こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」と題して、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、
▼人事トップになるために実行したこと
▼意識していたマインド
▼経営や現場とのコミュニケーションのtips
などをお伝えしていきます。私の経歴詳細は、以下の記事からご確認ください。
前回は、相手の立場に立つというふわっとした目標を、相手のソーシャルタイプに合わせるという明確な定義に言い換えました。そのためのメソッドとして、DiSC理論というソーシャルタイプ診断&相手のタイプを見抜くためのピープルリーディング法をご紹介したところです。
採用候補者をDiSC理論に基づく4つのタイプに一旦当てはめることで、相手の目指す方向性とズレのないコミュニケーションを取ろう、というのが前回のまとめでした。とはいえ、これらの方法は、相手を大雑把に分類するものでしかありません。そこで、今回は「いかにして目の前の相手との対話を深めていくか」をテーマにお話ししていきたいと思います。
目次
話していること≠本音
質問の意図を汲み取る重要性
行動←思考←感情←価値観
本音を引き出すためのヒアリングの手順
思考のヒアリング
感情のヒアリング
価値観のヒアリング
曖昧な言葉はしっかり定義する
価値観の不一致がもたらすもの
社内でのすり合わせも大切
経営の視点をもった採用活動を
話していること≠本音
さて、早速ですが、面接の場面を思い浮かべてみてください。「何か質問はありますか?」と採用候補者に問いかけたところ、「1日の仕事の流れを教えてください」と質問されたとします。あなたならどう答えるでしょうか。
「入社したらどんな感じになるのか気になるよな」と、「出勤したらまずはミーティングをして、次はこれをやって……」と、ごく普通に答える方が多いのではないかと思います。
でも、果たして相手は、純粋に1日の流れを知りたくて質問してきたのでしょうか?人間はほとんどの場合、言葉にしていることがそのまま本音ではありません。もちろん嘘をついているわけではありませんが、言葉に全てが表れているわけではないのです。
質問の意図を汲み取る重要性
引き続き、先の場面を例に考えてみましょう。実は、採用候補者は「拘束時間が長すぎる」「一人で業務にあたっていてチームワークを感じられない」といった現職場へのストレスを感じているとします。
この場合、採用候補者からの「1日の仕事の流れを知りたい」という質問には「残業がどのくらいあるのか」「チームでコミュニケーションをとる時間があるのか」といった意味合いが込められているんですよね。
相手はざっくりと質問してきますが、ここで答え方を誤ってしまうと「あ、この会社違うな」と思われてしまうので注意が必要です。よくありがちなのは、相手のニーズよりも、自分が伝えたいことにフォーカスして話してしまうというミス。
もし、相手が「現職ではコミュニケーションに割く時間が多いせいで、生産的な動きができない」と悩んでいるのに、自社のアピールポイントがチームワークだからと「ウチは議論することを大事にしてるから、話し合いや打ち合わせの時間はしっかりとっている」などと延々と説明すれば、相手に「自分には合わないかも」と捉えられてしまいます。
行動←思考←感情←価値観
上記のようなミスマッチを起こさないために、前提として頭に入れていただきたいのが「行動←思考←感情←価値観」という僕のオリジナルのフレームワークです。
僕は、行動の奥には思考があり、思考の奥には感情があり、さらに、感情の奥には価値観があると考えています。つまり、ある人がとる行動の根底には、その人の価値観が影響しているということです。
先に紹介した例では「1日の仕事の流れについて質問した」という行動だけで相手の意図を判断してしまったために、相手が聞きたいことと、こちらが答えていることにズレが生じてしまいました。こうした事態を防ぐために、コミュニケーションをとるにあたっては、思考や感情、価値観まで丁寧に掘り下げ、本音を引き出していくことが大切になります。
本音を引き出すためのヒアリングの手順
では、どうやって思考や感情、価値観をヒアリングしていけば良いのでしょうか。ここからは、具体的なテクニックをお伝えしていきます。
思考のヒアリング
思考は自分の頭で考えていることなので、相手に直接質問すればある程度わかります。「何が1日の仕事の流れを知りたいと思わせたのか」といった形で、明確に尋ねてみましょう。相手が現在置かれている環境などを確認するのも有効な手段です。ポイントは「なぜ~したのか」ではなく「何が~させたのか」と聞くこと。「なぜ」という質問は広すぎて、その人の過去の体験のような深い背景まで考えさせる可能性があるからです。今は思考アルゴリズムを確認したいわけなので「何が~させたのか」と聞くと、聞きたい内容が返ってきます。
感情のヒアリング
ここからは少し難易度があがります。感情は「それが好きかどうか」「ワクワクするか」「やりたいかどうか」など、思考よりももっと奥にある気持ちの部分です。そのため、相手もうまく言葉にできない場合が多くあります。
それをカバーするために用いるのが、前回ご紹介したソーシャルタイプ診断です。感情とソーシャルタイプは大きな関わりがあるので、これらを活用することで相手への理解がグッと深まります。
価値観のヒアリング
価値観は、その人自身のこれまでの体験や経験から形成されているので、ソーシャルタイプ診断ではわかりません。思考と感情以上に、より深くヒアリングしていくことが求められます。
価値観のヒアリングにあたって、僕は相手に「どんな環境で育ったか」や「未だに覚えている幼少期の出来事」などを聞くようにしています。なぜなら、僕は「15歳」が人間の価値観形成のタイミングにあたると考えているからです。
小学生のときに、今後の人生を考えて習い事を決める人なんてほとんどいませんよね。一方で、高校生になると、自ら高校や部活などを選択するようになります。僕は、幼少期の無自覚・無意識の時期の経験により価値観が形成され、自らの行動を選択できるようになるのだと思っています。
一つ、実際の事例をご紹介しましょう。採用候補者の中に、学生時代から社会人まで、常にリーダーシップを発揮している人がいたので、15歳以前の印象深い出来事を聞いてみました。すると「小さい頃『笠地蔵』の劇をやることになったときに、みんながやりたがらなかったおじいさん役になんとなく立候補したら、先生や親にすごく褒められた」というエピソードを話してくれました。
本人も、この出来事がきっかけだと気づいてはいませんでしたが、それ以降、周囲が敬遠する学級委員などを率先して引き受けているうちに、15歳になる頃には、リーダーシップを重要視する価値観になっていた、というわけです。
曖昧な言葉はしっかり定義する
価値観をヒアリングする上で、気をつけなければならないことが一つあります。それは「リーダーシップ」「コミュニケーション」「ポジティブシンキング」など、抽象的な言葉は定義までしっかりすり合わせることです。
「チームワーク」という言葉を例にして考えます。チームワークとは何かを説明してもらうと「助け合いの心でサポートやフォローをすること」と答える人もいれば「One for All,All for One」だと答える人もいます。中には「結果のために、時には厳しいことを言い合えることがチームワーク」だという人もいるかもしれません。
このように、ある言葉をその人自身の具体的な言葉に言い換えると、それぞれ違った定義が出てきます。この違いこそが、過去の経験や環境により形成された、その人自身の価値観なのです。
価値観の不一致がもたらすもの
価値観のすり合わせができていないと、入社後のミスマッチにつながります。
実際の面接の場面をイメージしてみましょう。あなたは人事担当で、チームワークを大切にする人材を必要としていたとします。そんなときに、チームワークを最優先に考えているという候補者が現れたら「じゃあウチの会社に合いそうだ」と、すぐ採用したくなりますよね。
でも、一度立ち止まって考えてみてください。あなたが考えるチームワークと、相手が考えるチームワークは、同じものだとは限りません。もし違った場合、面接では合格でも、入社してからお互いに「あれ、思ってたのと違うな」となってしまいます。
日本人は抽象的な表現を使いがちなので、言葉の定義までしっかり確認して価値観をすり合わせるのは相当難しい作業になります。ですが、過去の経験を掘り下げつつ、価値観を表した言葉の定義まで一致することを確認できれば、入社後のズレはなくなるはずです。
社内でのすり合わせも大切
価値観の不一致は、採用候補者との間だけでなく、社内でも起こり得ます。せっかく採用活動を進めても「こういう人を採用したい」と考えている現場と、人事担当で価値観が違っていると、ひいては経営者や事業責任者の方々が無駄な面接に時間を費やすことになってしまいます。
採用は伝言ゲームのようになりやすいので、人事担当、採用をオーダーする人、外部の人材サービスを利用する場合はそのエージェントと、関係者全員が「どんな人が必要か」をしっかり共有することが大切です。もちろん、その過程で抽象的な言葉が出てきたときは、明確化することをサボってはいけませんよ。
また、候補者の採用を見送る場合も「なぜ不採用なのか」をしっかりと言葉で共有することが大切です。忙しい、面倒くさい、あるいは個人情報だから……といった言い訳はいくらでもできますが、そのフィードバックを省くと、採用に余計な時間がかかることになります。
経営の視点をもった採用活動を
採用活動はもちろん重要ですが、忙しい経営者や事業責任者に余計な時間を使わせないことも同様に重要です。個人の価値観まで掘り下げるヒアリングや、社内での丁寧なすり合わせをすることにより、生産的かつ成果が出やすい採用活動を行うことができますので、ぜひお試しください。
より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
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