メリルリンチ、日本政策投資銀行を経て地方へ。紀州ほそ川代表・細川陽介が語る「働く場所」と「生き方」の選択
― まずは、東京時代のキャリアについて教えてください。
私はもともと東京の日本橋、次に大手町で働いていました。
メリルリンチ日本証券㈱、㈱日本政策投資銀行と、金融のど真ん中にいた生活です。
毎朝スーツを着て高層ビルに向かい、夜はタワーマンションから夜景を見下ろす──
客観的には順風満帆でしたが、いつも時間に追われ、心に余白があったとは言えないかもしれません。
「このまま10年後も同じ景色を見ていたいか?」
と自分に問いかけたのが、今思えば転機でした。
世界銀行IFCへの出張時の一枚。仕事は充実していました。
ODA業務の一環で、ミャンマーの銀行員を対象に行った講演会
フランス出張にて
当時暮らしていたタワーマンションからの眺め
― 和歌山市との出会いはどんなきっかけだったのでしょうか?
もともと出身は和歌山の紀南地方ですが、大学進学時に上京して以来、ずっと東京暮らしだったので、和歌山市は未知の土地でした。
紀南地方へのUターンも考えましたが、都会へのアクセス面や子供の教育面を考えたときに、和歌山市を移住候補に考え始めました。「自然と都市のいいとこどり」である点に惹かれたのです。
―実際に移住してみて、生活はどう変わりましたか?
一言でいうと、「驚くほど便利で、驚くほど穏やか」です。和歌山市は自然が豊かですが、1時間あれば電車1本で大阪の難波に出られる。車でもアクセスは便利です。
大阪中心部まで1時間強、関西空港まで30分。
日本で2番目の経済圏・大阪が生活圏にあるのに、空も広くて人も少ない。
「自然もあるけど、大都市圏と感覚が変わらない。
いい意味で“都会っぽい田舎”です。」
教育面でも驚きました。
小中高一貫校である智辯和歌山や和歌山大学附属小など、レベルの高い学校が身近にあります。東京で同レベルの教育環境を手に入れようとしたら、受験による競争も費用も大変です。“田舎の中では教育の選択肢が多い”のも、和歌山市の強みだと思います。
家族でブドウ狩りに。フルーツ王国和歌山は、果物も本当においしいです。
梅拾いの様子。移住後は家族との時間もぐっと増えました(ともに弊社代表を務める弟家族と)
―食や暮らしの面ではいかがでしょう?
和歌山の食は本当にレベルが高いです。
特に魚の鮮度が段違い。東京のデパ地下と比べて4分の1くらいの価格で買えるんですよ。一般的なスーパーでも2分の1~3分の1の価格です。
スーパーに行くたびに「これでこの値段!?」と驚きます(笑)。
「魚が新鮮で安い。しかもお店も混んでいない。
食卓が豊かになって、暮らしの満足度が格段に上がりました。」
最近鮮度と美味しさに感動した食べ物は、和歌山でしか食べられない「もちがつお」
人が少ないので、渋滞もほとんどありません。東京ではスーパーの駐車場に入るにも数十分かかったりしましたが、そういったストレスは皆無です。
休日は海で遊んだり、山に行ったり。東京では“イベント”だった自然が、今は“日常”の一部です。
一方で少し車を走らせれば、大阪梅田の美術館や堂島のギャラリーにも行けて、文化的体験も遜色なく享受できる。まさに「自然と都市のいいとこどり」なんです。
また、かつての田舎暮らしと違い、Amazonやインターネットがあるので、不便は全く感じませんね。
― キャリア面での変化はありましたか?
東京で順調にキャリアを積んでいたものの、私はいわば「数多いるバンカーの一人」でした。でも和歌山ではプレゼンスが上がり、同じスキルでも“オンリーワン”になれる。
自分の経験や知識を求めてくれる人が多く、周囲から頼られる喜びがあります。
独自の取り組みが注目を集め、リビング和歌山に取材されました。
和歌山のブランド鶏「紀州うめどり・うめたまご協議会」の会長を務めています。ブータンからの視察団を受け入れた際の一枚
「田舎の研究室に引きこもるのでは全くない。梅や馬など、ここでしかできない研究分野で活躍できる環境があります」
弊社で今募集している「研究職」に関しても、これまでのご経験を存分に発揮していただける環境が整っています。ここでしかやっていない梅や馬などユニークな研究分野において、ナンバー2の立ち位置で最先端の研究ができる。弊社では大学とも共同研究を行っており、研究機関との窓口業務もお任せしたいと思っています。
田舎の研究室に引きこもるのでは全くない、無限のフィールドが広がっています。「裁量権しかない環境」とよく言っていますよ(笑)
和歌山県立医科大学、大阪河﨑リハビリテーション大学など複数大学と研究を行っています。
― 奥様やご家族の反応はいかがでしたか?
実は最初は、東京生まれの妻が移住に反対していました。
「和歌山ってどこ?」という感じで(笑)。
でも、実際に住んでみると環境の良さに惚れこみ、今では「ここに連れてきてくれてありがとう」と言ってくれるようになり、和歌山市内に家を建てることになりました。
家には庭を造ったので、ガーデニングという新しい趣味もできました。
タワマン時代にはなかった“土の感触”が、今は心地いいです。
「都会の便利さよりも、心の余白の方が自分には大事だと気づきました。」
庭を持ってから植栽に目覚め、毎朝のジョギング後に庭で過ごす時間が気に入っています。
― 東京との距離感はどう感じていますか?
都市の楽しみも、変わらず満喫できています。
東京の友人と夜に飲んでも、20時12分の東京駅発の新幹線に乗ればその日のうちに和歌山市の自宅に帰れます。年末は妻の実家に帰省するのですが、汐留で劇団四季のミュージカルを観る予定です。そしてお盆正月は、逆に東京が空いています(笑)
2024年には母校の慶應義塾大学「矢上賞」を受賞、講演を行いました。東京は移住後も、常に身近に感じる場所です。
― 最後に、読者へメッセージをお願いします。
都会でのキャリアも素晴らしい。
でも、もし今「このままでいいのかな」と思っているなら、一度、和歌山の空気を感じてみてほしいです。
経済圏へのアクセスも良く、自然も豊かで、仕事も暮らしも整う場所です。またもっとディープな和歌山を感じたい方には、弊社工場が紀南地方にありますので、南紀白浜や熊野古道など、ここにしかない環境を存分に楽しんでいただけます。
紀州ほそ川創薬では、地域資源の研究や産業化を共に進める仲間を募集しています。
ご興味のある方は、ぜひ一度お話ししましょう。私の体験もお話させていただきたいと思います。
きっと、あなたのキャリア観が少し変わると思います。お気軽にお声がけください。
弊社は、ありがたいことに、今も多くの方から愛されている元競走馬『ウメムスビ』の法人馬主としても知られています。
「“梅”の名前を冠したこの馬が全国的に話題になったときは、本当に嬉しかったですね。」
【細川陽介プロフィール】
慶應義塾大学理工学部卒、慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。メリルリンチ日本証券㈱、㈱日本政策投資銀行を経て、2021年JRA個人馬主資格取得を機に投資銀行を退職し、家業を継ぐ。㈱紀州ほそ川・㈱紀州ほそ川創薬・㈱紀州ほそ川飼料の代表に就任。2022年ウメムスビで馬主デビューし、㈱紀州ほそ川飼料を法人馬主化。約15年の投資銀行勤務の経験を活かし財務面から弊社事業を支える。2024年慶應義塾大学矢上賞受賞。