BAKERUグループのミスティブは、“物語の世界に入り込んだかのような没入感“を通じて、物語を体感できる新感覚の体験型コンテンツを提供しています。
マーダーミステリーやトークアトラクションが楽しめる専門スペース「Rabbithole」は、都内に9スペース、大阪に2スペース、合計11スペースを展開。これまで多くのお客様に、非日常的な物語体験をお届けしてきました。
近年では、番組やイベントにおける企画・構成、ディレクション、現場演出などを手がける機会も増えており、ラジオ局と連携して制作したコラボシナリオ「ニッポン放送殺人事件」などの実績もあります。
今回は、そうしたコンテンツ作りの中でも、京都太秦映画村で手がけた没入アトラクションのプロジェクトの裏側を深掘りするべく、ミスティブ代表取締役であり、これらのコンテンツで演出を担当した酒井りゅうのすけ氏にお話を伺いました。
ミスティブが京都太秦映画村で手がけた没入アトラクション
・京都炎上
・魎魔伝承-あやしやま神隠し
・ムジナ屋敷-鏡、小泉八雲にうつりて
インタビュイー/ 酒井りゅうのすけ氏
プロフィール:1976年兵庫県生まれ。2014年に株式会社九月の聖地を設立。テーマパークアトラクションや2.5次元舞台等のクリエイティブ部としての業務を行いながら、ボードゲームカフェ“JELLY JELLY CAFE”の運営や演劇ユニット“聖地ポーカーズ“のプロデュースも行う。ポーカー・テキサスホールデムのトーナメントディレクターとして全日本大会等にも従事し、個人としてもポーカーの競技性を高める国際試合“IFMPアジア大会“に日本代表選手として出場。2019年10月に株式会社ミスティブの代表取締役に就任。2020年に株式会社BAKERUに株式売却。京都太秦映画村のコンテンツでは演出を担当。
(https://www.wantedly.com/companies/bakeru/post_articles/458039)
目次
- 新たな物語体験への挑戦
- 200人を巻き込む「イマーシブエクスペリエンス」の創造
- 太秦の地で花開いた没入アトラクション
- ミスティブが追求する「体験」の核心
- テーマパークにおけるストーリーアトラクションの可能性
- 「場づくり」と「物語」
- 没入体験がもたらす「人生を豊かにするシミュレーター」
- 東京スモールワールズで新たな挑戦
新たな物語体験への挑戦
――京都太秦映画村とのプロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか?
酒井氏:
もともと、株式会社闇の担当者様が太秦映画村をフィールドとして謎解きなどのコンテンツを手がけていらっしゃったんです。そこから、もう少し物語に寄せた体験づくりができないか、というお話があり、ご紹介いただいたのがきっかけです。
当初、先方からは「太秦のセットや空間でマーダーミステリーができないか?」というご相談でした。ただ、参加者は200名規模という壮大な構想。正直その規模では私たちがRabbitholeで提供しているような濃密なマーダーミステリー体験をその人数で実現するのは難しいと感じました。そこで、「マーダーミステリー以外の体験で実施できないか?」と逆提案させていただいたのが始まりです。
200人を巻き込む「イマーシブエクスペリエンス」の創造
――大人数向けのコンテンツ開発を新たにされたのですね。具体的にどのようなものだったのでしょう?
酒井氏:
2019年頃に海外の事例などを視察する中で、「イマーシブシアター」という空間全体で物語を体験する形式は認識していました。しかし、このプロジェクトで使える俳優の数は限られています。例えば、200名の参加者に対して動ける役者が6名だとすると、普通にやれば1人の俳優が30名を相手にすることになり、これは現実的ではありません。
そこで社内で議論を重ね、従来のイマーシブシアターとは少し異なるアプローチを考えました。イマーシブシアターは、基本的には「鑑賞者」であり、どこから見てもいい自由があるものの、物語に直接介入しないのが基本です。しかし、最近ではそこに「介入性」が導入される傾向があり、参加者も物語の一部である「イマーシブエクスペリエンス」のような形が好まれるようになってきていると感じていました。
そこで私たちは、参加者自身が登場人物の一人として役割を持ち、物語の中でミッションやクエストをこなすことで物語が動いていくという基本構造を提案しました。参加者が何かをすることで、他の参加者にも影響を与え、少ない俳優だけでなく、参加者同士が互いに作用しあって物語を紡いでいく。この形であれば、大人数でも深い没入感を提供できると考えました。
シナリオは専門の作家さんと二人三脚で作り上げ、先方からは「お任せします」というスタンスで、ある意味、決め打ち状態で納品させていただきました。
太秦の地で花開いた没入アトラクション
――太秦映画村では、これまでに3つの没入アトラクションを手がけられていますね。それぞれの作品でどのような工夫をされたのでしょうか?
酒井氏:
まず大前提として、太秦映画村の素晴らしいセットや雰囲気を最大限に活かすことを考えました。ですから、突然宇宙船や剣と魔法が登場するファンタジーといった物語ではなく、その風景から自然に読み取れる時代設定の物語をつくりあげていった形です。
例えば1作目の『京都炎上』では、入口で参加者に役割を与える形を取りましたが、2作目の『魎魔伝承』では、プレショー自体を体験の入口とし、参加者が儀式的な物語の入り口に巻き込まれることで、より「自分ごと」として物語に入り込み、主体的に探索しなければならない状況を作り出しました。
そして3作目『ムジナ屋敷-鏡、小泉八雲にうつりて』では、場所と時間を司る「妖怪」をテーマにしました。参加者たちが夢に取り込まれていき、それぞれが見るべき夢が変わっていくという仕掛けです。
ミスティブが追求する「体験」の核心
――ミスティブとして、どのような体験の提供を大事にされていますか?
酒井氏:
参加者が渡されたクエストやタスクをクリアすることで、物語が変化していく瞬間を実感してもらうことです。デジタルゲーム的に言えば、フラグメントを回収することでエピソードが進む、といった感覚に近いかもしれません。「自分が何かをしたから物語が変わった」「この世界はこうなっているのではないか?」と理解した瞬間に、参加者の皆さんが盛り上がるんです。
私たちの作品では、最終的にエンディングが4つに分岐するようなものもあります。慣れてくると分岐のトリガーを探したり、他のエンディングも見てみたいとリピートしてくださったりします。参加者が物語の全貌を知りたがる傾向があるのは、面白い発見でした。
――提供したい体験の本質とは何でしょうか?
酒井氏:
究極的には、演劇の延長線上にあると理解しています。ただ、従来の演劇のように物語側が一方的に1本のシナリオを見せるのではなく、参加者の決断によって世界を動かした体験や、物語の変化そのものを味わってもらいたいと考えています。
これはマーダーミステリーとも異なる体験です。舞台演出のノウハウも活かしますし、お客様の数も全く違います。シナリオ構築の段階では、分岐を作るか作らないか、どんなコンセプトの物語にするかといった議論の部分でマーダーミステリーと近い感覚もありますが、そこから役者さんに合わせてレクリエーション要素を加えていく部分は、完全に違う感覚ですね。
テーマパークにおけるストーリーアトラクションの可能性
――太秦映画村との取り組みは3回目実施されました。手応えはいかがですか?
酒井氏:
3回も継続してやらせていただけていること自体が、この取り組みに対する評価だと感じています。テーマパークにアトラクションを作るというと、ジェットコースターのようなライド系や、大規模なお化け屋敷を想像しがちですが、私たちの「ストーリーアトラクション」は、ある意味もっとライトに、期間限定でも実施できます。
物理的な大規模工事が難しい場所でも、フィールドさえあれば物語と体験を創り出せるのが、私たちの取り組みの最大の魅力です。役者さんのパワーを最大限に活かせるという側面も大きいですね。
「場づくり」と「物語」
――ミスティブはBAKERUグループの一員でもありますが、BAKERUが掲げる「場づくり」と、ミスティブさんの「物語を仕掛ける」という点はどのように繋がっていますか?
酒井氏:
BAKERUの各事業部が「何を仕掛けるか」という点では、ミスティブは「物語を仕掛けている」のだと思っています。物語には、高い付加価値を生み出す力があります。極端な話、飲食がなくても、物語だけで200名もの人を集められるような引力、そのパワーを出せるのが魅力です。
ただ、ミスティブとしては「場に仕掛けたい」というよりも「物語を届けたい」という想いが強いです。その届け方が従来のものではなく、体験を伴った状態で、「あなたの物語」として持ち帰ってもらうことを目指しています。
没入体験がもたらす「人生を豊かにするシミュレーター」
――「自分ごと」の物語体験は、参加者に何をもたらすとお考えですか?
酒井氏:
これは持論ですが、自分ごととして何かを体験し、それが翌日まで記憶として定着した場合、その体験はその人の人生と同義になると考えています。例えば、誰かにインタビューしたという記憶と、物語の中で勇者としてドラゴンを倒したという体験。翌日以降、ドラゴンを倒した事実が虚構であることを証明するのは難しい。ですがドラゴンを討伐するために仲間を犠牲にするような重い決断をした場合、それは人生における実際の決断と同等の重みを持つ経験になり得ます。つまり、人生の経験値が爆速で稼げるんです。
恋愛や、パートナーを失うといった体験も、物語の中であれば体験が可能になります。これは、人生の周回数を増やすことができる作業とも言えるかもしれません。また、実際にリアルでそうした葛藤に出会う前に、物語の中で予習していることになるとも思うんです。ですから、現実で同様の状況に直面したときに、一歩早く対応できるかもしれないですよね。
例えば、物語の中で何かに対して強く怒ってしまった、感情が大きく動いたという体験をしたとします。そこで「自分はこういうことでこんなに怒るんだ」「なぜ怒ったんだろう」と内省することで、現実で同じような問題に直面したときに、その経験が活かせるわけです。ある意味、「人生2週目に突入できる」ような、シミュレーターとしての役割を果たせるのではないかと考えています。
東京スモールワールズで新たな挑戦
――今後の展開についてもお聞かせください。
酒井氏:
2025年7月20日から、東京スモールワールズと共同で、新作の没入アトラクション『選ぶ軌跡 orbit C.C』をスタートします。夜のスモールワールズを舞台に、役者と共に物語を紡ぐ没入アトラクションです。こちらもぜひ体験していただきたいです。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
ミスティブが提供する没入アトラクションは、単なるエンターテインメントに留まらず、参加者自身の内面や人生観にまで影響を与える可能性を秘めているのかも知れません。京都太秦映画村での成功を礎に、彼らが次にどんな「物語」を仕掛け、私たちをどんな世界に誘ってくれるのか、今後の展開もぜひお見逃しなく!