人事の現場から学ぶリアル解決メソッド|学生を辞退させないためのタイプ別攻略法~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:20~
こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
僕は、前職時代に、50名から4000名まで成長した企業の人事役員として、各ステージに合わせた人事戦略・組織づくりを実践してきました。この経験をもとに、現在は、外部人事顧問として複数の企業をサポートしています。
この連載では、実際に人事担当者が現場で直面した「悩み」と、それに対する僕の解決アプローチを抽象化して共有します。採用活動や人材定着に悩む方に役立つアイディアが見つかるはずです。
より具体的なシーンを思い浮かべながら理解できるよう、Q&A形式でわかりやすく解説していきますので、経営者や人事担当者の方はぜひ参考にしてください。
早速ですが、前回に引き続き、新卒採用活動中の企業様のケースから、実践のヒントを探していきたいと思います。今回は、選考過程にある学生に対する接し方について、お悩みが寄せられました。
目次
ケース1:二社で迷う学生の内定辞退防止
Q.入社を悩んでいる学生に、自社を選んでもらうには?
A.入社したい理由を自分の言葉で繰り返し口にしてもらう。
ケース2:内定が取れず悩む不器用な学生を惹きつける方法
Q.自分の良さを伝えきれない学生への接し方は?
A.不器用なところを含めて抱きしめてあげる存在になる。
ケース3:「キラキラ」に憧れる学生の採用判断ポイント
Q.ちょっとミーハーな女子学生。候補者として適しているか?
A.本人の使う言葉に合わせながら、“キラキラ”の定義を掘り下げる。
本記事のまとめ
ケース1:二社で迷う学生の内定辞退防止
Q.入社を悩んでいる学生に、自社を選んでもらうには?
就職先として、当社と、IT系の企業とで悩んでいる学生がいます。学生時代にプログラミングを学んできたようなので、もう一つの候補とのマッチ度は高そうです。
これまでの選考を通じて、志望度が高い様子は伝わってきていますが、もう一社にも魅力を感じているようなので、こちらとしては結構不安が残るなと。
次のフローは最終面接なのですが、その前までに「当社と自分はどこがマッチしてるのか」ということを考えてもらい、納得してもらった上で、選考に臨んでもらいたいと思っています。
A.入社したい理由を自分の言葉で繰り返し口にしてもらう。
話を聞いている限り、その学生はあまり深く考えているタイプではなさそうですね。おそらく、自分では目指すべきゴールを見つけられていない状態だと思います。
こうした場合は、こちらからゴールを提示してあげることで、本人が辿り着けていない答えに導いてあげることが有効です。具体的には、「あなたがやりたいことってこういうことじゃない?」「それなら絶対ウチだよ」と、言い続けてみてください。
そうすると、だんだんと本人も自分の言葉で「自分はこういう理由で入社したい」「それなら絶対ここがいい」と話すようになります。それを繰り返していく中で、本人の中でもその思考が定着してくるので、入社の意志が強くなるはずです。
一見すると誘導的に聞こえるかもしれませんが、本人の意志を整理し、納得感を高めてあげる“伴走”と考えるとよいでしょう。入社後も本人がやりたいことを実現できる環境があるのであれば、目指すべきゴールを提示してあげるのはアリだと思いますね。
ケース2:内定が取れず悩む不器用な学生を惹きつける方法
Q.自分の良さを伝えきれない学生への接し方は?
当社を検討してくれている学生の中に、真面目で、頑張りたいという意欲も高いのですが、自分を表現するのが苦手なタイプの方がいます。2〜3月から就職活動を開始したけど、なかなか内定をもらえていないようです。
本人は、自分のやりたいことや思いをなかなか企業に伝えられず、モヤモヤしていました。アピールしたいのは、中・高校生時代に全国レベルで器械体操を頑張っていたことやその実績なのですが、なかなか「ガクチカ(=学生時代に力を入れたこと)」という質問では、このエピソードを話せないみたいですね。
掘り下げて話を聞いてみると、本当に熱心に取り組んでいたようですし、その時の逆境に大して立ち向かう姿勢もすごく良かったです。
だからこそぜひ入社してほしいなと思うのですが、当社を第一志望にしてもらうためにはどうしたら良いでしょう。
A.不器用なところを含めて抱きしめてあげる存在になる。
意欲はあるのに、言語化するのがあまり上手じゃない。本当に不器用という言葉がピッタリですね。
話を聞いていると、努力家だが、やや要領が悪いタイプだと見受けられます。部活でも、効率良く練習することや、自分自身やライバルを分析するといったことは考えずに、とにかくコツコツやってきたのではないかと思います。
もう少し器用だったら大手にも受かる人材なのですが、不器用であるがゆえに落とされてしまう。本人も「私は一体どうしたらいいんだ」と、相当悩んでいるのではないでしょうか。
こういう時に、そんなところも含めて抱きしめてくれる会社があると、「ここが1番いいかも」と思ってもらえそうですね。
具体的には、まず本人の悩みに共感を示し、安心感を与えることが大切です。そのうえで、学生が語った経験をこちらが改めて価値づけて伝え、言語化を助けてあげる。そうしたやりとりを通して「この会社は私に寄り添って、理解してくれる」と感じてもらえれば、自然と第一志望になっていくはずです。
ケース3:「キラキラ」に憧れる学生の採用判断ポイント
Q.ちょっとミーハーな女子学生。候補者として適しているか?
ポジティブで明るく、頑張り屋で何事も一生懸命。でも、志望動機は浅くもなく、深くもないという女子学生がいます。
1番の懸念は、キラキラ系の仕事に引っ張られる節があるところです。「キラキラ=憧れ」に近いかもしれません。当社の他に、航空系の企業を受けているようです。割とミーハーなタイプですね。
とはいえ「憧れよりも自分の成長が大切なのでは?」と気づき始めている様子なので、候補者にしてもいいのかなと思っています。
A.本人の使う言葉に合わせながら、“キラキラ”の定義を掘り下げる。
第一に確かめたいのは、確認したいのは、彼女にとっての「キラキラ」とは何を意味しているのか、という点です。その定義を探るために、あえて同じ言葉を使って「これまでの人生で、一番キラキラしてたのはいつ?」と尋ねてみましょう。
もし「部活でキャプテンを務めていたとき」といった答えが返ってくれば、そこから彼女なりの価値観を言語化できます。「それは、自分が努力していて、成長を実感できていたときだね」と伝えてあげると、本人の中でも定義を落とし込めると思います。
現時点では、「キラキラとはなんぞや」がわかっていないからこそ、ミーハーに見えてしまっているかもしれません。きちんと定義を明確化することによって、懸念を潰せるのではないかと思います。
一方で、このタイプは、入社後に「今、キラキラしてない」と感じると、辞めてしまいやすいタイプでもあります。それを防ぐために、彼女が頑張ったときには、上司から「今、輝いてるね」と言ってあげることも大切ですね。そうした積み重ねが、本人のモチベーションを支え、定着につながっていきます。
本記事のまとめ
今回のケースを通じて、3つの押さえておきたいポイントが見つかりました。
- 入社の意向が定まっていない学生には、自分の言葉で入社理由を語らせ、意志を定着させる。
- 就活がうまくいっていない不器用なタイプの学生は、弱みも含めて受け止め、安心感を与える。
- 曖昧な言葉を使う学生には、本人に合わせながら一緒に定義を掘り下げ、本質を明らかにする。
人間は100人いれば100通りなので、必ずしも同じアプローチが正解とは限りません。それでも相手の特徴を見極め、それに合わせた関わり方ができれば、採用成功の確率はぐっと高まります。
「選考途中で辞退されてしまう」
「内定を出したが、他社に流れてしまった」
「自社に合う人材かどうか見極めが難しい」
そんな悩みに直面したときは、今回のヒントをぜひ現場で試してみてください。