- \ポジションは面談時に相談可/
- プログラムオフィサー
- ユースワーカー(企画・運営)
- Other occupations (19)
- Business
- Other
-野倉さんが2018年から携わっているアダチベースでは、どのような取り組みをされているのでしょうか?
アダチベースは経済的に困難を抱える家庭の中高生を対象に、週6日間開館している放課後の居場所で、地域の学校や行政と連携しながら運営しています。
私たちはこの場を「半分塾、半分おうち」と表現していて、学習支援や日々の食事提供などに加え、週1回程度の体験活動も実施しています。
学習面では少人数クラスでの授業や進学のための面接練習、志望校選びの相談などを行います。夕食はスタッフや地域のボランティアと一緒に手づくりすることも多く、食卓を囲む時間が日常の一部になっています。
文化体験では、浴衣を着て花火大会に出かける企画や、地域のバラ農園でのボランティア体験、さらにはアニメやゲームについて語り合う会もあるんですよ。
さまざまな背景を抱え、主体的に将来を選ぶことが難しい子どもたちが「生き抜く力」を育めるように――そんな思いで取り組んでいます。
-体験活動や食事の提供など、学習支援以外の取り組みにも力を入れているのはなぜですか?
子どもたちのなかには、「やりたいことがわからない」という状態の子が少なくありません。親御さんも塾や習い事に通うことが難しい経済環境のなかで育ち、学びの楽しさや可能性を実感できてこなかった、という家庭もあります。
そういう子たちがさまざまな体験を通して、刺激を受け、自分なりの発見や好奇心を得てもらえたらと思っています。
漫画やテレビの世界では、勉強嫌いの高校生が東大に受かるなどドラマチックでわかりやすい成功物語が多く描かれています。しかし、現実の世界では、そうしたわかりやすいドラマに出会うことはあまりありません。
私は、アダチベースで過ごすなかで、子どもたちがその子なりに成長していく姿を大切にしたいと思うんです。目立たない小さな変化かもしれませんが、そうした変化にこそしっかりと眼差しを注ぎたいと思っています。
-これまでに、そうした小さいながらも着実な変化を感じたことはありましたか?
ある女の子のエピソードが印象に残っています。彼女は中学生の頃からアダチベースに通っていて、学業の面で困難さを抱えており、地元の教育相談機関に通うなど、進学先に悩んでいました。特別支援学校や定時制高校に進むか全日制高校にチャレンジするか、アダチベースのスタッフと相談を重ねた末、全日制高校へ進みました。
高校に進学した彼女を、私たちは地元のお弁当屋さんを手伝うボランティア活動に誘いました。彼女はこの活動で、初めてレジでの接客に挑戦したのですが、「いらっしゃいませ!」と元気に声を出し、お客さんに積極的に話しかける姿が印象的でした。
ある日、売れ残りそうだった最後のお弁当を見て、彼女はお客さんに「よかったらどうですか?」と自分から声をかけました。すると、「じゃあ、これいただくわ」と買ってくださった方がいたのです。
このやり取りは、傍から見ればどうってことないのかもしれません。けれど彼女にとっては、“自分の声が誰かに届いた”という実感のある、初めての成功体験だったのです。
それがきっかけで接客という仕事に興味を持った彼女は、その後、コンビニのレジバイトに応募。採用されてから2年以上勤め、今も大学に通いながらその仕事を続けています。
-その経験が、彼女に何をもたらしたと思いますか?
「誰かに必要とされる」「やってよかったと思える」――そんな初めての体験が、その子の中に自己肯定感の種をまいたと感じています。
ケ(日常)があるからこそ、ハレ(特別な瞬間)に意味が生まれる。私にとっても、小さな変化をどう重ね、どう仕組みとして支え続けるかという“ベースを整える”視点が芽生えた出来事でした。
-2024年4月からアダチベースの事業責任者になりました。その役割を通じて、どんなことを考えるようになりましたか?
以前は年度単位の運営が中心でしたが、今は2〜3年後を見据えた事業設計を考えるようになりました。目の前の対応に追われるだけでなく、拠点の運営全体を見渡しながら、「こうありたい未来」から逆算して今やるべきことを見出していく。その視点で事業を捉えるようになったのは、事業責任者になってからの大きな変化です。
他団体や行政との調整、制度改善の提案などにも関わるようになり、アダチベース全体を俯瞰して考える機会が増えています。扱うテーマも広く複雑になりましたが、「これがやりたかった」と思えるような取り組みに近づけている実感があり、やりがいを感じています。
-責任者として感じている課題とは?
視野が広がる一方で、「どうやって持続的に組織を動かすか」「どこまで責任を持って取り組むか」といった問いとも向き合うようになりました。
民間企業なら、成果を出した者が報酬で報われる仕組みを整えることができます。しかし、NPOではそうした外発的な動機づけよりも、「自分たちでこの課題を解決したい」といった事業の意義への共感など、内発的モチベーションの設計がより重要になります。
そこで私が意識しているのは、チームで支援の「ゴール」を明確にし、共有することです。子どもたちがどうなったら事業がうまくいっていると言えるのか。その定義や達成への道筋や手法をみんなで言語化し、実践し、振り返って、また改善していく。
その繰り返しが、支援の質を高め、組織の力を底上げし、最終的にはより大きな社会の変化につながると考えています。
-アダチベースのこれからを、どのように考えていますか?
たとえ経済的な事情など家庭環境に制約があっても、やりたいことに挑戦できる。そんな選択や努力が当たり前に認められる社会に近づけるように、これからも小さいけれど確実な一歩を積み重ねていきたいと思っています。
アダチベースに来る子どもたちに「この場所があるから、少し頑張ってみようと思えた」と感じてもらえるような、そんな希望の光のような存在でありたいですし、中高生たちの中に「チャレンジしてみたい」という意欲が広がるように新しい出会いを増やす工夫もしていきたい。
アダチベースという拠点が、そんな渦の中心になれるように育てていけたらと考えています。
-今後、アダチベースにどのような人に参加してほしいと思っていますか?
NPOの仕事は、明確な答えが出にくい課題に対して仮説を立て、仲間と対話しながら手探りで進んでいくことが多いと感じています。そういう意味で、やりがいだけでなく、深く考える力が問われる仕事だと思います。
仕事に熱意や愛情がある人ほど、NPOという場で本質的な力を発揮できると思いますし、そうした人たちと一緒に、信頼できるチームをつくっていきたい。目の前の子どもや仲間との関係の中で得られる実感や変化を大切にできる人に、ぜひ仲間になってほしいです。
NPOがもっと力をつけることができれば、今まで支援が届かなかった層にも手を差し伸べられるかもしれない。そんな社会のあり方を、私自身も少しずつ形にしていけたらと思っています。