従業員数500人を突破し、新たな成長フェーズを迎えたクロスマイル。「500人の壁」を迎え、組織拡大への課題意識が募る中、ヒントを求め、サイバーエージェント常務執行役員CHOの曽山哲人氏にお話しを伺いました。
■インタビュアー
クロスマイル株式会社 執行役員COO
渡邉 悠暉さん
エンジャパンにてHR TechのSaaS事業開発、SMS創業者運営『Reapra』出資先スタートアップや人材メガベンチャーにて、複数の事業を立上げ。2019年よりCo-Founder COOとして事業•組織を統括。国際基督教大学卒、静岡県出身。
■インタビュイー
サイバーエージェント常務執行役員CHO
曽山 哲人さん
上智大学文学部英文学科卒。1999年株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は株式会社サイバーエージェントの常務執行役員CHOとして、採用・育成・活性化・適材適所・企業文化など人事全般を統括。著書に「クリエイティブ人事」「強みを活かす」など。
目次
500人の壁の原因とは? ~縦割りによるコミュニケーションコスト増~
施策1:小集団経営と「私たち」の共通目標設定
施策2:全ての土台となる縦横の「関係性の質」向上
施策3:「先月・今月・中長期」視点で個人のキャリア不満を解消
500人の壁の原因とは? ~縦割りによるコミュニケーションコスト増~
渡邉さん:本日はよろしくお願いいたします。
まさに今クロスマイルが社員数500人を突破し、まずは1,000人を目指している時期でして...すでにその「500人の壁」を突破されている、サイバーエージェントの曽山さんにお話しを伺います。
曽山さん:よろしくお願いします。
渡邉さん:よく企業では「〇〇人の壁」という表現がありますよね。ネットの記事などでも「30人の壁、50人の壁、100人の壁」といった壁論はよく見かけますが、300人や500人になってくると、情報があまりないなと思っています。
当時サイバーエージェントが弊社と同規模の、500人のところから、1,000人規模に成長した時期に、曽山さんが感じられた壁や課題感はどのようなものでしたか?ぜひ当時の状況を教えてください。
曽山さん: そうですね。500人規模当時のサイバーエージェントは、離職率が20%を超えていたんです。あまり良くない状況でしたね。
ただ、人事を強化する意味では様々な制度が確立し、2000年代前半の離職率30%が3年連続続いていた時期からは数値が改善しているタイミングでもありました。
そこから、社員同士の関係性を強化し、フォローすべきところをフォローするよう動き出した時期でもあります。
当時の経験を振り返って思うのは、基本的には、400〜500人の壁と、500人から1,000人の壁で、構造はあまり変わりません。シンプルに「縦割り」とそれによる「コミュニケーションコスト増」により、意思決定のスピードが遅くなることにあると感じています。
渡邉さん:なるほど。サイバーエージェントでは、その壁をどうやって越えてきたかお話しを伺わせてください。
施策1:小集団経営と「私たち」の共通目標設定
曽山さん:500人の壁を越えるために、まず大事にしていたのが「小集団経営」と「共通目標の設定」です。
渡邉さん:なるほど、小集団経営と共通目標ですか。
曽山さん: 「小集団経営」とは、名前の通り会社を事業部ごとに分けて小さい集団に分けて意思決定を任せるということです。その集団ごとに裁量をとにかく渡して、その部門で決めてもらうということを意識しています。
各小集団のトップが経営陣とシンクロしていれば、基本的にバリューなどは尊重した意思決定をしてくれます。結局、伝えたいメッセージは全社告知をするよりも、幹部10人から各組織に伝達した方が、その部署や事業の内容に合わせて、かつ身近な人からの言葉なため、伝わりやすいです。
渡邉さん: 情報伝達の順序も、経営陣からマネージャー、各マネージャーからメンバーに伝えるようなイメージですか。
曽山さん: そうですね。意味合いが正確に伝わるように、基本的には直属の上司から話すのが一番です。役員や部長からではなく、直属のマネージャーから伝えるのが理想的でしょう。
一方で、認識のズレを感じたときや、本当に重要なメッセージを発信するときは、経営トップがブログや動画等の媒体を通じて直接全体に発信することも有効です。私や、代表の藤田もブログやSNSで積極的に発信しています。
渡邉さん:なるほど、両面からアプローチすることが大事なんですね。
渡邉さん: もう一つの「共通目標の設定」とはどのようなものですか?
曽山さん:社内の全部門で「共通目標を設定」し、その達成のために動くということです
「500人の壁」の一番の原因は、全体の共通目標がなく、各部門ごとに異なる目標を追いかけていて、コミュニケーションコストが増え意思決定が鈍化することにあります。
渡邉さん:共通目標の設定が大事というのは、ある種当たり前のように聞こえてしまうのですが…。
曽山さん:ここでいう「共通目標」はただ設定されているだけの目標ではありません。大事なのは、設定したものが「私たちの共通目標」になっているかどうかです。
実は、多くの会社で当たり前だと思われている共通目標は、各部門の「売上目標」だったり、その目標が決められた背景を各トップが十分に理解していないことが多いんです。
だからこそ各部門のトップたちが集まって議論を行い、その目標の背景を深く理解した上で「私たちの」目標として共通目標を決定することが重要なんです。
渡邉さん: そうすれば、ただの数字の羅列ではなく、全員が当事者意識を持った本当の共通目標になるんですね。
曽山さん: そうです。当時のサイバーエージェントでは、役員全員が「私たちの」共通目標を持っており、その目標に基づいて、会社全体の経営資源の配分をどこにすべきか、という議論をしていたので、壁を越えることができました。
施策2:全ての土台となる縦横の「関係性の質」向上
曽山さん:2つめの施策、は関係性の質を向上させることです。
人事制度は単一で完結するものではなく、いくつもの要素が絡み合って、全体的に離職率が改善し組織として向上していくものです。その中でも「関係性の質」がベースとして良くないと、何をしてもうまくいきません。
離職率が20%だった当時は、同僚や上司との関係性があまり構築されておらず、それが原因で離職に繋がっている状況でした。そこで関係性の質を上げるような取り組みを複数実施していました。
渡邉さん:具体的にどのような取り組みをしていましたか。
曽山さん:2003年以降に始めた「懇親会支援制度」がその一つです。
月内に部署で飲み会に行く場合、毎月1回1人5,000円を補助するものです。翌月への持ち越しができないため、月末の達成祝いの後にみんなで飲みに行くという文化が生まれました。
また同時期に部活動の支援も始めています。社長の藤田が麻雀好きなので、今では麻雀部が一番盛り上がっていて、200名ほど部員がいると思います。
渡邉さん: 麻雀部には、リーグ戦まであると伺いました。面白いですね!
曽山さん: そうなんですよ。そういった交流でコミュニケーションの回数が増えたり、仕事以外の先輩が増えることで悩み相談ができる等で、関係性の質が底上げされました。他にも多面的な施策を打ちましたが、全て共通点は「関係性の質を上げる」取り組みだったことです。
渡邉さん: なるほど。ちなみに、役員とメンバー間の「関係性の質」向上の取り組みはありましたか? 組織規模が大きくなり、創業当時よりも社員から私に話しかけにくいのではないか、ということに悩んでいまして...。
曽山さん: まず、役員など肩書を持っている人とメンバーは、距離感が生まれやすいという前提で向き合うことが大事だと思っています。
その上で、私が実践しているのは「自ら社員側に降りていく」コミュニケーションです。具体的には、 エレベーターで一緒になった社員に声をかけたり、ランチに誘ったりしています。またランチの様子をSNSに頻繁に上げて「ランチと飲みが好きな人」という、メンバーが話しかけやすいオープンな像を発信するよう努めています。
渡邉さん: 役員側からメンバーに近づくことが大事なんですね。
曽山さん: そうですね。いくつか試してみましたが、やはり社員側からは話しかけづらいため「役員側が降りることは正解」だと感じています。
施策3:「先月・今月・中長期」視点で個人のキャリア不満を解消
渡邉さん:少し話が戻りますが、当時のサイバーエージェントは離職率が20%を超えていたとのことでしたね。やはり離職率が上がってしまうフェーズというのはベンチャー企業にはあるのかなと思いますが、当時はどのように考えられていましたか?
曽山さん: そうですね。急成長時に離職を恐れてはいけないというのが私の考え方です。
離職率の数字以上に重要なのは、活躍する社員が見放されていないかということです。ここを抑えなければいけません。
全社の離職率以上に、特に活躍している人材がちゃんと厚遇されているか、彼らがより活躍できる良い環境を提供できているかが大切です。これが、会社の基礎の安定性向上になり、500人の壁突破にも繋がります。
渡邉さん: なるほど。急成長時の離職では優秀層をしっかり見ることが大事なんですね。そのときの評価については何か工夫されていましたか?
曽山さん:マネージャーとメンバーの面談で「先月、今月、中長期」というフレームワークで話すことを推奨していました。
- 先月:先月の成果の良し悪しの振り返り
- 今月:先月を踏まえた、今月の目標・アクション計画の設定
- 中長期:中期のキャリア観・やりたいことの変化があるか
「先月」「今月」は月次で、「中長期」については2~3カ月で話しています。多くのマネージャーが「1on1で何を話せばいいか分からない」と言いますが、この「先月、今月、中長期」というフレームワークがあれば、迷うことなく質の高い面談ができるようになります。
渡邉さん:シンプルな考えで、現場にも取り入れやすそうですね。どういった背景から、これを取り入れるようになったのですか。
曽山さん:評価不満の高さが離職率の高さにも繋がっていたのが、当時の経営課題だったためです。
半年評価だとして、半年に1回しかメンバーとマネージャーで成果の話をせず、自分の頑張りが反映されていないと感じる評価が下りたら、現場の社員の不満がたまってしまうのは当然のことです。
渡邉さん:そうですね。
曽山さん:そのため面談内容を改善し、月次で振り返りを行い、良い点も課題点も、メンバーとマネージャーの間で明確に合意するこのフォーマットを取り入れました。これをしっかり行えば、評価に納得感があるため、評価不満は基本的に起きないはずです。
また定期的に「中長期」のキャリア観を尋ねることで、「キャリアが停滞している」という閉塞感をなくすことにも繋がります。マネージャーから上の層に伝えておくことで、思わぬチャンスに繋がる可能性もありますし、継続的に取り入れていきたいですね。
渡邉さん:大変参考になりました。本日はお話、ありがとうございました!
伺った内容を元に、経営課題に直結した施策に真摯に取り組んで、組織を拡大していきます。
お話しできることを楽しみにしています!
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