こんにちは。WOVN、CEO の林です。
最近、興味深いレポートや出来事に触れる機会があり、「AI 技術と WOVN」をテーマに、記事を書いてみました。
生成 AI が企業のグローバル化をどう変えるのか
以前、世界でもとても有名な投資会社である「アンドリーセン・ホロウィッツ」のベン・ホロウィッツさんの話を聞く機会がありました。そのとき、彼は以下のようなことを仰っていました。
生成 AI の登場で日本のテック企業は世界で戦えるかもしれない。日本の製造メーカーやアニメ、ゲームなどが抱える IP は、世界的にも強い資産性があるが、言語や地域性の問題でグローバル化が充分にできていなかった。それが今後、生成 AI によって変わるだろう。
僕もその通りだと思います。
このようなボトルネックを我々 WOVN が解決し、多くの産業がグローバルで戦う支援をすること。それが新たな AI 時代の WOVN の役目だと強く感じています。
そこで今回の記事では、AI 時代のグローバル戦略を、WOVN がどのように推進していくのか?というお話をしたいと思います。
生成 AI と WOVN のビジネスの関わり
「WOVN のビジネスは生成 AI(あるいは、LLM、ChatGPT など)の登場で、どのような影響を受けますか?」という質問を、採用面談などで、最近よくいただきます。
この質問には、
- WOVN は、翻訳サービスである。
- 翻訳は、AI の進歩によってリプレイスされるだろう。
- であれば、WOVN の技術は、今後、生成 AI によって取って代わられてしまうのでは?
というニュアンスが含まれていると思います。
これに対して、僕たちの考えは、結論から申し上げると、
“AI を活用して、WOVN の技術はもっと進歩する”
ということです。
「ソフトウェアの国際化(多言語化)」とは
まずはじめに、「国際化(多言語化)」と「翻訳」という、2つの概念について、理解が必要です。
我々 WOVN は、「ソフトウェアの国際化・多言語化」をする SaaS を、企業向けに開発しています。
ソフトウェアの国際化というのは、めちゃくちゃシンプルにいうと、「ソフトウェアを、多くの国や言語で使えるように、作り変えること」と説明できます。
画面の右上などに言語の切り替えボタンが付いた Web サイトを見たことがあると思いますが、これも「国際化」の一つです。
この場合、とある言語のボタンがクリックされたときに、その言語に合わせて、それぞれの仕様が切り替わるように Web サイトを開発します。
これには「翻訳」以外の対応も含まれ、たとえば EC サイトであれば通貨単位をどうするか、会員サイトであれば名前登録のフォーム(文字の長さやカナ入力など)や住所の構成、場合によっては国や地域ごとに異なる個人情報保護の規制などを踏まえ、言語に合わせて作り変えます。
このように、サイトの特性や、それぞれの国や地域の法規制・慣習に沿ってサイトを作り変えて、グローバルにサービスを提供できるようにすること。これが、「国際化(多言語化)」です。
つまり、ソフトウェア国際化の技術である WOVN を「翻訳技術」として表現しても、それは、WOVN の一部分でしかありません。
AI が翻訳に与える影響
続いて、AI と翻訳の関わりについて、お話をします。
まずは、AI の進歩が各産業や労働市場に与える影響について、参考になる資料が内閣府から発信されていたので引用します。生成 AI 等の技術が出てきた中で、今年6月に公開されたレポートです。
内閣府『世界経済の潮流 AIで変わる労働市場』
https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh24-01/pdf/s1-24.pdf
ここで重要な言葉は、「代替性」と「補完性」という考えです。
代替性とは、言葉の通り、AI に代替される、置き換えられる性質を表します。
一方で、補完性とは、AI によって人間の作業が補完、効率化される性質です。
たとえば、医師などは、診察の特定の部分は AI によって精度が向上するとみられていますが、最終判断は人間の医師が行わなければなりません。
弁護士や会社役員、教員などの職業も同じ理由から、この図の (2) の「補完性が高い職業」として扱われています。
「補完性」の高い職業とは、言い換えれば、AI による代替からプロテクトされている職業と考えられます。そして、この中には、「翻訳家」も含まれています。
ここに翻訳家が入っているのはなぜ?
人による翻訳は、機械翻訳によって “代替” されるのでは?
このように思われる方も多いのではないでしょうか。
たしかに、一昔前まで人間が翻訳していたものが、どんどん AI に任せられるようになってきています。実際に、我々 WOVN でもさまざまな翻訳技術で AI を活用しており、翻訳の作業の “ほとんどの部分” を AI が行っています。
ただ、企業が消費者やステークホルダーに向けて翻訳された情報を発信する場合、この「ほとんど」というのが非常に厄介なのです。
仮に、機械翻訳によって、99% の情報が正しく翻訳できたとします。ただ、残りの 1% が、誤訳があってはいけない、とても重要な情報である可能性を排除することはできません。
また、翻訳した意味自体は間違っていなくても、マーケティングやブランディングの観点で見たときに、ニュアンスが異なってしまったり、デザインを崩してしまう場合も致命的です。
よって企業は、この 1% のためにすべての文章をレビューして、重要な情報に誤訳を見つけたら修正を行います。また、こまかなニュアンスまで含めて伝えたいときは、AI を活用せずゼロから人が翻訳する必要も出てきます。
これが、AI によって翻訳家の仕事が「代替」されない理由です。
WOVN は AI をどう活用するか
WOVN は、この 1% の修正においても、AI を大きく活用できるのでは?と考え、実際にプロダクトに組み込んでいます。
その一つが「WOVN.copilot」です。
WOVN.copilot の提供価値のイメージ
WOVN.copilot では、Web サイト内にあるテキストをすべて AI が機械翻訳した後に、①致命的なミス、②正確さ、③流暢さ、の観点を AI 解析によってチェックし、間違っている部分や修正の必要がありそうな部分を抽出することができます。これによって、企業は AI が指摘した箇所のみをチェックすれば良くなり、どのように修正すればいいかも AI が提案してくれます。
一方で、医師による診断と同じように、最後の判断は人間が責任を持って行わなくてはなりません。
このように、生成 AI や LLM 等の最新技術を取り入れながらも、人力の作業とどうミックスさせるかが、企業のグローバル化における AI 活用において、非常に重要になります。
WOVN.copilot は、この AI と人力の連携を最適化し、「AI 時代の新しい人力翻訳」を実現します。
ChatGPT を活用した『AI 時代の新しい人力翻訳』 - WOVN.io BLOG ~ 多言語 Web サイトの翻訳運用を自動化する WOVN.copilot ~ wovn.io
最後に
日本経済が停滞していることの大きな原因は、日本国内の人口減少に伴って世界におけるプレゼンスが下がったことで、相対的に産業が右肩下がりになっていることだと思います。
この状況を打破するには、冒頭でベン・ホロウィッツさんの言葉を紹介したとおり、日本が強みを持つ産業やサービスがグローバルに進出することが不可欠です。
WOVN は、多くの日本企業、日本のスタートアップが世界で戦っていくインフラとなっていきます。
「WOVN があったから、他の国の人たちにもサービスを提供することができた」
このように言ってもらえることをこれからどんどん増やしていきたいです。そんなとても大きなチャンスの渦の中で戦えることに感謝しています。
ぜひ、そんな僕らと一緒に働きたい人が多く集まってくれることを祈っています!