私が代表を務めるリクロマ株式会社は”気候変動の産業化”に向けてあらゆるサービスを提供する会社です。
現在は気候変動・温室効果ガス算定に関する課題を抱える企業へのコンサルティングと研修を軸にしていますが、これらはミッション達成のための1つの事業にすぎません。
あくまでも目指しているのは100年先の気候変動の産業化で、そこからの逆算で私たちのミッションや事業は組み立てられています。
思い返せば"逃げ"の姿勢から創業されたリクロマは、なぜ遠い先までを見据えた社会課題に取り組んでいるのか。また、そのためにどんな事業計画を立て未来を描いているのか。
このnoteでは、私自身がよく尋ねられることについて起業時のエピソードまで遡ってお話ししていきます。
目次
- ニッチな生きる道を常に探し求めていた
- 大きな概念に逃げたくて、気候変動の領域で起業
- 「気候変動の産業化」に本気になった瞬間
- 見通しが立たないからこそ、のめり込める
- 100年先を見据えた社内外の人材育成
- 独自のポジションと価値を作ることができた理由
- 気候変動の産業化を実現するために直近やるべき6つのこと
- 短期ではなく長期で社会貢献する意義とやりがい
- 最後に
ニッチな生きる道を常に探し求めていた
大学時代の私はろくに授業も出ずにAIESEC(アイセック)という海外インターンシップを運営する学生団体に入り、海外によく行っていました。今思い起こすと自分の生きるスペース探しをしていたのかもしれないと思います。
そんな状態を悲観していたわけではありません。ゴールを決めてそこに走るのが得意な人はたくさんいるが、自分はそういうタイプではない。しかし興味のある海外に関わることなら頑張れるという思いだけは持っていたので、自分を活かすために行動していました。
開成中学・高校という進学校に通っていたことから、半年間勉強しただけで東大に余裕で合格する同級生を見てきたなかで、メインストリームではなくニッチな生き残る道を探すというのが当たり前の考えになっていたのです。
それでも大学3年の後半からは一応就職活動をはじめました。何社かから内定はもらったものの、それらの会社で働くイメージがまったく湧かなかった。そのうち一社が外資系企業に買収されたりもしながら、内定をすべて辞退したのは大学4年の2月でした。
就職はしないけど、中高私立で大学まで通わせてくれた親に申し訳ないという気持ちもあり、AIESECのつながりで海外に行って時間を稼ごうと思い、卒業後半年間はメキシコの会社でインターンとして働こうと思いました。
メキシコ滞在中の詳しいエピソードはまた別の機会に譲るとしてここでは割愛しますが、異国の地で改めて自分と向き合ってみると、進学校で落ちこぼれて2年浪人した挙句、大学にもあまり行かなかった自分は社会適応性がない。
こんなマインドの人間を雇ってくれるところもないだろうから、やっぱり起業しかないなという思いを強くしていきました。
大きな概念に逃げたくて、気候変動の領域で起業
そう考えていた矢先、日本企業の知り合いの方から北米のスタートアップを調べてほしいという依頼(より正確には不憫なのでなにか仕事をあげたいという温情)があり、かなりのリサーチをしました。
すると、どの会社の創業者も華々しいキャリアで、すごい額の資金を調達していることを知りました。そもそも10万円以上のお金を使ったことないような人間だったので◯◯億という数字を獲得して使っていくという意味がよくわからなかったのを覚えています。
これでは受験という短期的なゴールに一直線で走れなかった自分に起業はできないかもしれない。「自分には起業という選択肢もないのか」と絶望感を抱いたことを覚えています。
しかし、リサーチの手を止めてもこれから何をやるのかという問題は解決しません。それ以外の道はないものかとスタートアップ以外の企業を調べてみると、最初に資金はそれほど必要なさそうなことがわかりました。
また、将来的には成長しそうな領域でも、はじめはゆっくりと、徐々に大きくなっていく企業が多いこともみえてきました。自分でも地味で目立たずにやっていけばなんとなるんじゃないかと仮説を立て、長期で勝負できる領域探しに希望をつなぐことにしました。
結果としてリクロマでやっている気候変動の産業化につながる環境領域を選んだわけですが、その理由は3つあります。
1つは、将来性のある領域だったことです。
環境領域にはメキシコ滞在時に自然災害を目の当たりにするなかで興味を持っていたのですが、それとは別に私自身が高校までバスケットボールに打ち込んでいた経験からスポーツ領域で起業することも選択肢にありました。
その2つを天秤にかけると、スポーツ領域ではすでに力のある企業や人といった構造ができあがっているが、環境領域のほうは自由度高く創り上げていける可能性が高いことがわかりました。
当時は、SDGsやESGがいまほど世間に認知されている状況でもなく、環境領域で先行していた人はほとんどいなかったのではないかと思います。
2つめは、大きな概念に逃げたかったからです。環境や自然や歴史などは、逃げる対象としてぴったりでした。
正直に言えば、環境領域を選べば「自分がすごいことをやっている」感が出るのではないかとその程度の考えもありました。高校卒業して、浪人し、大学もほぼ行かず、結果メキシコでふらふらしているという「ヤバいヤツ」という自己認識による事実から逃げたかったのを覚えています。
3つめは、長期的、持続するものへの憧れです。自分自身が7歳までに4回転校してきた経験からか、人間関係が短期的なものだと刷り込まれている節がありました。
しかし願いとしては人と長期的につながっていたいし、事業も同じく長期的に続いていくものであってほしい。振り返ってみるとこの理由で今の道を選んだように思います。
リクロマで働くスタッフも転職や独立でいつか組織を離れることもあるでしょうが、どこかのタイミングでつながっていたり、戻って来られるという関係性を続けていきたい。いまはそれを作り出そうしているんじゃないかと思います。
「気候変動の産業化」に本気になった瞬間
環境領域で起業を決めたものの、起業当初はそこから何に取り組めばいいかがわかりませんでした。
それで視野を広げようといろいろな人に会っていたのですが、そのうちの一人で、気候変動に取り組むNGO「CDP Worldwide-Japan」代表の森澤さんという方に「うちで契約社員としてやってみたらどう」と声をかけていただき、自分の会社をやりながら契約社員として働くことになりました。
結果としてこれが大きなターニングポイントになりました。CDPで働くなかで気候変動という大きな社会課題と、それを取り巻く業界の構造も知ることができたのです。
構造として大きな流れがあって面白い、しかし誰もやっていない、やろうと思っている人たちは金融関係者が多く長期的な視点を持っていない――。この領域なら自分でも何かできるかもしれないと思い直し、気候変動にフォーカスすることにしました。
実際に事業をはじめてからはマーケットが伸び続けるなかで事業も順調に成長し視野も広がり、それゆえに楽しいという気持ちが強かったですが、「このままやり続けることは自分にとってどうなんだろう」という問いも持ち続けていました。
あるタイミングで、「そもそも自分はどういう人生を送りたいんだっけ?」と、子どもの頃までを振り返ってみて、自分自身のミッションを「安心安全の場を作り出し、チャレンジし続けること」と紡いでみました。
そのミッションと気候変動を重ねてみると、「天災は安心安全を脅かし、何かをやっていこうとするチャレンジを阻む」という意味で、この領域でやり続ける意義を捉えることができ、将来にわたって自分がすごく頑張っていけると感じた。自分の意識が明確に変わった瞬間です。
そこからは会社や人としての成長がうれしいだけでなく、自分たちがいることによって気候変動が緩和されるかもしれない、10年、20年、30年先には、社会のためにいいことをやっているんじゃないか、と思えるようになりました。喜びの種類が増えた感覚ですね。
見通しが立たないからこそ、のめり込める
リクロマのミッションは「人間社会の共創と自然環境の温室効果ガス削減を通して急激な気候変動時代に貢献する」です。
日本をはじめ、120カ国以上の国・地域が2050年までのカーボンニュートラル実現を表明していますので、私たちのミッションも100年先を見据えつつ、2050年を照準に考えています。
私たちは、このミッションに時間軸を入れたものをビジョンと捉えています。いまのところ、2030年の時点での、提供するサービスの数や顧客数、ステークホルダー数、組織状態などのビジョンは決めてあります。
2030年までにステークホルダーの数を増やし、温室効果ガス削減のための協働の輪を広げていきたいですし、海外にも進出していなければならないと考えています。
気候変動の領域は前提が常に変化しますし、ゴールもまだ見えません。しかし、先にお伝えしたように転勤族だった私は前提が揺らぐことに慣れているからか、むしろのめり込み楽しめる感覚さえあります。
また壮大なミッション達成に向けて取り組むのは気が遠くならないかと言われることもあるのですが、結果的に私自身の気質を活かして思い切り取り組むことができています。
あとはこのミッションを達成するためにどうするかを、ひたすらマクロとミクロの視点から考え具体的に詰めて取り組んでいくだけです。
一方で不確実性が高い領域に取り組んでいるからこそ、バランスをとるように安心・安全な場を求める側面もあります。
私にとってはそれが会社組織であり、社内のチームやメンバー一人ひとりなので、気持ち良く働ける組織であることは常に意識しています。
100年先を見据えた社内外の人材育成
現在リクロマのメンバーは20名程度。育成面では、気候変動の領域で産業を創ることのできる人を育成することをKPIにして、早い段階から取り組んでいます。
そのために大事にしていることは、産業創造において重要だと思うことをインプットしてもらうです。大きなテーマにアプローチしているため、多少なりとも自分自身を変えないといけないことがあるため、自我変容の方法などもサポートしています。
この課題は100年スパンで捉えるべきものだと思っているので、私だけで終わることは絶対にありません。次の人がこの会社で産業を大きく成長させてほしいと思っています。
また、ミッション達成にはリクロマだけでやるのではなく、社外の人材育成も欠かせません。今後は外部機関やパートナーとの協働がキーになると考えています。
企業へのコンサルやイベント、コミュニティ活動をして出会ってきた人のなかでも、気候変動の産業化というミッションに興味はあるけど関係ない会社で働いていたり、転職できる状況ではなかったりする人たちは多いと感じています。
ですから直近のアプローチとしては、すでにある気候変動の産業化というミッションに興味を持っている企業のサステナビリティ担当の方、大学教授や学生さんなどのコミュニティでディスカッションを交わしながら、その輪を広げているところです。
独自のポジションと価値を作ることができた理由
事業としては、冒頭にもお伝えしたように現時点では気候変動・温室効果ガス算定に関する課題を抱える企業へのコンサルティングと研修を軸にしています。
コンサルティング事業では、企業に対して気候変動が起こることによる事業上のリスクやチャンスを整理して情報開示する支援が多いです。気候変動がチャンスになる企業には、どんなサービスを提供するかを支援しています。
たとえば、リユース市場におけるBtoBの会員制オンラインオークションを中心に事業を展開する株式会社オークネットは、「価値あるモノを必要な人のもとへ循環させる循環型流通」を掲げる企業です。この理念に紐づくコンセプトとして、モノをリアルからオンライン上で取引することによる温室効果ガスの削減貢献量を可視化するまでの道筋をリクロマでは支援しました。
研修事業では、脱炭素について社員全体に周知を図りたい、といったニーズのある企業にeラーニングを含めた研修を提供しています。
会社の売上は順調に伸びており、昨年度は前期比400%の成長率でした。今期も同じくらいいくのではないかと考えています。
私たちが独自のポジションを築くことができた大きな理由としては、環境領域に取り組むスタート時期が早かったことに加え、CDPで気候変動について知ることができたことが挙げられます。あとは、「やり続ける力」ですね。
「次はESGが来る」と1つのトレンドととらえてやろうとした人はたくさんいますが、やり続ける人がいなかったので、このポジションを得ることができたと思っています。
気候変動の領域では、当社のほかにコンサルティングファームや温室効果ガスの排出量を可視化するSaaS事業者がありますが、私たちはいずれとも競合していません。
コンサルティングファームが重視しているのは、顧客接点をいかに保つかです。そのために気候変動以外にも事業のラインアップを増やさなければなりません。
リクロマはコンサルティングファームのようにほかの領域に広げることはせず、気候変動に特化し、専門性を深め、提案にとどまらず実行まで担う点に大きな違いがあります。またSaaS事業者は、データの収集・整理・計算ができるシステムを提供しますが、私たちはそのデータ処理の前提となる内容の理解までを支援します。
そもそもミッションがまったく違います。短期的な目標を掲げる会社はあっても、長期的に取り組もうとしている会社はほかにありません。
気候変動の産業化を実現するために直近やるべき6つのこと
2050年までのミッション達成に向けて、事業としてコンサルや研修に取り組み、社内外の人材育成に取り組むなかで、直近でどうしても解決しなければならない課題は主に6つあります。
①2030年までに10の事業創出
②温室効果ガスを減らす技術の開発支援
③自我や欲にこだわらず、構造理解をし続ける
④ステークホルダーのインセンティブを変える
⑤地方・中小企業・自治体を動かす
⑥イノベーションの創出
順番に説明していきましょう。
①2030年までに10の事業創出
2030年までに気候変動の産業化を実現するためには、キャッシュフローを生み出す事業が10、さらに探索中の事業が20くらい必要だと考えています。そのため、毎年新たな事業をスタートさせるくらいの勢いで事業を増やしていくつもりです。
もちろん組織も拡大していきます。今年も十数名の採用を予定しています。求めているのは、何よりもまず領域に興味を持っていただける可能性のある人です。
②温室効果ガスを減らす技術の開発支援
温室効果ガスの排出量を単に減らすだけでなく、最終的には世の中にある温室効果ガスをなくなさければなりません。そのためには、温室効果ガスを削減する技術が不可欠です。
ですから今後は温室効果ガスを削減する技術を自前で持つか、あるいはその技術を持つ企業に投資するか、いずれかをやらなければならないと考えています。
現在、自然環境をより良い状態に再生させるという「リジェネラティブ」の実装をはじめ、さまざまな新しい技術が生まれつつありますが、実現までにはまだまだ時間がかかります。ビル・ゲイツ氏や東大のファンドなども脱炭素技術への投資を宣言していますが、私たちも新技術への投資は大いにあり得ると思っています。
同時に、気候変動に関わるステークホルダーの数を増やし、温室効果ガスを削減するための共創の機会を増やしていきたいと考えています。
③自我や欲にこだわらず、構造理解をし続ける
経営者が長期的な課題に取り組む上で、大切なことがあると思っています。それは、自我や私利私欲にとらわれずに、構造理解をし続けていくことです。
短期的な目標であれば、複雑な部分をいったん排除して、「とりあえずこの数字を取りにいく」というかたちで、割と単純に突っ走ることで短期的な成果は得られます。
しかし長期的な課題の場合は、時間軸とともに捉えるべき変数やプレイヤーが増え、複雑になっていきます。それらを売上のために無視するではなく、それぞれの変数やプレイヤーが10年後にどうなっているのかを頭の中でシミュレーションすることがとても大事だと思っています。
私自身、構造理解のために週に一度は他分野のプロの方と会い、その領域でどのように習熟していったか、また業界はどのようになっているのか、といった話を聞く時間は起業時からこれまで常に確保するようにしています。
④ステークホルダーのインセンティブを変える
気候変動の産業化を困難にしていることの1つが、ステークホルダーごとにインセンティブや見ている時間軸が全くバラバラなことです。産業化のためには、それらを揃えることが必要です。
一度にすべてを揃えるのは現実的ではないので、一部を2030年、その後2050年を見据えて段階的に実現したいと考えています。それに向けて現在は、各ステークホルダーのインセンティブや時間軸などを事細かにリストアップして整理している段階です。
気候変動に対するわが国の基本スタンスは悪くないと思います。問題は、それを実際に進めるだけの能力が民間に不足していることです。気候変動に対して何ができるのか、一般の人たちの理解や関心をより高めるためのアプローチも必要でしょう。
大企業の場合、温室効果ガスの削減目標が役員報酬と連動することはありますが、担当者レベルでは、温室効果ガスを下げることが業務目標ではあっても、自身のインセンティブが変わるわけではないので、なかなか動きが加速しません。
温室効果ガスを大量に排出している業界において、影響力の大きな企業には個別にアプローチして働きかけを行っているところです。
⑤地方・中小企業・自治体を動かす
日本全体で考えると、大企業だけでなく、中小企業や自治体にも取り組みを進めてもらう必要があるため、自治体へのアプローチもスタートしています。
「気候危機宣言」などを表明している市町村がけっこうありますので、まずはそういった自治体と関係を築きたいと考えています。また、地方の金融機関とその地域の脱炭素を進めるためのディスカッションなども行っています。
⑥イノベーションの創出
いまのまま突き進めば、温室効果ガスが増えて温暖化が進むことは確実です。そのため、温室効果ガスを回収・吸収する革新的な技術の創出が不可欠です。
実は、脱炭素技術を持ちながらも予算がないために開発を凍結している企業が結構あります。そうした企業に働きかけを行っていきます。
また、気候変動の問題は、次代を担う若い世代が取り組み続けなければならない課題です。大学で行われている脱炭素の研究へのサポートなどを通じて、若い世代を支援していきます。
短期ではなく長期で社会貢献する意義とやりがい
私自身、やりたいのは産業づくりですが、そのために企業へのコンサルや研修といった事業で喫緊の課題を解決することをいまは行なっているため、歯がゆさを感じることもあります。
未来と目の前の課題、両方から目をそむけず、それぞれ取り組んでいくことがこれからますます大事になると考えています。
また気候変動に関して正しい実情を伝える情報発信も足りていないと思うので、noteやコラムやを皮切りに情報発信して、研究機関になっていきたいという思いもあります。
気候変動は人類にとって大きな脅威であり、短期的な利益に走るのではなく、長期的に取り組むべき課題です。だからこそ、この事業にはものすごいやりがいと意義を感じています。
私の代にとどまらず、会社としてこの問題に100年タームで取り組んでいきたいと考えています。
最後に
将来必ず求められる課題に対して産業を創造することで貢献していくことに少しでもご興味を持っていただける方はぜひお話しさせてください。
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