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写真左:アナリティクスグループ グループマネージャー 宮崎 耕助
写真右:システム運用グループ インフラ構築保守チーム 岡田 泰弘
国内最大級のフードデリバリー サービスを運営する株式会社出前館(以下、出前館)。地域の人々の幸せをつなぐライフインフラになることをビジョンに掲げる同社では、エンドユーザー、加盟店、配達員という 3 者の満足度をさらに高め、より品質の高いサービスの提供につなげるために、データ分析の基盤となるデータ ウェアハウスの BigQuery への移行を実施しました。この移行プロジェクトの担当者 2 名に話を伺いました。
データ ウェアハウスを BigQuery に一本化することで、集客・注文・ユーザーを組み合わせたデータ分析を実現
アクセスログに対してのみ BigQuery が採用されていた理由としては、 クエリ レスポンスの速さや、Google アナリティクス 4(GA4)、Firebase との親和性の高さが挙げられると、アナリティクスグループ グループマネージャーの宮崎 耕助氏は説明します。
出前館では、注文の処理やドライバーへの指示を行うバックエンドのシステムを他社のクラウド サービスを利用して構築しています。そのため、データ分析の基盤となるデータ ウェアハウスについても、同じクラウド サービスのプロダクトを利用していました。一方で、Web サイトおよびモバイルアプリのアクセスログを格納するデータ ウェアハウスについては、従来から BigQuery を利用していました。今回、出前館が実施した移行プロジェクトの目的は、この 2 つに分かれたデータ ウェアハウスを統合し、BigQuery に一本化することでした。2 か所に分断されているデータを統合することで、分析パターンの拡充や、パフォーマンスの向上といったメリットを得ることができるからです。
宮崎:もともと、アクセスログに対する BigQuery の採用は注文系のシステム構築とは別の独立したプロジェクトとして行われました。出前館のフロントエンドでは、Web サイトのアクセスログの取得に GA4 を、モバイルアプリのログ取得に Firebase を利用しています。これらのツールとシームレスに連携できる BigQuery は、アクセスログを適切な形式で格納して処理するのに最適な環境でした。
実際に BigQuery を利用した経験から、「アクセスログを SQL で直接操作して分析を実行できるのは画期的でした」と、その強みを語る宮崎氏。一方で、注文系システムのデータが異なるデータ ウェアハウスに格納されていることによる分析の限界も感じるようになったと言います。
宮崎:フード デリバリー事業の拡大に伴って、アクセスログ単体だけでなく、注文データと掛け合わせた分析へのニーズが高まってきました。より効果的な施策につなげるためには、集客と注文、そしてユーザーという 3 種類のデータを組み合わせた多角的な分析が不可欠です。しかし、アクセスログと注文データが分断された従来の構成のままでは、限定的な分析しか行うことができません。このことが、注文系システムのデータ ウェアハウスを BigQuery へ移行する大きなモチベーションでした。
データ ウェアハウスの移行にあたっては、注文系システム側に一本化するという選択肢もあったものの、「パフォーマンスや利便性の高さを考慮した結果、最終的には BigQuery の強みが上回るという結論に達しました」と宮崎氏は説明します。
宮崎:先行してアクセスログの分析に BigQuery を使用していた経験から、大量のデータを取り扱うには BigQuery ならではの高速なレスポンスが不可欠だと判断しました。グループ企業である Zホールディングス(Zホールディングス株式会社)や IT 系の企業のデータ分析基盤に BigQuery の採用が進んでおり、事例が豊富だという事実もこの決断を後押ししました。
分析レパートリーの拡大によって選択できる施策が増加、パフォーマンスも大幅に向上
システム構築を担当したシステム運用グループ インフラ構築保守チームの岡田 泰弘氏は、BigQuery への移行プロジェクトについて次のように振り返ります。
岡田:実は当初、私自身は注文系システム側へ統合する案を支持していました。インフラを担当する立場としては、その方がシステム構成をシンプルにできると考えたからです。その一方で、BigQuery のパフォーマンスに期待する気持ちもありました。従来のシステムだと、分析パターンによってはデータをチューニングしてからでなければレスポンスに非常に時間がかかるという状況が発生しており、将来的にシステムの利用者やリクエストが増えた場合の運用に不安を感じていたからです。
結果的に、BigQuery への移行は運用面の負荷の大幅な削減につながる最良の選択だったと岡田氏は話します。
岡田:従来システムにおける課題だったパフォーマンス面の問題については、BigQuery に移行したことで完全に解消されました。それまでレスポンスに数十分かかっていたような処理も、BigQuery では特別なデータ チューニングを行わなくても即座に結果を得られるようになりました。
事業部におけるデータ活用という点でも大きな効果を得られたと宮崎氏は続けます。
宮崎:当初の狙い通り、集客・注文・ユーザーの組み合わせによる多角的な分析が可能になり、EC ビジネスの根幹としての分析レパートリーが拡大したため、選択できる施策も大幅に増えました。例えばマーケティングにおいては、アクセスの流入元の分析を売上や注文に紐づけてレポートできるようになり、集客チャネルごとの費用対効果を可視化することができました。また、出前館では頻繁にキャンペーンを実施していますが、集客面でのキャンペーンの効果を見える化できるようになったのも、BigQuery に移行した成果のひとつです。営業チームからは店舗別の集客・コンバージョン率の分析ができるようになったことが好評を得ています。
実際の移行作業では、バック グラウンドにおける各データの使用状況の確認を含めた移行対象データの調整や、ETL(Extract / Transform / Load)機能の大幅な書き換えなどが必要でした。それにも関わらず、実際にシステムを使用する事業部のメンバーから不満の声が上がることはなく、スムーズな移行を実現できたと宮崎氏は言います。
宮崎:BigQuery のデータは、事業部側では BI ツールである Tableau のダッシュボードで見る形になっています。Tableau については従来より使用していたので、慣れ親しんだ画面構成を引き継いだのが良かったのだと思います。このダッシュボードの部分に関しても、BigQuery への移行で Tableau 用のデータを作成するバッチ処理のパフォーマンスと安定性は大幅に向上しています。パフォーマンスというのは、システムの利用者に意識されている時点で何か問題が発生している可能性が高いことを意味しています。事業部からの不満の声が上がってこないということ自体が、今回の移行に高い価値を感じてもらえていることの表れだと思っています。
事業の成長に伴い、分析基盤としての BigQuery の利用は拡大
出前館のフード デリバリー事業は現在も成長を続けており、分析業務の重要性も高まっています。分析基盤としての BigQuery の利用も拡大していくことが予測されるため、それに対応するためのシステムの強化やサービスの拡張も考えていかなければならないと宮崎氏は語ります。
宮崎:
まだ構想の段階ですが、Google Cloud に移行できたことの強みを生かして、Data Catalog などを活用したメタデータ管理や、Cloud Build、Cloud Composer を利用したデータ パイプラインの構築などにもチャレンジできないかと考えています。また、ダッシュボードの強化という観点では、現在 PoC を実施している BI ツールの Looker に期待を寄せています。現状ではある程度決められたクエリを再利用する形で分析を行う運用を取っており、事業部のメンバーが自発的に集計軸を切り替えた深堀り分析を実施することができていません。もし Looker を導入できれば、事業部で直接データ分析ができるようになり、より利便性の向上を図ることができると考えています。
その他、BigQuery に対するデータの反映をリアルタイムにするというニーズもあると岡田氏は言います。
岡田:現時点では、BigQuery へのデータの取り込みは 1 日 1 回の頻度で実施していますが、これをもっとリアルタイムに行えるようになれば、できることの幅がさらに広がっていくはずです。例えばアクセスログの分析結果を MA ツールに連携してユーザーに対するアクションにつなげるとか、本社からの配送指示やアラートを分析基盤から自動的に発行するなどといった機能を実現できるようになります。
これらのシステム強化へのチャレンジを続けていくために、出前館では採用にも力を入れているとのことです。
宮崎:現在は新しい環境への移行が完了したばかりの段階なので、この BigQuery 環境を育てていく余地はまだたくさんあります。このチャレンジに参加したい方の応募をお待ちしています。
※この記事は「Google Cloud 公式ブログ」に掲載されたインタビュー記事(顧客事例)を、許諾を得て転載しています。