ニューロマジックでは、2022年にDEI担当執行役員が就任して以来、DEI領域の制度構築を積極的に進めています。
昨年(2024年)には、外部講師をお招きしてDEI研修を開催いたしました。
今回は、その研修のレポートをお届けいたします!
※この記事はSERVICE DESIGN BLOGの転載です。
組織のなかで誰もが安心して働くには、どのような環境が必要なのでしょうか?
属性やバックグラウンドは関係なく、誰もの心理的安全性が確保され、公平に機会が与えられ、成長できる職場。そんな職場がある組織では、イノベーションが促進され、チームのエンゲージメントやパフォーマンスが向上し、多様な人材の採用と維持が可能になるでしょう。
この問いと向き合うために、エクスペリエンスエージェンシー「ニューロマジック」で、DEI研修が開催されました。「DEI」とは、「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」を表す言葉です。
ニューロマジックは、これまでもDEIを重要視してきました。2022年には、国内における最大規模の女性アワード「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2022」の“女性従業員の活躍実感度ランキング 101名以上1,000名以下の部”において3位を受賞しました。女性社員が6割超、女性管理職の割合も57%です。また、2023年のD&l AWARDでは、「スタンダード認定」を獲得しました。今後はさらに上の「アドバンス」を目指しています。
▶︎「企業内のマイノリティ向けの施策は”贔屓”?」JobRainbow社が主催するD&Iアワードレポート
しかし、DEI実現へは長い道のりです。そこで今回、多様性×教育を軸にワークショップや出張授業・講演を行う株式会社Culmony様の力を借りて、研修を行いました。本記事では、その研修についてレポートします。
ニューロマジックが研修を決めた理由
DEI領域担当執行役員の永井菜月より
ニューロマジックでは緩やかにDEI的思考と実践を続けてきましたが、全社向けの研修を実施したことはなく、以前から検討していました。そんななか2023年末に、本年9月30日の上場に向けてコンプライアンス研修を行ったことをきっかけに、私たちが目指す研修の方向性を言語化することができました。その方向性とは、基本的なハラスメントに関する指導や学びを一歩深め、私たちのなかにある「違い」に関する認識や、「そもそもダイバーシティとは?」という基本的な認識の一致を目指すものです。そして、2024年に入り、本格的な企画へと進めていきました。
研修先の選定に当たっては、画一的に「やってはいけないこと」を教えるようなスタイルではなく、上記の通りダイバーシティに紐付く理論や認識を講義し、議論の場を提供してくださる方を探し、D&Iアワードで出会った株式会社Culmony様にお願いすることにしました。
研修内容
<全体研修>
研修が必要な理由の説明から、現状の社内での意識調査、アンコンシャスバイアス/ダイバーシティ/インターセクショナリティ/平等と公平の違い/バイアス/マイクロアグレッションなど、DEIへの理解を深めるうえで基礎的な概念を説明。
<マネジメント研修>
全体研修の内容をベースにマネジメントの視点が加わった内容を展開。
<英語研修>
全体研修の内容が、社内の英語話者に向けて開催。
<「ジェンダー」研修>
トランスジェンダーの筌場彩葵さんによる登壇。自身のストーリーを共有しながら、多様なセクシュアリティやジェンダーについて説明。
<「障がい」研修>
日本の競泳のパラリンピアンであり、モデルの一ノ瀬メイさんによる登壇。自身のストーリーを共有しながら、“障害者が直面する困りごとは社会や環境に起因するもの”という考え方である「障害の社会モデル」を説明。
<アイディエーションワークショップ>
ここまでの研修を含めて、有志で集まり、実際にニューロマジックでどんな取り組みが考えられるかをグループに分かれて議論し、発表。ここで生まれたアイデアは実装に向けて、実際に社内で進められている。
参加してみて学んだこと
さまざまな視点で行われた本研修。参加者から寄せられた声の多くに、「自分がわかっている『つもり』になっているだけなんだなという気づきがあった」「私もこういうことを悪意なく言ってしまっているな、とハッとすることがあった」など、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏ったモノの見方)」への言及がありました。参加者にとって、自身の日常的な言動が、誰かを傷つけることに繋がっていないかを改めるきっかけになったようです。研修では、必要に応じて組織の体制や制度を変える上からの働きかけはもちろんのこと、一人一人の意識改革の重要性が強調されました。人種や障がい、ジェンダーなど、多様なトピックの話しがあったなかで、共通して言えるのは、①自分の当たり前を疑う ②自分の言動を振り返る ③意識して行動することが求められているということです。
①自分の当たり前を疑う
前述したように、研修で紹介された概念に、アンコンシャスバイアス(無意識の偏ったモノの見方)があります。例えば、性的役割として「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考えは過去に当たり前とされてきましたが、人々の意識は変化しています。こういった思い込みが、男性の育児参加率の低さや女性管理職比率の低さにつながっています。他にも「男女二次元論」など、社会で当たり前とされていることの多くは、ある種の思い込みであり、平等な社会の実現を妨げていると言えるかもしれません。
さらに気づくのが難しいのが、自分が持っている特権です。「特権」というと、まるで何か特別な思いをしているように聞こえるかもしれませんが、あなたにとって当たり前のことが、誰かにはそうではないことがあります。研修では上智大教授(社会心理学)の出口真紀子さんの「特権とは自動ドアのようなもの」という説が紹介されました。
特権を持っている人はゴールに向かって進む過程で、次々と自動ドアが勝手に開いてくれますが、特権がない人には自動で開かないということです。つまり、特権を持っている人は、勝手に開いてくれるため、ドアについて考える機会が少ないですが、マイノリティの人は、度々立ちはだかるため、ドアの存在を認識しています。
自分が当たり前だと思っていることが、アンコンシャスバイアスではないか。自分にとって当然の権利だと思っていることすら、得られない人がいるのではないか。組織内でも、そういった想像力が、DEIへの理解の第一歩となるでしょう。
②自分の言動を振り返る
自分のアンコンシャスバイアスや特権を意識するようになると、次に自分の言動を改めてみる必要があります。例えば、全く悪気はなくても「彼氏いるの?」「彼女いるの?」といった質問は、相手のセクシュアリティを決めつけていることになります。あなたにとっては一度の質問でも、その質問を何度も何度も受け取っている相手にとっては、自分のセクシュアリティが受け入れられていない、あるいは存在していないように感じられるかもしれません。
研修では、「マイクロアグレッション」という概念が紹介されました。大東文化大学特任教授の渡辺雅之さんによると、マイクロアグレッションは以下のように説明されています。
日頃から心の中に潜んでいるものであり、口にした本人に「誰かを差別したり、傷つけたりする意図」があるなしとは関係なく、対象になった人やグループを軽視したり侮辱するような敵対・中傷・否定のメッセージを含んでおり、それゆえに受け手の心にダメ―ジを与える言動(引用元:日本財団ジャーナル)
例えば「アフリカの人は足が速い」「女性はおしとやか」「ゲイの人はおしゃれ」など、本人が褒めてるつもりの言葉にもこれは言えます。ポジティブな内容であっても、一つのグループを全て一緒にしてラベルを貼ることは、個人差を無視し、負担になったり、重荷になったりもするでしょう。さらに渡辺さんは、最悪のケースだと、「マイクロアグレッションはヘイトスピーチ、ひいてはジェノサイド(民族・人種の抹殺や危害を加える行為)につながっている。そのことを自覚することがまず必要で、口にしてしまった場合は真摯に反省を繰り返すことが大切」(引用元:日本財団ジャーナル)と語っています。
組織内だけでの影響を考えても、日々の職場でマイクロアグレッションが続けば、誰かが疎外されたり、社内全体の雰囲気が悪くなるかもしれません。
③意識して行動する
自身のアンコンシャスバイアスに気づき、普段の言動を振り返ったら、それをふまえてこれからの行動を変えていくことができます。アンコンシャスバイアスは誰にでもあるものであり、マイクロアグレッションも気づかずしてしまうこともあるでしょう。そういった際に、気づいたら相手に謝る、周りの人がそういった言動をしていたら一言何か言う、などできることがあるのではないでしょうか。そういった小さな配慮が誰かにとって居心地のいい環境づくりにつながると思います。そして一人一人の変化が、ゆくゆくは組織全体の雰囲気を変えるのではないでしょうか。
最後に
今回ニューロマジックの研修を担当した株式会社Culmonyの岩澤直美さんからコメントをいただいたので紹介します。
ニューロマジックのみなさんは、社内の多様性を認識し、DEIを大切にすることへの自信と共感が表れていたことが、本当に素晴らしいと感じました。多様性が豊かな組織だからこそ、他の企業や国、地域でのDEIに関する経験を持つ方や、さまざまな側面でマイノリティとしての経験をされている方が多いことが、組織の強みだと感じます。一方で、DEIに向かうための知識や実際のアクションには意識差もあり、一部には悩みや我慢を抱えている方がいることもアンケートから浮かび上がりました。研修では、そうした皆さんの思いに寄り添いながら、互いに納得感をもってコミュニケーションや配慮を実践できる方法を、具体的な事例とデータを通じて共有し、共に学び考える時間を大切にしました。
特に印象的だったのは、ワークショップでDEIに詳しい方々の発言が、他の参加者にも多くの気づきを与え、議論がさらに深まった瞬間です。日常のなかで感じていた課題やモヤモヤも率直に共有されて、組織全体での成長と新たな気づきが促されていたように思います。今後、DEIの取り組みを日常的に継続しながら「ニューロマジックならではのDEIのあり方」が創られていき、組織全体で共有されていくのを楽しみにしています。
日々のタスクに追われるなか、自分にとって当たり前になっていることを見直すことは容易ではありません。そのためこのような研修を通して一度立ち止まり、考えるきっかけや時間を持つことがとても大切です。ニューロマジックでは、今後もDEIと向き合い、試行錯誤を繰り返しながら組織の多様性と包括性をさらに推進していきます。