えるキーワードを通じて見えてくるのは、”ゴール”を定めて、“文化”と“経済”と“暮らし”を循環させ、進化し続けるというビジョンでした。そして、そのゴールを決める原動力は「自分がどうありたいか」という“自分発”のエネルギーだ、というのが印象的でした。
互いの価値観や覚悟を共有し合いながら、「投資をする・される」という関係を超えて、同じ目標に向かって走り続けるおふたり。この対談を通じて、“自分のあり方”を起点に地域の未来を考えるヒントを垣間見ることができました。
糸島市にて屋外で対談。外には糸島市の美しい田園風景が広がっていました。
なお、対談中ずっと外でニワトリが鳴いていました(笑)