エー・アール・システム株式会社(以下「ARS」)の歴史には大きな紆余曲折がありました。
今でこそ大企業との取引を多く持ち、成長路線を走り始めたARSですが、就任当時は「根っからの負け犬だった」という中村社長。
「今だから言える」会社のいきさつや、人材・経営についての考え方を、中村社長が赤裸々に語ってくれました。(聞き手:栗田 杏)
「人」ではなく「ビジョン」に従って欲しい
Q.ARSがいま目指していること、求めている人物像はどのようなものですか?
A.「人」ではなく、会社の「ビジョン」に従ってくれる人を採用したいと思っています。
「通販の世界にどっぷりと浸かって、そこから社会を変えていく」という発想に共感してくれる人がいいなと思います。
やり方や得手不得手は人それぞれだろうけれど、ビジョンに基づいてそれぞれが行動する会社でありたいと思っているんです。
ビジョンについて具体的に言うと、いま、業界問わずどんな会社もデータドリブンでないと勝てない時代に来ています。
逆に言えばデータドリブンを進めることで、これまで大きな市場に迫ることのできなかった企業、とくに小回りをきかせられる中小企業にはチャンスがやってくると考えています。
とはいえ一方で、デジタル化に関する日本の企業の姿勢って不十分なんですね。
だから、物理的なデジタル化ではなくて、企業としての根底にある思考そのものを変えていくことが僕らの使命のひとつだと思っています。
「日本のものづくりをお手伝いしたい」というのはARSとしても発信していることですが、意識改革というところから僕らはお手伝いしなきゃいけないという実感を持ってます。
そして最終的には、ものを買う人たち、つまりエンドユーザーがいま感じている煩わしさをなくす。B2B、企業目線で通販事業の成功をサポートすることを通して、エンドユーザーにとって真に役に立つ存在になる、そこまでが目標です。
Q.なぜ「人ではなくビジョン」なんでしょう?
A.僕自身いろんなビジネスをやってきたんですが、僕は個人が小さな相手を狙うよりも、みんなで大きな獲物を捕りに行く方が企業として効率的だと思うんです。
ひとりひとりが別々のものを狙って小さな動物をたくさん捕ってくるよりも、全員がかりでマンモスを狙う方がいいと考えています。
そのためには、ひとつの目的が先にある、ということが大事なんです。
あとは個人の得意分野で、戦いに行く人、道具を作る人、作戦を立てる人、それぞれの行動があっていい。だからひとつの「ビジョン」という大きなものに従える人が欲しいんです。
あとは、実際僕たちのお客様、特に長い付き合いのあるお客様は同じビジョンを共有してくださっているんです。
それもあって、逆に、僕らのことを単なる安い便利屋だとしか考えない企業には、いくらお金を払ってくれると言われようが製品を売らない、そういう決断を続けてきました。
パフォーマンスであっても、毒まんじゅうは絶対に食わない
Q.ずいぶんと大胆ですね。
A.そうかもしれないけれど、これはARSの歴史というか、僕が会社を継いだ時に考えたことでもあるんです。
ARSはいまようやく、会社を大きくしていこうと言えるような状態になったんですが、そこまでには様々な経緯がありました。正直に言うと、「負け犬企業」だったというのかな。
自分たちはたかだか20人やそこらの会社だから、多少頑張ったところで大手に勝てるわけがない、そんな負け犬根性のようなものが僕が来たときには社内に漂っていて。
そういう意識が一番良くないと僕は思ったんですね。
とにかく、社員に誇りを持ってもらうこと、そこから始めなければならないと思いました。
実のところ、負債もかなりあって、周囲の友人たちは口々に「この会社の経営を継ぐなんてやめろ」と言いました。ただ、手前味噌なんだけど、僕はビジネスでの決断ってこれまで外したことがなくて。今考えれば社長になってこうやって事業をやってることも当たりの決断だったと思ってます。
Q.経営としてはお金のことを考えると思うのですが。
A.でも、まず会社、社員が誇りを持つためには必要なことなんだよね。
本来なら100人は要るくらいのパッケージソフトの開発を3人でやってきたという頑張りがあるんだから、まず社員が製品への誇りを持たないと始まらない。
ARSを「安かろう悪かろう」と思っているような会社と契約を続けていたら、社員が誇りがを持てなくなる悪循環が続くだけです。そして、社員に誇りを持たせるのはトップにいる僕の仕事だと思うんです。
だから、外に対して強気の行動を取るのはすごく大事なことだと思ってます。
たとえそれがパフォーマンスであったとしても。
「雨が降るのも、空が青いのも社長の責任」
Q.言い方が悪いかもしれませんが…それでよく持ちましたね。
A.そうだね。
僕は僕なりの覚悟というか、そういうのを見せることが大事だと思っていて。
僕が来た当時は経理的にも色々な問題があって。でも、お金がないから裁判になっても僕は弁護士無しで自分で法廷に出向いてたし、とにかく自分が全部のリスクを負う、責任を取るという態度を見せることしかできなかったかな。
正直、会社の先行きさえ見えなかったから、社員には「みんなは辞めてもいいけれど、やめるなら僕一番最後に一人になる。」、そう伝えていて。実際、ひところ社員が9人まで減ったこともありました。
でも、残った社員は一緒に倒れる覚悟でいてくれたから今があるのかもしれない。
今思うと、僕のやり方にちょっとした期待を持ってくれていたのかもしれないね。
そうだと嬉しいです。
「雨が降るのも、空が青いのも社長の責任と思っていい。」
ずっと、特に会社が厳しい時には何度も言ってきた言葉ですが、僕は今でもそう思ってます。経営者ってそういういうものなんじゃないかな。
→後半につづく
「『通販Ace』リリースまでの道のり」