AIがあらゆる産業を変えていく今、
「人の手でつくる力」が、改めて見直されようとしています。
そんな時代の中、11月5日、インドで「女性向け製造コース」の入学式を開催しました。
新しい制服に身を包み、未来を見つめる女性たちの瞳は、本当に力強いものでした。
この日を迎えられたのは、日々ご支援くださる皆さま、そしてコツコツと準備を重ねてきた仲間たちのおかげです。改めて、心より感謝いたします。ありがとうございます。
なぜ、このコースをつくったのか
oyakataスキルトレーニングセンターは、インドにおける“日本式ものづくり教育”の拠点として設立され、建設業・製造業を目指す若者に指導を行ってきました。しかし、その対象は男性に限られていました。
今回新たにスタートした女性向け製造コースでは、
- 組立・検査・品質管理の基礎技術
- 5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)
- 時間管理・チームワーク
- 「精密さと誠実さ」という日本式のものづくりマインド
を体系的に学び、女性が製造現場で活躍できる力を身に付けることを目的としています。
この挑戦は、インドにおける女性の労働参加促進という社会的課題に応えると同時に、
日本の製造・建設分野が抱える“慢性的な人材不足”という構造課題にも応えるものです。
インドでは女性労働参加率が約32%とG20諸国の中で最も低く、
世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数でも 131位/148カ国。
「働きたい」「学びたい」と願っても、スタートラインに立つことすら難しい現実があります。
一方、日本では、就業人口減少により「働き手が見つからない」状況が加速しています。
だからこそ、
“教育”という橋でこの二つの課題をつなぐ。
努力した人が、チャンスを得られる仕組みを作る。
これこそ、私たちアイティップスが挑戦しているテーマなのです。
AI時代における「手に職」の価値
世界は今、AIの登場によって急速に変化しています。
ご存じの方もいると思いますが、今アメリカでは
「ブルーカラー・ビリオネア」 という言葉が注目されています。
AIの普及によってホワイトカラーの仕事が減少し、
一方で 「人の手でしかできない仕事」 の価値が急激に高まっているという現象です。
実際、今回の女性コースにも、
英国の大学で情報工学を学んだ学生 が入学しました。
かつて花形とされたIT業界を目指していた若者が、
いま製造業の現場を選び始めています。
理由はただひとつ、ホワイトカラーの求人が急激に冷え込んでいるから。
これは単なる一部の変化ではなく、世界的な潮流です。
そしてこの流れの影響を、インドはより強く受けるでしょう。
インドの若者の失業率は、構造的に今後さらに上がっていくと考えられます。
私たちはこの現実を、正面から受け止めなければなりません。
一方で、再評価されているのが
「人の手」「誠実さ」「積み重ねる力」
――つまり、“日本式ものづくり”が大切にしてきた価値そのものです。
AIによって代替できない領域でこそ、
人の手で生み出される価値、そして誠実に積み重ねる力が輝きます。
私たちが取り組む“日本式ものづくり教育”は、
その価値を次の世代に伝える挑戦でもあります。
40歳の自分に課した約束
昨年、私は40歳という節目を迎えるにあたり、
さまざまな目標や挑戦を自分自身に課していました。
その中でも、どうしてもこの1年で必ず形にすると決めていた約束がありました。
それが、
「女性向けの訓練コースを立ち上げること」
そしてこの一年、皆さんのおかげで、それを形にすることができました。
リクルーティング、教材やカリキュラムの作成、
教室や寮や通学手段の手配、式典運営――
私が日本とインドを往復する日々の中で、現場を支え続けてくれたメンバー
一人ひとりの力が積み重なり、当日の景色が生まれました。
入学式で、制服に身を包んだ女性たちが誇らしげに前を向く姿を見た瞬間、
胸がぎゅっと熱くなりました。
この景色は、誰一人欠けても生まれることはありませんでした。
心から感謝しています。 本当にありがとうございます。
自分のルーツに想うこと
私はインド人の父と日本人の母のもとに生まれ、3人の娘の父でもあります。
高校まで、インドは冠婚葬祭で訪れる程度。
文化的にも日本の方が肌に合っているとずっと思っていました。
しかし、仕事でインドに向き合うようになり、気づきました。
インドには、強さがある
日本には、深さがある
そして、どちらの価値にも私は自然に触れながら育ってきたのだと。
日本がもつ、勤勉さ、誠実さ、技術の深さ
インドがもつ、突破力、レジリエンス(立ち直る力)、変化への適応力
この二つが掛け合わされば、
双方抱える社会課題は必ず解決できる。私はそう強く信じています。
もちろん、アイティップスの挑戦はインドだけに留まりません。
今後はネパールなど周辺国へも広げ、
「すべての人」が努力によって未来を切り拓ける仕組み をつくります。
すべてのがんばる人に、幸せを
“oyakata”とは、日本の職人文化に由来し、「人を育てる存在」を意味します。
ただ、oyakataの哲学は、単にスキルを教えることではありません。
努力を尊び、努力が報われる社会をつくる。
それが、私たちの掲げる理念
「すべてのがんばる人に、幸せを」です。
そして、今ここから新しい物語を歩み始めた女性たちが、
「自分の力で未来を変えた」と胸を張れる日が来るまで、
私たちは伴走し続けます。
これからも、一緒にがんばりましょう。
努力を尊び、努力が報われる社会をつくっていきましょう。
引き続きよろしくお願いいたします。
日本のうどんを試食する生徒たち
※本稿は、社内メンバーに向けたメッセージをもとに作成しています。