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HR Tech Conference 2024 LasVegas エンジニア参加レポート

イベントの概要

2024年9月24日から26日にかけて、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大級のHRテクノロジーカンファレンス「HR Tech Conference 2024 LasVegas」に参加してきました。

このカンファレンスには、421社の出展者と7,200人以上の参加者が集い、非常に多くの企業や業界関係者が一堂に会しました。日本からの参加者も多く、国内外でHRテクノロジーへの関心が高まっていることを肌で感じることができました。

参加の目的

私たちWILLCOは、主に士業と医療の分野に特化した採用プロダクトの開発を行っています。より多くの方々に良い転職を支援していくためには、プロダクトの磨き込みが欠かせません。

そのため、最新のHR Techのトレンドを把握し、プロダクトに反映させることが必要不可欠と考えています。今回は、WILLCOからエンジニア2名を含む多くのメンバーがこのカンファレンスに参加し、グローバルなHRテックについて学んできました。

全体の印象

今回のカンファレンスでは、生成AIを含むAI活用の進化が中心的なテーマとして取り上げられていました。採用プロセスの効率化やタレントマネジメントの最適化にとどまらず、スキル評価やキャリア開発を通じて、戦略的な人材活用を支える基盤技術として、AIの重要性が強調されていました。

AIエージェントの進化

特に注目を集めていたのが、Paradox社のAIエージェント「Olivia」です。採用プロセスの自動化を実現するソリューションとして、高い関心を集めていました。候補者とのコミュニケーションをリアルタイムで行い、迅速なマッチングを可能にするこのプロダクトは、企業の採用課題の解決に大きく寄与すると評価されています。

一方で、ServiceNow社のAIエージェントを活用したHRサービスデリバリー(HRSD)ソリューションも注目を浴びていました。従業員のセルフサービスやプロセスのデジタル化を通じて、採用から退職までの人事業務を効率化する点が高く評価されています。特に、従業員からの問い合わせに即時対応するAIチャットボットや、業務プロセスを最適化する自動化機能は、企業全体の生産性向上と従業員満足度の向上に大きく貢献するとアナウンスされていました。

スキル中心型タレントマネジメントへの移行

スキルを中心としたタレントマネジメントへの移行も、今回のカンファレンスで特に強調されていたテーマです。従来の職務中心型のアプローチでは、学歴や職務経験に基づく固定的な評価基準が主流でした。しかし、急速に変化する労働市場においては、個々のスキルや能力に基づく柔軟な評価と配置が求められています。

このシフトをサポートするため、多くのプロダクトが出展されていましたが、中でも、Eightfold.aiのようなスキルの可視化とデータドリブンな配置提案を実現するツールが注目を集めていました。これらのプロダクトは、AI技術を活用して従業員のスキルや知識を詳細に分析し、適切な配置やキャリアパスを自動的に提案します。企業はスキルギャップを特定し、それに基づいた個別の学習プランやトレーニングを迅速に提供できるようになります。

このトレンドは、単なる効率性の向上だけでなく、従業員の潜在能力を最大限に引き出すことで、組織の持続的な競争優位性を築くという戦略的な視点を含んでいると感じました。スキルを軸とした人材活用は、働き手のエンゲージメント向上と企業の変化対応力を高める鍵となると考えられます。

今回のカンファレンスでは、AI技術やデータ活用によるHR業務の進化に加え、従業員体験やスキル開発に焦点を当てた内容が特徴的でした。その中でも、特に私たちが注目した2つのプロダクトをご紹介したいと思います。

1.Revelio Labs

Revelio Labsは、公開されている膨大な雇用データを収集・分析し、世界初のユニバーサルHRデータベースを提供する企業です。そのビジネスモデル、プロダクト、サービスにおける優れた点をエンジニアの視点から以下にまとめます。

Revelio Labsについて

Revelio Labsは、公共雇用データ、求人情報、従業員レビュー、解雇通知など、多様なデータソースを統合し、独自のアルゴリズムで整理・標準化したユニバーサル人材データベースを提供しています。このデータベースは、以下のような幅広いユーザー層に利用されています。

  • 投資家: 労働市場トレンドを基に企業パフォーマンスを予測。
  • 企業戦略担当者: 競合分析やスキルギャップ特定。
  • 採用担当者(HRチーム): 採用戦略や人材管理の最適化。
  • 研究者・政策立案者: 労働市場構造や雇用政策研究。

労働市場の透明性を高めることで、ユーザーがより良い意思決定を行えるよう支援しています。

技術的な強み

Revelio Labsのプラットフォームは、高度な技術力によって支えられています。以下にその主な技術的特徴を挙げます:

1. データ処理と標準化

  • 自然言語処理と機械学習 非構造化データ(例:履歴書や求人情報)を正規化し、職種名やスキルセットを統一基準で分類。これにより異なる企業間でも一貫性のある比較が可能になっています
  • クラスタリングアルゴリズム 重複する求人情報の排除や企業情報の正規化に高度なクラスタリング手法を使用し、大規模データの効率的な管理と分析が実現されています

2. 時系列データ補正

  • Bayesian Structural Time Series (BSTS) 報告遅延の影響を補正するためにBSTSモデルを活用し、リアルタイムに近い労働市場動向を提供しています

3. APIとインフラストラクチャ

  • APIアクセス データはAPI経由で提供され、ユーザーは必要なデータをリアルタイムで取得できるようになっています
  • 堅牢なインフラストラクチャ データ更新は毎日行われ、高い信頼性と迅速性が保証されています。ウェブサイト変更によるダウンタイムも数時間以内で修正されるようです

4. セキュリティとプライバシー

  • データ暗号化やコンプライアンス遵守など、セキュリティ面にも十分配慮されています

新製品「COSMOS」の革新性

特に印象的だったのは、新製品「COSMOS」の紹介です。この製品は世界最大規模の求人情報データセットであり、その特徴は以下の通りです。

  1. 膨大なカバレッジ
    • 525万社から収集した20億件以上の求人情報
    • データは100以上の言語に対応し、27万以上の企業ウェブサイトや主要な求人ボードから収集
  2. 詳細な解析と強化
    • 各求人情報にはリモートワーク適性、必要スキル、予測給与、福利厚生などが含まれています
    • 採用数予測も行い、単なる求人件数ではなく実際の雇用需要を反映しています
  3. ユニークな機能
    • 求人情報ごとに重み付けを行い、市場需要をより正確に把握
    • 常に最新情報が利用可能
  4. 多様な用途
    • 企業業績予測
    • 競合分析
    • 人材調達
    • 労働市場トレンド分析

COSMOSはその広範なカバレッジと詳細さから、人材戦略や市場分析において最も包括的なソリューションとなっています。

エンジニア視点での学び

  1. 効率的なデータ処理
    高度なクラスタリング手法による重複排除や正規化プロセスにより、大規模データ管理が効率化されています
  2. 柔軟なアクセス方法
    API経由でデータにアクセスでき、自社システムとの統合が可能です
  3. 信頼性とセキュリティ
    データ更新頻度の高さやダウンタイムへの迅速な対応など、高度なセキュリティ対策が取られています
  4. 革新的なアルゴリズム設計
    BSTSモデルやタクソノミー(階層分類)を用いた優れた労働市場動向の解析力が特徴です

総括

Revelio Labsは、高度な技術力と革新的アプローチで労働市場分析における新たな基準を打ち立てています。特に「COSMOS」はその包括的かつ詳細なデータセットで、人材戦略や市場分析ツールとして極めて有用だと感じました。

エンジニアとして彼らの技術的アプローチには強く惹かれました。今後もRevelio LabsがHRテクノロジー分野でどのように進化していくか注目していきたいと思います。

2.Kore.ai

Kore.aiは、企業向けの会話型AIおよび生成AIソリューションを提供する急成長中のテクノロジー企業です。彼らの主な目標は、顧客と従業員の体験を向上させることです。

Kore.aiについて

Kore.aiは、ノーコードで利用できるプラットフォームを通じて、企業がAIの力を活用しやすくすることを目指しています。特に、自然言語処理(NLP)と機械学習(ML)を駆使したバーチャルアシスタントやチャットボットの開発に注力しており、多様な業界でのユースケースに対応しています。たとえば、金融サービスやヘルスケア業界では、顧客サポートの効率化やコスト削減を実現しています。

技術的な強み

Kore.aiの技術スタックを分析していて、特に印象に残ったのは自動化へのアプローチです。

顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の向上を軸に、カスタマーサポートや社内の問い合わせ業務の自動化を実現しています。実際、ある大手クレジットカード会社での導入事例では、社内テクニカルサポート部門とのやり取りが劇的に改善され、問い合わせの無駄が大幅に削減されたそうです。 また、プラットフォームの柔軟性にも目を見張るものがあります。金融機関や医療機関など、高度なセキュリティやコンプライアンスが求められる業界でも、それぞれのニーズに応じたカスタマイズが可能です。システム開発に携わる身として、この柔軟な拡張性は非常に魅力的です。

技術面で最も注目すべきは、搭載されているAIエンジンの性能でしょう。自然言語処理(NLP)と機械学習(ML)を組み合わせ、95%という高い意図認識精度を実現しています。

さらに興味深いのは、従業員の生産性向上に対するアプローチです。日常業務における非生産的なタスクを効果的に自動化することで、従業員が本質的な業務に集中できる環境を創出しています。実際、多くの従業員がAIツールの活用を求めているという調査結果もあり、この需要に応える形で企業全体の効率性向上に貢献しているようです。

「RecruitAssist」の特徴

採用プロセスを効率化するRecruitAssistは、非常に興味深いソリューションです。私の所属する企業でも採用プロセスの効率化が課題となっていますが、RecruitAssistのアプローチは、その解決の糸口となりそうです。

  1. 革新的なスクリーニングシステム 最も印象的なのは、AIを活用した候補者スクリーニングシステムです。履歴書を迅速に解析し、職務要件との適合性を評価する機能は、採用担当者の作業負荷を大幅に軽減します。開発者として特に注目したいのは、このスクリーニングプロセスがブラックボックス化されていない点です。評価基準が明確で、かつ客観的なスコアリングメカニズムを採用しているため、プロセスの透明性が確保されています。
  2. スケジューリングの効率化 面接調整の自動化機能も秀逸です。候補者と面接官の予定を自動的にマッチングし、最適な面接スケジュールを提案してくれます。APIを活用したカレンダー連携により、スケジュール調整の手間が大幅に削減されます。開発経験上、このような自動化は意外と複雑なロジックが必要なのですが、RecruitAssistはそれを巧みに実装しています。
  3. データ駆動型の意思決定支援 採用データやパフォーマンス指標を可視化するダッシュボードも実用的です。採用チームは、応募者のトレンドや面接の効率性など、様々なメトリクスをリアルタイムで確認できます。私が特に気に入っているのは、これらのデータが単なる数値の羅列ではなく、実用的な洞察として提示される点です。
  4. バイアス削減と公平性の実現 技術的に最も興味深いのは、バイアス削減のためのブラインドスクリーニング機能です。性別や年齢などの属性を除外した評価を可能にする仕組みは、今後のAI開発において重要なレファレンスになるでしょう。また、このような機能は、多様性と包括性を重視する現代の採用ニーズにも合致しています。
  5. 候補者エクスペリエンスの向上 候補者側の体験も考慮されており、応募状況の追跡やFAQへの自動応答など、セルフサービス機能が充実しています。特に、チャットボットによる問い合わせ対応は、24時間365日のサポートを実現し、候補者満足度の向上に貢献しています。

出展:https://kore.ai/ja/recruitassist/

エンジニア視点での学び

実務において、私たちは複数のエージェントによる面談を実施していますが、どのようなアプローチを取った際によい結果が得られているのかが、これまでブラックボックス化されていました。各エージェントの経験やスキルに依存する部分が大きく、ベストプラクティスの共有や標準化が難しい状況でした。RecruitAssistを調査する中で、この課題に対する新たなアプローチが見えてきました。

これまで個々のエージェントの経験値として蓄積されていた暗黙知を、AIを通じてデータ化・構造化できる可能性です。例えば、面談での質問パターンやその効果を分析することで、より効果的なコミュニケーション手法を導き出せるかもしれません。

また、システム設計の観点からも学びが多くありました。

  • データの収集→分析→改善提案→実装というサイクルの設計
  • プライバシーとデータ活用のバランス
  • スケーラブルなナレッジ共有の仕組み

これらは、今後の開発プロジェクトでも活かせそうな知見です

総括

Kore.aiのアプローチは、エンタープライズAIの新たな可能性を示唆するものだと感じています。特に印象的なのは、技術的な革新性と実用性のバランスです。往々にして、先進的な技術は実用性との両立が難しいものですが、RecruitAssistは、その課題を巧みにクリアしています。

また、個人的な経験から言えば、エージェントの個人スキルに依存しがちな業務プロセスを、より体系的なものにできる可能性を示してくれた点も大きな発見でした。今後も引き続きKore.aiの動向を追いながら、自身の開発プロジェクトにも、ここで得た知見を活かしていきたいと考えています。特に、データ駆動型の意思決定とユーザー体験の向上という観点は、すぐにでも取り入れていけそうです。


まとめ

今回のカンファレンスへの参加を通じて、HRテクノロジーが予想以上の速度で進んでいることを実感しました。このような技術の進展は、単なる業務効率化にとどまらず、人材活用の戦略を根本から変えようとしています。AIエージェントによる採用プロセスの最適化と、スキルを軸とした評価体系の確立は、私たちの「働く」という概念自体を問い直すきっかけとなっています。

日本においても、人材獲得競争の激化や従業員のキャリア意識の変化など、同様の課題に直面しています。AIエージェントとスキルテックを組み合わせた新しい採用・育成の手法は、これらの課題に対する有効な解決策となるかもしれません。今回のカンファレンスで得た知見を活かし、より最適な転職支援を実現するプロダクトの提供を進めていきたいと考えています。

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