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「今ここにある一杯」の美味しさを目指して。ヘッドロースターTakuyaのキャリアと仕事論

2022年、新卒入社した大手メーカーからKurasuへ転職し、そのわずか1年後にヘッドロースターに就任したTakuya。西陣にある焙煎所でローストをする傍ら、豆の買い付けやクオリティコントロール、生産者とのコミュニケーションなど精力的な活動を繰り広げる、Kurasuの若きリーダーです。そんなTakuyaに、入社のきっかけや焙煎に対する想い、今後のビジョンについて聞きました。

一般企業で働きながら、週末にコーヒーのトレーニング

——Takuyaさんのこれまでの経歴について教えてください。

僕は兵庫県の出身で、大学進学を機に上京しました。通っていたのは慶應義塾大学の商学部。大学3年生のときにスターバックスコーヒーでアルバイトをしたのが、コーヒーとの最初の出会いです。

バイト先の店舗に浅煎りのコーヒーが好きなバリスタがいて、その方に勧められて足を運んだONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)で飲んだエチオピアに一瞬で魅了されました。それまでに飲んだどのコーヒーとも違っていて、コーヒーの世界が広がった気がしたんです。

それから、自分好みのコーヒーを求めていろいろなコーヒー屋さんに行くようになりました。コロナの時期で、営業しているコーヒー屋さんは少なかったですが、行けるお店には行き、それ以外にサブスクや通販で豆を買っては自分で淹れて飲む日々でしたね。

大学卒業後は、新卒で精密機器メーカーに入社しました。ポジションとしてはBtoBの営業です。実は、最初はコーヒー関係の会社に就職しようかとも思ったんです。でも、一度大きな会社で社会を見ておきたかったし、周りも金融機関やコンサルファームに就職する人が多かったので怖さもあり。有利な新卒カードを使って大手企業に就職する経験を踏みたいと考えました。

とはいえ、将来的には必ずコーヒーを仕事にするぞ、という気持ちは持ち続けていました。一社目は自分のやりたいことに向けての準備期間という位置づけでしたね。ある程度の金銭的な余裕ができ、社会の中で生きていくためのプランが見えてきたら、自分の思い描くキャリアを歩み始めようと決めていました。

——就職してからはどのようにコーヒーと関わったのでしょうか。

当時は神戸に住んでいて、自宅近くにある自家焙煎店ROUND POINT CAFE(ラウンドポイントカフェ)によく通っていました。スペシャルティコーヒーのカフェだけでなく、生豆の直輸入や焙煎、卸も手掛けているお店です。客として通ううちにオーナーの梅谷さんと話をするようになり、いずれコーヒーの仕事をしたいと伝えたところ、週末だけ手伝いを兼ねたトレーニングをさせてもらえることになりました。

僕は新卒入社してすぐに自宅用のコーヒー焙煎機を買い、独学で焙煎をしていたのですが、いまいちよくわからなかったんです。それで、手伝いの傍ら、梅谷さんに焙煎のフィードバックをもらったり、基本的なドリップやラテの作り方を教えてもらったり、一緒にカッピングをしたりして知見を増やしていきました。半年ほどの間、ほぼ毎週末コーヒーについて学ばせてもらって、本当に楽しい時間でしたね。

——半年間で区切りをつけたのにはどのような理由があったのですか。

ROUND POINT CAFEで梅谷さんの仕事を手伝わせてもらい、話をするうちに、少しずつコーヒー業界のかたちが見えてきて、「こういう感じで動きだしていけば自分のやりたいことができそうだ」という感触を掴めたんです。

気持ちと金銭的な準備がと整ったと感じたので、会社員をしながらトレーニングをするのは終わりにして次のステップに進もうと思いました。自分でお店を出すことも考えましたが、一度大きなコーヒーロースターで働いてみたくて、Kurasuにエントリーしました。

珍しい焙煎ポジションの募集を見つけ、Kurasuへ

——ロースターで働くことを考えたとき、Kurasuを選んだ理由を教えてください。

一番の理由は、ちょうどそのときにKurasuが焙煎のポジションを募集していたことです。日本にはマイクロロースターと呼ばれる1~2人体制の小規模焙煎業者が多く、オーナーが焙煎をしているケースがほとんどなので、バリスタの募集はあっても、焙煎士の募集はなかなかありません。

なので、KurasuのInstagramで焙煎のポジションの募集を見つけて、すぐに応募しました。まさにここ、Nishijin Roasteryで当時のヘッドロースターに初回面談をしてもらい、やりたいことやキャリアプランについて話したのをよく覚えています。

2回目の面談はKurasu Ebisugawaでカッピングを行いました。エチオピアが5~6種類並んでいて、ブラインドだったかはうろ覚えなのですが、とにかく何も見ていない状態で飲んで、「どれが好き?」と聞かれました。一番おいしいと感じたものを選んだら、それがKurasuで焙煎した豆だったんです。そして、残りはすべてほかのロースターのものでした。

選んだものが違っていたら結果が変わっていたのかどうかはわかりませんが、無事に採用の連絡をいただき、2022年10月1日、コーヒーの日にKurasuに入社しました。

——Kurasuに入ってからはどんな仕事を担当されたのですか。

最初は焙煎サポートのポジションでした。当時焙煎チームは4人体制で、ヘッドロースターが焙煎を一手に引き受け、女性スタッフがその隣で焙煎のトレーニングをして、僕と同時期に入社したJongminの2人が焙煎後の豆を袋詰めして発送する業務を担当していました。

そのヘッドロースターは半年後に退職して独立することが決まっていたので、一緒に働いた期間は短く、焙煎を教えてもらう時間はほとんどありませんでした。しかし、チームでカッピングは毎週行いましたし、抽出のフィードバックもしてもらって、それらが今のコーヒーへの向き合い方の根幹になっています。

2023年3月末でヘッドロースターと女性スタッフが退職し、2023年4月1日から僕がヘッドロースターに就任。2024年2月まではJongminと2人で焙煎チームを回していましたが、業務委託として別の関わり方をすることになったJongminと入れ替わりで新しいスタッフが2人入ってくれて、現在の焙煎チームは3人体制となっています。

焙煎や袋詰めといった仕事のほか、豆の発注や、Kurasuで販売・提供する豆の説明テキストの作成、パートナーロースターさんにインタビューをしてコーヒーの定期便に封入するリーフレットの原稿を作成することも僕たち焙煎チームの役割です。

焙煎の一回性に向き合い、一貫性を追求する楽しさ

——入社から1年とわずかでヘッドロースターのポジションを引き継ぐことに不安はありませんでしたか。

前のヘッドロースターと焙煎所で働く中で、Kurasuならではのセッティングと味の捉え方を教わってきました。また、毎週カッピングを一緒に行いながら感覚の部分でゴールを共有できていたので、その経験をベースに自分なりのローストを追求していきました。

焙煎って、理論を説明して「これが答えです」と教えても、あまり意味がないと思っています。むしろ、自分で検証してゴールにたどり着くことが大事。だから、ゴールをちゃんとすり合わせしておけば、あとはそのゴールに向かって自分のやり方で頑張るだけです。

——ゴールにたどり着くために、苦労したことや工夫したことを教えてください。

苦労したのは、異なるバッチサイズ(生豆の投入量)で、一貫性のあるローストをすることです。例えば、Kurasuではアメリカ・ローリング社の35kgの焙煎機を使っていますが、毎回最大量の35kgを焼くわけではありません。オーダーなどに応じて焼く量が決まるのですが、焼く量が少し変わると、すべてが変わってしまうんです。

前のヘッドロースターが残したプロファイルも残ってはいましたが、最初はそれを見て意味を理解するには知識が足りなかったので、プロファイルをたどりながら「ここを変えたらこれが変わる」を一つひとつ見つけていきました。もう、ひたすら検証の日々でしたね。

わからないことがわかるようになると、また別のわからないことが現れます。でも、僕はわからないことがいっぱいあるのは嬉しいんです。わからないままにしておくことが嫌だから納得いくまで考えるし、その結果わかっていくのがとにかく楽しくて!

焙煎は本当に奥が深くて、この場所・この焙煎機・この季節・この量でローストするからこそ、この理論が成り立っているだけ。一つでも要素が変われば、昨日まで正しかった理論が今日は通用しないこともありえます。先週と同じ豆でも、先週とは違う焼き方が必要です。

そんなふうにまったく同じ焙煎というのはありえない「一回性」を前提に、その中でどれだけ香りや味わいの「一貫性」を保てるか。そこが、焙煎士の腕の見せどころです。

もちろん焙煎だけでなく、その先の抽出にも同じことが言えると思います。逆説的な表現ですが、「今ここにしかない、いつもの味」を楽しめるのがコーヒーの魅力といえるでしょう。

——Kurasuのチームや社内文化についてどう感じていますか。

かなり自由な会社ですね。何をやってもいいし、やりたいことを実現できる可能性が高いです。言われたことを淡々とこなしたい人には合わないかもしれませんが、自ら動いて新しいことをやりたい人にとっては面白い会社だと思います。

例えば僕は「インポーターを介さず、生産地から直接生豆を買い付けたい」と手を挙げて、それを実現できました。きっかけは、以前Kurasu Ebisugawaでカッピング会を開催したときにエチオピアのエクスポーターの方が来てくださって、直接コミュニケーションできたこと。カップのクオリティも素晴らしかったのですが、それ以上に生産についての意図や想いを聞けたことが嬉しく、今後も関係性を保っていきたいと強く感じたんです。

エクスポーターからの直接買い付けは、インポーターを介するよりも事務手続きが煩雑で、小ロットでの仕入れとなるためコスト面の課題も発生します。しかし、裏を返せば、コストの問題であれば、ほかでペイできるやり方を考えて行けばいいんです。

この先Kurasuがどのような事業展開をするにせよ、生産地とのつながりが築けていれば、さまざまな選択肢が生まれるでしょう。目先の損得にとらわれず、未来を見据えたアクションを起こせるのは、Kurasuならではだと思います。

スペシャルティコーヒーの情緒的価値を伝えていく

——今後やりたいことやKurasuで達成したい目標はありますか。

先ほどの「未来を見据えたアクション」の一環として、直接生産地に足を運びたいですね。現時点でエクスポーターからの買い付けはしているものの、大部分はインポーターを介しているので、直接買い付けも含め、もっと現地とのコミュニケーションを増やしていきたいと思っています。

「この豆はこんな品種で、こんな人がこういうプロセスで作っているからこんな味がする」というストーリーは、情報的価値として扱われることがほとんどです。でも、僕はコーヒーを飲んだ人が、その豆が作られている風景をつい想像してしまうような、情緒的価値を伝えていく必要があると思います。そもそもスペシャルティコーヒーってそういうものじゃないですか。

いつか自分のコーヒー屋さんをやりたいという目標は、いまも変わりません。具体的なことはまだ考えられませんが、自然で穏やかな感じのお店を作れたらいいなとは思っています。

現代人はスマホから入ってくる情報に振り回されやすく、他者と比較して不安になったり、焦りを感じてしまったりする人が多いですよね。急速にAIやデジタル技術が進んでいく中で、コーヒーのような手元にあるものに目を向け、今ここにあるものを五感で味わって、「おいしいな」「幸せだな」と感じることが大事だと思います。

いつか開く自分のお店も、訪れた人がおいしいコーヒーを飲んで、手元に立ち返れる場所にできたらいいですね。

——Takuyaさん、ありがとうございました。最後にお気に入りのコーヒーを教えてください!

コロンビアのトリマ南部に位置するグアヤバル農園のコーヒー生産者リサンドロ・キルクエさんから買い付けた「コロンビア リサンドロ・キルクエ」がお気に入りです。浅煎りの爽やかなコーヒーで、花やかな香り、オレンジやすだち、緑茶の味わい、キャラメルのような甘みとそれに伴う余韻が楽しめます。

Kurasuでは2年目のお付き合いで、去年とは品種が異なるのに、「リサンドロフレーバー」とでもいうのか、リサンドロさんらしさを感じる味わいに懐かしさを覚えました。

焙煎においては、リサンドロさんの豆が持つクリアで明るい酸味に甘さをどれだけのせるかを工夫しています。液体には酸の明るさを活かしつつ、酸に偏らないバランスの良いカップを目指しているので、ぜひ味わってみてください!

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