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SaaS企業の管理会計って?SaaSの収益予測モデルをさくっと作ってみる(テンプレ付)

こんにちは!Wantedly CFOの吉田です。

前回の記事では、Wantedlyの経営管理のシステムやフローがどうなっているのかお伝えしました。弊社の現状をまとめただけではあったのですが、多数の反響を頂き驚きました。管理系も(出せる範囲で)どんどんオープンにして、業界内でも知見を共有していく文化をつくっていきたいですね!

Wantedlyの経営管理のシステム&フローを図解してみた。 | Wantedly Blog
こんにちは!Wantedly CFOの吉田です。前回の記事では、Wantedlyの経営管理において大事にしているコンセプトをお伝えしました。続いて、経営管理のシステムやフローがどうなっているのか...
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/131212

SaaS企業としてのWantedly

さて、今回はSaaSについてのお話です。弊社サービスはメディア的な側面もあるのであまりSaaSのイメージはないかもしれませんが、ビジネスモデルは完全にSaaSです。

英語版のIR資料(営業収益の推移)でももはやそのままSubscriptionと書いています。

そして、何よりSaaSが大好きなんですよね!一般に言われるSaaSの良さや時代のニーズへの適合はもちろんですが、収益・継続利用の積み上がりに応じて収益性も高まっていく美しいビジネスモデルや数値体系の奥深さに魅力を感じています。

私は、株式アナリスト時代に電子部品業界、機械業界と製造業を見てきました。そのため、弊社に入って売上高の予測作成(モデリング)を初めて行った際に、だいぶ勝手が違うことに驚いたものです。変数の効き方や、実際は確定してる収益を後ろに倒していくとこうなるのか!とか独特なんですよね。

とはいえ、自社でSaaSサービスを運営して予算を作っている方や投資家の方でないとそんなに意識しない点かと思います。この記事では、どういった組み立てでSaaSとしての売上高のモデリングを行うか、弊社の例も引き合いに出しつつ、お伝えしたいと思います!

まずは基本をさらっと

SaaSそのものの解説はいろんなところで上がっているのでググって頂くとして、基本的な収益の変動要素をまずまとめます。

「MRR」(Monthly Recurring Revenue)は、月ごとに繰り返し得られる収益という意味で「月間経常収益」と訳されていたりします。要は、SaaSにおけるサブスクリプション型課金の月次収益ですね。

  • New MRR:新たに獲得した契約による増加分
  • Churned MRR:解約された契約による減少分
  • Expansion MRR:既存顧客へのアップセルやクロスセル等による増加分

図の通り、前月のMRRに対して、New MRRが乗ってきて、一方Churned MRRの分が減り、アップセルやクロスセルがあればExpansion MRRが乗って、当月のMRRが算出されるというわけです。

年間の収益予測も端的に言えばこれを積み重ねていくだけです。ただ、ばくっとNew MRRと言ってもよく分からないので、弊社の場合は数量ベースの数値と単価に分解して考えています。

それを図にするとこのようになります。ちなみに、弊社のビジネスサイドでは、インサイドセールスやカスタマーサクセスなどこれらの変数(or 代替指標)をKPIとして追うチームに分かれています。

モデリングしてみる

それでは収益予測のモデルを考えてみましょう。サンプルとしてモデルのテンプレートを作りつつ解説してみます。

弊社の場合、複数のプラン&複数の契約期間があるのでプランごと・契約期間ごとに上記の積み上げを行って合算していくのですが、ここでは複雑になりすぎないように「プランは1つで単月契約と年間契約の2パターンがあるだけ」というケースでつくってみたいと思います。

新規契約・New MRR

新規契約に至るまでには、一般的には下記のプロセスがあるかと思います。弊社も社内での呼び方などそのままではないものの、これに類するプロセスをマーケティングやインサイドセールスのチームで作り込んでいます。

集客 → リード獲得 → ナーチャリング → 案件化 → 成約 

私も今回サンプルのモデルを作るうえで「リードを新規と既存に分けて、それぞれ成約率の前提を置いて…」とやっていたのですが、細かい変数が増えるだけで主題からどんどん離れていく…。

ということで、ばっさり割愛して、新規契約数の伸び率を設定することにしました。かなり雑なことは認めます。

シート上では、こんなかんじですね。新規契約社数のうち、年間契約の割合もざくっと前提を置いています。で、新規契約社数に単価を掛けてNew MRRを算出(単価はこのキャプチャ外にあります)。

ちなみに、弊社の実際の数値とは全く関係ないので、ここでは変に勘繰らずに是非IR資料から推測してみてください。

解約・Churned MRR

解約をどう織り込むか(どれくらい厳密にやるか)はちょっと悩ましいところです。「Churn Rate(解約率)の前提を置いちゃえば、それで良いんじゃない?」という気もしないでもないです。

ただ、現実では月によって契約更新タイミングの顧客数にバラつきが出ますし、同じ解約1社でも契約していたプランやその契約期間によってインパクトが全然変わってきます。

なので、弊社では更新タイミングを迎える社数をプランや契約期間ごとに出して、更新率をかけて解約企業数を予測して織り込んでいます。単月契約の更新対象社数は前月の単月契約社数とイコールですが、年間契約の更新対象社数は「1年前に新規で年間契約が始まった社数 + 1年前に年間契約を更新した社数」となります。

シート上では以下の通りです(年間契約の更新対象社数は13ヶ月目から関数を入れて計算しています)。Churn Rateももちろん見ます。

アップセル・Expansion MRR

今回のサンプルでは単一プランに絞ったので、モデル上ではアップセル(Expansion MRR)の要素は割愛しました。契約単価を変えていったり、高単価のプランを追加して販売ミックスを考慮する計算を織り込んでいけば反映させられます。

また、アップセルの予測を厳密に反映するために、Annual Contract Value(年間契約額)の伸び(新規顧客の影響を除く)を予測に織り込む会社もあるのではと思うのですが、モデルの作り方がだいぶ変わってくるので今回は深く考えないことにしました。

予測は作った後に実績を更新していくのも大事なので、あまりに作り込みすぎると後で泣きを見ますよね…。

総契約数・MRR

上記を足し合わせていってMRRを出します。今回は単価を一定で作ったので、単純に契約社数に単価をかけてMRRを出しています。弊社の収益モデリングにおいても、ここまでシンプルではないですが、無駄に複雑にしないことを大事にしています。


モデルのテンプレートをどうぞ

月次ベースのみですが、作ったサンプルがこちらです。カバー画像でお気づきかもですが、最近のシートテンプレ大公開時代の流れに乗ってみました!(さすがに自社のモデルは出せないし)

主要な変数でシナリオ切り替えもできるようにしてみました。※IF関数を重ねまくるという拡張性の弱い組み方ですみません💦

SaaS収益予測モデル_テンプレート
README Wantedlyのコーポレートチームのブログ記事( 下記リンク) 作成の一環でこのシートを作ってみました。 SaaS企業の管理会計って? SaaSの収益予測モデルをさくっと作ってみる( テンプレ付) メニューの「 ファイル」→「 コピーを作成」 で自分用のコピーを作って自由にご利用ください。 シナリオ, モデルのシートの変数部分はここで変える構造にしています。 簡易的ではありますが、 シナリオを切り替えてパパっと比較検討もできるようにしてみました。 モデル, 収益( 売上高) の計算を行って
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1wQC_kUzu3nNkuVGhQcA0XpyD7kZoYIDCLpLYG7q4pIM/edit#gid=1833498002

もし、ちょうど収益予測が必要でテンプレ欲しかった!という方がいたら、メニューの「ファイル」→「コピーを作成」で自分用のコピーを作って自由にご利用ください。

変数がどう収益に効くのか

ここまでNew MRRやChurned MRRといった指標に触れてきました。これらはいずれも月次の収益の差分(伸び)に関する指標ですよね。

この記事の最初に「売上高の予測の勝手が違う」と記載しましたが、最初に「なるほどー」と思ったのはここです。普段追っていく指標は常に毎月の差分の話なんですね。

もちろん多くの業態で新規顧客とリピート顧客を分けて積み上げて予測を立てているでしょうし、数量等の伸び率を変数にして予測をつくっていく場合も差分を見てるという意味では近いです。

ただ、単純に伸び率だけ見ていた時とは解像度が違いますし、SaaSモデルの体系立った指標の設計には唸るものがありました。

また、経常収益と言うだけあって「急に月次の伸び(上記の差分)が2倍になってMRRの成長率が劇変することはなかなか起きない」ということが、変数の裏側のストーリーも考えながら予測を作っていくうえで実感できました。

では、どうするか。SaaSモデルにおいては、地道に一歩ずつ積み上げるのが結局すごく重要です。

実際にシミュレートしてみるとよく分かるので、最後にテンプレを使って変数として置いた指標がどう収益に影響を与えるかを見てみたいと思います。

シミュレーションしてみる

まず、新規契約が継続的に伸びていくとどうなるか。契約更新率は90%で固定して、新規契約の月次の伸び率を数パターン変えて見てみます。

その結果がこちら(横軸は月数)。これは分かりやすいですね。新規契約が少しずつでも毎月伸びていくと2年後、3年後には数十%〜2倍くらいの差になって返ってきます。

次に、解約(Churn)による影響を見てみます。差が分かりやすくなるように、新規契約の伸び率は0%で置いて、契約更新率を10%ポイント刻みで変えてみました。

その結果がこちら。契約更新率が低い(=Churn Rateが高い)と、新規契約が入ってきていてもやがて伸びが止まってきます。また、グラフでは少し分かりにくいですが、伸びが減速していくタイミングも契約更新率が低いと早くなっていきます。

また、新規契約が継続的に伸びる前提で、契約更新率によるパターン分けをしてみるとこうなります。新規契約が同じ伸びでも更新率の高低で2〜3年後には大きな差が出ますね。

今回はトップラインのモデリングだけですが、コスト・収益性の面も考えると、更新率の差は更に大きなインパクトを持ってきます(新規顧客の獲得コストは継続顧客の維持コストより圧倒的に高い)。

弊社の経営管理サイドではより細かい数値も見ていますが、まだまだ活かし切れていないところがたくさんあるので、事業側とも連携しながらデータの把握やシミュレーションのスピード・精度を上げて、より良いフィードバックができるようにしていきたいと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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