「復職が「できる・できない」ではなく、再発しない状態に「なっている、なっていない」に焦点を当てた支援を大切にしています。」インクルードのリワーク事業をゼロから支え続けている山川さんはそう語ります。
今回はインクルードの副本部長兼ゼネラルマネージャーの山川さんに、インクルードのリワーク事業の軌跡とこれからについて伺いました。
山川隆司 / 副本部長兼ゼネラルマネージャー
障害者就労支援を行う福祉施設にて10年間勤務。主に障害者雇用の就労支援員やサービス管理責任者として従事した後、2018年インクルード株式会社に入社。就労支援員、施設長として現場の就労・復職支援に従事しながら、事業所の新規立ち上げなどにも携わる。現在は複数の事業所の運営管理や企業連携チームのマネージャーを担当。YouTubeチャンネル「ニューロチャンネル」ではメンタル不調を抱える方を対象に、就職や復職を成功させるための情報を発信している。
ーーリワーク事業に参入した背景やこれまでの軌跡を教えてください。
1店舗目であるニューロリワーク大塚センター(2018年4月開所)を開所して間もなく、リワークでの利用希望の方がいらっしゃいました。その後もたびたびリワークを希望する方からのお問い合わせがあり、ニーズの高まりを感じるようになりました。
また、私が施設長として立ち上げから関わったニューロリワーク横浜センター(2018年10月開所)では、リワークのお問い合わせがとても多く、開所後最初の利用者さんもリワークの方でした。この頃から次第にリワークの必要性を強く感じ、本格的に力を入れていきたいと考えるようになりました。
当時、福祉業界におけるリワークの認知度は現在よりも低く、「リワークというサービスを知らなかった」「ニューロリワークのホームページを見て初めて知った」という声が多く聞かれました。そこで、まずは実績を積み上げ、復職・職場定着の成果を示すことで、福祉サービスにおけるリワーク事業の有効性を証明し、広めていくことに注力しました。
インクルードでのリワーク事業が本格化したのは、ニューロリワーク三軒茶屋センター開設(2020年4月)からになると思います。
よりリワークに特化した事業所として、プログラム内容の見直し、支援員の強化などを行いました。関係機関への周知活動や連携にも力を入れ、実績を積み上げていきました。その後も同モデルでの事業所の開設を進め、次第にリワーク事業がインクルードの大きな柱に成長しました。
2021年12月にはCRT(コーポレートリレーションチーム)という企業連携を専門に行うチームを立ち上げました。センター運営に携わっていたころから利用者さん(休職者さん)が在籍する企業とは連携を図っていましたが、CRT立ち上げ後はさまざまな企業への認知や理解促進にも力を入れられるようになりました。
ーーお話を伺っていると「リワークを広めること」が急務なのでしょうか。
そうですね。「リワーク」そのものの認知の低さは大きな課題です。
精神疾患の患者数は令和5年の時点で603万人(※1)にのぼると報告されており潜在層(顕在化されていないメンタルヘルス不調者)も合わせるとその数はさらに増え、その結果メンタル不調が原因で会社を休職される方も増えています。
一方、まだリワークは多くの方に知られておらず、休職期間中に適切な再発予防プログラムを受けられない、それ故に再発・休職を繰り返してしまっているという現状も少なくありません。
実際にうつ病などのメンタル不調になられた方の5年以内の再休職率は47.1%(※2)にのぼるとも言われ、多くの方が休職を繰り返してしまう状況にあります。
インクルードではメンタル不調により休職された方の再発予防の取り組みとしてまずリワークを広め、多くの方の長期安定就労を実現できることを目指しています。
そのためには事業所の拡大のみならず、企業へのアプローチやセミナーの開催、YouTubeなどのメディアを用いた情報発信にも力を入れています。
※1 厚生労働省「精神保健医療福祉の現状等について」
※2 主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究
ーー企業への認知活動は具体的にはどういうことを行っているのでしょうか。
セミナーなどを中心にリワークを知らない企業への認知を向上するほか、休職者の増加に悩んでいる企業への課題解決、休職者対応へのアドバイスなどを行っています。
また健康経営をテーマにしたEXPO(展示会)に出展し、人事や産業保健に関わる方と直接、課題解決へ向けた相談ができる場を設けるようにしています。
EXPO(展示会)の様子はこちら→「日本最大のバックオフィスEXPOに参加しました!(YouTubeニューロチャンネル)
ーー続いて、ニューロリワークのリワーク支援における特徴や強みを教えてください。
まずはプログラムに特徴があります。ニューロリワークでは多数のオリジナルプログラムを導入しています。
その1つがブレインフィットネスプログラムです。復職後も安定して働き続けるためには、健康的な生活習慣を身に付けることが不可欠です。そこでニューロリワークでは、生活習慣の構築・改善を目的としたブレインフィットネスプログラムを提供しています。
精神科医とインクルードのブレインフィットネス研究所に所属する脳科学者の監修を受けた科学的根拠に基づくプログラムで、脳・心・身体にとって健康的な生活習慣を身に付けていただくことを目的にしています。
復職後も多くの方がブレインフィットネスプログラムで学んだ内容を継続して実践されており、長期安定就労に欠かせないものだと実感しています。
他にも柔軟な思考を身に付ける認知行動療法に基づくFITプログラムや、休職に至った原因の分析・再発防止策の立案など、復職後も活躍し続けるための多彩なプログラムを提供しています。
加えて、関係機関との連携にも力を入れています。休職中の利用者さんのかかりつけ医や所属企業の人事・産業医とも連携し、適切な復職の判断が行われるようサポートを行っています。
ーーニューロリワークがリワーク支援を行う上で大切にしていることを教えてください。
復職「できる・できない」に焦点を置くのではなく、再発しない状態に「なっているか、なっていないか」に焦点を当てた支援を大切にしています。
先ほどのブレインフィットネスプログラムを例に挙げると、休職期間中の生活習慣を改善し症状を安定させることだけを目的とするのではなく、復職後も健康的な生活習慣を維持しながら、安定して働き続ける力を身に付けることを目指しています。
また、FITプログラムも同様に、休職中だけでなく復職後に起こり得る悩みや問題などを解決する方法が身に付くかどうかという視点で作られています。これらのプログラムはいずれも「現状の回復~復職後の安定」までを視野に入れた内容になっています。
さらに、復職許可を判断する際も、「週5日間の活動を一定期間継続できているか」など、さまざまな観点から、職場復帰後も無理なく週5日勤務を続けられるだけの体力やコンディションが備わっているかを総合的に判断しています。復職を最終目標とするのではなく、その先の長期的な職場定着を見据えた支援を行っています。
加えて、復職後の定着支援にも力を入れており、利用者の皆さまが職場で安心して働き続けられるよう、継続的なサポートを提供しています。
ーー最後に、今後リワーク市場においてどういうポジションにつきたいと考えていますか?
日本では、今後さらに超高齢化社会が進み、労働力の需要と供給のバランスが崩れ、慢性的な人手不足が深刻化すると考えられています。そのような状況の中で、経験や知識が豊富であるにもかかわらず、メンタルヘルスの不調により働けなくなってしまう方が増えることは、大きな社会的課題です。
もちろんメンタル不調を未然に防ぐことが理想ですが、今後は「メンタル不調を経験したとしても、リワークというリハビリを通じて、復職後も長く安定して活躍し続けられる」社会の実現を目指しています。
そのためにも、リワークの認知度をさらに高めるとともに、サービスや支援の質の向上にもこだわり、まずはニューロリワークが福祉業界におけるリワークのモデルケースとなることを目指しています。