こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
僕は、50名から4000名まで成長した企業の人事役員として、各ステージの人事組織戦略の遂行に奔走してきました。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」と題して、自身の経験をもとに、
▼人事トップになるために実行したこと
▼意識していたマインド
▼経営や現場とのコミュニケーションのtips
などをお伝えしていきます。僕の経歴詳細は、以下の記事からご確認ください。
https://cloudy-supernova-846.notion.site/Profile-ceda2eb306f74cc682f7565e3550f462
僕は、スタートアップをはじめとする多くの企業のサポートに取り組む中で、人材採用に苦労する経営者や人事担当の姿を何度も目にしてきました。そんな企業に共通するのは、気がつかないうちに“やりがい搾取”に陥っていることだと思っています。
そうは言っても、報酬を出していないとか、1on1などで社員の話を聞く機会を持っていないとかいうわけではありません。僕がここで言う“やりがい搾取”とは、企業や経営者のビジョンへの共感を、社員に対して過度に期待してしまっている状態を指します。
もちろん、企業としてゴールを目指すことは大事です。しかし、社員にとっては、それ以上にプロセスが大事であることもあります。そこで、今回は働くことのプロセスに焦点を当てながら、経営者や人事としての姿勢について考えてみたいと思います。
目次
AI時代に価値を持つもの
働くことにも“楽しさ”を
プロセスをデザインする
価値観の変容と働く意義
働き方のパラダイムシフト
人を雇うこと=人生を預かること
まとめ:一人ひとりの人生に目を向けよう
AI時代に価値を持つもの
突然ですが、皆さんに質問です。これからのAI時代、何が生き残ると思いますか?よく「人間しかできないことは残る」と言われますよね。僕は、それは一体何なのかと突き詰めていった際に、エンターテイメントだと思いました。
その理由は、物事には「正しさ」と「楽しさ」という違う側面があるからです。「正しさ」は合理的かつ生産的なものなので、AIや機械が発達すればするほど、人間がやるよりも圧倒的に正しくできる。一方で、「楽しさ」については、簡単にそうはなりません。
たとえば、スポーツの選手が全員AIロボットだったとして、涙が出るほど感動できるものになるでしょうか。もちろん「すごい!」とは思うかもしれません。でも、スポーツに感情を動かされるのは、人間が限界に挑戦したり、競技や相手に真剣に向き合ったりしているからだと思います。
スポーツだけではありません。食事も、生命を維持するために摂取するのであれば、必要な栄養素を満たしていればいいはずです。でも、やっぱり美味しいものや見た目が美しいものを食べたいですよね。
車もそうです。速く、燃費が良ければ満足できるかというと、そうでもない。多くの人は、車のかっこよさだったり、乗り心地だったり、「正しさ」を超えて「楽しさ」に関わる要素を求めています。
人間が、見たいもの、食べたいもの、欲しいもの……これらには、全てエンターテインメントの要素が詰まっているんです。
働くことにも“楽しさ”を
どんどんAIが発達していく中でも、人間にとっての「楽しい」はいつまでも残ります。だからこそ僕は、これからは“ワークエンターテイメント”の時代だと考えました。要するに、働くこと自体を楽しくすることが重要なんです。
どんなビジネスも、お客様に対してはエンターテインメント性を提供している側面があると思います。一方で、働く側の視点に立ってみると、どこまでも「正しさ」を追求しなければならない状況になっているんですよね。KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)など、個人や企業としてのミッションに向かって働き、それをクリアしたら評価されるという仕組みは、その代表的な例です。
ですが、現代は少子高齢化による人不足、売り手市場の時代です。自社にとっていい人材を獲得するためには、お客様だけでなく、社員が働くプロセスの楽しさまで設計することが必要だと思います。
プロセスをデザインする
もう少し掘り下げて考えてみましょう。たとえば、Netflixは成果至上主義で知られる企業で、目標さえ達成すればバカンスに行こうが構わないとされています。
でも「働くプロセスはあなた次第だし、目標さえ達成すればその後はサボっていてもいいよ」というスタンスの会社なら、そこに所属する理由ってあまりないですよね。ミッションを達成できる人なら、あえて会社に所属しなくても、複数の契約先から収入を得る方がよほど効率がいいと思います。
つまり、会社に所属してもらうためには、フリーで働く以上の魅力やメリットが必要であり、それこそが「働くプロセスの楽しさ」なんです。同じような目標を掲げている会社は複数あっても、そのプロセスが他よりも楽しい、面白いと思えることが、会社に所属する理由になります。
これまでは、単純に「合理的」「正しい」「早い」といった基準が重要視されてきました。でも、AIの進化が進めば進むほど、その考え方は逆転してくるのではないかと感じます。
価値観の変容と働く意義
AIの進化とは別に、もう一つプロセスを大切にしなければならない理由があります。それは価値観の変化です。
ひと昔前までは、終身雇用が一般的な時代でした。ところが近年では、転職することが当たり前になってきています。実は、最近の若い世代には、最終面接で「なぜうちの会社を選んだのか」と尋ねたときに「1社目で御社を経験していれば、新天地にも行きやすいと思いました」といった内容を平気で答える子も増えているんです。
そういった子は「石の上にも三年」という考えは毛頭なく、合わないな、違うな、と思えば、1年どころか1ヶ月足らずで辞めていってしまいます。
こうした“タイパ重視”の人も増えている中で、ビジョンというゴールだけで心をつなぎとめることは困難です。だからこそ、働く楽しさをデザインすることは、これからの経営者の責務です。それを考え続けられるかどうかが、他の会社との差別化にもつながってくるのではないかと僕は考えています。
働き方のパラダイムシフト
現代まで、プロセスよりもゴールを重要視する考え方が定着してきた背景には、長らく男性中心の社会が続いてきたことも影響しているように感じます。
あくまで僕と妻のケースとして例に出しますが、山登りをするとき、僕は効率的に頂上に辿り着くことを重要視します。というか、頂上のことしか見えていません。一方で、妻は途中にある花を見たり、時には休憩したりしながら登ること自体を楽しみます。何なら「十分楽しんだし、頂上まで行かなくてもいいんじゃない?」と言うこともあるほどです。
男女の違いで一概に語るつもりはありませんが、相対的に見て、僕のようにゴールや結果を重視する男性は多いと思います。
ところが、現代は多様性の時代です。男性・女性という性差にとどまらず、コスパ・タイパ重視の若者など、さまざまな考え方の人がいます。「無理して100を目指すのは大変なので、達成率8割、給料も8割でいいです」という人もいるかもしれません。
さらに、今後は社会構造も変化していくと予想されます。「副業や資産運用でも収入があるので、給料は少なくても楽しい方がいい」という人が増えてくる可能性もありますね。
人を雇うこと=人生を預かること
経営者側からすると「それは個人の価値観でしょう」と言いたくなるかもしれません。でも、僕は、経営者のビジョンには共感を求める一方で、社員一人ひとりの人生に寄り添おうとしないのは、どこか矛盾しているのではないかと感じています。
もちろん、社員のオフの時間や私生活のすべてまで考える必要はありません。ただ、自分の会社に所属してもらっている以上、少なくとも働いている時間については、その人の人生を預かっているという自覚を持つべきだと思います。
特に、成長フェーズにある企業の経営者は注意が必要です。マーケットの拡大とともに業績が伸びている時期は人も集まりやすく、辞めにくい状況が自然と生まれます。しかし、その状態は、事業や業績が伸びていることで金銭面ややりがい、楽しさといった点でアップサイドにいるだけで、必ずしも企業のビジョンそのものに強く共感しているとは限りません。
実際、そういった会社ほど、業績が低迷し始めると人が離れていきます。一方で、ビジョンに共感して人が集まっている会社は、業績が厳しい局面に立たされたときこそ、社員が踏ん張ろうとします。
会社の業績が良く、人が集まっている状態にあると、経営者は「自分がやっていることはすべて正しい」と勘違いしがちです。自分のビジョンを信じる姿勢そのものは大切ですが、「人が集まっている=自分のやり方は正しい」と、盲目的にならないようにしなければなりません。
僕自身も経営者なので、人を雇うにあたっては、その人の人生を預かるという大きな責任を感じています。ことさら、規模も小さく、ビジョンの達成にもまだまだ時間がかかりそうな僕の会社を選んでくれたメンバーには、本当に感謝しかありません。
だからこそ、その人たちが「この会社を選んでよかった」と感じられるようにしていきたいと強く思います。
まとめ:一人ひとりの人生に目を向けよう
僕が最もお伝えしたいことは、目の前の社員にとって何がハッピーなのかをしっかりと考えデザインすることは、企業の人材獲得にとって欠かせない視点だということです。
そのソリューションが“ワークエンターテインメント”かどうかは仮説段階でしかありません。ただ、人材を思うように獲得できていない経営者や、社員が離れていく経営者ほど、社員一人ひとりの人生を考えられていないと感じます。
「採用がうまくいかない」「社員が辞めていってしまう」といったお悩みであれば、個人にスコープを当ててみるだけでも大きく結果は変わると思いますので、ぜひ取り入れてみてください。
また、より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡ください!CHRO採用とCHRO開発を承っています。
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