AIの進化によって、働き方は大きな転換期を迎えています。データの集計や分析など、これまで人が時間をかけて担ってきた作業の多くをAIに任せられるようになり、「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安の声も聞かれます。
ウォンテッドリーで全社のデータ基盤を支えるBI(Business Intelligence) Squadを率い、プロダクトの開発組織をマネジメントする要徳幸は、AIを「道具の移り変わり」のひとつとして捉えています。AIが作業を担うほど、人の仕事はより本質的なほうへ移っていく。どんな問いを立てるか、数字の裏にある背景をどう読むか、最後に何を決めるか。人に求められるものは、むしろ増えていくと話します。
今回は要に、BIという仕事の役割から、AI時代に人へ求められること、そしてこれからのリーダー像まで、話を聞きました。
執行役員 VP of Engineering / Dev Tribe Leader|要 徳幸(かなめ のりゆき)
大阪電気通信大学情報工学部を卒業後、複数のシステム開発会社で開発マネジメントを経験。2019年6月にウォンテッドリーへ入社し、「Wantedly People」のサービス開発、「Wantedly Visit」の開発リーダーを担当。2022年9月より現職として、開発組織全体を統括している。
「全員がアナリスト」の会社で、データ基盤をつくる
──要さんは現在、ウォンテッドリーのBI Squadを担当していますが、そもそもBI Squadとは何をするチームなのでしょうか。
ひとことで言うと、誰もが自分でデータを扱える環境をつくるチームです。ウォンテッドリーには、データをもとに判断する文化がとても強くあって、社員一人ひとりに、自分で数字を見て考えることが求められます。いわば全員がアナリストのような状態なんです。だからBIは、その「誰もがデータを扱える状態」を支える役割を担っています。専門的な言葉で表現すると、データ基盤を構築する仕事です。
具体的には、データの整合性や品質を保ったり、部署ごとにバラバラだった数字の定義を共通化して整える。そのうえで、セールスをはじめ各職種にもツールのアカウントを渡して、自分たちで集計や分析ができるようにしていく。依頼を受けて分析を代わりにやるのではなく、一人ひとりが自分でデータに向き合える環境をつくっています。
──他の企業のBIと比べると、役割にはどんな違いがあるんでしょうか。
一般的なBIチームは、事業において重要な指標を見えるようにしたり、その仕組みをつくったりするのが仕事です。それを分析する専任のアナリストがいる会社も多い。つまり、データを扱う専門職としてチームがある、というのが一般的な姿です。
ウォンテッドリーはそこが少し違っていて、先ほどお話ししたように、社員のほぼ全員が自分でデータを見る前提がある。なので私たちは、みんなが分析できる土台をつくることに専念しています。それが、他社との一番の違いだと思います。
──AIが急速に進化したこの数年で、BIの仕事や負荷はどう変わりましたか。
一番変わったのは、作業にあたる部分の負担です。ここが大幅に減りました。数字を出すには、データを集計して分析する必要がありますが、これってかなり機械的な作業ですよね。決まった手順で分析していけば、人間がやってもAIがやっても、同じ答えにたどり着きます。
集計をするときには手順を組み立てる必要がありますが、これはとても論理的な作業なので、むしろAIのほうが得意なんです。
意思決定が増える時代、「筋の良い問い」が差をつくる
──そういった作業をAIに任せるとなると、人間の役割はどう変わっていきますか。
人間が担う部分、特に意思決定の重要性が増していきます。集計や分析をAIがやることで、仮説を立てて検証し、結果が出るまでのスピードが上がる。実感として、これまで1カ月かかっていた分析が、今は2日ほどで終わっています。そうなれば、1カ月で仮説検証を10回は行えることになり、その分、意思決定の回数も、扱う仮説の数も増えていくわけです。
プロダクト開発は、もともと仮説検証の繰り返しです。このサイクルが高速で回ることが理想的で、現状AIによって、仮説検証のスピードは格段に上がっています。あとは、この変化に人間がついていけるかどうかです。
──増え続ける問いや意思決定に、人はどう向き合っていけばいいのでしょう。
大事になるのは、問いの質です。私はよく「筋の良い問い」と言うんですけど、そこは人によって差が出ます。たとえば業界の動向や自社のプロダクトをよく知らない人は、どうしても問いの質が上がらない。同じレベルの問いをぐるぐる繰り返してしまって、先に進めない。でも、事業やプロダクトを深く理解している人が使うと、問いがどんどん磨かれて、レベルの高いものに変わっていく。掘り下げる深さも、見渡せる幅も全然違う。ここは本当に人間の力次第で、その人のレベルによって大きく変わります。
数字を正しく読み解くために、必要なものとは
──筋の良い問いを立てるには、まず数字を正しく読めることが前提になりそうです。数字を正しく読むうえで、大事なことは何ですか。
やはり、その数字の背景を知っているかどうかです。同じ数字でも、その事業がどんな前提で成り立っているのか、その機能がどんな意図で作られたのかを知らなければ、そもそも何を重要な指標とすべきかが判断できない。一般的な指標をそのまま当てはめるのではなく、自分たちのサービスならではの文脈のなかで、その数字が何を意味するのかを捉える必要があります。
しかも、その前提は時代とともに変わっていきます。以前は重視していなかったことが、法律や社会の変化で重視されるようになる、ということもある。そうした変化を知らずに数字だけを比べると、数値が上がった・下がった理由を読み違えてしまいます。
数字には因果関係があって、その数字は何かの「結果」かもしれないし、何かを引き起こす「原因」かもしれない。どちらを意味しているのかを判断する材料も、やはり背景にあるんです。
──背景の理解のほかに、必要なことはありますか。
業界そのものへの理解と、専門知識は欠かせません。重要な指標を分解して捉える力、そして「ここの数字さえ上げれば全体が良くなる」という勘所を見抜く力。こうしたことも大事な要素の一つです。
ウォンテッドリーでたとえるなら、「プロダクトづくりとは何か」「ユーザーが本当に求めているものは何か」を、自分の身体に染み込むくらいまで理解しておかないと、「何を問うか」が見えてきません。
──これまで「問いを立てる」のはエンジニア側の仕事という感覚がありました。今後は職種を問わず求められそうですね。
そうなんです。今はセールスのメンバーも、自分で集計や分析ができる環境になりました。以前は、担当者がBIチームの誰かに依頼して分析してもらっていた。でも、そのやり取りの間に、どうしても情報が抜け落ちてしまうんです。求めていたものと、少しずつずれていく。今は担当者が自分で分析できるので、一次情報にまっすぐ向き合える。
しかも、現場の空気感やお客さまがどう感じているかを言葉にしてAIに伝え、出てきた結果に「ちょっとニュアンスが違うな」と気づけるのは、その仕事をしている本人だけ。他の職種の人が代わりに担うのは難しい。だからこそ、当事者が自ら分析できることには大きな価値がありますし、判断までのスピードも上がります。
──誰もが問いを立て、分析する時代に、役職に関わらず、意思決定する側が持っておくべき意識とは何でしょうか。
これはもう、間違いなく責任の部分です。最後に何かを決めて実行するのは人間なので、その重要性は変わりません。
「AIがこう言ったので、出てきた結果をそのまま資料にしました」なんてことを言ったら、確実に怒られますよね。そうではなく「あなた自身はどう考えたのか」「何が良いと思ったのか」が必ず問われる。合っていたか間違っていたかは別として、最終的な判断への責任は必ずついてきます。
“道具”の置き換わりは、何度も起きてきた
──作業をAIに任せられる時代だと、これから入る新人は不利にならないでしょうか。数字の背景やコンテキストを、実務のなかで身につけていくプロセスが抜けてしまう気がして。
それは全然心配していません。結局やることは課題を見つけて解決することで、目的そのものはずっと変わっていないからです。AIによって自動化される部分はあっても、営み自体は同じ。むしろこれからは「本質的な課題を見つける」ほうへ、みんなが近づいていく。問われるのは、その力だと思っています。
──とはいえ、AIに頼りすぎることへの抵抗感を持つ人もいると思います。
その抵抗感は、AIを特別なものだと捉えているから生まれるんだと思います。昔は数字を出すのを暗算でやっていました。それがそろばんに置き換わって、電卓に変わって、エクセルに変わった。AIも、この道具の移り変わりと同じだと私は思っているんです。やっていること自体は「数字を計算する」で変わらない。大事なのは、いかに使いこなせるか。だからウォンテッドリーでも「AIを使い倒そう」と言っています。
私自身も、25年前に社会人になったときは、「機械語が分からないとダメだ」「CPUの動きを理解していないと」と言われました。でも今、CPUの中で何が起きているかなんて、誰も意識しませんよね。昔から、みんな同じことを言っているんです。でも実際は、求められるレベルが一段上がっただけ。結局、自分の知らない世界のことだから不安になる。それだけなんですよ。
──「知らない世界だから不安になる」と言い切れるのは、要さん自身が変化を何度もくぐってきたからでしょうか。
そうかもしれません。私たちの世代が経験したのは、iPhoneの登場です。パソコンでやっていたことが、スマートフォンに置き換わるかもしれない、と。そうなると、時代の流れが大きく変わる。ある業界では仕事がなくなったり、またある業界では新しい仕事が生まれるのを、実際に目の当たりにしてきたんですよね。
産業革命から200年ほどでインターネットが登場し、その変化の周期が10年、5年と、どんどん短くなっています。それを身をもって経験しているからこそ、今、危機感を持てているのだと思います。稼げる領域がガラッと変わって、生き残るためには新しい領域に移るしかなくなる。古い領域は少しずつ廃れていく。早く動いた人ほど得をする世界で、乗り遅れたら、もう厳しいんです。
リーダーの仕事は、変化のなかで「指針を示す」こと
──では、その大きな波のなかでチームを率いる立場として、AI時代の良いリーダー像を、あえて言葉にするとどうなりますか。
リーダーシップの本質は、昔から変わりません。ゴールを決めて、そこにたどり着くまでの中間地点を用意することだと思っています。
ただ今は、時代が大きく変わっているタイミングです。AIに置き換わろうとしている変化を、放っておくのか、誰よりも早く動くのか。ここで大きく差がつく。だからこそ、変化を乗り越えるための方針を示すことが、今のリーダーには求められます。方針を示せないと、チーム全体の足並みが揃いませんから。
もっとも、変化のスピードがとても速いので、示した方針も数カ月後には状況が変わっているかもしれない。だからといって「分からない」と放っておくのは違う。変わることを前提にしたうえで、いま取り組むべきことがあるなら「ここまでは走り抜こう」と示すことが絶対に必要です。
「作りたい人」だけが、道具を使いこなせる
──最後に、AIを扱ううえで、職種も役職も問わず大切にしてほしい姿勢を教えてください。
失敗してもいいから、とにかく挑戦することですね。変化を恐れてはいけません。変われなければ、待っているのは衰退だけ。ウォンテッドリー自体が「挑戦しよう」という会社なので、なおさらですが。
そのうえで、AIを使いこなして生きていけるのはどんな人か。私は、"作りたい人"、つまりクリエイターだけだと思っています。「何かを作りたいから使う」「何かを実現したいから使う」。職種に関係なく、この能動的な気持ちがいちばんの素養です。
──「何を作りたいのか」というイメージがないと、何も生まれないということですね。
そしてそれは、たいてい「課題を解決するため」に行き着くんです。「ただ何かを作りたい」ではなく、「何かを解決するために作る、そのためにAIを使う」。この順番が成り立っていないと、意味のないものを作ることになってしまう。道具はこれからも変わり続けます。それでも、課題を見つけて、自分の意思で決めて、作る。人間のやることは、この先も変わらないと思います。