「働きたいのに、働けない」──。メディア・人材紹介・検索エンジンなど既存の仕組みの力をもってしても届かない現実に直面したとき、山下秀治さんは、社会の歪みに強い危機感を覚えました。情報さえ届けば働ける人が、環境や制度の隙間に埋もれてしまう。このままでは、自分の娘が大人になる頃も、同じような社会が続いてしまう。そう感じたことが、山下さんを突き動かした原点です。
現在は、各事業での業務コンサルタント、財務・システム設計・セキュリティといった“フロントから縁の下まで”を支える一方で、「雇用の仕組み」そのものを変えることにも挑んでいます。経営ボードメンバーの一人・山下さんに、これまでのキャリアとInterRaceの魅力、そしてHR業界の可能性について、伺いました。
InterRace株式会社 Vice President
山下 秀治
独立系SIerにて金融業界フロントエンドからバックエンドまでエンジニアリング、アビームコンサルティングにて業務改善・改革支援など業務・テクノロジーコンサルタント、パーソルキャリアにてA/P/転職メディア事業のプロダクト開発・IT責任者、HRTech企業にてIT・セキュリティ責任者を歴任。
異色のキャリアが切り拓いた挑戦の連続
──これまでのキャリアの歩みを教えてください。
私のキャリアは、いわゆる“新卒入社”という一般的なルートからは始まりませんでした。
小学生の頃から「自分の力で食べていけるようになりたい」と思っていた私は、家庭の事情もあり、できるだけ早く社会に出たかったのですが、親の希望もあって大学には進みました。ただ、そこで強く感じたのは「この場所は、自分の居場所ではない」という違和感です。3年間で必要な単位をすべて取りきり、私は次のステージへと舵を切りました。
それが海外の仕組みを知ることです。これからの時代を生き抜くには“お金”と“テクノロジー”の知識が必要だと考え、アメリカで3年間、会計学・税法・監査・商法を学ぶことに。何度か渡航・帰国を繰り返したあとはSIerに入社し、エンジニアとして開発業務からインフラ構築まで、幅広い領域を約6年間にわたり経験しました。
その後コンサルティングファームへ転職し、コンピテンシー組織(マトリクス組織の機能組織)に所属して約6年間、金融・リース業界をメインにさまざまな業界のプロジェクトを担当。さらにインテリジェンス(現パーソルキャリア)では社内IT企画に携わり、グループ横断のIT戦略や基盤づくりに約7年間取り組みました。
パーソルキャリアでは、年商約200億円超規模のメディア事業をメインに関わり、事業会社でのプロダクト開発責任者として物事の発想から着想、継続改善までひと通り経験しました。次はもっと大規模な組織か、あるいはゼロから立ち上げるようなチャレンジングなフィールドで力を試したい──そう考え、新たな環境を模索し始めました。
そして、新たな環境を探しているときに声をかけてくれたのが、Visionalグループの南さんだったのです。南さんとは、パーソル時代の同僚を通じて面識があり、南さんを通じて、Z ホールディングス株式会社(現 LINEヤフー株式会社)・Visionalによる合弁会社「スタンバイ」という新しい挑戦への扉を開くきっかけになりました。
いくつか紹介されたポジションの中でも、ゼロから立ち上げるフェーズに関われるスタンバイは、私の思考と合致していました。「ここならやりがいを一番感じられそうだ」と思い、挑戦を決めました。
自分が何者で、誰と働くか、そして何を変えるか──入社の決め手となった2つの理由
──InterRaceとの最初の接点は何だったんですか?
スタンバイの立ち上げに関わっていたときに、InterRace代表の桑田さんと出会ったのが最初のきっかけです。桑田さんは当時、スタンバイでC S Oを務めながら、すでにInterRaceを立ち上げていました。
その後、スタンバイの事業を進める中で、事業計画をブラッシュアップすることになったのです。改めて事業計画を組み上げていく中で、「この計画において、自分たちは次に何をやるべきか」という議論が、経営陣の間で始まっていきました。
ちょうどそのタイミングで、桑田さんと「新しい働き方をつくる」に関連する会話をするようになり、空いた時間にディスカッションするなど、自然な流れでInterRaceに関わるようになりました。
──最終的に、入社を決めた理由について教えてください。
大きく2つあります。
ひとつは、「誰と働くか」という“ヒト軸”のフィット感です。当時、いくつかの選択肢があり、期間限定の国家公務員のポジションや大手企業のCIOなど、ありがたいお声がけをいただいていました。ただ、いずれも最終的にはピンと来なかったのです。
特に各種面談を重ねる中で、「この人たちと仕事を通じて何かを変えていくには、また5〜10年かかるな」と感じました。だったら気心の知れた仲間とやるほうが、もっと迅速に自分のやりたいことを実現していけると思ったのです。
もうひとつは、日本の雇用構造に対する課題意識です。パーソルキャリア時代にアルバイト・パート領域のメディア事業でプロダクト開発責任者を務めながら、リサーチするなかで「働きたくても働けない人」が全国に数多くいる現実を知りました。スキルや意欲があっても、環境や情報、制度面のミスマッチで働く機会を得られない人が多い。そんな声を日々聞きながら、「このままでは自分の娘が大人になる頃も、同じような社会が続いてしまう」──そういう強い危機感を覚えました。
メディア+検索エンジンの力で雇用を変えられないか──。そんな思いで取り組んだスタンバイの事業を通じて、私は「求人情報を届けるだけでは限界がある」という現実に直面しました。どれだけ情報を広く扱えても、メディア+検索エンジンという枠の中では、本質的に労働市場を変えることは難しい。だからこそ、「人と仕事を本質的につなぐ仕組み」が必要だと強く感じるようになりました。
InterRaceが掲げていた「新しい働き方を創る」といった構想は、その思いにまさに重なるものでした。クライアントに直接向き合い、マッチングの仕組みそのものに関与することで、雇用の循環を根本から変えていく。そんな挑戦ができる環境に強く惹かれ、入社を決めました。
情熱と洞察を併せ持つ、変革に挑む商売人
──お付き合いも長いと思いますが、代表の桑田さんってどんな人ですか?
私が感じる桑田さんの魅力は、“少年の心を持ったまま、鋭い洞察力を失わない商売人”という点に尽きます。人材領域だけに閉じず、プロフェッショナルとして「働く」ことを横展開しようとしていて、それによって社会全体の労働を変えていこうという信念があります。そのあたりの考え方も自分としては共感するところが大きかったですね。
そんな桑田さんの洞察力は、採用面接の場にもよく表れています。たとえば、彼の面接を受けると、多くの人が少なからず驚くはずです。「志望動機は?」といった形式的な質問ではなく、「5年後、どうなっていたい?」といったキャリア観やその源泉に踏み込んだ問いかけを通じて、その人自身の思いや考えをじっくりと掘り下げていくからです。実際、そこまで明確なビジョンを描けている若手は多くありません。だからこそ、面接そのものが、あらためて自分自身と向き合う貴重な時間になってきます。
そのフラットで本質を突くやり取りに触れることで、「この会社は、本当に“人”を見ようとしている」と感じる人も少なくありません。実際、面接を受けたメンバーからは「自分が大切にしていることを再確認できた」という声も多く聞かれます。それ自体が、InterRaceという組織の価値を物語っているように思います。
尖るより、極限に広げる。キャリアは“面積”で描いていく
──元々エンジニアでしたが、今はどんな仕事をされているんですか?
今の役割を一言で言うと、「なんでも屋」です(笑)。InterRaceでは、会社の土台づくりやそのフェーズに必要なことを、その都度拾っていくような形で仕事をしています。たとえば、Pマーク(プライバシーマーク)の取得も進めましたし、事業に必要で会社全体が整合するデータモデルの設計も進めていました。裏側のシステム開発にも深く関わっていて、プロフェッショナル人材のデータベース設計やシステム構築にも携わっています。最近では、Visionalグループイン対応も進めており、大企業との連携の難しさをひしひしと感じています。
また、外部向けのコンサルティングや、個人としては、地方中小企業の(技術)顧問を務めたりしています。何か専門の肩書きがあるというより、「必要なことを必要なタイミングでやる」というスタイルで動いています。InterRaceではそれが自然に求められる環境で、自分にフィットしていると思います。
こうした幅広い領域に関わるようになったのは、実は過去の経験がベースになっています。エンジニアとしてキャリアを始めた頃、天才肌の人たちと同じ土俵で勝負し続けるのは正直しんどいなと痛感したからです。そこで、「一点突破」ではなく、レーダーチャートのように、限りなくできる領域を広げていくような成長──つまり、特定の何かに尖るのではなく、全体を極限まで高めながら円に近づけていくことに価値を見出すようになったのです。それは今も変わらず、自分のスタンスの根っこにあります。
グループインがもたらした“進化”と“加速”
──2024年にVisionalグループにジョインされました。その後InterRace内は何か変わりつつありますか。
Visionalグループとの連携によって、日本有数のプラットフォームとの連携ができるようになった今、「人材業界」という枠を超えた取り組みにも、本格的に挑めるようになりました。グループインによって得られたスピード感や成長スケールの加速は、私たち単独では実現し得なかったものです。
とはいえ、想定通りに物事が進むばかりではなく、やりたいことにたどり着くまでには多少の紆余曲折もありました。それを乗り越えた今、ようやく構想が形になりはじめ実現性検証フェーズに入ったと感じています。
InterRaceは、変化の中でこそ進化していけるチームです。グループインはその追い風となり、次のステージへの一歩を後押ししてくれていると思います。
──求職者と話していると、Visionalグループというのがが“大手からベンチャーを目指す人”にとっては一つの安心材料になっているようです。一方で、InterRace単体としての魅力はあると思います。秀治さんは、InterRaceの魅力をどこに感じていますか?
InterRaceは、何か目に見える商品やサービスを売っているわけではありません。だからこそ、「人」がすべて。集まるメンバーそのものが一番の魅力であり、最大の資産だと思います。
特に面白いのは、「あえて年収を下げてでも、ここで働きたい」と思って入社してくれる人が多いこと。リクルートやパーソルキャリアでバリバリやっていた人が、InterRaceを選ぶということも増えています。その背景には、「年収が下がる=マーケットバリューが低い」という現実をちゃんと認識して、それを高めていこうとするプロ意識があります。50代、60代になっても“個人として稼ぎ続けられる力”をつけたい、そう考えられる人には、この環境がオススメだと思います。
逆に言えば、大企業のように仕組みで回す仕事や、ある程度決まったことをこなす環境を求める人にとっては、正直きついかもしれません。InterRaceは常に変化していて、その変化を「面白い」と思えるかどうかが、フィットするかどうかの分かれ目なんじゃないでしょうか。
「やり尽くした」と感じる今こそ、挑戦のチャンス
ーー経験者だからこそ「もう十分」と感じるHR業界を、また今選ぶ理由とは、どんなところにあると思いますか?
確かに「もうやり尽くした」と感じる人もいるかもしれません。メディアや派遣、人材紹介など、成熟領域が多く、これまでと同じやり方ではインパクトを出しづらくなってきているのも事実です。既存の枠組みのなかでの“改善”では、変化の実感を得にくいタイミングに差しかかっていると感じます。
でもだからこそ、今は面白いタイミングでもあると思うのです。今の延長線上ではない、新しい雇用の仕組みや転職市場の在り方を生み出せるかどうか。そこに本気で取り組める人にとっては、HR業界はこれからが勝負のフェーズだと思っています。
私たちInterRaceが目指しているのもまさにそこです。既存の人材業界の枠に収まらず、「新しい働き方そのものを創る」ことに挑戦しています。たとえば、Visionalグループのもつプラットフォームと連携しながら、“個として働く”プロフェッショナルがもっと自由に力を発揮できるような仕組みを形にしていこうとしている。今のこの過渡期を「つまらない」と捉えるか、「変えられるチャンス」と捉えるか。そこで、再びHRを選ぶ意味も大きく変わってくると思います。
注目されている「タレントアクイジション」という考え方にも、私は大きな可能性を感じています。外部からの人材獲得にとどまらず、社内にいる人材をどう活かし、どう配置するかまでを一気通貫で設計・運用できる力が、これからの人事には求められると思っています。
InterRaceとしても、そういった視点をもって、人事担当者(採用担当者)に働きかけられるかが大切になってきます。私たちは、タレントアクイジションをただの採用手法とは捉えていません。むしろ、人と組織の可能性を最大化する“戦略の中核”だと考えています。あらゆるクライアントの経営にインパクトを与える存在へ──そんな進化の中に自分のキャリアを重ねたい人にとって、InterRaceは最高の実験場になるはずです。