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very50は「自立した優しい挑戦者を増やして、世界をもっとオモシロク」をミッションとして掲げ、17年かけて高校生向けプログラム Mission on the Ground(MoG)を磨いてきました。年間参加者は2,500人近くにのぼっており、今後数年間で5,000人へ拡大することを目指しています。NPOとして“拡大しない”ということも選択肢にある中、事業を大きくすることへ舵を切った理由を、事業拡大を担う中嶋に聞きました。
very50が「NPOである理由」
森岡(広報担当):そもそも、very50はなぜNPOという立場で活動しているのでしょうか?
中嶋:very50は、掲げるミッションに違わぬよう、自らも”自立した”組織であることを目指し、寄付に頼らない事業運営を行なっています。株式会社として運営していくことも可能な中、NPOとして活動し続ける一番大きな理由は、拡大しない自由を持てることです。NPOには、株式会社と違い株主還元の前提がなく、外から「もっと事業を大きくしろ」と迫られることがありません。生徒に届ける体験価値を下げるくらいなら広げないという判断を、いつでも選べる状態にしておくことにより、私たちが価値だと思うものー目の前の一人に深く届く体験—を守るブレーキになると考えています。
森岡:「一人に深く届く体験」とは具体的にどのようなものですか。
中嶋:あえてvery50以外の活動で例えると、私が学生の頃からずっと応援しているNPOに、バングラデシュでストリートチルドレンを支援しているエクマットラという団体があります。彼らはストリートチルドレンを「助けたい」という思いからではなく、「痛みを知る彼らだからこそ社会のよきリーダーになれる」という信念で、現地の富裕層も通わせたくなるような次世代のリーダーをつくる教育を提供しています。そこに通っているのはストリートの中でも選ばれた50人だけです。
私の前職はIT系のスタートアップ企業でした。数字とスピードが重視される中で「拡大、拡大」の空気とともに走り、数字を伸ばすおもしろさはよく知っています。それでも、エクマットラが、子どもたち一人ひとりを本気でバングラデッシュを変革するリーダーにしようと、意欲の高い先生を集め、学校生活のいたるところで工夫を凝らし、新興国の中でも高い水準の教育環境を提供しているのをみると、純粋に今後子どもたちに起こるであろう変化にわくわくしますし、この団体が提供している価値は数字では表現しきれない、そういう価値もあるんだと腑に落ちます。世界で1000万人が使うサービスを作りたい、という夢も素敵だけれども、この50人の人生を変えようとしている活動も同等にすごいことだって思うんです。
very50に引き寄せると、私たちがつくりたいのは生徒の人生を変え、彼らが世の中の変化の起爆剤になっていく、そんなきっかけを与えられるような本当に意味のある教育プログラム。なので、マニュアル化して量産するのではなく、カリキュラムを参加団体ごとに毎回つくり替え、当日の組み立ても生徒の状態や個性、チームの呼吸に合わせて変えて、その時の”最高”を届けるため全力を注いでいます。正直、型にしてしまっても「それなり」のものは届けられると思っています。でも、それでは自分たちが起こしたい社会の変化には届かない。だから、私たちは型にしてただ提供する人数を増やすのではなく、目の前の一人を優先しようと決めています。
このことを改めて確認できたのは2024年でした。
2024年の「営業活動停止」という選択
森岡:2024年、very50ではどのようなことがありましたか。
中嶋:very50のMoGプログラムは、コロナで一時停止を余儀なくされたものの、再開以降、約700人 → 約1,500人 → 約1,800人 → 約2,600人と段階的に広がってきました。ただ2024年はあえてアクセルを緩め、前年と同水準のプログラム数を保ちながらプログラムの中身を磨くための施策に時間を振り向けました。
森岡:具体的にはどのようなことをしたのですか。
中嶋:一番力を入れて取り組んだのは、大学生メンターの底上げです。大学生メンターとは、MoGプログラムの中で、高校生のプロジェクト提案がうまくいくようにサポートする役割を担う大学生のことなのですが、当時、プログラムの質を高く保つために重要と考えていたのが彼らでした。スタッフより年齢的にも近い彼らが、プロジェクトに対して、まるで事業を担う当事者のように真剣に向き合う姿勢を見せることで、高校生もプロジェクトに主体的に向き合い、その中でしっかりと壁にぶつかり成長するという非常にダイナミックな動きを、全てのプログラムの中で確実に生み出せるようになる必要があったのです。
そのために、現在も続いているMAPプログラムなど大学生メンターのマインドセットを整えるトレーニングの実施をはじめ、プログラム設計の見直し、メンターの採用や配置の再考など、抜本的な変更を行いました。最終的な形になるまでに、様々な試行錯誤がありました。当時は、何をすればメンターを底上げできるのかがわかっていなかったので、プロジェクトの段階ごとに行うべきアクションをカードにして、その中から選択してもらうという”型”を作ろうとした時もありました。けれど、型を使って行ったプログラムでは、どうしてもメンター、生徒両方にプロジェクトを「こなす」という感覚が生まれてしまい、生徒に本当の挫折と成長を生み出すことができませんでした。やはり、決まったシナリオをあえて準備せず、実在する社会起業家の課題を前に自分がこの課題を解消すると本気で腹を決めた大学生メンターが、その場の”ベスト”が常に変化していく生の現場で、「事業への貢献」と「生徒の成長」に責任を持って挑んでもらう現在の形が最適であると、様々なトライの中で確信が持てるようになりました。
売上だけを見ると、この試行錯誤の1年は停滞の1年でした。しかし、生徒の成長に必ず寄与するという覚悟で挑めるプログラムの継続的な実施を実現するためには欠かせない1年で、この経験を通じて、組織として拡大は約束でも強制でもないという前提を実感を持って言葉にできたのは大きな前進だったと感じています。
「なぜ今、増やすのか」ー拡大に踏み切る理由
森岡:では、なぜ今拡大に踏み切るのですか?
中嶋:理由は大きく3つです。
1つ目は、守ってきた深さが拡大に耐えられるようになったこと。
「1,000人の小さな変化」ではなく「1人の大きな変化を1,000人に」—参加した高校生に大きな変化を届けるという、この前提は変わりません。2024年にいったん立ち止まり、大学生メンターの育成の仕組みと運営設計を整えたことで、同じ“深さ”のまま、より多くの参加者に届ける準備が整ったという手応えを持っています。
2つ目は、MoGを少数の選ばれた人だけではなく、多くの人たちへ幅広く届けていきたいと考えているため。
MoGプログラムは、社会課題への当事者意識とビジネススキルを身で学ぶ、ということを基本コンセプトとしています。これは、社会人となっていく全ての人に必要な経験であると確信していますが、一方で現在の日本の教育業界においては比較的学ぶ機会が少ないと感じています。届けられるのであれば、全ての高校生に届けたい。そんなプログラムだから、拡大の余地が生まれた今、拡大しようと考えています。
3つ目は、MoG、大学生向けプログラムに続く”社会人”向けの取り組みが始まったこと。
MoGプログラムのインパクトに自信を持っている一方で、この1回の関わりで、人の人生を変える”教育”が完了するとは考えていません。もちろんこの経験をきっかけに人生が変わる人もいると思いますが、人生の途上で何度も、長く関わることが、”自立した優しい挑戦者”を育むために重要だと考えています。そんな中、これまで行ってきた高校生向けのMoGプログラム、大学生向けのメンター制度に加えて、社会人が違和感を覚えた時に立ち戻って再挑戦できる拠点を作る準備を進めています。具体的には、今年の11月に移転予定の新オフィス。そこは現オフィスの約5倍のスペースとなっており、卒業生や共感者が自然に集まりプロジェクトが立ち上がる場として機能させる予定です。
十分な運営の土台/MoGを拡大させる意義/高校生から社会人へと繋がる道筋—この3点がそろった今が、もう一歩大きく踏み出すタイミングだと判断しました。
森岡:その上で、目標としている5,000人には、どのような思いが込められていますか。
中嶋:very50のミッションは、「自立した優しい挑戦者を増やして、世界をもっとオモシロク」すること。
この“オモシロイ世界”について僕が思い描いているのは、一握りのスターが目立つ世界ではなく、日常のあちこちで多くの人が自分の半径内から大小の挑戦を始めている景色です。だから、少数の挑戦が点在しているだけでは「世界をオモシロク」とは言えない。 大きくても小さくても無数の挑戦が点をつくり、その点が線に、線が面になるときに世界が”オモシロク”変わっていく—そう考えています。
5,000人というと、ひとつの大学の1学年くらいの厚みで、これだけいれば「very50出身」と言ったときに社会の中でそれなりの存在感になる。「very50出身者」は、地に足つけた事業、取り組み、振る舞いで、社会、企業、団体、自分の周りの問題と向き合い、解決のためのアクションを起こしている、と認知されるようになることは、ミッション達成に向けた一つのマイルストーンだと考えており、その達成のために、行動を開始しようとしています。
「拡大」は組織にとっても挑戦
森岡:事業拡大に当たり、関わっている方に向けて新たに募集を開始しました。今後どう組織を進めていきたいと考えていますか?
中嶋:前提として、高校生の体験価値が薄くなる兆しを感じたら拡大自体を止めることはありえます。それくらい大切に設計して進めてきた高校生事業なので、広げる・広げないの判断は大事に行っていきたいと思います。
その中でも、事業拡大にあわせて、これまで以上にユニークでスキルフルな仲間を迎えたいと考えています。人数が増えれば多様性は増し、それは力であると同時に組織の挑戦でもある。だからこそオンボーディング、育成、働き方において、核である「自立した優しい挑戦」をぶらさないようにしつつ、共通言語をつくりながら、成長痛は前提として受け止め、みんなで乗り越える。 新しい人も既存の人もオモシロク働ける環境を拡大の条件に、次の章へ踏み出します。