昨今のAI技術の発展は、生活やビジネスに大きな革新をもたらしていますが、その裏側では技術開発を率いるプロジェクトマネージャーの存在があります。
今回は、NABLASで経営ボードメンバー、R&D部門長、新規事業責任者、AIコンサルタント、そしてPMとして幅広く活躍する鈴木さんに、プロジェクトマネージャー(PM)としての業務や役割、必要なスキルについて伺いました。
Q:NABLASに入社される前は、どのようなお仕事をされていましたか?
NABLASに入社する前は大企業の経営コンサルティングをやる傍ら、複数のテクノロジー系のスタートアップの事業立ち上げ・統括をしていました。新卒でBCGに入社し、中長期の事業戦略立案・M&A・新規事業立案などの幅広い業界の戦略策定を経験し、海外オフィスのグローバルプロジェクトにも携わりました。その後、起業して航空会社やメディア企業に対する新規事業やデジタルマーケティングのコンサルティングを行いながら、アパレル、建築、ヘルスケア、AI、クラウドコンピューティング事業の立ち上げやベンチャーキャピタルの立ち上げ・投資業務にも従事しました。
基本的には、社会への先端テクノロジーの実装を通じてより善い社会へ導いていきたいという想いで幅広く挑戦してきました。
Q:もともとAIに関する知識はお持ちだったんですか?
AIや機械学習は元々専門分野ではないですが、学生時代の研究分野がオペレーションズリサーチや金融工学といった最適化系の研究だったのもあり、概要は何となく理解していました。自社が提供するサービス内やデジタルマーケティングにおいてAIや機械学習技術が役立つことを知り、実務の中で徐々にAI技術の知識と経験を深めていったような形です。
BCG在籍時あたりの時流としては、まだAI技術への注目度は低く、コンテンツ・サービスのWeb化・モバイルアプリ化、SNSなどの全盛期でした。その後事業をする中でユーザの行動データや決済データをいかに集めて分析・活用できるかといった課題に取り組んでいたので、ディープラーニングが登場したことにより、人間が数字化・構造化しにくかったようなデータに対してもAIが学習し新しい価値を創造するのを目の当たりにして、自分自身も先端AI技術の威力と汎用性に強く可能性を感じるようになっていきました。
Q:NABLASへ入社した決め手は何ですか?
入社を決める要因となったのは、会社の先見性と高い技術力です。
最初の約2年ほどは、大手自動車企業や大手建設企業のR&DプロジェクトのPMを担当しました。大手企業と共同研究開発プロジェクトを行う中で実務とAI技術を次々と繋いでいく役割を担えたこと、今勢いのある生成AI技術にも2017年の設立当初から注目していたりと、面白くてポテンシャルのある技術を使った最先端の研究開発を日本の大企業に社会実装していく役割を会社としてできるところに魅力を感じましたね。
また、NABLASには優秀な若手の技術者が多く集まっていたので、その技術力と会社としての先見性を、自分の持つ事業化スキルや経営コンサルティングスキルで、ビジネス構築や事業開発へ活かせれば面白そうだと感じたことも、参画を決める大きな要因でした。
Q:NABLASに入社してみて、入社前後で抱いていたイメージにギャップはありましたか?
入社前のイメージの1つとして、AI技術が急速に注目されていたので、若いメンバーが多いだろうなと思っていました。しかし、実際に入社すると想像以上に若手で優秀なメンバーが多く驚きました。もちろん若さだけが優秀さの要因ではないですが、彼らは学校で学んだ数学系の知識や研究へのモチベーションがまだ頭に色濃く残っているので、その状態で次々に出現する新たな技術へのキャッチアップをしつつ、デモ開発やKaggleのようなコンペに挑戦したりして、いち早く技術を使いこなしていました。
また、これは会社というよりAI技術に対する話ですが、いくら高い性能を持った最新技術でも、それを現場へそのまま導入するだけでは課題解決に繋がらないということも感じたギャップの1つです。便利な技術だからこそ、導入すればすぐ課題解決できるように感じますが、実際は実務レベルでの活用となると、業界の特徴や課題に合わせて上手く活用する必要があります。つまり、技術と導入先を結ぶ架け橋となれる人が、両者を適切にチューニングしないと、実際の課題解決にはつながらないということです。
AI業界全体の話だと、業界内での技術革新スピードが非常に速いことに驚きました。僕自身コンサルティング会社で3ヶ月ごとに世の中のホットなテーマを渡り歩いたり、複数のスタートアップで最新のデジタル技術を取り扱っていたので、変化の激しい環境には慣れていると思っていましたが、AI業界は毎週のようにゲームチェンジャーが現れるような感覚で更なるダイナミクスを感じてます。業界の基盤や思想を揺るがすような変化度合いの大きい技術革新が、ぽんぽん出てくるというのは非常に驚きましたね。
Q:ここからはPMについて詳しく教えてください。現在のPM業務について教えていただけますか?
現在会社の経営ボードメンバー、R&D部門長、新規事業、AIコンサルティングや共同開発を含めた複数のプロジェクトのPMの枠割を掛け持っていますが、PMとしては、プロジェクトの立ち上げやプロジェクト全体の計画設計、プロジェクトのリードをしています。
新規事業においては事業の構想、事業計画、開発・運営のリードまで基本的には、新規事業のリードであるPMが実施します。また、外部との共同開発プロジェクトにおいては、クライアントとの最初の接点やビジネス・業務課題の整理から機械学習プロジェクトの設計に至るまでの導入部分がAIコンサルティング業務で、それ以降のプロジェクトの舵取りやリードがPM業務だとイメージすると分かりやすいと思います。
Q:鈴木さんの思うPMとしての役割は何だと思いますか?
PMの役割は、会社やクライアントが目指すビジョンや課題の目標と、現状のギャップや構造を適切に把握し、求められる要望に合った適切な技術選定を行い、社会実装や課題解決に至るまでの現場と技術開発をまとめてリードしていく役割だと思います。つまり社会と技術の架け橋のような存在ですね。ギャップの部分でも少しお話しましたが、AIはまだまだ真の汎用AIは出てきていないのと、あくまで目的や使い方は人が決めてそれに合わせて最適化していくので、課題と技術を繋ぐ架け橋みたいな人がいないと、実務では使い物にならないんです。
僕自身、様々な業界の企業の構造や戦略を読み解いてきたので、業界や企業の業務がどういう構造で動き、その中で論点や勝負の分かれ目となるポイントや課題は何なのかを見極め、企業現場の現状を整理・把握しながら課題と方針を適切に設定していくようにしています。また、その際には広く戦略 / マーケ / 事業開発 / 業務効率化といったビジネス面の知見と、AI技術に限らずWeb / IT / 確率・統計的な知見などを組み合わせて適切な方針を検討・設定するように心がけています。
具体的な例だと、大手自動車会社のPMを担当した時は、~100個近くの様々なDXテーマを掲げられていたんですが、それらの目的や課題、現状と解決後のインパクトを先方から丁寧にヒアリングし、まずはそれぞれの課題の解像度を上げつつ優先順位をセットしました。そこから、優先度の高いテーマに対して弊社のリサーチャー・エンジニアサイドと相談し、機械学習技術の選定とデータの確認をした上で、クイックにベースとなるモデルをサンプル実装し評価していくことで、通常一つに3-6ヶ月、部門全体のテーマに3-5年などかけてしまう企業の実務テーマ群に対して半年〜1年で道筋を立てていくことに成功しました。
Q:PMをしていて難しく感じることは何ですか?
まず、特に外部の企業と開発を進める場合は、関係する部署の方々をうまく巻き込むことが難しいです。AIを活用するにはデータがすごく大事で、特定の課題を実務レベルで解決するためのAIを作るには、いかにその業務や組織の質の高いデータを収集できるかが大事になってきます。こちらとの窓口になってくれている組織が乗り気でも、実際の現場の理解を得てデータ提供などに協力してもらい、AIを作らないと、実務で使える物にはならないんです。ですので、なるべく早いタイミングでベースラインやサンプル分析結果をお見せしクイックWinを作ったり活用イメージを具体化することで、組織に働きかけるサイクルをたくさん回す工夫をして、スピード感を持って多くの方を巻き込んで行くようにしています。
あとは、次々に新しい技術変化が出てくる中で技術関連の最新情報をキャッチアップし続けることが少し大変だと思います。やはり、クライアントと技術者の間に入って、課題に対してどう技術で解決するのかを伝えなければいけない立場なので、入ってくる情報をどんどんアウトプットへ昇華させなければいけないんですよね。僕自身は好奇心も強いタイプですし、物事をざっくり把握することは得意だと思っていますが、どんどん新しい情報や技術が出てくるので、入社当初は特に大変でした。ただ、様々な産業に影響を与える可能性のある分野ですし、継続していくと色んなもの掴めたり繋がってくる面白い分野なので、リサーチャーの話を聞きまくったり、自分で必死にかみ砕いたり調べたりして、とにかく技術情報のインプットとアウトプットを積極的にするようにしています。
Q:NABLASでPMとして働く上で得られるやりがいって何ですか?
NABLASのパートナー企業には、人々の生活に大きな影響を与える超大手企業が多いです。そんな日本を代表する各業界のリーディングカンパニーと、生成AIを含めた先端AI技術というホットでど真ん中な技術を一緒に作り上げていくことができるのは、求められるクオリティーの水準も高く影響も非常に大きいので大変ですが、自分が世を変えるプロダクトや技術を生み出せるかもしれないのは大きなやりがいだと思います。
Q:PMとして必要なスキルや要素は何だと思いますか?
PMとして最低限必要な能力は3つだと思っています。
まず1つ目は、ベースとして「一定程度のビジネスや業務への理解」「機械学習技術の概念としての理解」「Webやシステム開発的なIT関連の基礎知識」を持っていることです。これらのうち、1つでも知らない領域があると技術設計やプロジェクトのマネジメントができなかったり、ファシリテーションがうまくいかない部分がでると思います。全てに関して深い知識を持っている必要はないですが、プロジェクトにおいて判断基準となるような知識ですので、最低限持っておく必要があると思います。
2つ目は、「問題解決能力」です。業務や課題を理解した上で、抽象化して論点を見極め、それらを機械学習の課題やシステム用件に落としていく能力が必要になります。PMは、プロジェクトのゴールを見据えて、目の前の問題のネックになっている部分を機械学習の問題や課題に落とし込み、機械学習面やシステム開発面から、どういったポイントが論点になるのかを見極めなければいけない場面が多々あります。もちろん、課題に対してどの解決策が良いといった見識を持っていると、よりPMとしてのレベルが高いのですが、そこは、エンジニアやリサーチャーに力を借りて、材料や技術の情報を聞き出す方法でも良いと思うんです。しかし、今ある課題について根本を理解し、問題のポイントを見極められなければ、限られた時間と予算とデータの中で適切な判断ができなくなってしまいます。
3つ目は、「人を巻き込んでアジャイルに管理していく能力」です。AIプロジェクトは性質上精度や最適な方法を事前に固めることが難しいですし、進めていく最中に技術変化や活用方法が変化していくことも多いので、それらを常にうまくバランスや方針設定をとりながら人をしっかり管理していくことが重要になります。
今挙げた3つはPMとして最低限必要な能力で、その先のプロジェクトの進め方にはその人の個性が活かされると思います。例えば組織での立ち回りがうまい人、相手の懐に入るのが上手な人、とにかくハードワークで乗り切る人、ロジカルに攻める人、視点の切り口に独自性のある人など、その人特有の「得意技」があると思います。ちなみに、僕は抽象化と具体化の行き来が得意なのと好奇心が強く歴史・文化・哲学などインプットを広くとっているので、意外性のある組み合わせや想像していなかった活用例を作れることが強みだと思っています。一見繋がりのなさそうな事柄や技術を繋げたり目の前の変化の先にある本質的な変化を先読みしたりすることで、意外性があるが本質を捉えている内容(Chat-GPTにはまだできない)を提案したりしています。
Q:PMとしての今後の目標を教えてください。
これは、社会に出る時からずっと考えていることでもあるのですが、PMとしても一個人としても、広く社会に使われる、社会をより良い方向へ導けるようなプロダクトや技術をリードできるPMになりたいと思っています。今従事しているNABLASに関して言うと、これからの世に大きな影響を与える生成AI技術や、その検出技術といった先端AI技術を、社会で適切に人の役に立つ形で使われるように社会実装していきたいという気持ちが強いです。NABLASの社名の由来にもなっていますが、∇(ナブラ)(※ディープラーニングにおける”より良い変化”を表す数学記号)を作り、社会をより良く・あるべき方向へ変化させていく、また、その変化を自分たちが導いていきたいと思っています。