「専門家」であることの良し悪し
税理士として仕事をしていると、「専門家っていいですね」と言われることがあります。
知識や資格に裏打ちされた、信頼のおけるアドバイザーという意味で、そう捉えてくださっているのだと思います。
もちろん、ありがたいことですし、その期待にはきちんと応えていきたいと日々感じています。
一方で、「専門家」という職業には、ちょっとした落とし穴もあるなと感じることがあります。
それは、ある分野に詳しくなればなるほど、「その分野のことだけを見てしまう視野の狭さ」に陥ってしまうリスクがある、ということです。
お客様が求めているのは専門知識のみではない
たとえば、ある経営者の方から「従業員を一人採用しようと思っているんだけど、気をつけるべきことはありますか?」と聞かれたとします。
このとき、税務に詳しい人であれば、扶養控除や源泉徴収義務といった話をするかもしれません。
社会保険の専門知識を持っている人なら、加入条件や保険料負担についての説明をするでしょう。
どちらもとても大事なポイントですし、専門家として当然チェックしておくべき内容です。
でも、実際の経営の現場では、それだけでは足りないのです。
その人材を「本当に今、採用すべきか?」という判断は、数字だけでは見えてきません。
給与水準や待遇の設定には、業界の慣行だけでなく、その会社がこれからどう成長していきたいのかという戦略的な視点が必要です。
入社後のオンボーディング体制が整っていなければ、せっかく採用しても十分な力を発揮してもらえないかもしれません。
人事評価制度が曖昧なままだと、既存社員との不公平感が生まれる可能性もあります。
つまり、「採用」という一つのテーマをとっても、税務や労務といった個別の分野だけでは完結しない、複雑な判断が求められるのです。
私たちが目指したいもの
私たちが目指しているのは、こうした問いに対して「全体像を見ながら伴走できる存在」になることです。
税務や会計、社会保険、補助金、法務といった専門分野の知識をベースにしながらも、経営者が本当に悩んでいるポイントに届く言葉を届けられるようになりたい。
そのためには、専門知識を常にアップデートし続ける努力と同時に、視野を広げ続ける努力が欠かせないと考えています。
「税理士事務所」という看板を掲げていると、「税務だけやっていればいいのでは?」と思われることもあります。
でも私たちは、単に申告書や試算表を作るだけの事務所でありたいとは思っていません。
むしろ、お客様の事業が前に進むために、「どんな打ち手がありえるか?」を一緒に考える立場でありたいのです。
そのためには、各分野の知識をバラバラに蓄積するだけでなく、それらをどう組み合わせるか、どの順番で使うか、といった「使いこなし力」が必要になります。
そしてもうひとつ、「お客様ごとに違う状況に合わせて、最適な言葉や順序で届ける瞬発力」も重要だと感じています。
専門家である以上、知識を深めることは欠かせません。
でも、知識を深めれば深めるほど、それが「前提」として染みつきやすくもなります。
だからこそ、あえて自分の枠を超えて考えること。
「自分の専門分野だけで完結していないか?」と立ち止まってみること。
それが、専門家としての健全なあり方なのではないかと思うのです。
私たちの事務所では、日々のミーティングでも「経営全体の視点」を意識するようにしています。
一つのテーマについて話していても、必ず「そもそも論」に立ち返ったり、「その背景に何があるのか」を考えたりします。
そういう習慣があるからこそ、たとえ専門領域外のことであっても、「このまま進めて大丈夫かな?」という違和感を持つことができます。
その違和感こそが、お客様の経営の安全網になると信じています。
専門性を磨くことと、視野を広げること。
このふたつを両立させるのは、決して簡単なことではありません。
だからこそ、日々の仕事の中で「この見方だけで大丈夫かな?」と問い続ける習慣を持つことが大切だと思っています。
私たちは、まだまだ発展途上の組織です。
でも、「経営者にとって本当に意味のあるサポートとは何か?」を考え続けるという姿勢は、これからも変わらず持ち続けていきたい。
そして、同じように「知識を活かす力」や「視野の広さ」を大事にしたいと思ってくださる方と、一緒に働けたら嬉しいなと思います。