2024年2月、山本料理長は新宿の日本料理店「分とく山新宿伊勢丹店」での11年にわたるキャリアを経て、五島リトリートray by 温故知新(以下、五島リトリートray)へと舞台を移しました。それから約1年が経ち、新たな環境でどのように挑戦を続けてきたのか。その成果と課題、そして次なる展望についてお話を伺いました。
初めに、山本料理長の普段の1日の仕事内容をお伺いしてもよろしいでしょうか。
毎朝、魚市場に通っています。電話で注文することもできるのですが、僕は五島の魚が季節によってどう変化するか、というのを知らずに五島に来たので、1年間は毎日通うと決めています。大体8時頃に魚が出揃うのでそれまで市場で魚を見て、その後は一度帰宅して身支度を整えます。ホテルへ野菜の配達があるのが週に3回だけなので、足りないものを買い足すために農協やスーパーを回り、10時半頃に調理場に入ります。
朝食の営業は他のスタッフに任せているので、出勤してからは次の日の朝食やその日の夜の仕込みを中心に進めます。休憩を挟んで午後3時半には調理場に戻って夜の営業準備をし、来店されたお客様にご夕食を提供する、というのが1日の流れですね。
生産者の方との距離が近くなることは島で働く大きなメリットだと思っています。
直接話をすることで、「今はこういう野菜がいいよ」とか、「魚はこれからこんなのが上がってくるよ」と教えてもらえたり、時には「 ホテルでどういう野菜を作ってほしい?」と聞いてもらえることもありました。漁師さんや農家さんと直接お話ができて、時には相談をさせていただく。そういった関わりはやはり都会では得られない経験だと思います。
島内の農園を視察する山本料理長
前職では割烹での調理を経験されていますが、割烹とホテルでの違いについてお教えください。
ホテルの食事と割烹での食事は、違う部分が多いですね。カウンターの割烹や料理屋さんだと、作りたてのものをお客さんの目の前でお出ししたり、熱いものが熱い、冷たいものが冷たい、そういう状態でお出しするというのが基本です。
ホテルや宿の料理では、事前に料理をテーブルに準備しておく形というのもありますが、僕はそういう宿料理をしたくなくて。一品一品、割烹と同じような作り方をすることによって、お客さんが料理を目の前にした時に「私のために料理を作ってくれている」と伝わると思っています。
ホテルでは料理に限らず学べるものが多く、そこもホテルで働く魅力だと思っています。
僕がこのホテルに来た理由もやはりそこにありますね。僕はゆくゆくはお客さんが泊まることができるような料理屋を作りたいという思いもあったので、料理に限らず学べることの幅が多いと考えホテル業界を選びました。
例えば会席で提供しているデザートをホテルのショップで販売できないか、という話もいただいたことがあって。商品開発の他に、例えばルームサービスのお食事など。様々な場面で料理を提供できるのはホテルの特性なので、この他にもいろんな場面で料理を活かせる場面が見つけられると思います。
また、温故知新のホテルの特徴として、変わったところにあるホテルが多いんですよね。そうすると、「そこにしかないもの」というのが絶対あります。各地域の食材や郷土料理を取り上げて、温故知新の施設のコラボレーションをテーマにしたイベントをしてみるとか。そういった「地域ならでは」の料理をしていくというのも面白そうだと思います。
五島リトリートrayで働くことでどういったスキルや経験が得られると思いますか。
まずは五島リトリートrayでの調理の特徴として、食材に触れられる時間がすごく多いです。
現在の調理場は、正社員が4人、派遣の方が2人の6人体制です。新しい方が入ってきた時に、洗い物だけやってもらうとか、何もやらせないということは無く、早い段階から色々任せてやってもらうことが多いです。食材に触れ合える時間が長くなることで、調理の技術は自ずと上がってくると思います。
また、1人が担当できる仕事の種類が多い、というのが少人数で調理をするメリットだと思います。年齢や役職が高い人に限らず、例えば2、30人いる調理場だったらやらせてもらえないような仕事もどんどん任せたいと思っています。大きい調理場だとなかなかやらせてもらえないような仕事にもチャレンジできると思うので、そこが少人数で調理をするメリットかなと思います。
料理人である前に「社会人として、スタッフを成長させる」ということを1番大事にしています。
そこに関しては僕もまだ成長途中ではあるんですが、料理人である前に一社会人だと思っています。僕が生まれる前の話ですが、かつて料理人の格がすごく低かった時代というのがあり、そんな時代の名残というのは今でも残っています。そういった流れを、前に師事していた料理長は払拭しようとしていました。
人間として、料理人である前に1人の社会人として、礼儀や人との付き合い方など、そういう事が1番大事だという風に教わってきました。なので料理の技術のみ僕から得るというより、人として成長したことでスタッフが評価されたら、僕にとってはすごく嬉しいですね。
そういう考えに至ったきっかけはあったんでしょうか。
きっかけというか、前職の料理長の指導方針から自身の考えもそこに至った、という形です。
例えば常連のお客様と、休みの日にご飯を食べに行く時に、食事が終わってごちそう様でしたという挨拶をするのは当然で。翌日に、「昨日はありがとうございました」ともう一度電話するよう教わりました。さらに昼間では意味がなく、朝一番に電話して昨日のお礼を伝えるように言われていました。お礼の電話をしたか聞かれて、してないと言ったらものすごく怒られたこともあります。本当にそういう面で厳しい料理長でした。
また他には、「100パーセントのおもてなしをするんじゃなくて、120パーセントのおもてなしをしなさい」と言われたこともありました。例えば五島に自分の知人が来た時に、車で迎えに行って島内を案内する、相手が帰る際には空港まで相手を見送りに行く、というのは100パーセントのおもてなし。車で案内して、空港に行って、見送りをするだけでなく、例えば家族や、お子様が家で待っているなら、その方々に対してもお土産を買って相手に渡す、というのが120パーセントのおもてなし。それができて、本当の社会人だと教えていただきました。
だから何か特別なきっかけがあってこんな考えになったというよりは、人との付き合い方に対して教えてもらい、そういった生き方を今まで続けてきた、という感覚です。
山本料理長がチームを引っ張る中で特に大事にしていることはありますか。
「みんなが同じ方向を向く」ことですね。それがあってのチームだと思っています。みんなが「ホテルを良くしよう」という気持ちを持っているからこそ、議論や話し合いが生まれる。そういうことは必要だし、とても大切なことだと思います。
先日okcs dayという年に一度の社内イベントがあって、その時に五島のスタッフ全員に向けて話した内容なのですが、ホテルや宿って、料理が美味しいだけじゃ評価されないと思うんですよ。料理が美味しくて、スパセラピストが丁寧に施術をして、フロントがしっかり対応して、ハウスキーピングが部屋を綺麗に整えてくれる。全部門のスタッフがそれぞれ頑張っているからこそ、ホテルとして素晴らしい評価をもらえます。だからこそ「全員で」良いホテルを作っていこうという意識がすごく大事だと思っています。
五島リトリートrayをどんな人におすすめしますか。またどんな方に来てほしいですか。
スタッフのうち2名が東京から来てる方々なんですが、五島に来て良かったと言うのは、やはりこの五島ののんびりとした環境です。そういった過ごし方が好きな人にはすごく合っていると思います。
それに加えて1つだけ言うとするならば、僕と同じような気持ちで、「このホテルを本当に良くしたい」という気持ちがある人と一緒に働きたいと思っています。技術は学ぶ意欲があれば自ずとついてくるので、同じ目標に同じ熱量を持って進んで行ける方が入ってくれると嬉しいです。
温故知新では、新たな仲間を募集しています。
- イベント企画に興味がある方
- ホテル運営に携わりたい方
- ブランディングや広報に関心のある方
- 地域創生に貢献したい方
など、幅広い分野でのキャリアにチャレンジできます。
自分の持つスキルと情熱を活かして、ホテル業界で新しい価値を創造したいと考えている方は、ぜひ温故知新へご応募ください。皆様のご応募をお待ちしています。
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