誰にだって挫折や失敗はある。それでも歩みを止めず前へ進むには、どうすればよいのだろうか。
連載「安武社長、本音聞いてもいいですか?」の第5回目のテーマは「失敗・挫折から得た教訓」です。
安武さんはこれまでに数多くの新規事業を立ち上げてきましたが、その中には、うまくいかなかったもの、クローズを決断したものもあったといいます。今回は、安武さんが経験した失敗や挫折、そこから得た学び、そして挑戦を続けるための策についてお話を伺いました。
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ーこれまで大きな失敗だったと感じる出来事はありますか?
そうですね。どれを挙げるか迷うほど失敗はありますが、特に新規事業に関しては失敗の連続でした。
当時は「新しい事業を生み出して社会に価値を与えたい」という思いで、さまざまな挑戦をしていました。ただ、実際にはうまく立ち上げることができなかったんです。
受託開発やコンサル業務を行いながらの新規事業だったので、どうしても片手間のような状態になってしまっていました。そこで新規事業の専任チームをつくって進めたのですが、結果的にそれも良い形にはならなかったですね。
受託で売上を稼ぐチームと、新規事業で挑戦するチームに分かれると、「あっちは大丈夫なのか」というような空気が社内に生まれてしまいました。実際、新規事業のメンバーには負荷が大きく、成果が出るまでに時間がかかる。そうした組織の状態が良くなく、結果的に新規事業自体をストップすることになりました。あの経験は大きな挫折のひとつでしたね。
ーどのあたりで雲行きが怪しいと感じ始めたのでしょうか?
プロダクト開発は順調に進んでいて、良いものができたと思っていました。でも実際にお客さんに使ってもらう段階で、想定していた事業計画どおりには進まなかったんです。
開発から3ヶ月ほどでサービスをリリースしたのですが、6ヶ月経ったころには「雲行きが怪しいな」と感じていました。
ーうまくいかなかった原因を、今振り返るとどのように考えますか?
大きく分けて二つあります。
ひとつは体制の問題、もうひとつは進め方の問題です。
体制面では、当時はそれぞれが「自分のやりたい新規事業を進めていこう」という形でした。ただ、それではうまく立ち上がらなかった。そこで専任チームを作り、全社的に推進するようにしましたが、責任者である役員がフルコミットできる状態ではなかったんです。私自身もコンサル業務を抱えながら進めていたため、時間の使い方がかなり厳しい状況でした。
進め方については、やや見切り発車になっていたと思います。新規事業を生み出すというプレッシャーもあり、プロダクトを早く形にしようと急いでしまいました。本来であれば、ユーザーの課題を特定して、小さく検証を繰り返しながら進めるべきでした。
ヒアリングも行っていましたが、実際に売ってみると想定ほど売れず、営業・マーケティング・開発のメンバーが次第に疲弊していきました。これが大きな反省点ですね。
ークローズを決断した際、どんなやり取りがあったのでしょうか?
まずはメンバーに率直に聞きました。「このまま進めていけると思う?」と。
すると、みんな「負担が大きい」「この先が見えない」という声や「既存のお客様の案件にも関わりたい」という意見もありました。
会社としては事業を継続したい気持ちがありましたが、メンバーの負担を無視して強制するのは良くないと感じました。結果的に、従業員の意見に寄り添う形で撤退を決めました。
ーその経験から、どんな気づきを得ましたか?
会社のビジョンやミッションと、社員一人ひとりの思いを一致させることの大切さを実感しました。
ビジョン・ミッション・戦略・戦術が整っていないと、新規事業も組織も上手くいかない。今では、その三つの整合性を常に意識しています。
また、会社がやりたいことと、メンバーがやりたいことの“ずれ”は少しずつ生まれてくるものです。そこを調整していくのがリーダーの役割だと思っています。今はできるだけ社員の声を聞き、制度や方針を柔軟に変えるようにしています。
ーメンバーの新規事業への意欲や、取り組み方についてはどう感じていますか?
はい、みんな強い意欲を持っていると思います。
最近だと社内課題やお客さまからの要望をきっかけにメンバー主導で生まれた「Asmana」や「SPG-R」といったプロダクトが、ようやく事業としてしっかり立ち上げていこうっていう段階に入ってきています。
そういう意味で、新規事業開発においてはタイミングが何より大切です。アクセルを踏むタイミングやブレーキをかけるタイミングを誤ると、プロジェクトが空中分解してしまうこともあります。たとえば、お客さまの反応が見えないうちに投資を増やしてしまうと、後から急ブレーキをかけざるを得なくなる。だからこそ、スモールスタートを心がけています。
リスクを最小限に抑えながら、少しずつお客様との接点を広げていく。そして可能性が見えてきた段階で、一気にアクセルを踏み込む。焦らず、状況を見極めながら進むことを大事にしています。
ー当時の自分にアドバイスできるとしたら、どんな言葉をかけますか?
当時はコンサルティング業務の比重が大きく、新規事業に十分な時間を割けていませんでした。その経験からも、責任者としてのコミットメントと時間の確保がいかに大切かを実感しています。
片手間であっても構いません。大切なのは、提案した本人が事業を伸ばす覚悟を持つことです。事業を提案した本人が自らその事業を伸ばし、会社としていろんな人を巻き込んで動いたその結果、巻き込まれた側も不幸になってしまうことがある。
ですから、まずは自分でしっかり事業の形や土台を作り、ある程度収益が生まれる状態になるまで、大型の投資は控えつつ、その範囲でできることをやっていくのが望ましいと思います。具体的には、コンサルや受託開発の稼働を半分にして、プロダクトセールスに力を入れながら、自分自身で事業を伸ばしていく。まずは一人でしっかり形にしていくこと。それが当時の自分に伝えたいアドバイスですね。
ー最近取り組まれているチャレンジについて教えてください。
今の会社のビジョンにも近いのですが、これまでの失敗を踏まえて「売れる仕組みをつくること」を特に意識しています。営業開発の精度を上げ、成功確率を高めるために、BtoBのバーティカルSaaS(業界特化型SaaS)を継続的に生み出すというテーマを掲げています。
現在は、BtoBのバーティカルSaaSのスタートアップスタジオを標榜し、コンサルティングや受託開発と連動しながら、プロダクトセールスにも力を入れています。お客様とともに業界を変革していけるような、そんな挑戦を続けています。
ー最後に、読者へメッセージをお願いします。
そうですね。やっぱりこの経験を通して感じたのは、「こけ方」をどうコントロールするか、ということなんです。
大きくこけて再起不能になるよりも、ある程度リスクを見極めながら、チャレンジしていく。いきなり会社を辞めて飛び込む前に、副業的に始めてみるとか、次の計画を立てておくとか。
たとえば、「君がもし会社を辞めてこれを始めるなら、最初の顧客になるよ」と言ってくれるお客さんが一人でもいれば、だいぶ違うと思うんです。そうやって、もしこけたとしても次の策がある状態で動く。それが、挑戦を続けるためにはすごく大事だと思います。
タラレバかもしれませんが、そのタラレバの可能性を少しでも高めておく。そうすると、失敗してもリスクをコントロールできるんですよね。
世の中にはチャンスがたくさんありますが、それをつかみ取れるのは動いている人だけです。動き続けること。そしてリスクを見極めながら前に進み続けること。それが、僕の思う挑戦を続ける「こけ方」なんだと思います。