13期(2021年7月~2022年6月)には過去最高売上を達成する見込みのD&Iですが、その前にはD&I史上最大の壁がありました。
2021年6月に前代表取締役の杉本さんが心筋梗塞で急逝いたしました。
(https://d-and-i.jp/news/2021/06/15/3222/)
創業10年ばかりのベンチャーの社長が亡くなるという予期せぬ壁の前に私達はどう動いたのか?
そこから変わったこと、そして変わらなかったことは何か?
杉本さんの訃報を受けてからの日々を2代目新社長の小林さんからお伝えします。
杉本さん急逝直前の当時COO小林さんのプロフィールに関してはこちらをご覧ください。(https://www.wantedly.com/companies/di-corp/post_articles/329644)
2021年6月8日(火)杉本さん急逝
杉本さんの訃報を聞いた時のことは、今でも鮮明に覚えています。
6月7日から、杉本さんは出張のため単身で北陸へ行っていました。
6月8日火曜日のお昼ごろ、現取締役の谷口さんから連絡があり、「今どこですか?大事な話があるので、ビルの下で待ちます」と言われました。
嫌な胸騒ぎがして足早に帰社したところ、いつも笑顔の谷口の目には泣いた形跡があり、「谷口自身に何かあったのでは」と不安になって次の言葉を待ちました。
すると彼の口から「杉本さんが亡くなった」と伝えられました。
この瞬間、本当に時間が止まったかのような感覚でした……。
あまりにも急で予想もしていなかった言葉に、最初は何を言っているのか理解できませんでした。ただ、谷口の表情からは嘘をついているようにも見えず、「これは現実なんだ……」と思いました。
そして、悲しみの感情が込み上げてくる間もなく、「今この瞬間から、杉本さんの代わりに私が意思決定をしないと動かない会社になってしまったんだ」と、直感しました。
当たり前ですが代表が亡くなるという経験は初めてのことで、何をすれば良いかも分かりません。
顧問弁護士・税理士・社労士にもすぐ連絡と相談をし、ご親族とも早急に連絡を取りました。
それからはとにかく怒涛のような日々でした。
6月9日(水)
翌日、杉本さんが亡くなったというその地へ、早朝の新幹線で向かいました。
「自分がこの眼で確かめるまでは信じたくない、もしかしたらこれは何かの嘘なんじゃないか?」と思う気持ちがありました。
しかし、杉本さんと対面して、その紛れもない事実に、それまで張りつめていた糸が切れてしまったかのように涙が止まりませんでした。
そして「この事実を何よりも社員の皆に早く伝えなければ。不安に思うことしかないかもしれないが、少しでも安心させる言葉を伝えたい。」
そう思い、その地でパソコンを開き、急遽全社オンライン会議を開催し、杉本さんのことを皆に伝えました。
その日の夜に東京のオフィスに戻りましたが、会社では皆が集まっていて、杉本さんとの思い出話に花を咲かせていました。
悲しみや寂しさ、不安などいろんな感情があったと思いますが一人ひとりが杉本さんの遺志を受け継いで前に進もうとしている姿が頼もしかったのを覚えています。
6月11日(金)・6月12日(土)
杉本さんが亡くなった週末にお通夜・葬儀が故郷の福井で執り行われました。コロナ禍ということもありD&Iからはご遺族の計らいで私のみ参列させていただきました。
怒涛の日々でしたが、一人になってふと立ち止まったときに、杉本さんが居ない現実に襲われるのです。まさに“虚無”でした。
6月14日(月)~18日(金)
特に最初の1週間は本当にあっという間に時間が過ぎていきました。
― 先週まであれほどたくさんのことを語り合えていたのに……。
― もっと杉本さんと一緒に、色んなことがしたかったな……。
最後まで一緒に仕事ができて、直接会ってお別れができた私ですらこんな感情になるのだから、ちゃんとお別れができなかったご友人・仲間達はもっとそう思っているのではないかと思い至るようになりました。
感情が行ったり来たりを繰り返す日々の中、過去の思い出を振り返り、行き着いた先は「杉本さんの意志を最善の形で受け継ぎ、熱意を絶やさないようにしなければ」という結論でした。
まだ20代だった私に杉本さんから声をかけてもらって、一緒に会社を立ち上げて12年。一番近くで見てきたからこそ、杉本さんがいかにすごい人なのか、そしてどれだけ多くの人たちに愛されてきた人なのかを知っていました。
―だからこそ、このまま葬儀のみで終わるのではなく、できるだけたくさんの人達とこの思いを共有し、知っていただくことで、また皆で前を向いていきたい!
特にご遺族にとっては仕事が最優先の杉本さんでしたから、一緒に過ごす時間が少なかったのではないかと思います。だからこそD&Iでの杉本さんについてたくさん知ってもらいたいと思いました。
そこで「お別れ会」の開催を決めました。
開催するのであれば、杉本さんに関わる全ての方々が少しでも早く前を向いて進めるよう、できるだけ早く開催したいと思いました。
しかし6月はD&Iが1年で最も忙しい決算月でもあり、開催時期をいつにしたら良いのか、迷いもありました。
そんな時は「杉本さんならどうする?」と自らに問いかけました。
―杉本さんはいつもピンチの時ほど笑っていてくれた。
―そしていつも一緒に向き合おうとしてくれた。きっと杉本さんなら……
「俺のことはスグやっちゃって、来期から皆で前向いて走ってよ!」
7月まで残り2週間弱しかありませんでしたが、6月中の開催に踏み切りました。
そこからは時間との勝負になるので、たくさんの人にご協力いただきながら、すぐに準備に取り掛かりました。
6月29日(火)D&I主催「杉本さんお別れ会」
社員達は葬儀には参加できず、ただ杉本さんの姿だけがない日々に実感も湧かない状態の中、仕事が滞らないように耐え忍んでくれていました。
「最後にちゃんとお礼が伝えたい」と思っていたのではないでしょうか。
わずかな準備・告知期間の中でも会場をおさえ、また遠方の方やコロナを気にせずに参加いただけるようお別れ会を生配信しオンライン参加も可能としました。
当日はオンライン含め400名以上の方にご参加いただき、供花も50基以上いただきました。
来場いただいた方々には、杉本さんとの思い出を存分に振り返っていただきたいと思い、杉本さんの人生の軌跡をたどるように会場の壁に写真を飾りました。
そして、D&Iの社員1人1人から杉本さんへ向けたお別れのメッセージを作成し、会場にも掲載。
杉本さんが日頃からどれだけ慕われていたのか、来場された皆さんに知って、共有し合うことができました。
当日上映された動画も感動的でした。
杉本さんと関わりがあった方々がそれぞれの思い出を語られていて、涙ながらに、時にはユーモアたっぷりにお別れの言葉を告げる姿に会場からはすすり泣きだけでなく笑顔もこぼれました。
この動画の制作も、準備期間がなかったにも関わらず、たくさんの方々が撮影に協力してくださいました。感謝しかありません。
そして、お別れ会の中で私からは「しっかりとバトンをつないでいくよ」という思いを手紙で伝え、これからもD&Iを支えてくれる社員と皆さんに宣言をしました。
当日はただ悲しみに暮れるだけではなく、明るく温かい「杉本さんらしい」会になったと参加者の方もおっしゃってくれました。
また私の中でも少しずつ整理ができ始めました。
私は2009年の創業以来、ずっとNo.2として経営をしてきましたが、同じ代表の元で10年以上No.2を続けることは珍しいことらしく、「なぜずっとNo.2でやっているの?」と聞かれることもよくありました。
杉本さんが急逝されて、なぜ私が今までずっとNo.2で杉本さんを支えてきたのか、理由が分かった気がします。
10年前「障害者雇用」が一般的でなかった時代から杉本さんはD&Iとしての確固たる想いを胸に0から1へ、そして1から10の部分を築かれました。そしてそれを100や1000にしていくこと、杉本さんが築かれたD&Iの想いを世に広めていくこと、これがずっとそばで杉本さんを見てきた、No.2でやってきた私のこれからの使命なのだと改めて実感できたのです。
それから半年……
このように杉本さんの遺志を引き継いでやっていくのは創業からずっと杉本さんと一緒にやってきた自分の使命だという思いもありました。しかし、杉本さんのように人懐っこく器の大きさは誰にも真似できるものではなく、代表としてどうするべきかの葛藤もありました。
そのため、考える時間が欲しい旨を全社員にあらかじめ共有し、半年の期間をもらいました。
半年間「D&Iは何者なのか?D&Iは何を成し遂げる会社なのか?」を時間軸やリソース、社会のあり方など、色々な尺度で再考するようにしました。
そこで、杉本さんという大きな柱を失った今、D&Iという組織と社員個人が同じ方向を向けるようにすることが大事だと考えました。
振り返れば、13期に向けて最後に杉本さんと、「バリュー」や「D&Iスピリット」を一緒に考えることができたことは、組織の方向性を考える上でとても価値がありましたし、本当に幸運なことでした。
杉本さんとの急な別れは本当に残念でしかありません。
ただ、この別れがあったことで、杉本さんが色々な人との関わりを持つ中で、たくさんの人に心から愛されていたことを知り、築いてくれた功績をたくさんの方々に伝えることで、杉本さん自身の偉大さを改めて実感することが出来ました。
そして私が杉本さんの遺志を引き継ぎ、今まで以上の覚悟を持って世の中に広めていくビジョンを、半年間の時間を経て見つけることができました。
こうして2022年にD&Iにはミッション、バリューに加え、目指すべき未来である「ビジョン」が新たに追加されたのです。
―杉本さん、今はこんなに社員みんなと同じ方向を向いて走り抜けています。
ーだからどうぞ安心して見守っていてください。
ーこのような会社を築いて残してくださり、本当に、ありがとうございました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
杉本さんとの絆を、改めてこうした形でここに残せることに感謝を込めて。
2022年6月8日
小林鉄郎
次回は、目指す未来「D&Iのビジョン」について、引き続き小林さんに語っていただきます。
次回のストーリーもご期待ください!