X Mile株式会社では、社員一人ひとりが持つ個性とポテンシャルを最大限に活かし、組織全体の成長へと繋げるため、長年にわたり「科学的なアプローチ」を重視した組織づくりを追求してきました。その基盤の一つとなっているのが、適性検査「MARCO POLO」のデータ活用です。
かつては採用選考の精度向上に活用していたところから、現在では中途社員の入社後の活躍支援のためにデータを活用しているとのこと。データとどのように向き合い、人と組織の成長をデザインしているのか? 今回はX Mile株式会社 COOの渡邉にX Mileが実践するデータ活用のリアルとその進化について、詳しく聞きました。
データドリブンな組織づくり、そして社員一人ひとりの個性を活かしたキャリア形成に関心のある方はぜひご一読ください。
なぜX Mileはデータ活用にこだわるのか? 感覚だけに頼らない組織づくりの思想
――まず、X Mileが採用や人材育成において、適性検査などのデータを重視する背景について教えていただけますか?
渡邉: 当社は創業以来、事業活動全般においてデータや情報を蓄積・活用し、意思決定の質を高めることを大切にしてきました。それは「人」に関しても同様です。採用や育成といった場面で、面接官の経験や感覚といった主観的な要素だけに頼るのではなく、客観的・定量的なデータも組み合わせることで、候補者の方や社員一人ひとりの特性をより深く、多角的に理解したいと考えています。それが、より良いマッチングや個々の才能開花に繋がるという思想が根底にあるのです。X Mileでは経験や勘といった属人的な判断に偏ることなく、データという客観的な指標も踏まえながら採用や配置といった重要な意思決定を行っています。
――データに基づいた客観性を重視されている中で「MARCO POLO」という適性検査を活用し始めた理由は何でしょうか?
渡邉: 「MARCO POLO」は、心理学や行動科学の研究に基づき、ビジネスシーンにおける個人の特性を測る「ビッグファイブ理論」といった信頼性の高い指標をベースに開発されています。学術的な背景がしっかりしており、個人の持つポテンシャルの見極めやどのような環境・役割で力を発揮しやすいのかを把握する上で非常に有効なツールだと判断しました。
データ分析で見えた「多様な活躍のカタチ」。面接だけでは分からない個性とは
――長年「MARCO POLO」のデータを蓄積されてきた中で、どのような分析を行い、何が見えてきたのでしょうか?
渡邉: はい、これまで蓄積してきた数百名の社員データをもとに、統計的な分析(クラスター分析 ※後述)を実施しました。その結果、社員の性格特性は大きく7つの異なるクラスター(グループ)に分類されることが分かりました。
――7つのクラスターですか。具体的にはどのような特徴が見られたのでしょうか?
渡邉: 例えば「クラスター1」は非常に外向的でコミュニケーション能力が高く、周囲を巻き込みながら物事を推進していく、いわゆる営業職などで高いパフォーマンスを発揮する傾向が見られました。
一方で「クラスター7」の場合は物静かですが探求心が強く、専門性を深く掘り下げていくタイプで、管理部門や専門職で活躍しているメンバーが多い傾向にあります。
また、真面目で誠実、着実に物事を遂行する「クラスター5」は、管理職としてチームを安定的に率いる場面で力を発揮するといった具合です。
――なるほど、多様なタイプの活躍パターンがあるのですね。
渡邉: その通りです。重要なのは、特定のクラスターが絶対的に優れているというわけではないということです。クラスターごとに強みや思考・行動の特性があり、それが活きる職種や環境が異なることを意味します。そして、こうした多面的な個性やポテンシャルは、従来の面接だけではなかなか見極めるのが難しい部分でもあります。このように様々なタイプごとに活躍の可能性を客観的に可視化できたことは大きな発見でした。
かつての選考活用と、そこから得た学び。より良いマッチングを目指して
――社員データに基づく7つのクラスターを元に、選考プロセスを最適化していた時期もあったそうですね?
渡邉: はい。「MARCO POLO」の導入当初は選考の過程でより多角的な視点での理解が必要だと判断した候補者に限り補足的に受検していただく形をとっていました。
そこから既存社員の分析データを元に改善を重ね、原則として選考初期段階で候補者の方全員に受検いただき、その結果を採用判断の一つの参考情報とする形に変更しました。受検結果として、統計的に見て当社の特定の職務とのマッチングに慎重な検討が必要とされるクラスターに該当した場合は、面接の動画を別の評価者が確認したり、追加の面接を実施したりするなど、より多角的な視点から慎重に検討するプロセスを設けました。
――全員に一律で実施する形に変更したんですね。その取り組みによる効果はいかがでしたか?
渡邉: この取り組みにより、入社後のミスマッチ、つまり「期待されていた役割と本人の特性が合わない」「本来の力を発揮しきれない」といった状況が発生する可能性を、事前に低減する効果がありました。データという客観的な視点が入ることで、より候補者の方にとっても、当社にとっても、納得感の高いマッチングに繋げやすくなったと感じています。
現在はこれまでのデータ蓄積と分析、そして選考プロセスでの活用経験を経て、活躍が期待できる人材の傾向把握や選考における評価基準がある程度確立されてきました。そのため現在は、選考段階での「MARCO POLO」の必須受検は一旦休止していますが、精度の高いデータの蓄積に効果的だったと感じています。
選考から入社後へ。データ活用のネクストステージとその狙い
――現在は「MARCO POLO」をどのように活用されているのでしょうか?
渡邉: 現在は活用の軸足を「入社後の活躍支援」に移しています。具体的には入社時に全員に「MARCO POLO」を受検していただいています。その目的は大きく二つあります。
一つは、社員自身の「自己理解」を促進することです。検査結果を本人にフィードバックし、自身の強みや思考・行動の特性を客観的に把握してもらうことで、主体的なキャリア形成やセルフマネジメントに役立ててもらうことを期待しています。
もう一つは、上司による「マネジメントの質の向上」です。本人の同意を得た上で、上司も検査結果を参考にメンバーの特性を理解し、日々のコミュニケーションや育成、1on1ミーティングなどに活かしてもらうことを想定しています。これにより、一人ひとりの個性に合わせた、より効果的なマネジメントが実現できると考えています。もちろん、これらのデータ活用は、社員本人のキャリアに対する希望や意向を十分に尊重したうえでさらなる活躍を下支えするためのものとして進めています。
データ活用のリアル:成功の裏側と、これから目指すもの
――データ活用を推進する上で、難しさや注意点などはありましたか?
渡邉: やはり意味のある分析を行うためには、ある程度の「データ量(n数)」が必要になる点ですね。実は過去にも何度か分析を試みたのですが、データ数が不足していたため、信頼できる示唆を得るのが難しい時期がありました。創業当初から地道に適性検査の運用を続け、長年にわたってデータを蓄積してきたからこそ、今回の分析と活用が可能になったという背景があります。これは、これからデータ活用を始めようとする企業にとっては、一つのポイントになるかもしれません。
また、繰り返しになりますが人の活躍は適性検査の結果だけで決まるものではありません。配属先の環境やチームとの相性、本人の意欲など、多くの要因が影響します。データはあくまでも可能性を示唆するツールであり、絶対的なものではない、という認識を持つことが重要です。
――最後に、今後の展望と、この記事を読んでいる方へのメッセージをお願いします。
渡邉: 今後は、入社後の活躍予測のデータ活用をさらに進化させ、社員一人ひとりのエンゲージメント向上やキャリア開発支援に繋げていきたいと考えています。将来的には、各クラスターの特性に応じた育成プランのヒントや、効果的なチーム編成などを、データに基づいて提案できるようになるかもしれません。
X Mileが目指しているのは、データによる客観的な視点と、面接や日々のコミュニケーション等血の通った対話から得られる視点の両方を大切にしながら、社員一人ひとりが自分らしく輝ける環境を創り上げていくことです。
データ活用も取り入れながら、真摯に愚直に「人」と向き合う組織づくりに共感いただける方や、ご興味をもっていただけた方は、ぜひカジュアルにお話ししましょう。お会いできるのを楽しみにしています。
※今回用いた分析手法について
本記事で触れた分析は「クラスター分析」という統計手法を用いています。これは、多くのデータの中から、似た特徴を持つものを集めてグループ(クラスター)に分ける手法です。個人の性格特性のような多次元的なデータを、いくつかの分かりやすいグループに分類し、それぞれの傾向を把握するのに適しています。