数百円高いランチをためらう一方で、気づけば衝動買いには財布のひもが緩む。こんな経験、みなさん心当たりがありませんか?
私たちは日々、こうした「お金に対する矛盾した感覚」を抱えながら生きています。
これは、コウダプロで毎月開催している月次勉強会の一幕から始まった話です。
こんな導入で始まりましたが、今回の勉強会でのお話は、節約術や投資のノウハウを語るものではありません。
もっと根本的な、“お金との向き合い方”そのものを問い直す話です。
物事の本質を見抜く「経営者感覚」を育て、社員と経営者のあいだにある見えない溝を埋めるヒントにもなります。
この勉強会の中心にあったのが、コウダプロで大事にされている哲学
「3円ケチって3万惜しむな」です。
一見すると矛盾して聞こえるこの言葉の中に、“生きたお金の使い方”の核心があります。
「3円ケチって3万惜しむな」の精神をカレーから!?
この哲学がこの日の勉強会で語られたきっかけは、まさかの「カレー」でした。
「弊社商品・大人のカレースパイスでとある実験をしたい」と考えていた弊社代表の幸田さん。全社員の昼食をカレーにして実験をしようと思い、勉強会前日、鳥居さんへ「お昼ご飯で実験がしたいから、レトルトカレーとパックごはんを人数分買ってきてほしい」と依頼をしました。
しかし——その段階では気づかなかった“盲点”を、当日の朝に指摘されます。
「社内のレンジじゃ全員分を温めるのは現実的に難しいのでは?」
これを受け、鳥居さんは勉強会開始前、幸田さんにこう提案します。
「レンジで温めるのは現実的に難しいと思うんですけど、ココイチとかほっともっとの弁当とかを買ってくるっていうのではだめですか?」
ここで幸田さんが切り込みます。
「それで行くと、相談のタイミングが遅いね。昨日されるべき話だったよね。」
「ココイチを頼むとすると、レトルトカレーとコストが全然違うよね。」
「ココイチを頼むとして、全員トッピングしちゃダメとはならないよな。トッピング好きにしていいよってならないか? そしたらいくらになる?」
実際に計算してみると、ココイチに2品トッピングした場合、一人あたり約1,300円。
レトルトカレーとパックごはんが一人約300円として、20人で計算すると差額は約2万円にもなります。
では、この2万円は“もったいない”のでしょうか?
ここで幸田さんが問題視したのは、金額そのものではありません。
論点はむしろ——
「なぜ安価なほっともっとではなくココイチなのか?」
「そもそも価格の検討をしたか?」
「そもそもトッピング前提になっているのはなぜ?」
という意見や議論の欠落でした。
相談のタイミングや、こういった提案や比較検討が一切ないまま進んだことから、なんとなく会社のお金を使おうとしているように見えたのです。
重要なのは金額ではなく、そのお金に“意味”があるかどうか。
そこに厳しくこだわるのが、「3円ケチって3万惜しむな」の精神です。
投資なら惜しむな。
意味がないなら3円でも削れ。
この姿勢こそが、経営者感覚の入り口なのです。
高級クラブでの10分10万円が「節約」になる?
1つのたとえとして幸田さんが紹介したのは、ある不動産会社の社長の話でした。
彼は銀座の高級クラブを数軒はしごし、各店に10分だけ滞在して10万円を払い、次の店へ移動していく。“豪遊”しているようにしか外からは見えません。
しかし彼はこう言います。
「私は節約をしているんだよ」
どういうことでしょうか。
銀座のクラブは「席」で商売しています。2時間滞在して基本料金だけ払う客は、店にとって“席を占有する割に利益が少ない客”になります。
ママの信頼を得たければ、高いボトルを入れるなど追加の売上が必要で、合計は20万円以上になるでしょう。
ところが彼の場合、10分だけ滞在し、基本料金の10万円だけ払って帰る。
店からすると「席をほとんど使わずに売上を落としてくれる非常にありがたい客」となるのです。ママからの好感度は当然高い。
そしてこの“好感度”が、勝負どころの接待で威力を発揮します。
彼が席を外した瞬間、ママが取引相手にこう囁くのです。
「あの方、飲み方がほんとに綺麗でね。ああいう人は仕事もきっと綺麗ですよ」
この第三者の信頼が、何百億円もの契約を動かす決定打となる。
20万円かかる信用獲得を10万円で済ませている。これが彼の言う「節約」です。
費用の大小ではなく、意味を生む使い方ができているかどうか。
これが「3円ケチって3万惜しむな」という哲学の本質です。
事の大小ではなく、事の本質である
最も危ういのは、日々の消耗品を1円単位で節約する社員が、800万円の大型契約を獲得するために使われた一晩で30万円の接待費を、文脈を見ずに「無駄遣いだ」と断罪してしまうことです。
幸田さんいわく、それは本当にバカな行動です。
なぜならば、役割によって、価値を生む“スケール”が違うからです。
消耗品の1円にこだわる精神はもちろん尊い。
しかし、営業担当の“30万円”にも、その人なりの「価値を生む計算」があります。
立場が変われば、“3円”と“3万円”の意味も変わってきます。
この事実を理解しないまま、個人の価値観だけで判断してしまうことが、もっとも危険なのです。
幸田さん自身、新卒2年目の頃、上司が「経費でバーベキューをしよう」と提案した際に、
「これは遊びなので、みんなで割り勘にしましょう」
と進言した過去があるといいます。
立場に関係なく、意味のない支出は認めない。その姿勢がプロフェッショナルの基礎になるのです。
コウダプロで、コピーを1枚1円の白黒にするか、1枚10円のカラーにするかを“こだわれ”と言われる理由も、こういった部分に通じています。
意味のある投資は惜しまない。
意味のないコストは3円でも削る。
この両軸が揃って初めて、「3円ケチって3万惜しむな」は成立するのです。
究極のフレームワーク『AMTULの法則』
幸田さんの話は後半、
「商売の全てはこれで説明できる」と言われる究極のフレームワークに移ります。
それが「AMTUL(アムツール)の法則」です。
顧客がモノ・サービスをまったく知らない状態から、熱狂的なファンになるまでの心理的な階段。その5段を表したものです。
Awareness(認知):まず知ってもらう
Memory(記憶):名前を覚えてもらう
Trial(使用):一度使ってもらう
Usage(日常利用):繰り返し使ってもらう
Loyalty(愛用):応援したくなる、ファンになる
特に重要なのは2段目の「記憶」。
過去に、素晴らしいインディーズバンドの音楽に出会ったのに、バンド名が覚えられず検索もできず、二度と聴けなかったことがありました。商品がどれだけ良くても、記憶に残らなければ“次”につながらない典型例です。
覚えてもらうための構造、覚えたくなる名前、思い出してもらえる仕掛け。
ここが弱いと、AMTULの法則は2段目で崩れてしまいます。
採用活動もまったく同じ。
会社を知ってもらい(A)、覚えてもらい(M)、説明会に来てもらい(T)、内定後にコミュニケーションを重ね(U)、最終的にファンになってもらう(L)。
あなたのビジネスは、顧客をどの段まで導けているでしょうか。
今回の勉強会の昼食は、ココイチのカレーをみんなでいただきました!
午前をフルに使った議論を経たうえで食べるトッピング2品のカレーは、なんだかいつもよりありがたみがあり、
「ここまで(3円ケチることの重要性について)聞いてもらったからこそココイチなんだよ」という幸田さんの一言に、みんなが思わず笑っていました。
今回の勉強会で話があった「3円ケチって3万惜しむな」という哲学は、単なる節約論でも贅沢論でもありません。
・意味のある投資なら惜しまない
・意味のない支出なら3円でも削る
・そしてその判断を“自分の財布”感覚で考える
このシンプルな基準が、仕事の質を変え、組織のコミュニケーションを変え、ひいては自分自身の成長の土台になるのだと感じました。
さらに後半で語られたAMTULの法則は、
「どう届け、どう覚えてもらい、どうファンになってもらうか」という商売の大原則を思い出させてくれる、どんな業務にも通用するフレームワークでした。
カレーから始まり、商売の本質にたどり着く——なんともコウダプロらしい勉強会でした!
ぜひみなさんも、日々の仕事の中で、
「この3円に意味はあるか?」
「この3万円は未来をつくるか?」
と問いかけながら、AMTULの階段も意識してみてください!