Yozo Otsukiのプロフィール - Wantedly
合同会社Kurasu, CEO 京都生まれ。幼少時代はマンハッタン、ニューヨークで育ち、高校からカナダに留学。ウォータルー大学卒業のち、ゴールドマンサックス証券日本法人入社。 日本の文化を世界へ伝えたい思いと、幼い頃に両親がジャズ喫茶を営んでいたことに影響を受け、日本のコーヒー文化の魅力に着目。 ...
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京都を拠点とするスペシャルティコーヒーショップKurasuは、このたびドバイに新店舗「Kurasu Dubai」をオープンしました。
中東のハブであるドバイは、お酒の代わりにコーヒーが社交のツールとなり、華やかな街並みの中でコーヒー店がひしめきあう巨大なマーケット。本記事では、Kurasuの創業者で代表のYozoが現地を訪れて感じた熱狂と勝機、中東コーヒーシーンの未来をお伝えします。
── ドバイ進出おめでとうございます!意外にもYozoさんご自身は、今回が初めてのドバイだったそうですね。
ありがとうございます。そうなんです、実は僕も今回が初めてでした。世界中いろんな場所に行っているイメージがあるみたいで驚かれるんですが、今回が初訪問、しかもいきなり出店というかたちで(笑)
無謀な試みでしたが、無事に店舗をオープンでき、ドバイの街やコーヒーカルチャーについても深く知ることができて本当に良かったです。
── そもそも、なぜ今回ドバイへの進出を決めたのでしょうか?
中東全体がマーケットとしてものすごく大きく、急成長しているのが一番の理由です。
サウジアラビアやカタールといった周辺国も含めて、市場そのものがどんどん拡大しています。サウジアラビアのように、国策としてコーヒー産業への投資を推進している国もあり、人々のコーヒーに対する熱量が非常に高いんです。
また、これはインドネシアでも感じることですが、宗教上の理由でお酒を飲まない文化圏では、コーヒーがその代わりを担っています。友人との交流の場、出会いの場、最初のデートスポットとして、コーヒーショップが人々の生活に深く根付いているんです。
以前から中東への進出のお話はあったのですが、なかなか条件が合わず、2年ほどかけて準備や調整を進めて、ようやく開店に漕ぎつけました。ドバイは中東のハブなので、ここを拠点にさらにブランドを展開していけるのではと期待しています。
── 実際に訪れてみて、ドバイの街や文化にはどんな印象を受けましたか?
何もない砂漠からわずか十数年で生まれた近代都市で、良くも悪くも「作られた」感じが強いと感じました。今の時期だと気温が50度になったり、もともと砂漠なので砂埃がすごかったりするので、基本的に移動手段は車です。歩いて5分ぐらいの距離でも、車で行く。僕が慣れ親しんだ京都は、基本的に徒歩か自転車で移動する街ですが、それとは全く違う雰囲気です。
ドバイは経済的に非常に豊かな場所なので、街には近代的な建物やお店がたくさんあります。ミシュランの星付きレストランや世界的なブランドが軒を連ね、活気があります。
エミラティと呼ばれるローカルの人々は2、3割しかいないと言われていて、7〜8割が海外からの移住者です。エミラティはあまり働いておらず、働いている人のほとんどが移民の方々のようです。外食率がすごく高く、家であまり料理する人はいないという話も聞きました。
── そんなドバイのコーヒーシーンは、どのような状況なのでしょうか。
コーヒー屋さんの数は異常なほど多いです。あるインフルエンサーの方のマップを見せてもらったら、ピンで地図が見えないくらいでした。人口比率で言うと750人に1軒、UAE全体で8,000軒、ドバイだけでも5,000〜6,000軒はあると言われています。それほど大きくないドバイの街に、それほどのコーヒーショップがあるのは本当に驚きです。
ただ、その多くがまだ浅煎りのスペシャルティコーヒーには到達していない印象で、豆の鮮度や品質、お店のブランディングまで含めてバランスが取れているお店は意外と少ない。「落ち着いた空間で、高品質な浅煎りのハンドドリップコーヒーが飲める場所がない」という声をお客様からよく聞きます。
── Kurasu Dubaiへの反応はいかがでしたか?
嬉しいことに、想像以上の反響をいただきました。海外では抹茶ラテやミルクベースのドリンクが人気なのですが、ドバイではハンドドリップを注文される方が非常に多く、手応えを感じています。もともとKurasuのオンラインストアで日本製の器具を買ってコーヒーを始めたというファンの方も多くいらっしゃって、本当にありがたいですね。
また、ドバイでは「日本ブーム」も感じました。特にコロナ後、日本を訪れて、日本の良さを肌で感じておられる人がすごく多い。その中で、日本食や日本にインスパイアされた商品の数も増えているようです。「日本のブランド」「京都を拠点とするブランド」ということで、Kurasuへの注目度も上がっているように思います。
── 客層もユニークだと伺いました。
はい、営業時間が朝8時から夜11時までと長いのですが、時間帯によって客層が全く違うのが面白いです。
朝は、ワークアウトやランニング終わりの欧米系の移住者の方々が、コーヒーをテイクアウトしていきます。店舗周辺には金融機関や大企業のオフィスがたくさんあるので、そういうところで働いている人たちかもしれません。
お昼以降は家族連れや、日本人の方もたくさん来てくださいます。ドバイには日本人が3,000人ほどいると聞きました。日本人コミュニティもあるみたいですね。
そして夜になると、エミラティと呼ばれるローカルの方々が多く来店されます。ドバイでは夜型の人が多いようで、コーヒーショップに行くのもバー感覚。「みんなで飲みに行こう」と言って飲むのがビールじゃなくてコーヒー、そんな感じです。つまり、コーヒーショップが夜の社交場になっているんですね。
── 朝昼晩でメニューを変えるのも面白そうですね。
そうですね。インドネシアの店舗では、夜専用のメニューとしてカクテルを出しています。でも、ドバイのお客様はそもそもアルコールを飲まないので、それとは違うアプローチが必要ですよね。ちょっとお酒っぽい雰囲気のドリンクとか、シグネチャードリンクのようなものが考えられるかもしれないですね。
── ドバイって家賃もすごく高そうですが、そのあたりの事情はどうですか?
家賃はそれなりに高いですが、べらぼうに高いというわけでもありません。しかし経営面を考えると、1店舗だけでは厳しいと思います。
最初の店舗、そして次の2、3店舗を成功させていくうちに、「こんないい条件でどうですか」「1年間家賃タダで良いですよ」「施工費を出しますから入ってください」というふうに、向こうから声がかかるようになります。最初の数店舗で「私たちはこんなふうにお客様を集められるブランドです」と発信できれば、次につながっていく。そういう事業戦略を持っておくのがすごく大事です。
そうやって店舗が増えていくうちに、オペレーションやロジスティクス、マーケティングといったバックオフィス周りもどんどん強固になっていきます。個人でやるのであれば1店舗でも良いのですが、しっかりチームを作っていきたい、バックオフィスを強固にしていきたいと思うなら、複数店舗の展開が必要です。1店舗では、そういう部分に投資するのが難しいんですよ。
Kurasuでは向こう1〜2年で少しずつ店舗を増やしながら、コミュニティづくりと認知度向上をしっかり目指していきたいなと思っています。
── なるほど。Kurasuは今後、中東エリアでどのような展開を目指していきますか?
ドバイには「6ヶ月ルール」という暗黙のルールがあるそうです。オープン景気で最初は注目されても、6ヶ月経つと忘れられたり、クオリティが落ちたりするお店が多いと。僕たちはそうならずに、長く愛されるブランドを目指したいです。
そのためには、コーヒーへのこだわりとビジネスのバランスが重要です。ドバイではその両立が難しいのか、バランスの取れたお店がまだ少ないように感じます。だからこそ、僕たちには大きなチャンスがある。
まずはドバイで数店舗を成功させ、Kurasuというブランドをしっかりと根付かせたいです。東南アジアでシンガポールをハブにしたように、ドバイを拠点に他の中東諸国へも展開していくのが目標です。
── 最後に、Yozoさんが今ドバイで注目しているコーヒーロースターやカフェがあれば教えてください。
ドバイで今、頭一つ抜けているのが「Archers Coffee(アーチャーズコーヒー)」です。彼らはカフェを持たず、焙煎と卸売に特化しています。展示会では巨大なブースを構え、チームの知識も豊富で、圧倒的な存在感を放っています。
そんなArchersが手掛けるカフェブランドが「Benchmark(ベンチマーク)」。ショールーム的な位置づけのようですが、フードもとても美味しかったです。ドバイに行くなら、ぜひKurasuとBenchmarkに訪れてみてください!