健康経営・人的資本経営の潮流が加速する一方で、現場の人事・労務担当者は“相談相手の不在”など構造的な課題を抱えています。そうした課題を解消し、実務者同士が安心してリアルな悩みや工夫を共有できる場として、2025年秋、メディフォンが主幹となり「人事労務コミュニティ」を立ち上げました。
本記事では、第1回イベントの様子をコミュニティオーナーの鈴木芳恵さんと、ポラス株式会社の人事部 部長・石田茂さんの対談形式で振り返りながら、そこから見えてきたコミュニティの価値、そして第2回開催に向けた進化と期待をお伝えします。
コミュニティ立ち上げと第1回を振り返りるー人事・労務担当者の閉鎖的な業務環境について
鈴木さん:まず、イベント全体の雰囲気ですが、とてもやわらかい空気感があったと感じています。会場は終始リラックスしたムードでしたね。
石田さん:現在、人的資本経営のトレンドが加速していますよね。でも、表層的な「キラキラした話」が多い印象です。
人事・労務は経営に直結する重要な役割でありながら、試行錯誤や失敗が表に出にくく、社内外に安心して相談できる相手を見つけづらい。そうした中、業務環境が閉鎖的と感じている担当者は少なくないのではないでしょうか。
実際、特に労務は人事施策の屋台骨であるにもかかわらず、バックヤード的な存在として扱われがちで、私自身も閉塞感を感じる場面があります。だからこそ、こうしたクローズドで少人数のコミュニティの価値はとても大きいと感じ、今回企画に参画し、登壇させていただきました。
▲第1回イベントにて登壇する石田さん
想定外だったポジティブな成果
鈴木さん:第1回の手応えとして、私たちにとっても嬉しい“想定外の成果”だったのが、初対面にもかかわらず、参加者同士でかなり深い課題の共有が行われたことです。参加者の方々の感想からも、「リアルな課題を率直に共有できたこと」がとても良かったという声が多く上がりました。心理的安全性が高い場が自然に生まれていたと思うのですが、石田さんはそれがどうして実現できたと思いますか?
石田さん:具体的な先進事例が参考になっただけでなく、「明日から使えそう」と感じた取り組みに刺激を受けた、という話もありました。特に印象的だったのは、エーザイの大澤さんや三瓶さんが、自社のコーポレートミッションと連動した健康経営の戦略を紹介する中で、“うまくいった話”だけでなく、“うまくいかなかった話”や“苦労したこと”まで赤裸々に語ってくれた点ですね。
鈴木さん:たしかに、成功事例だけじゃない“裏側”を正直に語ってくださったのは大きかったですよね。
石田さん:そうなんですよ。エーザイさんが「自分たちもこれだけ試行錯誤しているし、今も課題を抱えている」という話をしてくれたから、他の参加者も構えずに本音で話せる空気ができた。
あの場には、“うまくいってる会社”と“そうじゃない会社”という構図がなく、「みんなで一緒に悩んで、前に進もう」という感覚があったと思います。それが、心理的安全性につながったのではないかなと。
鈴木さん:あの場には“競争”ではなく“共創”の空気がありました。いい意味の裏切りでしたね!
石田さん:加えて、食事や飲み物を囲みながら対話できたことも、場づくりとしては大きかったのではないでしょうか。登壇者や参加者の人柄も相まって、過度に構えずに話せる雰囲気が生まれていたように感じます。そうした複数の要素が重なり合い、“安心して語れる場”が自然と形成されたのだと思います。
鈴木さん:イベント全体としては盛況でしたが、参加者の属性や企業のフェーズにばらつきがあり、議論の“濃度”に差が出た点は課題として残りました。すでに健康経営に取り組む企業は課題を積極的に共有してくれましたが、構想段階の企業は共感の“手前”にあり、温度差が生じたようにも感じます。今後は企業規模に留まらず、業種や課題の成熟度を軸にテーマやテーブル分けを工夫することで、より実りある対話の場をつくっていきたいと考えています。
▲参加者が積極的に意見交換をしている様子
コミュニティの価値と今後の健康経営支援
鈴木さん:今回、「健康経営が手段ではなく目的化してしまっている」という声が上がりました。本来は経営や事業とつながるべき概念なのに、なぜそうなってしまうのでしょうか?
石田さん:これは本当に大きな問題です。今回、議論の粒度が揃わない場面もありました。たとえば、健康経営に関わり始めたばかりの方は「何から手をつければいいか分からない」と戸惑っていましたが、他のある方は「テーマだけ与えられてもアシストがない」と話されていて、だからこそ実践者同士で語り合える場がとても貴重だったと感じました。
鈴木さん:私たちが意図していた“共感から学びへ”という流れが、参加者の方々に届いていたということですね。
石田さん:ええ。印象的だったのは、エーザイの大澤さんが「社員の死を経験して、健康経営の必要性を痛感した」と語ってくれたこと。ああいう“芯に刺さる”話は、そのテーマが一気に自分ごとになるんですよね。
イベント後には、「自分の現場に置き換えて考えられた」「考え方が大きく変わった」といった声を、複数の参加者の方からいただきました。
鈴木さん:一方で、大企業では人事機能が細分化されすぎていて、指示があったから着手しており、取り組む背景理解も浅い中、対応せざる終えない状況になってしまっているケースも見受けられます。
石田さん:そうなんです。部署が縦割りになると、戦略や方針がメンバー層まで届かず、施策だけが独り歩きしてしまう。CHROのように、全体を横串でつなぐ役割が本来必要なんですが、それが機能していない企業も多い。
だからこそ、“なぜやるのか”“どう経営とつながるのか”という問いを丁寧に掘り下げる場が必要なんです。
鈴木さん:“今回のイベントが、「エーザイだからできたこと」ではなく、「どの企業にも共通する苦労と挑戦」を見える化できたのは、すごく意味があったと感じました。
石田さん:本当にそう思います。表面的な成功事例だけでなく、失敗や葛藤を含めた“本質の共有”ができた。そこにこそ、こうしたコミュニティの価値があると改めて感じました。
▲イベントの様子。多くの方にご参加いただきました!
コミュニティ名称変更と第2回イベントの構想
鈴木さん:第1回の開催時は、まだコミュニティの名称を決めておらず、そのまま“人事労務コミュニティ”という名前で進めていました。ただ、やはり軸を明確にしていくためにも名前の力は大切だと考え、第2回からは「サンケンラボ」という名称で実施することが決定しました。由来としては、産業保健の「産」と健康経営の「健」、そして知見を磨く「研(ラボ)」の意味を掛け合わせています。
三位一体のコラボヘルスや、健康寿命を構成する三要素、医療の一次~三次予防など、さまざまな“3”の要素を包含しています。カタカナにしたのは、柔らかさと親しみやすさを出すためです。
石田さん:いいネーミングですよね。「サンケンラボ」という言葉に、“磨き合い”や“探究”の精神がしっかり込められていると感じますし、まさに“実践知のラボ”になっていくといいなと思っています。
鈴木さん:次回の開催は2026年3月3日(火)を予定しています。前半は経済産業省のヘルスケア産業課の方をお招きして、政策や制度設計を推進する側の視点からの話を伺い、後半は、参加者の方々が実際の課題を持ち寄って議論する、実践型のセッションにしたいと考えています。次回は事前のアンケートで課題を集めて、当日テーブルごとにディスカッションできる形式を採用する予定です。
石田さん:「話を聞くだけ」ではなく、自分たちの悩みを場に持ち込んで、他社の視点からヒントを得る──それこそがこの場の真価ですよね。一社では見えない視点が得られる。サンケン“ラボ”としての意義がそこにあると思います。
鈴木さん:実際、第1回終了後にも「また参加したい」という声を多くいただきました。一回限りではなく、継続的に関係性が育まれ、行動が変わるような場にしたい。社内に持ち帰って実践できる、そんなリアルな価値があるコミュニティを目指しています。
石田さん:そして、もう一つ大切なのは“労務の方々の存在意義”を社会に再認識してもらうこと。たとえば給与計算や勤怠管理といった表面的な業務だけで見られがちですが、実際には、人の命や人生に関わる重要な責任を担っている。そういった本質を発信していける場にもしていきたいですね。
「守りの労務から、攻めの労務へ」。これは今回の会でエーザイの大澤さんがおっしゃっていたひとつのキーワードでもあります。
僕自身、常に「あなたたちは戦略部門なんだ」と伝えています。自分たちの業務がどう経営と接続できるのかを意識し、越境的なKPIやKGIとつなげていく視点が求められると思っています。
鈴木さん:本当にそう思います。だからこそ「守りの労務から攻めの労務へ」というキーワードが今、必要なんですよね!バックオフィスではなく、フロントに立つ存在へ。本コミュニティがその第一歩となり、労務が経営や戦略に貢献する場面をもっと創っていきたい。サンケンラボがその後押しになれたらと願っています。
▲第1回イベント時の集合写真。ご参加いただいた方々、ありがとうございました!
▼2026年3月3日開催:第二回|人事労務コミュニティByサンケンラボ の詳細・参加お申込みはこちら