時代の先を読み、365日「おいしい!」を届ける挑戦|ナリコマグループ会長 竹内 美夫・社長 竹内 克成
「“ALL for ONE SPOON” 食の可能性をデジタルで広げ、『一さじの喜び』を届け続ける」
食事を通して人々に生きる喜びを届けるべく、高齢者福祉施設や医療機関向けに食事サービスを提供する、株式会社ナリコマホールディングス(以下、ナリコマ)。大阪府大阪市に本社を構え、関西を中心に成長を続け、この春からは東京拠点にも力を入れ、全国にサービスを拡大しています。
創業以来変わらず、ナリコマの根底にあるのは「ナリコマの食事を食べる方に『おいしい』という幸せを届けたい、そして施設の厨房やナリコマの従業員が生きがいを持って働けるような環境をつくりたい」という想い。
ナリコマの歴史、技術、想い、そして未来を紐解くべく、ナリコマグループ会長 竹内 美夫とナリコマグループ社長 竹内 克成に詳しく語ってもらいました。
なお記事の執筆には、株式会社ストーリーテラーズさんにご協力いただきました。
ルーツは大衆食堂と弁当屋![]()
「ナリコマは、創業者である私の父が、戦後大阪で開いた大衆食堂と弁当屋がルーツ。布団屋の軒先を借りて、遅くまで町工場で働く女工さんたちに夜食を届けるところからスタートしました」
そう語るナリコマグループ会長 竹内 美夫。会長は大人用自転車にも乗れない幼少期から、どんぶりを抱えて店の配達を手伝っていたと振り返ります。
「家族みんなで助け合い、本当によく働きましたよ。
店が少しずつ大きくなり、父はテレビや電話を真っ先に設置しました。父には『時代を先取りする目』があったんでしょうね。当時テレビは高価で、なかなか一般家庭で購入できるものではなく、『ちょっとテレビ観に食堂に行こうか』といらっしゃるお客さんもいました」
時代に先んじた発想と行動力、そして「人のために働く」という父親の精神は、幼い会長の心に深く刻まれていきました。
挑戦を決意した、福祉施設での衝撃の出会い![]()
事業が軌道に乗ってきたある日、会長は、日頃から弁当を届けていた幼稚園の理事長から、「福祉施設も経営しているんだけど、厨房の運営に困っていて。食事の提供を行ってもらえない?」と声をかけられました。
「最初は何度も断りました。毎日数百人分の三食の食事を製造するなど、当時の小さな工場では到底できることではなかったからです」
そんなある日、その福祉施設に足を運んだ会長は衝撃を受けます。
「施設の行事の日に、お年寄りの方々が本当に楽しそうに食事されていて。『戦後の大変な時代に、自分を愛情深く育ててくれたおじいちゃんおばあちゃんには、苦労をかけっぱなしだった。こんな笑顔、おじいちゃんおばあちゃんにもさせたかった…』と複雑な想いになりました」
しかし、そこで目にしたのは、ドロドロな見た目の「介護食」。
「料理は全部ミキサーにかけられ、ドロドロの状態でした。
『この方々は、戦後の日本の復興を支えてきた人たち。もっと目にも舌にもおいしい、食事らしい食事を届けたい!』
そう思い、私はこの施設に食事を提供する決意をしました。それがナリコマの挑戦の始まりです」
全ての人に「おいしい」を届けるための挑戦![]()
福祉施設に食事を届けることを決めたものの、予算は限られ、人手も足りない。厨房で働くスタッフたちへの負担も大きく、品質の安定にはほど遠い状態でした。
「当時は、施設ごとに栄養士さんが献立をつくり、パートさんが調理していました。でも、それでは味も見た目もバラつきが出てしまいまして。『どの施設でも、同じようにおいしい』という状態を作り出すには、環境整備が全く追いついてなかったんです」
そして会長が、業界に先駆けて導入を進めたのが「セントラルキッチン方式」。各施設での手作りではなく、大型工場で一括調理を行い、全国の施設へ同じクオリティの食事を届ける。それを形にしたのが、現在のナリコマの主力事業である「クックチル方式」です。
「調理して50分以内に一気に冷却して、真空パックで封じ込めるんです。菌の繁殖を防ぐために、再加熱時には中心温度65℃以上になるように徹底して。施設では再加熱するだけで、すぐに美味しく食べてもらえるんです」
この方式により、深刻な人手不足を抱える介護・医療現場においても、手間を抑えて、高品質な食事を提供できるようになりました。
さらにナリコマでは、季節や行事に合わせて、ちらし寿司やにぎり寿司、刺身などの生ものの提供にも、積極的に取り組んできました。
「生ものは、従来リスクを伴うため、福祉・医療施設の食事では敬遠されがちな食材です。しかし、当社では衛生管理体制を徹底し、安心して食べていただけるよう努力しました。
人生の華やかな場面には、やはり寿司がありますよね。その楽しみを届けたかったんです」
そして、ナリコマの献立は365日3食、全て異なるメニュー。「日々の食事が人生の彩りになるように」という想いが、現場の隅々にまで息づいています。
「『ああ、今日もいい日だったな』と思っていただけるような食事を、全国どこでも、どんな方にも。クックチルは、そんな願いを叶えるための手段です」
「ありがとう」の言葉が走り続ける原点![]()
会長のバトンを受け継ぎ、現在ナリコマを牽引するのがナリコマグループ社長 竹内 克成。社長には、自身の原点となる福祉施設での出来事があると言います。
「山口県の福祉施設で、初めて配膳を担当した時に、ご利用者様が私に『ありがとう、美味しかったよ』とおっしゃった。私は調理したわけではなく、配膳を担当したのみでしたが、とても嬉しかったんです。
その言葉が、盛り付けや調理の方法を見直したり、工場の運営を改善し、『ご利用者様にもっと喜んでいただこう』と努力を続ける原動力になっています」
今では業界の常識になったクックチル方式。しかし、社長は「現状維持で立ち止まってはいけない」と考えています。
「今のやり方が5年後、10年後も通用するとは限りません。真空パックを温める手間すら負担になってしまう施設が、これから増えていくと思っています。ですから、また次のスタンダードを生み出さなくてはいけません。
人手不足、地方の過疎化、施設のリソース不足など社会の変化に対して、ナリコマは常に先陣を切って走り続けたいと思っています」
そのために、万博出展や異業種とのコラボ、予防医療へのアプローチなど、新たな取り組みにも意欲的です。また、ナリコマではDXを推進するため、30名を超える社内エンジニアが日々、営業・製造との連携を支える仕組みづくりを進めています。
「厨房業務において、人の手をかけるべき部分は丁寧に人の手で行う。一方で、機械化・DX化できる作業は、ITの力で効率化していくべきだと思っています。データやシステムを活用して、福祉・医療現場で働く方や当社のメンバーの負担を減らし、働く人を幸せにするのも私たちの使命です」
人を大切にする会社であり続けたい![]()
未来を見据えて、さまざまなチャレンジを行うナリコマ。日々変化し続ける中で、「時代が変わっても、社員に絶対に大切にしてほしい想いがある」と会長は語ります。
「会社は『人を大切にする社風』でないと、徐々に衰退してしまうと考えています。利益はもちろん大事です。でも、働く人が生きがいを持つことができ、お客様に喜ばれ、社会から必要とされる。そんな想いを忘れず、これからも発展し続けてほしいと願っています」
ナリコマの食事は、ただ栄養を摂るためのものではありません。
「おいしい食事を食べ、今日もいい一日だったと思ってもらえるように」
そんな願いを込めて、今日も工場で、厨房で、一食一食丁寧につくられています。
「クックチルのその先へ──」
ナリコマの挑戦は、まだまだ続きます。
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[執筆・校正]株式会社ストーリーテラーズ 平澤 歩
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