「気持ちの栄養士」が支える、「その人らしい暮らし」
「食べたい」という思いは、生きる力そのもの。
ホスピス住宅「ビーズの家」で管理栄養士を務める篠原明日香さんは、そう信じています。
今回の記事は、篠原さんのその想いについてです。
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食の力で「その人らしさ」を支える、
ホスピス住宅の温かい食卓
祖父と父の病気をきっかけに「食の大切さ」を痛感し、管理栄養士の道を歩み始めた篠原さん。
病院、保育園、在宅訪問など、様々な現場で経験を積み重ねてきた彼女の心には、忘れられない“悔しさ”が刻まれていました。
それは、在宅訪問で出会ったがん患者さんとの日々です。
「食べたいけど食べられない」と苦しむご本人と、「何か食べさせてあげたい」と願うご家族。
栄養士として、食べられることを目標に様々な提案をしましたが、ご本人の食欲は徐々に失われていきました。
「あのとき、食べられなくても不安にならないでね、と寄り添うことができただろうか」
専門家としてできることの限界と、心に寄り添えなかった後悔。この経験が、「最期まで利用者さんの“食”と“心”に向き合いたい」という、彼女の原動力となりました。
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一枚の年賀状が繋いだ、新たな挑戦
そんな彼女に転機が訪れたのは、一枚の年賀状でした。
幼馴染からのメッセージには、ホスピス住宅「ビーズの家」が開設されること、そして管理栄養士を探していることが書かれていました。
「これだ!」と直感した彼女は、すぐに連絡を取り、社長との対話の中で「オープンキッチン」という構想に強く惹かれていきます。
保育園での勤務経験から、料理の香りや音が人々の心に豊かさをもたらすことを知っていた彼女にとって、このキッチンは単なる調理場ではなく、心を通わせる大切な場所になる予感がしたのです。
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「気持ちの栄養士」が届ける、心も満たす食の喜び
「ビーズの家」のキッチンは、まさにその予感通りでした。
香りや音、食材を切るリズム、揚げ物のはじける音。そして、利用者さんとスタッフが交わす温かい言葉。
オープンキッチンは、ただ料理を作るだけでなく、食べる喜びを五感で感じ、心を通わせる空間となりました。
食欲がなかった利用者さんが「食べてみようかな」と口に運び始めたり、「〜さんの〜が食べたい」とリクエストをくれたり。
たとえば、食事がプリン食だった方が「おかわり!」と言ってくれたり。 娘さんが作ったたい焼きを、心から喜んでくれた利用者さんがいたり。
食事を通して生まれる、たくさんの笑顔と感謝。
カロリーや成分といった「数字の栄養」だけでなく、人々の心も満たす「気持ちの栄養士」でありたい。
この信念のもと、彼女は旬の食材や季節感を大切にした献立づくり、リクエストボックスの設置など、様々な工夫を凝らしています。
「美味しいね」「楽しいね」と食を通して生まれるコミュニケーションは、ホスピスでの“その人らしい暮らし”を支える大切な一部。篠原さんは今日も、みんなの心を温める料理を作り続けています。