【Our Voices】RPOでプロに。「報酬」も「成長」も両立できるHR領域の新常識
RPOのスペシャリストとして、10年以上にわたり最前線で活躍している木津和 弘祐さん。リクルートでRPOの立ち上げを経験し、国内市場の可能性に早くから着目してきた木津和さんに、キャリアの原点から今の構想までをじっくりとお話を伺いました。
単なる“採用代行”ではなく人事の「戦略的パートナー」としてRPOの価値を社会に根づかせていく。その実現に向けてInterRaceで構想しているビジネスモデルと、プロフェッショナル人材の新しい働き方とは──。
InterRace株式会社 Vice President
木津和 弘祐
関西学院大学卒。リクルートのRPO事業に立ち上げから携わり、戦略から母集団形成、選考運用までトータルで支援。幅広い規模・事業フェーズ(創業期から年間採用数1000名以上まで)、業種、職種の対応経験をもち、HR領域にて延べ3000社以上の支援を行ってきた日本有数の採用スペシャリスト。
本質に向き合える場所へ──選んだのは業界ナンバーワン企業
──これまでのキャリアについて教えてください。
大学卒業後、最初に就職したのは、多彩な分野のスクールを展開している教育スクール企業でした。学生時代は映像や映画に強い関心があり、マスコミ業界を中心に就職活動をしていたのですが、そのスクールが映像系の分野も手がけていたことから興味を持ち、入社を決めました。
ところが、実際に配属されたのは、代官山にあるパティシエスクール。関西出身で初めての東京生活ということもあり、不安はありましたが、目の前の仕事に集中し、営業職として成果を上げることに専念しました。その結果、1年目には最優秀新人賞を受賞し、2年目で最年少マネージャーに昇進。経営幹部候補としても期待されるようになりました。
でも、入社3年目に、「大学全入時代に突入し、今のままのでは潰れてしまう」と、スクールの事業方針について経営陣と対立し、啖呵を切って退職したんです。今は思えば当時は生意気だったなと反省しておりますが。笑。そして、次に転職したのがリクルートでした。
──どうしてリクルートを選ばれたんですか?
転職の軸として明確に決めていたのは、「業界のナンバーワン企業で働くこと」でした。前職の教育スクール企業は、業界の中では後発かつ、常に4番手・5番手というポジションで、業界大手の後塵を拝していました。そうなると、どうしてもコストやカリキュラムでの差別化に頼らざるを得ず、市場全体の構造を変えるような取り組みがしにくい環境だったのです。
もっと上流からマーケットを俯瞰し、「この業界はどこに向かうべきなのか」「そのために何ができるのか」といった、本質的な議論やアクションができる環境に身を置きたいと思うようになっていました。その想いから、業界をリードする企業で働くことにこだわりを持ち、転職エージェントに紹介されたのが「リクルート」と「リクルートエージェント」でした。
いずれも魅力的な会社でしたが、実は、当時は人材業界にそれほど興味がなかったので、より多岐にわたる事業を展開していたリクルートを選びました。でも、蓋を開けてみると、結局配属されたのはHRの人材領域でした。そこで出会ったのは、優秀で刺激的な仲間たちと、自由度の高い提案文化でした。売上はもちろん大切ですが、「本当に意味があるのか?」という価値基準を持ってお客様と向き合える風土があったのです。そうした環境に身を置くことで、自然と人材ビジネスの面白さや難しさ、深さに惹かれていきました。
気づきから始まり、挑み続けて築いたRPOキャリアの原点と現在地
──リクルートに入社して、最初はどんな仕事をしていたんですか?
まず新卒領域の媒体営業からキャリアをスタート。その後、リーマンショックのタイミングで中途採用領域も担当することになり、クライアントに対して新卒・中途の両方を提案するようになりました。採用計画の立案から、ターゲット設計、広報戦略の企画、原稿制作、応募者対応支援まで、一連のプロセスをハンズオンで支援しておりました。
次第に採用難易度の高い業界や大量採用を必要とする企業など、より複雑でチャレンジングな案件を任されるようになりました。売上の大きい案件も多く、採用広告を手掛けるリクルートのグループ企業と連携してクリエイティブやブランディング面も含めたトータル提案ができることが面白くて、夢中で取り組んでいました。結果として、かなりの応募者を集めることができ、「これはきっと褒めてもらえるだろう」と思いながら意気揚々とお客様先に伺ったのです。ところが開口一番、「こんなに集めたら、このあと現場が大変なんだよ!」と、思いがけず厳しい口調で指摘を受けました。もちろん本気で怒鳴られたわけではないのですが、私にとっては強く胸に刺さる出来事でした。
あのときは本当に恥ずかしかったですね。振り返れば、自分は“人を集める”ところまでしか考えていなくて、その後に何が起こるのかをまったく想像できていなかったのです。
「たくさん集めたら、企業は面接や説明会を増やさなきゃいけない」「現場にさらなる協力をお願いしなきゃいけない」。そんな当たり前のことに、入社2〜3年目になってようやく気づいたのです。それまでは、自分が関わっていたのは集客支援だった。でも、本当の意味での“採用支援”というのは、もっと長くて深いプロセスだと、そのお客様の指摘で気づきました。
それがきっかけで、自分自身の中に「このままじゃダメだ」「ちゃんと採用全体を理解して支援できるようになりたい」という危機感と好奇心が芽生えました。社内を見渡すと、RPOやBPOのように、採用のオペレーション領域まで踏み込んでいる実験的な部隊があることを知ったのです。ちょうどそのタイミングでリクルートキャリアへの再編があり、RPOの立ち上げフェーズだったこともあって、自ら手を挙げて異動を志願しました。
RPOには、二種類の意味があります。一般的には「Recruitment Process Outsourcing」(採用代行)と訳されることが多いのですが、私たちが取り組んでいるのはRPO「Recruitment Process Optimization」(採用プロセスの最適化)です。採用活動全体を分析し、効率化・質向上・コスト削減を実現するための継続的な改善活動を指します。単なる業務委託やアウトソーシングではなく、戦略的に採用プロセス全体を見直し、最適な状態に導くことが目的です。
──RPOでは、どんな業務を行っていたのでしょうか?
最初は本当に何も整っていない状態で、提案から案件獲得、実行、改善までを一人で担っていました。採用運用はエクセルで組み立て、スカウト文面の作成、候補者対応、面接日程の調整、オペレーション管理まで、現場に入り込んで一連の業務を手探りで進めていました。
当時のRPOチームは、まだ立ち上げ期。メンバーは10人に満たず、リクルーターやオペレーション担当も数名のみ。外注化も進んでおらず、役割分担もない中で、全員が“何でも屋”として動いていました。
そんな体制の中でも、大手商社や公共サービス企業といった大型案件を自ら開拓して成果を上げてきました。例えば、大手商社では新卒中心だった採用方針から中途採用への転換期に入り、採用ブランディングからチャネル選定、選考プロセス、内定承諾までトータルに支援しました。経済紙の一面広告やリファラルパーティーなども仕掛け、社会的にも注目を集めるプロジェクトとなり、高い成果を残しました。
また、公共サービス企業では、全国規模・年間2000名の営業職採用という大規模案件をリード。他社メディアやエリア担当を巻き込みながら、総勢50名規模のプロジェクト体制を統括し、現場と連携しながら最後までやり切りました。 今でも、自身がご支援させていただいた企業様の皆様とはありがたいことにお付き合いいただいております。
案件の増加とともに、少しずつ社内の体制も整っていきました。コンサル、リクルーター、オペレーションという役割が分かれ、管理ツールの導入も行い、RPOの“仕組み”としての土台を固めていきました。それでも、ゼロから作り上げていった立ち上げ期の経験は、今のRPO活動の原点であり、財産になっています。
その後、一時RPOを離れましたが、数年後にRPOへ復帰。以降はマネージャー、部長として、プロジェクト単位のマネジメントに加え、人材育成、クライアントとの長期的な関係構築など、RPO事業全体の基盤づくりに従事しました。
理想のRPOモデルを実現するための決断と新たな挑戦
──なぜリクルートを退職されたのですか?
RPOを本気で取り組みたかったからです。
リクルートでは、マネージャーから部長に差しかかるフェーズで、次世代経営者向けの社内研修があり、そこでテーマを与えられます。当時は「自分の事業をどうスケールさせていくか」。私はそのテーマに対してRPOの将来像を描き、スケールシナリオを作成しました。
当時のRPO事業は、リクルートではまだ100億円にも届かない規模でしたが、海外の事例をみると、RPOは単なる外注ではなく、採用業務全体を担う“戦略的アウトソーシング”として確立されており、すでに市場の中で認知度のある存在です。さらに、グローバルの市場調査レポートでも、RPOは一過性のブームではなく、継続的に成長する「スタンダード(標準的な手法)」として評価されるまでになっています。
日本はそこから10年遅れていましたが、逆に言えば今が仕掛ける好機でもあります。採用業務をさらに細かく分解し、必要な人材を適切に配置する“RPOモデル”が広がれば、マーケットの裾野は確実に広がる。国内にもさらに大きい市場が生まれる――そう確信できた瞬間でした。
ただ、リクルートという大組織においては、短期的に利益が見込めるメディアやエージェント事業のほうが優先されます。RPOに将来性があっても、投資の優先順位を上げるのは簡単ではありません。それがはっきり見えたとき、「だったら、自分が外に出て、作るしかない」と決めました。
加えて、マネジメント中心の働き方が増えるなかで、自分の手でHRの現場に関わり続けたいという思いが強くなっていたことも、大きな決断の後押しになりました。そこで退職を決意し、自分の会社を立ち上げたのです。
──なぜそこから、InterRaceにジョインを?
退職の意思を会社に伝えたタイミングで、InterRace顧問の黒田さんと食事をする機会がありました。これからやりたいこととして、RPOに改めて取り組みたいと伝えたところ、「国内のRPOをやるなら、木津和が第一人者としてちゃんと立つべきだ」と言っていただきました。そのうえで、「一緒にやれる場を紹介するよ」と、InterRaceを紹介してもらったのがきっかけです。
僕としては、もともとお客さんのニーズに合わせて必要な業務と人材を丁寧にマッチングし、必要な規模・体制で小さなRPOを当たり前につくっていく──そんなモデルをやりたいと考えていました。その考えを共有したうえで、「この形でやれるなら」と伝え、ジョインを決めました。
でも当時のInterRaceは、まだ組織体制が整っていない時期で、僕自身もしばらくは自分の会社を持ちながら業務委託で関わっていました。今のように専任メンバーが揃っていたわけではなく、最初の1年ほどは試行錯誤の連続でした。
ただ、想像以上にニーズが高く、個人事業主や副業で働くソロプレナーのプロフェッショナルの登録も着実に増えていきました。そして体制が整い、本格的に事業として回り始めたのは2〜3年のこと。ようやく「人」と「仕組み」が揃ってきた、という実感があります。
リクルート時代に描いていたスケールモデルと、現在InterRaceで取り組んでいるモデルは、僕の中ではほぼ一致しています。副業・フリーランス人材の活用と、HR業務を細かく分解して適切にマッチングするという構造を、当初から一貫して追求できている点で、「ようやく現実になってきた」という感覚があります。
採用は経営課題──だからこそRPOがより求められる時代になる
──RPOサービスの将来性についてどうお考えですか?
RPOは、これからの時代に欠かせない「採用の社会インフラ」になっていくと考えています。なぜなら今、採用は間違いなく経営に直結した課題であり、あらゆる企業が生き残れるかどうかを左右する要素だからです。実際、大手から中小まで「人が採れない」ことを深刻な経営リスクと捉える企業が増えてきました。
労働力人口が減少し、テクノロジーだけでは補いきれない業務も多い中で、必要な人材をどう確保するかは、多くの企業にとって避けて通れないテーマです。しかも採用チャネルやツールは、エージェント、スカウト、リファラル、SNS、ATSなどが乱立しており、「どれをどう使えばいいのか」という判断自体が複雑化しています。
こうした状況に対応するには、採用そのものに対する「専門性」が不可欠です。ところが現実には、それを育てる環境が整っていません。新卒で人事職を募集する企業は少なく、HRを体系的に学べる場も限られています。採用に特化した資格制度も存在せず、複雑化・高度化する実務に対応できる人材が社内で育ちにくい構造になっているのが現状です。
だからこそ、外部にその専門性を持ったプロフェッショナルの存在が必要になります。
RPOの本質は、やはり単なる“採用代行”ではなく、採用業務全体を構造的に設計し、プロジェクトとして運用し、継続的な改善までを伴走すること。つまり、人事を“代替”するのではなく、“補完・強化”する戦略的パートナーであるべきだと考えています。
グローバルでもRPOへの注目は高まっており、『ハーバード・ビジネス・レビュー』でも、ここ数年はHRや採用に関するテーマがほぼ毎号取り上げられていますし、HRに関するニュースもどんどん増えています。日本でも、採用を外部のプロフェッショナルに任せるという選択肢が、今後はスタンダードになっていくはずです。RPOには、それだけの社会的使命と可能性があると感じています。
RPOで収入もキャリアも築ける仕組みに。InterRaceがつくるエコシステム
──HR領域でキャリアを磨きたいと思っている人たちにとって、InterRaceならではのRPOの魅力ってどこになりますか?
RPOを“食える職業”として成立させるエコシステムがあること。これがInterRaceのRPOの最大の魅力です。私たちは、単に業務をアウトソースするだけではなく、採用のプロフェッショナルが継続的にスキルを磨き、しっかりと収入を得られる環境づくりに本気で取り組んでいます。
その仕組みを、僕は“エージェンシーモデル”と呼んでいて、わかりやすく言うと「タレント事務所」のようなスタイルです。 つまり、専門性を持った人材が集まり、それぞれの力を発揮できる“舞台”が用意されている状態です。私たちの仕事でいえば、“舞台”とは案件です。「案件」が数多くあることで、スキルを活かして、収入につなげられます。
そこで私たちは、「どのHR企業と組むか」「どのようなサービスがこのモデルに合うか」を徹底的に検討しました。その中で最もフィットしたのが、ビズリーチのスカウトサービスです。業務の多くがリモートで完結でき、時間の自由度も高い。地方在住で子育て中の方や、副業として関わりたい方など、柔軟な働き方を求める人たちとの相性が非常に良いと思いました。
加えて、私たちはプロジェクトごとのスキル要件に応じて人材をマッチングする仕組みづくりにも力を入れています。登録者には300項目以上にわたるスキル評価を行い、それをもとに適切なプロジェクトにアサイン。この“精度の高いマッチング”が、実力を発揮する場をつくり、さらにスキルを伸ばす好循環を生んでいきます。
今後は、そのスキルに応じて報酬が上がっていく設計や、学びの場の整備にも注力していく予定です。タレント事務所でいうところの「タレント養成所」のように、採用業務を専門的に学べる仕組みを整え、「プロ人材の育成」と「キャリアとしての定着」を本格化させていきます。トップレベルであれば、年収数千万円 といった世界を作りたいと思っております。専門性を活かしながら、しっかりと生活ができる。そんな“RPOという職業”を確立することが、InterRaceの描く一つのビジョンです。
知的好奇心こそが、InterRaceでの原動力
──最後にInterRaceにフィットするのは、どんな人だと思いますか?
InterRaceにフィットするのは、知的好奇心があり、変化を前向きに楽しめる人だと思います。メンバーのバックグラウンドはさまざまですが、共通しているのは「もっと知りたい」「深く理解したい」という姿勢。人や仕組みに対して「なぜ?」と疑問を持ち、自ら調べて考え、構造的に捉えようとする人が多く集まっています。
InterRaceのカルチャーは、いわゆる“ハングリー精神”で突き進む集団ではありません。むしろ、現状をより良くしたいという自然な探究心や、学び続ける意志が、組織全体をつなぐエネルギーになっています。
だからこそ、「知らないことを面白がれる」「自分から掘り下げにいく」姿勢が、何より大切になります。実際に、面談の場で会社や業界、ビジネスモデルについて調べ、自分なりの仮説や視点を持って話してくれる方には、私たちも強く惹かれます。
HRの経験も大切ですが、それ以上に学ぶことを厭わず、前向きに変化を受け入れられるか。そのスタンスさえあれば、InterRaceはきっと、心地よく刺激的な環境になるはずです。