こんにちは。ぴたカフェ代表の平田です。
前回の記事では、教育事業から保育士の採用支援事業への転換、そして保育学生のコミュニティスペース「ぴたカフェ」の誕生までの歩みをご紹介しました。
今回は、2019年11月のオープンからコロナ禍を経て、現在に至るまでのストーリーをお伝えします。
期待を胸にスタートした、ぴたカフェの船出
2019年11月、私たちは中村学園大学の学園祭に合わせてぴたカフェをオープンしました。
九州最大規模の保育養成校の目の前という最高の立地。
学生が行き交うタイミングを狙って、当日は人気のタピオカミルクティーを準備し、店舗前でチラシを配りながら来客を待ちました。
しかし、現実は甘くありませんでした。学園祭は予想に反して閑散としており、後日学生に聞くと「あまり参加する学生は多くない」とのこと…。初日からつまずいてしまったのです。
それでも、日々の地道なチラシ配りや声かけを続けると、少しずつ変化が起こりました。
オープンして1ヶ月後の12月に入ると状況が一変します。短大1年生の間で「課題をやる場所」として認知され、利用者が一気に増加しました。オープンして2ヶ月で新規利用者は100名を超えました。
「聞いたこともない名前で、看板もなく、無料で入れるなんて怪しい…」
当初の学生たちは、そんな不安そうな顔で来店していました。しかし、友達が友達を呼ぶ形で一気に利用者が増え、私たちが目指していた「保育学生のサードプレイス」としての機能が少しずつ形になっていきました。
暗闇のコロナ禍、それでも止まらなかった挑戦
順調に利用者が増えてきたと思った矢先、2020年1月から新型コロナウイルスの影響が出始めます。
2月、3月までは少しながらも来客はありましたが、4月からはロックダウンの影響で学校自体が閉鎖。6月、7月は少し戻るも8月はまた閉鎖という状況が続きました。
数字で見ると、その厳しさは歴然でした。
2019年11月から2020年1月までの3ヶ月間の来客数が273名だったのに対し、2020年4月から2021年3月までの1年間の来客数はわずか297名。
リアルな接点を通じた就職支援を実現するには程遠い状況でした。 正直、この時期は本当に不安でした。
学生が来ない日々が続き、このままでは事業が続けられないのではないかと何度も考えました。しかし、「来てくれる学生が一人でもいる限り、私たちにできることを精一杯やろう」と決めていました。
コロナ禍でも諦めない――オンライン参入と1.5万フォロワーへの道のり
このような厳しい環境でも、私たちは止まりませんでした。
他社に先駆けてライブでのオンライン説明会を実施することにしたのです。
2020年6月に第1回目を開催し、9月までに延べ8回実施しました。初めての取り組みで手探り状態でしたが、画面越しでも学生たちの真剣な表情を見ることができ、私たちも希望を見出していました。
同時に、SNSでの情報発信も強化しました。
幼児教室レクルンで培ったノウハウを活かし、エデュトイの紹介から保育制作の紹介まで積極的に発信。地道な投稿を続けた結果、1年弱でフォロワー数を最大1.5万人まで増やすことができました。
涙から始まったHOCARI JOB――失敗が成功の種になるまで
そんな中で最も印象に残っているのは、初回の「HOCARI JOB」でのできごとです。
集客に苦戦し、出展していただいた保育施設の方と運営学生スタッフとのやりとりでトラブルが発生。その時、学生が泣いてしまったことが今でも心に残っています。
しかし翌年度のHOCARI JOBでは、状況が大きく変わりました。集客もうまくいき、何より前年度泣いてしまった学生が、終了後に見せた充実感溢れる笑顔を見た時、この活動の意義を深く実感しました。
人は成長するのだと、改めて感じた瞬間でした。
できることはすべて実践しましたが、やはり当初の想定ほど学生の就職活動を活性化することはできず、ぴたカフェの運営を支援していただいているサポーター園になかなか十分な貢献ができていませんでした。
それでも、本当にありがたいことに、すぐに結果が出なくてもすべてのサポーター園が翌年もぴたカフェを支援してくださいました。
「今すぐ結果が出なくても、きっと意味のある活動になる」と信じて支えてくださったのです。そのおかげで、コロナ禍で非常に厳しい1年目を乗り越え、翌年度も継続することができました。
苦闘の先に拓けた、ぴたカフェの未来
コロナ禍で蒔いた挑戦の種は、やがて大きな成果となって実を結び始めます。
2021年の夏には保育学生と企画・運営する合同就職説明会「HOCARI JOB」を本格スタート。2023年4月からは学校も正常に戻り、来客数が飛躍的に増加しました。
2023年度は約1,000名、2024年度は約2,000名の来客があり、2025年度は2,500名を目標に、すでに昨年度を上回るペースで推移しています。
何より嬉しかったのは、コロナ禍で支援してくださった保育施設の方々から届いた声でした。
「学生の質が本当に良くなった」「ぴたカフェ経由の学生は定着率が高い」「質問の質が違う。ちゃんと保育施設に対して興味を持っているからこそできる質問ばかり」 このような評価をいただけるようになったのです。
コロナ禍で支えてくださった方々に、ようやく恩返しができ始めたと感じた瞬間でした。
支援していただけるサポーター園も着実に増えています。オープン当初は7法人でしたが、現在は約40法人まで支援の輪が拡大しました。
支援内容も従来のインターンシップだけでなく、店舗内での保育施設とのイベント開催や、首都圏への就活を考えている学生へのサポートなど、多岐にわたって充実させています。
現在のぴたカフェで最も誇りに思っていることは、協力してくれる学生メンバーの熱意と行動力です。
私たちの期待をはるかに上回る結果を出してくれ、本当に日々感動しています。
保育業界の常識を打ち破る、私たちの挑戦
この経験を通じて学んだ最も重要なことは、学生と保育施設双方との「リアルな対話」の大切さです。
両者の考え方や希望にはギャップがあり、そのギャップを埋めるために私たちが存在する。そのために日々の店舗でのコミュニケーションが不可欠だと実感しています。
保育業界の特性として、リアルでの就職活動がより重要だと感じています。
オンラインでの情報発信や説明会も重要ですが、学生と保育施設が実際に顔を合わせ、お互いの雰囲気や価値観を感じ取る機会が不可欠です。
現在は10名強の学生メンバーと日々打ち合わせや1on1を重ねながらぴたカフェの活動を盛り上げています。
学生との1on1は社員はもちろん、私自身も実施し、日々学生と向き合いながらより良い就職支援を模索しています。
今後は、当初から解決したかった保育士のミスマッチ解消に加え、保育士の業務負担軽減という新たな課題にも挑戦していきます。
おわりに――新しい常識を創る仲間へ
この6回の連載を通じてお伝えしてきたのは、従来の「求人サイトと合同説明会」中心の採用支援から、「学生の日常に寄り添うサードプレイス」での支援へという、保育業界に新しい常識を創る挑戦でした。
銀行員からスタートし、幼児教室、そして保育士採用支援へ。
一見バラバラに見える経験が、すべて今の活動につながっています。コロナ禍の苦闘も、オンライン化への対応も、すべてが現在のぴたカフェを形づくる貴重な財産となりました。
未来を共に創る仲間へ
私たちの挑戦は、保育業界に他業界の視点や手法を持ち込むことでもあります。だからこそ、保育業界の経験がない方にこそ、新しい可能性を見出していただきたいと考えています。
これまでのキャリアで培った経験を、社会課題の解決に活かしたい。
現場の声に耳を傾けながら、本当に意味のあるサービスを創りたい。
そんな想いをお持ちの方がいらっしゃいましたら、まずは気軽にお話しする機会を設けさせていただきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。この連載が、従来の枠にとらわれない新しい挑戦への一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。